経営資源集約化税制とは?M&A準備金と設備投資減税を解説

経営資源集約化税制は、中小企業のM&Aで準備金の損金算入や設備投資の即時償却・税額控除を活用できる制度です。通常枠と最大100%の拡充枠、対象要件、2027年3月31日までの期限、申請の流れ、課税繰延と資金繰りの注意点を分かりやすく解説します。

目次:

  1. 経営資源集約化税制はM&A前の設計が重要
  2. 株式取得リスクには準備金制度を使う
  3. M&A後の設備投資は経営強化税制と組み合わせる
  4. 賃上げ促進税制は別制度として確認する
  5. 対象要件と申請時期を取引前に確認する
  6. 税制利用の手続をM&A日程に組み込む
  7. 税効果だけでなく資金繰りまで考える
  8. まとめ

経営資源集約化税制活用で生産性向上と資金繰り改善を実現する

経営資源集約化税制はM&A前の設計が重要

経営資源集約化税制は、「M&Aをすれば税金が安くなる制度」と単純に考えるものではありません。主に買い手企業がM&A(合併・買収)による株式取得後のリスクや成長投資に備えるため、準備金や設備投資に関する税制を活用する仕組みです。

売り手オーナーが株式を売却した際の譲渡益にかかる税金を、直接軽減する制度ではありません。

制度の中心となるのが「中小企業事業再編投資損失準備金」です。一定の要件を満たす株式取得について、取得価額の一部を準備金として損金算入し、課税を将来へ繰り延べることができます。

さらに、M&A後の設備投資では中小企業経営強化税制、従業員の処遇改善では賃上げ促進税制をあわせて検討できます。これらを買収価格、借入返済、設備投資、人件費と一体で考えることで、M&A後の資金繰りを組み立てやすくなります。

株式取得リスクには準備金制度を使う

買収後に簿外債務が見つかった。主要な取引先との関係が変わった。想定していた利益が出なかった。

M&Aでは、このような買収後のリスクを完全になくすことはできません。中小企業事業再編投資損失準備金は、こうした株式価値の下落リスクなどに備えながら、税負担の一部を将来へ繰り延べる制度です。

通常枠は株式取得価額の70%まで損金算入

通常枠では、経営力向上計画の認定を受けた一定の中小法人が、計画に基づいて他社の株式や持分を取得した場合、取得価額の70%までを準備金として積み立て、損金算入できます。

対象となる取得価額は、原則として10億円以下です。

例えば、対象となる株式を3億円で取得した場合、要件を満たせば最大2億1,000万円を準備金として損金算入できます。実際に2億1,000万円の現金を支払うわけではありません。税務上の費用を計上することで、その事業年度の課税所得を圧縮する仕組みです。

据置期間は5年、その後5年で取り崩す

通常枠で積み立てた準備金は、原則として5年間据え置きます。

その後、取り崩すべき事情がなければ、5年間で均等に益金へ算入します。益金とは、税金を計算するときの収益に相当するものです。

つまり、70%分の税金が永久に免除されるわけではありません。税金を支払う時期を後ろへずらす「課税の繰延」です。

この点は重要です。

M&A直後の資金繰りは楽になっても、将来は準備金の取崩しによって課税所得が増える可能性があります。数年後まで見通した資金計画が必要です。

株式売却などで途中取り崩しとなる場合もある

取得した株式を売却した場合や、対象会社の解散、株式価値の大幅な低下など一定の事情が生じた場合には、据置期間の途中でも準備金の全部または一部を取り崩すことがあります。

「5年間は必ず課税されない」という制度ではありません。

買収後の事業計画だけでなく、将来その会社をどのように保有するのかまで考えて利用することが大切です。

複数回M&A向けの拡充枠は最大100%

一定の要件を満たして複数回のM&Aを行う中堅・中小企業には、通常枠より手厚い拡充枠があります。

特別事業再編計画の認定など所定の要件を満たす場合、認定計画における1回目のM&Aでは取得価額の最大90%、2回目以降では最大100%を準備金として積み立てることが可能です。

拡充枠の据置期間は10年です。

また、対象となる株式や持分の取得価額は、原則として1億円以上100億円以下となります。通常枠の「10億円以下」と条件が異なるため、自社の規模、過去のM&A実績、今回の買収金額を確認したうえで制度を選ぶ必要があります。

