経営資源集約化税制は中小企業のM&Aを支援する税制優遇措置です。設備投資や人材確保、リスク対策に関する優遇を通じて、M&Aの促進を図ります。複雑な手続きは専門家のサポートによりメリットが得られます。
目次:
M&A(合併・買収)を検討している中小企業の皆様にとって、知っておくべき重要な情報として、M&Aに利用できる税制優遇措置の存在があります。
具体的には、「経営資源集約化税制」と呼ばれる制度が設けられています。この制度は、中小企業によるM&Aを支援するために創設されたもので、さまざまな税制上の優遇措置を受けることができます。
経営資源集約化税制を活用することで、M&A後のリスク対策や設備投資、さらには従業員の給与増加などに対して、税金の繰延べや投資額の一部を税額控除することが可能となります。
これらの優遇措置は、中小企業のM&Aを促進し、経営基盤の強化や生産性の向上を支援することを目的としています。M&Aを検討している経営者の方々にとって、非常に有益な制度と言えるでしょう。
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経営資源集約化税制は、中小企業のM&Aを支援するために設けられた税制優遇措置です。この制度の概要と特徴について、詳しく見ていきましょう。
経営資源集約化税制の主な目的は、以下の通りです。
1. 新型コロナウイルス感染症の影響による先行き不透明な経済状況下での中小企業支援
2. 地域経済と雇用を担う中小企業による経営資源の集約化(M&A)の促進
3. 減税措置を通じたM&Aの推進による中小企業の生産性向上
この制度は、中小企業が経営資源を効果的に集約し、新規事業の展開や事業の多角化などを図ることを後押しするものです。
経営資源集約化税制は、主に以下の3つの支援策で構成されています。
1. 設備投資減税(中小企業経営強化税制)
o 経営力向上計画に基づき、一定の設備を取得した場合
o 投資額の10%の税額控除または全額即時償却が可能
o 資本金3,000万円超の中小企業者等の税額控除率は7%
2. 準備金の積立(中小企業事業再編投資損失準備金)
o M&A実施後の潜在的なリスク(簿外債務)に備えるための制度
o 投資額の70%以下の金額を準備金として積立可能(損金算入)
o 準備金積立の据置期間は5年間
o 簿外債務が発生した場合、準備金を取り崩して対応
3. 雇用確保を促す税制(所得拡大促進税制)
o M&Aに伴い給与等を前年より2.5%以上引き上げた場合
o 給与等総額の増加額の25%を税額控除
o 1.5%以上の引き上げの場合は15%の税額控除
これらの措置により、M&Aを実施する中小企業の財務面での負担軽減が図られています。
経営資源集約化税制の適用対象となる企業は、以下の条件を満たす必要があります。
1. 常時使用する従業員数が2,000人以下、または協同組合等の「特定事業者等」に該当すること
2. 資本金または出資金の額が1億円以下の法人、あるいは資本または出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数
が1,000人以下の法人または個人、協同組合等の「中小企業者等」であること
3. 経営力向上計画の認定を受けていること
なお、準備金制度については、他の特定事業者等の株式または持分の取得のみが対象となります。ただし、実質的に他の事業者の事業を承継するものである必要があるため、グループ内および親族内でのM&Aは対象外となる点に注意が必要です。
経営資源集約化税制が制定された背景には、中小企業を取り巻く厳しい経済環境があります。この制度がどのような意図で作られたのか、詳しく見ていきましょう。
経営資源集約化税制の主要な目的の一つは、中小企業の生産性向上です。具体的には以下のような効果が期待されています。
1. M&A後の積極的な設備投資の促進
2. 雇用の確保と拡大
3. 新規事業の展開や事業の多角化の支援
4. 経営の選択肢の拡大
これらの取り組みを通じて、中小企業の経営基盤を強化し、生産性を向上させることを目指しています。
新型コロナウイルス感染症の影響により、多くの中小企業が経営難に陥っています。経営資源集約化税制は、このような状況下で以下のような効果を期待しています。
1. 経済的打撃を受けた中小企業の経営資源の集約(M&A)を促進
2. 事業承継の解決策としてのM&Aの活用
3. 2025年問題(団塊の世代が75歳を迎えることによる事業承継の加速)への対応
これらの取り組みにより、やむを得ず廃業を選択する企業を減らし、地域経済と雇用を守ることを目指しています。
