譲渡制限株式とは?相続の手続・相続人から発行会社が買取る方法

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譲渡制限株式の相続手続と売渡請求・税務の注意点

譲渡制限株式を相続した場合の承認要否、名義書換、遺産分割、会社からの売渡請求、株式評価と税務の注意点を解説します。相続人が株主権を行使する前に確認すべき定款、期限、価格交渉、納税資金まで整理します。

目次

  1. 譲渡制限株式を相続したときの基本判断
  2. 相続人が株主として動く前の実務手順
  3. 会社が株式分散を防ぐために取れる対応
  4. 売渡請求で確認すべき期限・決議・価格
  5. 株式評価と税務で見落としやすい注意点
  6. 事業承継やM&Aを見据えた整理の進め方
  7. まとめ

譲渡制限株式とは?相続の手続・相続人から発行会社が買取る方法

譲渡制限株式を相続したときの基本判断

譲渡制限株式を相続したと聞くと、「会社の承認がないと株主になれないのでは」と考える方が少なくありません。ここは最初に整理したい点です。

相続による取得は、売買や贈与のような通常の譲渡とは異なります。被相続人が亡くなると、相続人は法律上、会社の承認なしに譲渡制限株式を取得します。譲渡制限株式とは、株式を他人へ譲渡するときに会社の承認を必要とする株式のことです。中小企業では、知らない第三者が株主になることを防ぐため、多くの会社で定款に譲渡制限が設けられています。

ただし、承認なしに取得できることと、安心して保有し続けられることは別です。定款に「相続人等に対する売渡請求」の定めがある場合、会社は一定の手続を経て、相続人に対して株式を会社へ売り渡すよう請求できます。つまり、相続人は株式を取得できるものの、会社から買取りを求められる可能性があるということです。

譲渡制限は売買や贈与を制限する仕組み

譲渡制限株式の目的は、会社が株主構成を一定程度コントロールすることにあります。たとえば、創業家だけで経営してきた会社に外部の第三者が入り込むと、経営方針や重要な決議に影響が出ることがあります。取引先や金融機関から見ても、株主構成の急な変化は不安材料になりやすいものです。

譲渡制限は、こうした事態を防ぐための仕組みです。もっとも、相続は本人同士の売買ではなく、死亡によって権利義務が移る場面です。そのため、相続では会社の譲渡承認が不要になります。

相続では取得できても株主権の行使には名義書換が重要

相続人が株式を取得しても、株主名簿に反映されていないと、会社との関係では株主として扱ってもらえない場面があります。株主名簿とは、誰が株主かを会社が管理する帳簿です。

名義書換を行えば、配当金の受領、株主総会での議決権行使、会社からの通知の受領などを進めやすくなります。反対に、名義書換を後回しにすると、相続人間で誰が株主なのか分からない状態が続き、会社の重要な意思決定が止まることもあります。

短く言えば、相続で株式は移ります。しかし、実務では名義書換まで進めて初めて、株主としての立場を会社に示しやすくなります。

相続人が株主として動く前の実務手順

譲渡制限株式の相続では、感情面の対立と手続の遅れが同時に起きることがあります。非上場株式は現金のように簡単に分けられないためです。

相続人が最初に行うべきことは、株式を誰が承継するか、会社にどのような定款規定があるか、相続税の納税資金をどう準備するかを確認することです。順番を誤ると、売渡請求、税務申告、事業承継の判断が複雑になります。

定款で売渡請求の有無を確認する

最初に確認すべき書類は定款です。定款に、相続その他の一般承継で譲渡制限株式を取得した人に対し、会社が売渡請求できる旨の定めがあるかを確認します。

この定めがなければ、会社は相続人に対して会社法上の売渡請求を行うことはできません。定款変更によって将来に備えることは考えられますが、すでに発生した相続についてどこまで対応できるかは慎重な確認が必要です。

相続人側から見ると、定款の確認は「株式を持ち続けられるか」「会社から買い取られる可能性があるか」を知る入口です。会社側から見ると、「株式分散を防ぐ手段があるか」を判断する入口になります。

遺産分割協議で株式の承継者を決める

相続人が複数いる場合、譲渡制限株式は遺産分割が終わるまで共有に近い状態になります。この状態が長引くと、誰が議決権を行使するのか、誰が会社と交渉するのかが曖昧になりやすいです。

中小企業では、株式が経営権そのものに近い意味を持つことがあります。株式が兄弟姉妹や親族に分散すると、後継者が決まっていても重要な決議で協力を得られず、事業承継が進まないことも。意外と多い落とし穴です。

