株式譲渡の税金の個人法人の違いや節税ポイントを徹底解説

株式譲渡の税金はいくらになるのか。個人と法人で税率は違うのか。計算方法や節税策を知ることで、余計な負担を抑えられます。本記事では、譲渡所得の計算手順から確定申告、特例制度まで具体例を交えてわかりやすく解説します。株主や経営者必見です。

目次

  1. 株式譲渡における税金
  2. 譲渡所得と税金の計算方法
  3. 個人の株式譲渡と確定申告
  4. 自社株承継の特例制度
  5. 役員退職金を活用した節税
  6. 株式譲渡の留意点
  7. まとめ

▶目次ページ:株式譲渡(株式譲渡の税金)

株式譲渡における税金

株式を第三者に譲るときには、譲渡企業が個人か法人かで課税方法が変わります。ここではまず、それぞれの税率と計算の考え方を整理します。

個人が譲渡するときの税率

個人が株式を手放して利益が出た場合、その利益を「譲渡所得」と呼びます。譲渡所得は他の給与や事業の所得と混ぜずに計算する申告分離課税が適用されます。税率は所得税15%、住民税5%、2037年までは復興特別所得税0.315%が上乗せされ、合計20.315%です。上場株式でも非上場株式でも同じ税率なので覚えやすいのが特徴です。

法人が譲渡するときの税率

法人が株式を売って利益が出た場合、その利益は本業の利益と合わせて「所得」を計算し、法人税・法人住民税・法人事業税などをまとめて納めます。この総合課税方式では資本金や所得金額によって実効税率が変わりますが、おおむね30〜35%が目安です。同じ3,500万円の利益でも、個人より法人の方が税負担が重くなりやすい点に注意が必要です。

譲渡所得と税金の計算方法

株式をいくらで譲ったら税金がいくらになるのか、基本の式を確認しましょう。計算は二段階です。

譲渡所得の算出

譲渡所得 = 譲渡価格 -(株式の取得費 + 譲渡時の必要経費)

取得費は株式購入額や名義変更料など、必要経費は売却時の手数料などです。かつて平成13年10月1日の終値の80%を取得費とみなす「みなし取得費」制度がありましたが、平成22年12月で終了しています。特定口座入庫済株式など例外もあるため確認が大切です。

税金の算出

  • 個人 譲渡所得 × 20.315%
  • 法人 譲渡所得 ×(おおむね30〜35%)

計算例

譲渡価格5,000万円、取得費1,000万円、必要経費500万円の場合、譲渡所得は3,500万円。

  • 個人 3,500万円 × 20.315% ≒ 711万250円
  • 法人 3,500万円 × 30% = 1,050万円

個人の株式譲渡と確定申告

個人が株式を譲渡して20万円を超える利益が出た場合、多くのケースで確定申告が必要です。申告を忘れると追徴課税の恐れがあるので注意しましょう。

確定申告が必要なケース

  • M&A などで株式を売り、譲渡益が発生した。
  • 複数の特定口座で損益があり、通算して還付を受けたい。
  • 上場株式で損失が出て、翌年以降に繰り越したい。
  • 配当控除を受けることで税金を減らしたい。

確定申告の申告期間

対象年の翌年2月16日から3月15日までに所轄税務署へ申告します。e-Tax を使えば自宅から提出でき、還付も早期化します。

確定申告に必要な書類とアイテム

  • マイナンバーカードまたは本人確認書類
  • 源泉徴収票(給与や年金がある場合)
  • 還付を受ける銀行口座番号
  • 認め印
  • 確定申告書B、分離課税用申告書、譲渡所得の計算明細書
  • 年間取引報告書、特定口座以外での計算資料

確定申告が不要となるケース

  • 上場株式を特定口座(源泉徴収あり)で譲渡し、税金が天引き済みの場合
  • 特定口座で年間損失が利益を上回った場合

申告分離課税と源泉分離課税の違い

申告分離課税は自分で計算して確定申告する方式、源泉分離課税は証券会社が税金を天引きする方式です。損益通算や配当控除などを活用したい場合は申告が必要になることがあります。

