バイアウトとは?4つの手法と中小企業の事業承継の判断軸
バイアウトとは、株式取得によって会社の経営権を得る買収手法です。MBO・EBO・MEBO・LBOの違い、イグジットとの関係、事業承継や非公開化で選ばれる理由、資金調達・企業価値・従業員処遇など、会社売却の判断に必要な実務を経営者向けに解説します。
目次

▶目次ページ:第三者承継(M&Aの意味)
バイアウトとは、対象会社の株式を取得し、経営権を得ることです。一般には議決権の過半数を取得する取引を指しますが、株主構成や契約内容によって支配の実態は変わります。単に株式を買えばよいのではなく、誰が会社の重要事項を決められる状態になるかが本質です。
M&A(合併・買収)のうち、会社の支配権を取得する買収がバイアウトに当たります。経営陣や従業員が買い手になる場合だけでなく、投資ファンドや事業会社が経営権を取得する取引も、広い意味ではバイアウトと呼ばれます。
イグジットとは、創業者や投資家がIPOによる株式上場やM&Aによる株式売却などを通じて、投資資金を回収することです。
M&Aによるイグジットでは、同じ株式譲渡を買い手から見ればバイアウト、既存株主から見ればイグジットと表現できます。創業者が会社を売却し、投資ファンドが経営権を取得する場合、創業者にとってはイグジット、ファンドにとってはバイアウトです。
バイアウトとイグジットは、必ずしも反対の取引ではありません。1つの取引を異なる立場から見た言葉と理解すると、違いが分かりやすくなります。
バイアウトされた会社は、買い手企業の子会社になることがあります。ただし、一部の株式だけを取得する資本提携や、株式を持たない業務提携とは、会社に対する支配の程度が異なります。
名称だけで判断せず、議決権の割合、役員を選ぶ権利、重要事項に対する同意権などを確認することが大切です。
「社内に後継者はいるが、株式を買う資金がない」。中小企業では、この段階で事業承継の計画が止まることがあります。
バイアウトは、後継者を決めるだけの手続ではありません。誰が株式を取得し、必要な資金をどのように用意し、承継後の経営をどう支えるかまで設計する手法です。
親族内承継が難しい場合、役員や従業員が株式を取得するMBOやEBOが候補になります。経営方針、取引先との関係、社風を維持しやすく、経営者が信頼する人へ会社を託せる点が利点です。
ただし、後継者として適任であることと、株式を買えることは別問題です。企業価値が高い会社ほど必要資金も大きくなり、後継者の自己資金だけでは実行できないケースも珍しくありません。
上場会社では、短期的な業績や株価への対応を減らし、中長期の投資や事業再編を進める目的でMBOが使われることがあります。
株式を非公開化すれば、外部株主の意見に左右されにくくなり、意思決定を速められる可能性があります。一方、経営陣が買い手にもなるため、少数株主との利益相反や価格の公正性が厳しく問われます。
親会社が本業へ経営資源を集中するため、重要度が下がった子会社や事業部門を切り出し、現地の経営陣へ譲渡するケースもあります。いわゆるカーブアウトや、のれん分けに近い形です。
経営陣にとっては独立の機会となります。ただし、親会社の信用、資金、人材、営業網、システムを失った後も、単独で事業を続けられるかを確認しなければなりません。
社内承継にこだわりすぎると、資金不足や経営能力の問題を見落とすことがあります。
役員や従業員への承継が難しい場合は、事業会社や投資ファンドへの第三者承継も比較対象です。誰に託したいかだけでなく、会社が承継後も成長できるか、従業員や取引先を守れるかという視点で判断します。
バイアウトには複数の名称がありますが、見るべきポイントは明確です。
誰が株式を買うのか。買収資金を誰が出すのか。借入金をどの会社が返すのか。この3点で整理すると、それぞれの違いを理解しやすくなります。
MBO(マネジメント・バイアウト)は、現在の経営陣が既存株主から自社の株式を取得する方法です。中小企業の事業承継、上場会社の非公開化、親会社からの独立などに利用されます。
買収額が大きい場合は、経営陣が特別目的会社であるSPCを設立し、金融機関の融資や投資ファンドの出資を受けて株式を取得する方法があります。その後、SPCと対象会社を合併する場合もあります。
経営陣が大きく変わらないため、事業や企業文化の連続性を保ちやすく、承継後も迅速な意思決定が期待できます。