遺産分割協議では、単に相続分どおりに分けるのではなく、経営を担う人に株式を集中させるか、相続人間で代償金を支払うかなど、会社の将来も踏まえて話し合う必要があります。

準共有状態を放置しない

株式が複数の相続人に共有されると、会社からの通知、議決権行使、配当の受領などで実務上の手間が増えます。会社側も、誰に連絡すべきか分からず、株主総会の運営に不安を抱えます。

こうした状態は、M&A(合併・買収)を検討する場面でも問題になります。買い手企業は、株主全員から確実に株式を取得できるかを確認するためです。相続人間の協議が未了のままだと、会社売却の交渉が途中で止まることがあります。

株主名簿の名義書換を請求する

遺産分割協議や遺言により株式を承継する人が決まったら、会社に株主名簿の名義書換を請求します。必要書類は会社ごとに異なりますが、一般には遺産分割協議書、戸籍関係書類、印鑑証明書、会社所定の書類などが求められます。遺言書がある場合は、遺言書の種類によって検認の要否も確認します。

名義書換に法律上の一律の期限があるわけではありません。しかし、相続税の申告期限は原則として死亡を知った日の翌日から10か月以内です。評価額の算定や納税資金の準備も必要になるため、名義書換だけを後回しにするのは避けたいところです。

株主権を行使する前に会社との関係を確認する

相続人が株主総会で議決権を行使すると、会社が相続人から合意により自己株式を取得する際の特則に影響する場合があります。会社側が株式を買い戻す可能性があるなら、相続人が議決権を行使する前に、会社と今後の方針を確認しておくことが重要です。

「とりあえず議決権を使ってから考える」と判断すると、後で使える選択肢が狭まることがあります。M&A実務では、ここで判断が止まることがあります。

会社が株式分散を防ぐために取れる対応

会社側にとって、譲渡制限株式の相続は経営権の分散リスクです。亡くなった株主が創業者や大株主であれば、相続人の人数、関係性、会社への理解度によって、その後の経営が大きく変わります。

会社が取れる対応は、大きく分けると、相続人との合意による取得、定款に基づく売渡請求、売却希望株主からの取得です。それぞれ、使える場面と注意点が異なります。

相続人との合意により株式を取得する

会社と相続人が話し合い、合意のうえで会社が自己株式として取得する方法があります。自己株式とは、会社が自社の株式を取得して保有する状態をいいます。一般に金庫株とも呼ばれます。

相続人にとっては、換金しにくい非上場株式を現金化できるメリットがあります。会社にとっては、経営に関与しない相続人へ株式が分散することを防ぎやすくなります。ただし、会社が自己株式を取得するには、株主総会決議や分配可能額の確認など、会社法上の手続が必要です。

議決権行使前かどうかが重要になる

相続人から会社が合意により株式を取得する場合、公開会社でない会社であり、相続人がその株式について議決権を行使していないことが重要になる場合があります。この要件を満たすと、他の株主に対する売主追加請求権への対応を簡略化できることがあります。

売主追加請求権とは、会社が特定の株主から自己株式を取得しようとするとき、他の株主も「自分の株式も買い取ってほしい」と求めることができる権利です。相続株式の整理では、この権利が出るかどうかで手続負担が変わります。

定款に基づく売渡請求で会社が買い取る

相続人との合意が難しい場合でも、定款に売渡請求の定めがあれば、会社は相続人に対して株式の売渡しを請求できます。これは、会社が望まない相続人に株式が移り、経営が不安定になることを防ぐための制度です。

ただし、売渡請求は強い効果を持つ制度です。そのため、期限、株主総会決議、通知、価格決定などの手続を慎重に進める必要があります。会社側が感情的に「株式を返してほしい」と求めるだけでは足りません。

売却希望株主から広く買い付ける

会社が相続人だけでなく、売却を希望する株主から広く自己株式を取得する方法もあります。株主間の公平性を重視する場合や、相続をきっかけに株主構成全体を整理したい場合に検討されます。

この方法では、どの株主からどれだけ応募があるか事前に読み切れないことがあります。会社は資金を用意する必要があり、分配可能額の範囲も確認しなければなりません。資金計画を曖昧にしたまま進めると、途中で取得できる株式数が足りなくなることがあります。

売渡請求で確認すべき期限・決議・価格

売渡請求は、会社側にとって便利な制度に見えます。しかし、期限を過ぎる、決議内容を誤る、価格交渉を軽く見ると、制度を使えなくなることがあります。

ここでは、会社側と相続人側の双方が確認すべき実務ポイントを整理します。

会社が相続を知った日から1年以内に請求する

売渡請求は、会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年以内に行う必要があります。相続開始日そのものではなく、会社が相続を知った日が基準になる点が特徴です。