M&A後の設備投資は経営強化税制と組み合わせる

会社を買収した後、古い機械を更新したり、工場を再編したり、システムを統合したりすることがあります。こうした投資が一定の要件を満たせば、中小企業経営強化税制を利用できる場合があります。

準備金制度だけを見るのではなく、M&A後に必要となる設備投資まで含めて検討するのがポイントです。

即時償却か最大10%の税額控除を選択する

対象設備については、原則として即時償却または税額控除を選択できます。

即時償却とは、本来は数年間に分けて費用にする設備代金を、対象設備を事業で使い始めた年度にまとめて税務上の費用にする方法です。

税額控除では、一定の場合に設備取得価額の10%を法人税額から直接差し引くことができます。資本金3,000万円超の法人などでは、控除率が7%となる場合があります。

どちらが有利とは一概にいえません。

当期の利益が大きければ即時償却が有効なことがありますし、将来も安定した利益が見込まれる場合には税額控除を比較した方がよいケースもあります。納税額と資金繰りを見ながら選択します。

M&Aに関連するD類型は現在も利用できる

中小企業経営強化税制は制度改正が行われており、従来のC類型は廃止されています。一方、M&Aによる経営資源の集約化に関連するD類型は継続しています。

D類型では、M&A後の設備投資によって修正ROAや有形固定資産回転率など、一定の経営指標が改善する見込みがあることを確認します。

専門用語が並びますが、大切なのは「買収したから自動的に設備投資減税を受けられるわけではない」という点です。

設備の内容、投資額、事業計画、取得時期、使用開始時期について要件を満たし、必要な認定や確認を受けなければなりません。

また、売上高100億円超を目指す一定の企業を対象としたE類型も設けられています。

現行の中小企業経営強化税制は2027年3月31日までが適用期限です。原則として、それまでに対象設備を取得し、事業で使い始める必要があります。

賃上げ促進税制は別制度として確認する

M&A後は、従業員の退職を防いだり、人材を確保したりするために、給与制度や待遇を見直すことがあります。

こうした賃上げについて利用を検討できるのが、中小企業向けの賃上げ促進税制です。

これは経営資源集約化税制そのものではなく、別の税制です。そのため、「M&Aを行えば賃上げ促進税制の要件が自動的に緩和される」と考えない方がよいでしょう。

2026年4月1日から2027年3月31日までに開始する一定の事業年度では、給与等支給額が前年度より1.5%以上増加した場合は、その増加額の15%、2.5%以上増加した場合は30%を法人税額から控除する仕組みが基本となります。

一定の認定を受けている場合には、控除率が上乗せされることもあります。

M&A後に給与体系を統合すると、給与の支給時期や集計範囲が変わることがあります。人事制度を変更する前に、税制上どの期間の給与を比較するのかを確認しておくと判断しやすくなります。

