M&Aの目的|売り手・買い手の目的と課題を分かりやすく解説

M&Aが、様々な経営課題を解決する上で有効であることが浸透しつつあり、最近では上場・大手企業だけでなく中小企業にも幅広く実施されるようになり、増加しています。本記事では、売り手と買い手に分けて、M&Aで達成し得る目的・課題について解説しますので、M&Aを検討し始める方はぜひ参考にしてください。

目次

  1. M&Aとは
  2. 売り手から見たM&Aの目的
  3. 買い手から見たM&Aの目的
  4. M&Aに伴う課題
  5. まとめ

M&Aとは

M&Aは、「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の略で、企業間の合併または買収を指します。これには、法人が統合・子会社化される場合の合併と買収の2つのケースがあります。

具体的には、「資本提携」「合併」「買収」という3つのM&Aの種類が存在します。かつては、企業が乗っ取られるというネガティブなイメージが強かったM&Aですが、最近では企業の成長戦略や事業承継の選択肢として多くの企業に認知されています。

売り手から見たM&Aの目的

売り手側においても、M&Aは事業承継問題の解決策や技術の継承、従業員の雇用確保、成長戦略等、多岐にわたる目的で利用されています。

事業の選択と集中

M&Aについては、経営権を全面的に譲渡しなければならないというイメージが持たれることがあります。しかしながら、事業の選択と集中の観点から、部分的な事業譲渡や赤字部門のM&A対象化や、事業成長のための設備投資や開発資金調達として活用することもあります。

このように、現経営者は経営権を維持しつつ、事業運営をスリム化しながら、成長戦略を実現するためにM&Aを利用することができます。

後継者問題の解決

日本では、少子高齢化や都市部の集中化、働き方の多様化などの理由で、とりわけ中小企業において後継者が不在もしくは未定となっている「後継者問題」が多く見られます。

事業を引き継いだ後継者候補が、外部環境の変化に伴う業績不振や、経営能力不足によって事業承継が適切に行われないケースも散見されます。

こうした後継者問題に対して、資本力や事業運営リソースを有する買い手とのM&Aは有効な手段と言えるでしょう。資金支援による事業再生や、経営支援による事業運営能力の向上などが期待できるため、M&A後の事業成長も望めます。

雇用と技術ノウハウの継承

企業が事業承継に失敗し廃業を選択する場合、従業員は職を失うことになりますし、企業が長年培ってきた技術やノウハウもその歴史と共に失われてしまいます。これは、経済の発展や技術の進歩にも悪影響を与えることがあります。


しかし、M&Aにおいては、以下の点がメリットといえます。

売り手の技術やノウハウが受け継がれる

従業員の雇用が保たれる

これらは、事業の成長や従業員の安定した雇用を保証するために重要な条件であり、M&Aを選択する利点となり得ます。

投資回収期間の短縮

事業に投資し収益を得るためには、通常、長期間の運用が必要です。しかし、何らかの理由で投資を早期に回収しなければならない場合、M&Aが効果的な手段となることがあります。


M&Aでは、以下の利点があります。

売り手の資産を現金化できる

将来獲得できる予定の収益も加味され、投資資金の回収を促進できる

このような理由から、M&Aは投資回収期間を短縮する方法として有効であるとされています。

事業再生

市場環境の変化、政治・経済・社会的要因などにより、企業が事業を継続することが難しくなることもあります。そのような状況下で、業績が悪化し事業再生が必要となった企業が、M&Aを活用することも少なくありません。


M&Aを通じて、買い手からの経営支援を受け、自社に欠けているリソースを補い、事業を存続させることができるケースも多くあります。

買い手から見たM&Aの目的

買い手のM&Aの目的には、事業の拡大、人材確保、新規事業リスク軽減などがあります。これらは、資本を活用して外部リソースを獲得し、事業運営をより強固にすることを目的としています。

事業の多角化

•     多角化とは、主事業だけでなく複数の事業を運営することで、リスクヘッジを図ります。しかし、新規事業への参入には設備投資、用地取得、人材やノウハウ確保など、多くの資金と労力がかかります。そのため、既にリソースを持っている企業とM&Aを行うことで、資金と手間を節約し多角化を進めることができます。

技術・ノウハウの取得

M&Aを活用すると、売り手が持っている技術やノウハウが買い手にも利用できるようになります。これにより、新製品開発や新市場開拓などの事業強化や拡大が可能になります。通常、多角化や技術獲得には資金と時間がかかりますが、M&Aによってコストを抑えることができるのです。