ただし、会社がいつ相続を知ったのかは、後で争いになることがあります。死亡の連絡、戸籍書類の提出、相続人からの名義書換請求など、どの時点で会社が把握したかを記録しておくことが大切です。

会社側の初動が遅れると選択肢が減る

相続発生後、会社が何も確認しないまま1年近く経過すると、売渡請求の期限が迫ります。相続人との関係が良好なら合意取得も可能ですが、関係が悪化してからでは価格交渉も難しくなります。

会社側は、株主の死亡を把握した時点で、定款、株主名簿、持株数、相続人の範囲、会社の資金状況を確認することが重要です。

株主総会の特別決議が必要になる

売渡請求を行うには、株主総会の特別決議が必要です。特別決議とは、通常の決議より重い要件で行う決議です。売渡請求の対象となる株式数と、対象となる相続人の氏名または名称を定めます。

このとき、売渡請求の対象となる相続人は、その株主総会で議決権を行使できません。会社側は、議決権数や決議要件を事前に確認しておく必要があります。

定款に定めがない場合は使えない

売渡請求は、定款に定めがあることが前提です。定款に定めがない場合、「譲渡制限株式だから当然に買い取れる」とはなりません。

定款変更で将来の相続に備えることは可能です。親族内承継を予定している会社でも、株式が将来どの相続人に移るか分からない以上、早めに定款を見直す意味があります。

売買価格は協議または裁判所で決まる

売渡請求をした後、売買価格は会社と相続人の協議で決めます。価格がまとまらない場合、会社または相続人は、売渡請求の日から20日以内に裁判所へ売買価格決定の申立てをすることができます。

ここで注意したいのは、20日以内に協議がまとまらず、裁判所への申立てもされない場合、売渡請求の効力が失われることです。価格交渉は後でゆっくり考えればよい、という手続ではありません。

相続税評価額と売買価格は同じとは限らない

相続税のための株式評価額と、会社が相続人から買い取る売買価格は、必ず一致するわけではありません。裁判所が価格を決める場合には、請求時の会社の資産状態その他の事情が考慮されます。

相続人としては、相続税評価額より低い価格で買い取られると納得しにくいでしょう。会社側としても、高すぎる価格で取得すると資金繰りや他の株主との公平性に問題が出ます。価格の説明資料を準備することが、争いを小さくする実務上のポイントです。

株式評価と税務で見落としやすい注意点

譲渡制限株式の相続で最も見落とされやすいのが、非上場株式にも相続税がかかる点です。現金化しにくい株式であっても、評価額が高ければ相続税の負担が生じます。

「配当もほとんどない株式だから価値は低いはず」と考えていたところ、土地や内部留保が多く、想定以上の評価額になることも珍しくありません。

非上場株式は取引相場のない株式として評価する

非上場株式は、一般に「取引相場のない株式」として相続税評価を行います。評価方法は、会社の規模や株主の立場によって変わります。

大会社では類似業種比準方式が中心になります。これは、同じような業種の上場会社の株価を参考にしながら、配当、利益、純資産を使って評価する方法です。小会社では純資産価額方式が中心になります。これは、会社の資産と負債を相続税評価に置き換え、純資産をもとに株価を算定する方法です。中会社では、これらを組み合わせて評価します。

同族株主か少数株主かで評価が変わる

同じ会社の株式でも、取得した人が経営支配力を持つ同族株主等に該当するか、少数株主に近い立場かによって評価方法が変わることがあります。少数株主の場合、配当還元方式という特例的な評価方式を使う場面があります。

相続人が複数いる場合は、誰が何株を取得するかによって評価にも影響します。遺産分割協議を税務評価と切り離して進めると、後で納税額の見込みが変わることがあります。

相続税の申告期限までに納税資金を準備する

相続税の申告と納税は、原則として死亡を知った日の翌日から10か月以内に行います。非上場株式はすぐに売れるとは限らないため、納税資金をどう準備するかを早めに考える必要があります。

会社に株式を買い取ってもらう場合でも、価格交渉や株主総会決議、財源規制の確認が必要です。10か月は長いようで、実務では短い期間です。相続人が遠方に住んでいたり、会社の決算資料が整っていなかったりすると、評価作業だけで時間がかかります。

会社による買取りを納税資金に使う場合の注意

会社が相続人から株式を買い取れば、相続人は納税資金を確保しやすくなります。ただし、会社側には分配可能額の制限があります。分配可能額とは、会社が株主へ支払える財源の上限のようなものです。

会社の現預金が多く見えても、会計上・会社法上の制限により、希望どおりの金額で自己株式を取得できないことがあります。金融機関から借入をして買取資金を用意する場合も、返済計画との整合性が必要です。