一方、買い手となる経営陣が、譲渡価格の算定や株主への情報開示にも関わる場合があります。経営陣は安く買いたい、既存株主は高く売りたいという利益相反が生じやすいため、第三者による企業価値評価などを利用し、公正な条件を検討することが重要です。
EBO(エンプロイー・バイアウト)は、従業員が自社の株式を取得し、経営権を引き継ぐ方法です。
長く勤務し、事業や顧客を理解している従業員へ会社を託せるため、親族や役員に後継者がいない中小企業では、後継者問題の解決策になることがあります。
社風や雇用を維持しやすく、株主となった従業員の当事者意識も高まりやすい点が利点です。
反面、買収資金の調達は大きな壁となります。一般の従業員が多額の資金を個人で用意するのは難しく、金融機関も経営経験や返済能力を慎重に審査します。
経営経験の不足、参加する従業員間の合意形成、出資負担の公平性も検討が必要です。後継者候補が優秀でも、資金と経営体制が整わなければ実行できません。
参加者が増えるほど、株式の保有割合、議決権、配当方針などの調整が複雑になります。
従業員が退職した場合に株式を誰が買い取るのか、経営方針で意見が分かれた場合にどう決めるのかも、事前に整理しておかなければなりません。社内の一体感だけで進めず、株主間契約や将来の株式集約方法まで決める必要があります。
バイアウトは「知っている人に会社を任せられるから安心」と考えられがちです。
ところが、社内の人が買い手になる取引ほど、価格や資金、人間関係の話を曖昧にしやすいものです。意外と多い落とし穴です。
信頼する経営陣や従業員へ事業を託しやすく、社名、雇用、取引関係を維持できる可能性があります。経営方針を理解している人が承継すれば、従業員や取引先の不安も抑えやすくなります。
株式を譲渡した経営者は、譲渡対価を受け取ります。譲渡価額が株式の取得費や譲渡費用を上回る場合は、譲渡益を得ることができます。
親族への相続や贈与を待たずに、所有と経営を整理できる点も特徴です。
社内の買い手は資金力が限られるため、外部の事業会社へ売却する場合より、譲渡価格が低くなることがあります。
また、保有株式の過半数や全部を譲渡すれば、経営権を失うのが通常です。一部の株式を手元に残す場合も、買い手との意見対立や将来の追加譲渡条件を契約で整理する必要があります。
希望する価格だけにこだわると、後継者の返済負担が重くなり、承継後の会社経営を苦しくすることも。受取額と会社の将来を分けて考えないことが大切です。
外部企業による買収に比べ、従来の経営方針や企業文化を維持しやすく、意思決定の自由度も高まります。自ら出資して会社を引き継ぐため、経営への責任感が強くなる効果も期待できます。
その反面、多額の買収資金、借入返済、個人保証、経営責任を負う可能性があります。
買収後に資金繰りが厳しくなれば、守りたかった雇用や社風を、かえって維持できなくなることもあります。
MBOやEBOは目的ではなく、事業承継を実現するための手段です。
社内の後継者候補が買収資金を調達できない、経営を支える体制が弱い、承継後の成長投資が不足する場合は、第三者への株式譲渡も含めて比較する必要があります。
社内承継より第三者承継の方が、会社と従業員を守りやすいケースもあります。
バイアウトの成否は、契約直前ではなく準備段階で大きく左右されます。
特に、譲渡価格と資金調達を別々に考えると、評価額は妥当でも資金が集まらず、計画が止まりやすくなります。
最初に、自社株式の価値を企業価値評価、いわゆるバリュエーションによって確認します。
中小企業では、純資産、利益、将来の収益力、同業他社の評価などを組み合わせて検討するのが一般的です。経営者個人の思い入れだけで価格を決めると、高すぎて資金調達ができない場合や、低すぎて売り手が不利益を受ける場合があります。
買収資金は、後継者の自己資金、金融機関からの融資、投資ファンドからの出資、売り手による分割払いなどを組み合わせて準備します。
どの方法を使う場合も、資金提供者が経営にどこまで関与するか、誰が返済責任を負うかを確認することが重要です。
重要なのは「金融機関から借りられる金額」ではなく、買収後の会社が通常の運転資金と成長投資を確保しながら返済できる金額です。
金融機関には、過去の決算書だけでなく、買収後の事業計画、借入金の返済原資、後継者の経営経験、担保や保証の考え方を説明します。
楽観的な売上計画だけを前提に借入額を増やすと、承継後の経営が苦しくなります。
個人保証の条件も確認する
買収資金の融資では、新経営者や出資者に個人保証を求められる場合があります。
