特定承継人と一般承継人の違いを詳しく解説します。権利や義務の承継範囲、適用されるケースなど、事業承継やM&Aに関わる方必見の情報をわかりやすくまとめています。
一般承継人は、他者から権利や義務を包括的に引き継ぐ人を指します。主な例として、相続における相続人が挙げられます。一般承継人は、一身専属権など一部の例外を除いて、被承継人が持っていた権利や義務を無条件に引き継ぎます。
法人の場合、会社法上の合併や会社分割の際にも、権利義務が一括で引き継がれることになります。このように、一般承継人は包括的に権利義務を承継するため、「包括承継人」とも呼ばれます。
特定承継人は、他者から個別の権利を引き継ぐ人を指します。特定承継の場合、承継の対象となる権利義務の法律関係が特定されるため、他の権利や義務の法律関係に拘束されることなく、個別に引き継ぐことができます。
具体的な例として、以下のようなケースが挙げられます:
1. 不動産売買:土地の所有権を売買する場合、その土地を購入する人は特定承継人となります。
2. 事業譲渡:法人における事業譲渡も特定承継に該当します。これは、事業の一部または全部を個別に引き継ぐ行為です。
特定承継では、承継する権利や義務を選択できるため、柔軟な承継が可能となります。
▶目次ページ:事業承継とは(事業承継とは)
一般承継人と特定承継人には、承継の範囲や方法に関して重要な違いがあります。ここでは、両者の主な相違点について、権利と義務の承継範囲の観点から詳しく解説します。
一般承継人と特定承継人の最も大きな違いは、権利を「包括的に承継するか」「個別に承継するか」という点にあります。
1. 一般承継人の場合:
被承継人の権利を包括的に承継します。
例えば、相続で自宅の土地と建物を承継する場合、一般承継人はそれらをすべて一括で承継することになります。
「建物のみを承継したい」といった、特定の財産や権利だけを選択して承継することはできません。
2. 特定承継人の場合:
承継する権利を個別に選択することができます。
例えば、事業譲渡の際に、特定の事業や資産のみを承継することが可能です。
承継人のニーズに合わせて、承継する権利を柔軟に選択できる点が大きな特徴です。
権利と同様に、義務の承継範囲についても一般承継人と特定承継人では大きな違いがあります。
1. 一般承継人の場合:
被承継人の義務を包括的に承継します。
例えば、被承継人に借金などの債務がある場合、一般承継人は当然に債務者となり、返済の義務が発生します。
簿外債務や偶発債務なども、そのまま引き継ぐことになるため、リスクを伴う場合があります。
2. 特定承継人の場合:
承継する義務を個別に選択することができます。
債務などの義務を承継する場合、定められた範囲内でのみ債務者となります。
債権者の立場からすると、債務者の変更は重要な問題であるため、特定承継で債務を承継する際には、債権者の同意を得る手続が必要となります。
これらの違いを理解することで、事業承継やM&Aの際に、自社の状況や目的に応じた適切な承継方法を選択することができます。一般承継と特定承継のそれぞれのメリット・デメリットを考慮し、最適な承継方法を検討することが重要です。
一般承継、または包括承継は、権利義務をすべて受け継ぐことを指します。この承継方法が適用される主なケースについて、個人と法人に分けて解説します。
1. 個人の場合:
遺産相続:被相続人の死亡により、相続人が被相続人の財産や権利義務を包括的に承継します。
2. 法人の場合:
企業合併:複数の会社が1つの会社に統合される際、存続会社または新設会社が消滅会社の権利義務を包括的に承継します。
会社分割:会社の一部門や事業を別会社として分離する際、分割承継会社が分割会社の権利義務を包括的に承継します。
一般承継のメリットとしては、以下の点が挙げられます:
1. 円滑な権利義務の移転:
資産や債務が包括的に移転されるため、個別の手続が不要な場合が多くあります。
許認可や労働契約も原則として承継されるため、事業の継続性が保たれやすくなります。
2. 手続の簡素化:
個々の権利義務について個別の手続を行う必要がないため、手続が比較的簡素化されます。
一方で、一般承継には以下のような注意点もあります:
1. 追加手続の必要性:
商標権などの知的財産権を承継する際には、別途手続が必要な場合があります。例えば、特許庁への商標権移転登録申請などが該当します。
2. リスクの承継:
財務諸表上に記載される債務だけでなく、簿外債務や偶発債務もそのまま引き継がれるため、予期せぬリスクを抱える可能性があります。
3. 選択の余地がない:
権利義務を選別して承継することができないため、不要な資産や負担の大きい債務も引き継がなければならない場合があります。
特定承継は、個別の権利や義務を選択的に引き継ぐ方法です。この承継方法が適用される主なケースについて、個人と法人に分けて解説します。
1. 個人の場合:
売買:特定の財産や権利を売買する際、購入者が特定承継人となります。
贈与:特定の財産や権利を贈与する場合、受贈者が特定承継人となります。
2. 法人の場合:
事業譲渡:会社の事業の全部または一部を他の会社に譲渡する際、譲受会社が特定承継人となります。
特定承継の特徴と注意点は以下の通りです:
1. 個別の承継手続が必要:
当事者間で事業譲渡契約を締結しても、自動的に許認可や労働契約が承継されるわけではありません。
資産の移転、許認可の取得、従業員との労働契約の締結など、それぞれの権利義務に関して個別の手続が必要となります。
2. 債務承継には債権者の同意が必要:
債務を引き継ぐ場合には、債権者の譲渡承認が求められます。これは、債権者にとって債務者の変更が重要な問題であるためです。
3. 承継対象の選択が可能:
特定承継の大きな利点は、承継する事業や資産を選択できる点です。
例えば、好調な業績の事業のみを承継し、不採算事業は対象から除外するといった戦略的な選択が可能です。
4. 簿外債務や偶発債務の回避:
特定承継では、簿外債務や偶発債務を承継しない選択ができます。これにより、予期せぬリスクを回避することができます。
5. 柔軟な事業再編:
事業譲渡という形での特定承継は、企業のニーズに合わせた柔軟な事業再編を可能にします。
特定承継を検討する際の留意点:
1. デューデリジェンスの重要性:
承継する資産や権利、義務の範囲を明確にするため、詳細なデューデリジェンスが必要です。
2. 契約内容の精査:
事業譲渡契約の内容を慎重に検討し、承継する権利義務の範囲を明確に定める必要があります。
3. 従業員への対応:
労働契約の承継には従業員の同意が必要となるため、従業員とのコミュニケーションが重要です。
4. 許認可の確認:
事業に必要な許認可が特定承継で引き継げるかどうかを事前に確認し、必要に応じて再取得の手続を行います。
特定承継は、承継人のニーズに合わせて選択的に権利義務を引き継ぐことができる点で、事業再編や M&A の際に魅力的な選択肢となります。
承継人には一般承継人と特定承継人があり、それぞれ権利義務の承継範囲が異なります。一般承継は包括的な承継方法で、相続や企業合併などに適用されます。一方、特定承継は個別の権利義務を選択的に承継する方法で、事業譲渡などに適しています。事業承継やM&Aの際は、自社の状況や目的に応じて適切な承継方法を選択することが重要です。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事