M&Aには多くのメリットがある一方で、さまざまなリスクも存在します。経営資源集約化税制は、以下のようなアプローチでM&Aのリスク軽減を図っています。
1. 株式取得費用の一部を経費として計上可能
2. M&A後の設備投資や雇用確保に対する減税措置
3. 潜在的なリスク(簿外債務)に備えるための準備金制度の導入
これらの措置により、M&Aに伴う財務上のリスクを軽減し、中小企業がより安心してM&Aに取り組める環境を整備しています。
経営資源集約化税制を活用することで、中小企業は様々なメリットを享受することができます。ここでは、主要な3つのメリットについて詳しく解説します。
1つ目のメリットは、従業員の給与増加に対する税控除です。これは「所得拡大促進税制」と呼ばれる制度の一部です。
• 適用条件:前年度より給与等の支給額を増加させること
• 税控除の内容:給与等の支給額の増加分の一部を法人税(個人事業主の場合は所得税)から控除
• 控除率:
o 給与総額を前年比15%以上増加:最大25%の税額控除
o 給与総額を前年比1.5%以上増加:15%の税額控除
この制度により、M&A後の人件費増加に対する税制面でのサポートが受けられます。従業員の処遇改善を図りつつ、企業の税負担を軽減することができるため、経営にとって大きなメリットとなります。
2つ目のメリットは、設備投資に対する税制優遇措置です。M&Aの効果を高めるための設備投資を行う際に活用できます。
• 適用条件:
o 中小企業等経営強化法の認定を受けていること
o 経営力向上計画に基づく一定の設備を新規取得すること
• 税制優遇の内容:
o 投資額の10%の税額控除
o または全額即時償却のいずれかを選択可能
この制度を利用することで、M&A後の事業拡大や効率化に必要な設備投資を、税制面でサポートを受けながら実施することができます。
3つ目のメリットは、企業のキャッシュフロー改善です。経営資源集約化税制の活用により、以下のような効果が期待できます。
1. 減税によるキャッシュアウトの抑制
2. 内部留保の増加
3. M&A投資に充当可能な資金の確保
4. M&A後の設備投資・人材投資への資金活用
これらの効果により、M&Aを実施する企業の財務基盤が強化され、より積極的な事業展開が可能となります。また、M&A後の統合プロセスにおいても、十分な資金的余裕を持って取り組むことができます。
経営資源集約化税制の適用範囲について、具体的なケースと対象となる企業の条件を詳しく見ていきましょう。
経営資源集約化税制は、主に以下の3つのケースで適用されます。
1. 設備投資関連
o 経営力向上計画に基づき、一定の設備を新規取得して事業の用に供した場合
o M&A後の設備取得が対象
2. 人材投資関連
o 雇用者の給与を前年より一定額増額させた場合
o 具体的には、前年度比15%以上の増額が条件
3. M&Aリスク対策関連
o M&A実施後のリスクに備えて準備金を積み立てた場合
これらのケースは、中小企業の経営資源の集約や生産性向上を後押しするためのものです。国としてもM&Aを推進していることがうかがえます。
経営資源集約化税制を利用するためには、企業が以下の条件を満たす必要があります。
1. 経営力向上計画の認定を受けた中小企業者であること
o 経営力向上計画とは、自社の経営力を向上させるための計画で、事業分野別の主務大臣の認定が必要です。
2. 従業員規模に関する条件
o 常時使用する従業員数が2,000人以下であること
o または、協同組合等の「特定事業者等」に該当すること
3. 資本金または従業員数に関する条件
o 資本金または出資金の額が1億円以下の法人であること
o または、資本または出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員数が1,000人以下の法人、個人、協同組合等
の「中小企業者等」であること
4. 準備金制度に関する特別条件
o 準備金制度を利用する場合、他の特定事業者等の株式または持分の取得のみが対象となります
o ただし、実質的に他の事業者の事業を承継するものである必要があります
o グループ内および親族内でのM&Aは対象外となりますので注意が必要です
これらの条件を満たす中小企業が、経営資源集約化税制を活用してM&Aを実施することができます。条件を確認し、自社が制度の対象となるかどうかを事前に確認することが重要です。
経営資源集約化税制を利用するには、一定の手順を踏む必要があります。ここでは、その手順について詳しく解説します。
経営資源集約化税制を利用するための第一歩は、経営力向上計画の認定を受けることです。以下がその手順です。