発行会社へ譲渡するとみなし配当に注意する

相続人が取得した非上場株式を発行会社へ売却する場合、税務上は単純な株式売却だけで終わらないことがあります。会社が自己株式を取得すると、受け取った金額の一部が「みなし配当」として扱われる場合があるためです。

みなし配当とは、形式上は株式の売却代金でも、税務上は会社から利益の分配を受けたものとみなされる部分です。譲渡所得と配当所得では税負担の考え方が変わるため、手取り額に影響します。

相続株式には一定の税務特例がある

相続税がかかる相続人が、相続で取得した非上場株式を発行会社へ譲渡する場合、要件を満たせば、みなし配当課税を行わず、全額を譲渡所得の収入金額として扱う特例があります。対象期間は、相続の開始があった日の翌日から、その相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までです。

この特例は、相続税の納税資金を確保するために重要です。ただし、誰でも自動的に使えるわけではありません。相続税額の有無、譲渡先、譲渡時期、申告手続を確認する必要があります。

手取り額は価格だけで判断しない

相続人が受け取る手取り額は、売買価格だけで決まりません。相続税、譲渡所得税、みなし配当の有無、会社の買取資金、専門家費用などが関係します。

会社側も、単に「安く買い取る」ことだけを考えると、相続人との関係が悪化します。将来の事業承継や会社売却を見据えるなら、税務上の手取りと会社側の財源を同時に確認することが大切です。

事業承継やM&Aを見据えた整理の進め方

譲渡制限株式の相続は、相続人だけの問題ではありません。会社の経営権、後継者、金融機関対応、将来のM&Aにも影響します。

特に中小企業では、株式の過半数や3分の2以上を誰が持つかによって、役員選任、定款変更、組織再編、会社売却の進めやすさが変わります。株式の分散を放置すると、後継者がいても経営判断が難しくなることがあります。

後継者へ株式を集中させるかを検討する

親族内承継を予定している場合、経営を担う後継者へ株式を集中させることが基本的な考え方になります。兄弟姉妹で均等に株式を分けると、一見公平に見えますが、会社経営では意思決定が難しくなることがあります。

公平性は、株式を均等に分けることだけで実現するものではありません。後継者以外の相続人には、現金、不動産、代償金などで調整する方法もあります。事業を守る公平さと、相続人間の公平さを分けて考えることが必要です。

会社売却を考えるなら株主構成を先に整える

第三者承継として会社売却を検討する場合、買い手企業は株主構成を必ず確認します。株主が多く、連絡が取れない相続人がいると、株式譲渡契約の締結が難しくなります。

買い手企業から見ると、全株式を取得できるか、少なくとも経営に必要な議決権を確保できるかは重要です。相続で株式が分散したままでは、譲渡価格やスケジュールに影響することがあります。

デューデリジェンスで確認されやすい項目

M&Aの検討が始まると、買い手企業はデューデリジェンスを行います。デューデリジェンスとは、買収前に会社の内容を調査する手続です。

譲渡制限株式がある会社では、株主名簿、定款、過去の株式譲渡承認、相続による名義書換、株券発行の有無、自己株式取得の手続などが確認されます。書類が整っていないと、買い手企業から「株式を本当に取得できるのか」と不安視されることがあります。

種類株式の活用は早めに検討する

相続や事業承継では、譲渡制限株式だけでなく、黄金株や優先株式などの種類株式を組み合わせることもあります。黄金株は、特定の重要事項に拒否権を持たせる株式です。優先株式は、配当や残余財産の分配などで普通株式より優先される内容を持つ株式です。

ただし、種類株式は便利な一方で、設計を誤ると後継者や買い手企業にとって扱いにくい株式になります。会社売却を視野に入れる場合は、買い手企業が受け入れやすい資本構成かどうかも考える必要があります。

相続発生後ではなく生前から整える

譲渡制限株式の相続対策は、相続発生後に始めると選択肢が限られます。生前であれば、遺言、株式贈与、持株会社、種類株式、自己株式取得、M&Aなどを比較できます。

一方、相続発生後は、相続税の申告期限、売渡請求の1年期限、相続人間の協議など、複数の期限に追われます。経営者が元気なうちに株主構成を見直すことが、会社と家族の双方を守る現実的な対策です。

まとめ

譲渡制限株式は、相続では会社の承認なしに移りますが、定款に売渡請求の定めがあると会社から買取りを求められることがあります。相続人は名義書換、遺産分割、納税資金を早めに確認し、会社側も期限や価格決定の手続を慎重に進めることが重要です。株式の分散を防ぐ視点で、事業承継やM&Aまで見据えて整理しましょう。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人