本記事では、相続手続や企業による株式買取方法、売渡請求のプロセスについて詳しく解説します。円滑な株式承継のためのポイントを押さえましょう。
目次
譲渡制限株式とは、株式会社の定款によってその譲渡に特定の制限が設けられた株式のことを指します。通常、株式の譲渡は自由に行えますが、定款で株式譲渡に承認が必要と定めることで、譲渡を制限することができます。
1. 株主の構成を一定程度コントロールできる
2. 企業の安定性を維持できる
3. 経営方針に影響を及ぼす可能性のある株式の移転を防ぐことができる
譲渡制限株式は、いわゆる種類株式の一種として位置付けられています。企業が株主の構成を管理し、安定した経営を維持するための有効な手段として活用されています。
▶目次ページ:親族内承継(種類株式)
譲渡制限株式の譲渡には通常、企業の承認が必要です。しかし、譲渡制限株式を保有する株主が死亡し、相続が発生した場合には、企業の承認は不要となります。これは、相続という特殊な状況を考慮した法的な取り扱いです。
特定承継とは、売買や贈与などによって、個別に権利や義務を受け継ぐことを指します。
具体的には、以下のような取引が該当します:
• 売買
• 贈与
• 交換
特定承継の場合、以下の特徴があります:
1. 債務を承継する際には債権者の同意が必要
2. 承継した人は「第三者」として保護される
譲渡制限株式は、この特定承継の場合に適用されます。
一般承継とは、相続や合併などによって、まとめて権利や義務を受け継ぐことを指します。一般承継は以下の特徴を持ちます:
1. 財産上の権利や義務のすべてを承継できる
2. 包括承継とも呼ばれる
3. 相続は、原則として一般承継に該当する
一般承継の場合、権利だけでなく義務も承継しなければならない点に注意が必要です。自社株の相続による承継は、親族内承継の典型的なケースとなります。
譲渡制限株式の相続は、この一般承継に該当するため、企業の承認が不要となるのです。
譲渡制限株式の相続が発生した際には、相続人が行わなければならない手続がいくつか存在します。これらの手続を適切に行うことで、円滑な株式の承継が可能となります。
遺産分割協議とは、複数の相続人が適正かつ公正に遺産を分割するための話し合いのことを指します。譲渡制限株式の相続においては、以下の点に注意が必要です:
1. 譲渡制限株式は、相続により相続人の共有財産となる
2. 預貯金や債権とは異なり、遺産分割協議を行わなければ分割できない
3. 遺産分割協議の結果、各相続人の株式の帰属が決定される
遺産分割協議が長期化するケース:
• 相続人の間で争いが起きると、協議が長期化する可能性がある
• 協議が未了の場合、株式は相続人の共有状態のままとなる
• 名義変更の手続に進めないため、できる限り早く協議を完了させることが望ましい
名義書換とは、株主名簿上の株主名義を変更する手続のことを指します。この手続には以下の特徴があります:
1. 株主名簿管理人に手続を請求する必要がある
2. 株主名簿管理人は、定款で定められた信託会社や発行元企業の担当部署などが担当する
3. 名義書換をしなければ、相続人が株主としての権利や配当を受け取れない
名義書換に必要な書類:
• 遺産分割協議書
• 遺言書(正式に検認されたもののみ有効)
• 印鑑証明書
• 会社規定の書類
名義書換の手続には期限はありませんが、相続税の申告・納税があるため、早めに対応することが推奨されます。
企業が譲渡制限株式を相続人から買い取る方法には、主に3つのアプローチがあります。
この方法は、相続人と企業が協議を行い、合意のもとで株式を買い取る方法です。
特徴:
1. 相続人との協議の機会を設ける
2. 企業と関係のある第三者が買い取ることも可能
要件:
• 非公開会社であること
• 相続人が株主総会にて、株式の議決権を行使していないこと
この方法は、相続人と企業の間で円滑な合意が得られる場合に適しています。
相続人と合意が得られない場合、定款に定めがあれば、企業は強制的に株式を買い取ることができます。
特徴:
1. 定款に定めが必要
2. 相続人の意思に関わらず買取が可能
実行期限:
• 株主へ相続があったことを企業が知ってから1年以内
この方法は、相続人と企業の利害が対立する場合や、迅速な株式買取が必要な場合に有効です。
この方法では、企業が売渡を希望する株主から自己株式を取得します。
特徴:
1. 誰から株式を買い取るかを事前に決めない
2. 売渡希望の株主から買い付けを行う
注意点:
• 買い取りの申し出がどれだけあるか不明
• 企業は一定の資金が必要
この方法は、多数の相続人がいる場合や、企業が柔軟に株式を取得したい場合に適しています。
これら3つの方法を状況に応じて適切に選択することで、企業は譲渡制限株式の相続に伴う問題を効果的に解決することができます。
会社法において、譲渡制限株式の売渡請求制度が定められています。この制度により、企業は特定の状況下で相続人に対して株式の売渡しを請求することができます。
売渡請求が有効な状況:
• 相続人と企業の関係が薄い場合
• 企業にとって好ましくない相続人が株主となってしまった場合
売渡請求を行う際には、以下のステップを踏む必要があります。
1. 売渡請求するための前提要件の確認
• 譲渡制限株式であること
• 定款に定めがあること
• 自己株式の取得が財源規制に違反しないこと
定款に定めがない場合は、株主総会特別決議にて定款を変更する必要があります。
2. 株主総会の特別決議による承認
• 「売渡請求する株式の数」と「売渡請求の対象となる相続人の氏名」を定めて承認を得る
• 売買価格については決議の必要なし
• 売渡請求の対象となっている相続人は、この株主総会決議の議決権を行使できない
3. 売渡請求の通知
• 売渡請求する株式数を正確に示す
• 売渡請求の対象となる相続人に対して、自己株式の売渡しを請求する
• 一般的に、一定の売買価格を提示する
4. 売買価格の決定 方法:
• 企業と相続人の間で協議をする
• 企業か相続人による売買価格決定の申し立てを受けた裁判所が定める
申し立ての前提要件に協議は含まれていないため、最初から裁判所に売買価格決定の申し立てが可能です。
売渡請求を行う際には、以下の点に特に注意が必要です。
1. 期限
• 売渡請求が可能な期間:相続発生を認識した日より1年以内
• 相続の発生を知ったら迅速に方針を決めることが重要
2. 分配可能利益の範囲
• 請求の際には分配可能利益の範囲内で実行する必要がある
• 財務状況を考慮して慎重に判断することが求められる
これらの点に注意を払いながら売渡請求を進めることで、スムーズな取引を実現できます。また、法的なリスクを最小限に抑えることができます。
譲渡制限株式の相続は、企業の承認なしに行うことができます。ただし、相続人は遺産分割協議や名義書換などの必要な手続を行う必要があります。企業側には、相続人から株式を買い取る方法として、合意による買取、強制的な買取、売渡希望株主からの買付があります。また、売渡請求制度を活用することも可能です。これらの選択肢を適切に活用することで、円滑な株式承継が実現できます。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事