対象要件と申請時期を取引前に確認する

「株式を取得してから税理士に相談すればよい」と考えると、制度を利用できなくなることがあります。

特に準備金制度では、M&Aの契約スケジュールと経営力向上計画の認定手続を並行して進めることが重要です。

通常枠は一定の中小法人が対象

準備金の通常枠は、青色申告書を提出する一定の中小法人が対象です。

原則として資本金1億円以下の法人などが該当します。ただし、大企業に一定割合以上の株式を保有されている法人など、対象外となる場合もあります。

なお、中小企業事業再編投資損失準備金は法人向けの制度であり、個人事業主は対象ではありません。

会社の規模だけを見て判断せず、税法上の対象法人に該当するか確認する必要があります。

対象M&Aは株式または持分の取得が中心

準備金制度は、他社の株式または持分を取得し、その会社の経営資源を引き継ぐM&Aが対象です。

事業譲渡など、すべてのM&A手法に使えるわけではありません。

また、グループ内の株式移転や親族間の形式的な移転など、実質的な事業承継に当たらない取引は対象外となる場合があります。

通常枠では取得価額10億円以下という基準もあるため、買収価格の見込みが固まった段階で確認しておく必要があります。

デューデリジェンスの予定を計画に入れる

準備金制度を利用する場合は、経営力向上計画にデューデリジェンスの内容を記載します。

デューデリジェンスとは、買収前に対象会社の財務、税務、法務、事業などを詳しく調べる手続です。

「どのような調査を行うのか」を事前に整理し、所定の事業承継等事前調査チェックシートなどを使って手続を進めます。

税制を利用するためだけに形式的な調査を行うのではありません。

簿外債務や未払残業代、税務リスク、重要契約など、買収価格に影響する項目を確認することがM&Aそのもののリスク管理にもつながります。

認定は最終合意より前に終える

準備金制度を利用する場合、原則としてM&Aの最終合意より前に経営力向上計画の認定を受ける必要があります。

デューデリジェンスについては認定前から進められる場合がありますが、「契約を締結して株式を取得した後から申請する」という進め方はできません。

M&A実務では、価格交渉に集中するあまり税制手続の確認が後回しになることがあります。

基本合意やデューデリジェンスに入る段階で、制度を使う可能性があるか確認しておくと安心です。

税制利用の手続をM&A日程に組み込む

経営資源集約化税制は、確定申告の直前だけで対応できる制度ではありません。

M&Aの交渉、デューデリジェンス、契約、クロージングと税務手続を一つのスケジュールとして管理する必要があります。

準備金制度は6段階で進める

通常は、次のような順序で進みます。

  1. M&Aの相手方を具体化し、制度を利用できる可能性があるか確認します。

  2. 実施予定のデューデリジェンスを整理し、必要なチェックシートを作成します。

  3. 経営力向上計画を申請し、原則としてM&Aの最終合意前に認定を受けます。

  4. 認定された計画に沿ってM&Aを実行し、株式または持分を取得します。

  5. M&Aとデューデリジェンスの実施内容を報告し、必要な確認書を受け取ります。

  6. 確定申告で必要書類を添付し、準備金を損金算入します。

この流れの途中で契約日や株式取得日が先に来ると、制度を利用できない可能性があります。そのため、M&A担当者だけではなく、経理・財務担当者や税務の専門家も早めに日程を共有することが重要です。

設備投資を併用する場合はさらに早く確認する

M&A後に設備投資を予定している場合は、買収完了後に検討を始めるのでは遅いことがあります。

中小企業経営強化税制では、設備の種類や類型によって、取得前に証明書や確認書、計画認定などが必要になります。

工場設備やシステムは発注から導入まで数か月かかることも珍しくありません。

M&Aのクロージング予定日、設備の発注日、納品日、使用開始日を並べ、どの時点までに手続を終えるべきか逆算しておくと進めやすくなります。

税効果だけでなく資金繰りまで考える

経営資源集約化税制を利用する大きな理由の一つは、M&A直後の資金繰りを安定させやすくすることです。

株式取得には多額の資金が必要です。その直後に設備更新やシステム統合、人員増強が必要になれば、手元資金はさらに減ります。

準備金を損金算入して課税を繰り延べることができれば、一定の資金を手元に残し、簿外債務や顧客離れなど想定外の事態に備えやすくなります。

設備投資減税を利用できれば、生産設備の更新やシステム統合といったM&A後の投資も進めやすくなります。

一方で、税制を使うこと自体を目的にしてはいけません。

準備金はいずれ取り崩します。通常枠なら原則として5年間の据置期間後、5年間で益金算入するため、その時期には税負担が増える可能性があります。

買収直後だけを見ると資金繰りが良くなっていても、数年後に納税負担が重なるケースもあります。意外と見落としやすい点です。

また、税額控除を受けるために必要性の低い設備を購入したり、準備金を使えるからという理由で買収価格を引き上げたりしては本末転倒です。

M&Aの採算は、買収価格、借入金の返済、PMI(M&A後の統合プロセス)の費用、設備投資、人件費、税金を含めて判断します。

税制は、良いM&Aを支える手段の一つです。税制だけで採算の悪い買収が良い買収に変わるわけではありません。

まとめ

経営資源集約化税制は、M&Aの買い手が準備金の損金算入や設備投資減税を活用し、買収後のリスクと成長投資に備えるための仕組みです。通常枠と拡充枠では積立率や据置期間、対象金額が異なります。契約後では間に合わない手続もあるため、買収価格や資金調達、設備投資、将来の取崩課税まで含め、M&Aの検討段階から適用可否を確認することが重要です。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人