旧経営者が会社の借入金について負っている個人保証の解除と、新経営者が負う保証の範囲を同時に確認し、融資条件や契約書に反映します。
株式を売却しても、個人保証が自動的に外れるわけではありません。金融機関との調整が必要です。
雇用、給与、勤務地、役職、退職金、役員の任期などを確認します。
株式譲渡では会社自体は存続するため、従業員の雇用契約も原則として会社に残ります。ただし、経営者や株主が変われば、経営方針、人事制度、業務内容が変更される可能性があります。
役員は従業員と立場が異なるため、退任時期や報酬、退職慰労金を個別に整理する必要があります。
従業員への説明が早すぎれば、情報漏えいの原因となります。遅すぎれば、不信感や離職を招きかねません。誰に、いつ、何を伝えるかを計画し、重要な人材が離職しないよう配慮します。
デューデリジェンスは、買い手が対象会社の財務、税務、法務、労務、事業のリスクを調査する手続です。
簿外債務、未払残業代、不適切な税務処理、許認可の問題、主要な契約の変更条項などが見つかれば、譲渡価格や契約条件に影響します。
調査を受ける前に、決算書や契約書、株主名簿、議事録などの資料を整理しておくと、買い手の不安を減らし、交渉を進めやすくなります。
最終契約では、譲渡価格、支払方法、表明保証、補償、競業避止、個人保証の解除、残留する経営者の役割などを確認します。
表明保証とは、売り手が会社の財務や法務などについて、一定の事実が正しいと約束する条項です。約束した内容に誤りがあれば、売り手が損害を補償する場合があります。
口頭の約束は残さないこと。専門家が理解できるだけの契約ではなく、経営者本人が内容と責任を説明できる契約にすることが大切です。
実務では、MBOやEBOなどの手法を最初から固定せず、目的と資金調達の可能性を確認しながら設計します。
一般的な流れは、次のとおりです。
後継者問題の解決、非公開化、子会社の独立など、何を達成したいのかを明確にします。
経営を担う人、株主になる人、退任する人を分けて整理し、承継後の役割と責任を決めます。
株式価値を算定し、税金、専門家費用、借入金の返済、承継後の運転資金を含めた必要資金を把握します。
譲渡価格を1つに決めつけず、複数の価格帯で返済可能性を検証することが重要です。
自己資金、融資、出資の割合、SPCの利用、担保、個人保証、返済期間を検討します。
投資ファンドから出資を受ける場合は、資金だけでなく、議決権、役員派遣、経営への関与、将来の株式売却方針も確認します。
譲渡価格、取得する株式の割合、経営者の残留期間、従業員の処遇などを基本合意書で整理し、デューデリジェンスへ進みます。
会社の機密情報を開示する前には、通常、秘密保持契約を締結します。
調査結果を踏まえて最終条件を確定し、株式譲渡契約などを締結します。
クロージングでは、譲渡代金の支払と株式の移転を行います。役員変更、金融機関や取引先への説明、旧経営者の個人保証の解除も漏れなく進めます。
バイアウト後は、借入金の返済だけでなく、売上、利益、人材、運転資金、設備投資を継続して管理します。
外部企業や投資ファンドが買い手になる場合は、PMI(M&A後の統合プロセス)として、権限、会計、人事、業務ルールなどを整えます。
社内の経営陣や従業員が買い手になる場合も、経営者が代われば組織内の役割は変わります。承継後の方針を従業員へ丁寧に説明し、新しい経営体制への理解を得ることが欠かせません。
企業価値、資金調達、税金、契約、従業員対応は、互いに関係しています。
公認会計士・税理士、弁護士、金融機関、M&Aの支援専門家を、解決すべき課題に応じて組み合わせることが重要です。
特定の手法だけを勧める専門家ではなく、MBOやEBOが難しい場合に、第三者承継を含む複数の選択肢を比較できる相手が望ましいでしょう。
バイアウトは、株式取得によって経営権を移すM&A手法で、MBO・EBO・MEBO・LBOでは買い手と資金調達の仕組みが異なります。社内承継や非公開化に役立つ一方、価格、返済負担、利益相反、従業員処遇の検討が欠かせません。自社の企業価値と承継後の資金繰りを確認し、第三者承継も含めた複数案を比較して方針を決めましょう。
著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事
編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人