人材の獲得

•      資格者や専門知識を持った人材の確保は困難であり、工場や工事などで多くの労働者が必要な場合も同様です。しかし、M&Aを行うことで売り手が持っている人材リソースを買い手が取得できるため、人材確保や幹部補充がスムーズになります。このため、M&Aは事業拡大に欠かせない手法となっています。

海外市場への展開

日本では人口減少や高齢化により、業界によっては市場が縮小の傾向を見せているため、新たな市場として海外展開を図る企業が増えてまいりました。特に、国内での人件費の高騰を避ける目的で、生産拠点を海外に置く企業もいらっしゃいます。

ただし、海外市場では日本とは異なる商習慣や法規制が存在するため、現地の市場や法律に精通した海外企業をM&Aで獲得することが求められます。増加傾向にある企業も少なくありません。

成長速度の向上

一社において限られたリソースを用いて事業を拡大させるためには、相応の期間が必要です。しかし、M&Aにより新技術やノウハウ、人材といった新たなリソースを取り込むことで、事業を強化し、成長速度を高めることができます。

売り手が自社とは異なる事業を展開している場合、迅速な新規事業参入が可能となり、これが自社の成長速度を向上させる大きな要因となります。

M&Aに伴う課題

M&Aの過程や結果で発生する問題を事前に把握し対策を立てることで、問題を回避し、円滑なM&Aを実現させることができます。以下に、M&Aにおいて重要とされる課題をいくつか挙げます。

幹部人材の流出

M&Aは経営者にとって合理的な手段でありますが、従業員には不安や疑念を抱かせることがあります。M&Aの理由や目的、従業員の処遇について十分な説明がなされず、キーマンや幹部クラスの優秀な人材が流出する恐れがあるため、以下の点に注意することが求められます。

従業員への丁寧な説明

従業員の意見や要望を十分に受け入れ、反映させる運営

これにより、人材の流出を防ぎ、円滑なM&A過程を確保することができます。

カルチャーの違い

企業同士が統合される際、異なる企業文化や社風の融合が重要な課題となります。企業文化は時間をかけて築かれたものであり、急な変更や強制的な変化を避けるべきです。


しかし、M&Aによりお互いの長所や短所を補完し、シナジー効果を生むためにも、企業文化の融合は避けては通れません。以下の点に留意し、融合を進めることが推奨されます。

経営陣と従業員間のコミュニケーションを密にする

互いに歩み寄り、お互いの文化を尊重しながら融合を目指す

このような取り組みにより、M&A後の企業文化の融合を円滑に進めることができます。

簿外債務など

M&A取引の検討段階では把握しきれなかった簿外債務の発覚や訴訟を通じた債務発生など、M&Aが完了した後に予期しなかった債務が生じることがあります。

簿外債務に関しては、デューデリジェンス(買収監査)の適切な実施により、ある程度回避することが可能です。そのため、M&A後の問題を避けるためにも、専門家の力を借りて徹底的なデューデリジェンスを実施することが重要です。

のれんの減損問題

のれんとは、売り手の時価純資産とM&A価格との差額を指し、営業権とも呼ばれます。この差額は、ブランド価値や将来性を評価した金額と言えます。

M&A完了後、買い手企業は、買収した企業を再評価した際に企業価値が低下した場合、その差額を減損処理する必要があります。のれんの減損は、会計上は損失となりますが、税務上は損金として認められません。

過大投資

上記のれんの減損リスクと問題の根幹は同じですが、買収後に期待されたシナジーが発現しない等により、そのM&Aが結果として「高い買いもの」となるリスクは、M&Aの買い手のリスクとしては最も代表的なものです。

労働条件の変更

中小企業のM&A取引では、原則としてM&A前の給与水準と労働条件がM&A後も維持されることが一般的です。

ただし、業績不振を理由に社会通念上許容できる範囲で労働条件が変更されるケースも稀にあります。これは従業員にとって不利益な変更となるため、人材の流出に繋がるリスクがあることから、慎重な検討が必要となります。

まとめ 

中小企業におけるM&Aの主な目的は、自社が欠けているリソースの補完という意味合いが強いと言えます。

売り手は後継者不在や資金調達、経営支援を求め、買い手は事業の多角化や人材・ノウハウの確保、取引先の拡大、成長スピードの加速など、双方が互いに足りないリソースを補完し合いながら、多くのM&Aが成立しています。

著者|竹川 満  マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

相続の教科書