1. M&Aの相手候補先との基本合意締結
o M&Aを行う相手企業が決まり、基本合意書を締結します。
2. 経営力向上計画の作成
o M&Aによる株式取得が経営力向上に寄与する旨を記載します。
o 事業承継等事前調査(デューデリジェンス)の内容も盛り込みます。
3. 事業承継等事前調査チェックシートの作成
o 十分な事前調査を実施するか否かを確認するためのチェックシートです。
4. 経営力向上計画の申請
o 作成した経営力向上計画書と事業承継等事前調査チェックシートを、主務大臣に申請します。
5. 主務大臣による認定
o 申請した経営力向上計画について、主務大臣の認定を受けます。
経営力向上計画の認定を受けた後、実際にM&Aを実施し、税務申告を行うまでの流れは以下の通りです。
1. M&Aの実施(株式取得の実行)
o デューデリジェンス(買収監査・企業調査)を行います。
o 経営力向上計画に基づき、M&Aを実施し、譲渡対象会社の株式を取得します。
2. 主務大臣への報告と確認書の交付
o M&Aの実施後、主務大臣に対して以下の報告を行います。 a) 事業承継等を実施したこと b) 実施したデューデリジェンス(買収監査・企業調査)における事業承継等事前調査の内容
o 報告後、主務大臣から確認書を受け取ります。
3. 税務申告
o 税務申告の際に、以下の書類を添付します。 a) 経営力向上計画の申請書 b) 経営力向上計画の認定書 c) 主務大臣から受け取った確認書
これらの手順を適切に踏むことで、経営資源集約化税制の恩恵を受けることができます。ただし、手続きが複雑なため、専門家のサポートを受けることをおすすめします。
経営資源集約化税制は中小企業のM&Aを促進する有益な制度ですが、利用する際にはいくつかの留意点があります。ここでは、主要な3つの留意点について解説します。
経営資源集約化税制を利用する際の最大の留意点は、手続きの複雑さと時間がかかることです。
1. 手続きの複雑さ
o 経営力向上計画の作成や認定申請など、複数の書類作成が必要です。
o 各種書類には専門的な知識が要求される場合があります。
2. 時間的な制約
o 経営力向上計画の認定から実際のM&A実施、その後の報告まで、一連のプロセスに時間がかかります。
o M&Aの進行スケジュールに影響を与える可能性があります。
これらの課題に対処するため、以下の対策を検討することをおすすめします。
• 専門家(税理士、M&Aアドバイザーなど)への相談
• 十分な準備期間の確保
• 社内での担当者や体制の明確化
経営資源集約化税制を利用するためには、経営力向上計画の申請と認定が必須となります。この点について、以下の事項に注意が必要です。
1. 申請のタイミング
o M&Aにおける基本合意書締結後に申請する必要があります。
o 計画の認定を受けてからM&Aを実施するという順序を守ることが重要です。
2. 計画内容の重要性
o M&Aによる株式取得が経営力向上にどのように寄与するかを明確に示す必要があります。
o 事業承継等事前調査(デューデリジェンス)の内容も適切に記載する必要があります。
3. 認定後の対応
o 認定を受けた計画に基づいてM&Aを実施する必要があります。
o M&A完了後は、認定を受けた省庁への報告が必要となります。
経営資源集約化税制には、適用期間に制限があることに注意が必要です。
1. 準備金の積立に関する期限
o 令和6年(2024年)3月31日までに、事業承継等事前調査に関する事項が記載された経営力向上計画の認定を受け
る必要があります。
2. 制度の見直し可能性
o 中小企業等経営強化法の改正状況によって、制度の内容や期限が変更される可能性があります。
3. 最新情報の確認
o 制度利用を検討する際は、常に最新の情報を確認することが重要です。
o 中小企業庁のウェブサイトや専門家への相談を通じて、最新の制度内容を把握しましょう。
これらの留意点を十分に理解し、適切に対応することで、経営資源集約化税制を効果的に活用することができます。M&Aを検討している中小企業の皆様は、これらの点に注意しながら、制度の利用を検討してみてはいかがでしょうか。
経営資源集約化税制は、中小企業のM&Aを支援する重要な制度です。設備投資や人材確保、リスク対策に関する税制優遇措置を通じて、M&Aの促進と中小企業の生産性向上を図っています。制度の利用には複雑な手続きが必要ですが、専門家のサポートを受けることで、そのメリットを最大限に活用できるでしょう。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画