法人が譲渡するときの会計処理上の留意点

時価より低い価格で譲渡すると差額は寄付金や役員賞与扱いとなり、損金にできない場合があります。譲渡価格の妥当性を示す資料を残しましょう。

損益通算の制限

平成28年以降、上場株式の損失は非上場株式の利益と相殺できなくなりました。非上場株式同士なら同一年で通算できますが繰越控除はできません。

親族への株式譲渡における税務リスク

時価の半額以下で譲渡すると贈与税や相続税が課される恐れがあります。専門家と協議しながら時価に近い価格で譲渡することが欠かせません。

高所得者に対する税率見直しの動き

令和7年分以降、極めて高い所得に対する負担率が22.5%未満の場合、税率が引き上げられる予定です。早めの対策が必要です。

自社株承継の特例制度

株式を後継者に移すとき、通常は贈与税や相続税が大きな壁になりますが、一定の条件を満たせば税金を猶予または免除できる制度があります。

事業承継税制(贈与・相続)

非上場会社の株式を先代経営者から後継者へ引き継ぐ際に、贈与税・相続税の負担をゼロに近づける制度です。令和8年3月31日までに特例承継計画書を提出し、期限内に承継を完了する必要があります。

取得費加算の特例

相続で取得した株式を3年以内に譲渡した場合、納付済みの相続税を取得費に加算できます。贈与で取得した株式には原則使えない点に注意しましょう。

制度適用のポイントと注意点

  • 後継者が議決権50%超を維持する。
  • 従業員数を80%以上維持する。
  • 承継後も事業を継続する。

要件が多く手続も複雑なため、計画の早い段階から専門家へ相談することが安全です。

役員退職金を活用した節税

株式譲渡対価をそのまま受け取ると個人では20.315%の税率がかかりますが、役員退職金として受け取れば退職所得控除と1/2課税で負担を軽減できます。

退職所得控除と1/2課税の概要

退職所得=(退職金総額-退職所得控除額)×1/2

勤続30年・退職金6,000万円なら控除額1,500万円、退職所得2,250万円となり、総合課税でも実効税率が低下します。

退職金を株式譲渡対価とみなすための要件

  1. 株式譲渡と退職が同時期である。
  2. 金額が功労・勤続年数と比較して妥当。
  3. 株主総会で退職金を決議。
  4. 契約書に退職金負担条項を明記。

退職金の決定手順

  1. 定款や退職慰労金規程を整備
  2. 株主総会で金額を決議
  3. 支払時期・負担者を明確化
  4. 税務申告で退職所得として計上

退職金節税のメリットとリスク

メリット:税率低減、社会保険料不要、交渉材料になる。

リスク:復帰で追徴、過大額の損金不算入、公平性トラブル。

退職金と譲渡益のバランス設計

譲渡益と退職金を組み合わせ、自社株評価、資金繰り、相続対策を総合的に検討しましょう。

退職金額の適正額を判断する目安

適正額=最終月額報酬×功績倍率(1.0〜3.0倍)。大幅超過時は第三者算定や議事録で根拠を提示。

退職金支給の資金調達方法

  • 分割支給
  • 逓増定期保険で積立
  • 役員退職慰労引当金の計上

株式譲渡の留意点

株式譲渡では、税金・価格設定・手続・関係者対応など、複数の視点を同時に考える必要があります。特に中小企業のオーナー経営者にとっては、後の追徴課税やトラブルが会社存続に直結するため、事前の準備が欠かせません。以下では実務で見落としやすいポイントを整理します。

承継先に発生する税金

親族に株式を移転する場合、相続であれば相続税、贈与であれば贈与税が承継先に生じます。譲渡であっても、時価より大幅に低い価格で株式を売ると、その差額がみなし贈与となり贈与税課税の対象になります。譲渡時点の公正価値を第三者評価で確認し、親族間でも適正価格で取引することが重要です。高額贈与が疑われると加算税や延滞税が発生する恐れがありますので、税負担を含めた総合設計を行いましょう。

譲渡価格の適正性の確保

非上場株式には市場価格がないため、価格決定に客観的根拠が求められます。一般的には「類似業種比準価額方式」と「純資産価額方式」を併用し、状況に応じてDCF法や配当還元法を参考にすることもあります。第三者の株価算定書を取得しておくと税務調査や少数株主との交渉で有効なエビデンスになります。

デューデリジェンスと財務リスクの洗い出し

株式譲渡後は買い手が過去の債務を引き継ぐ可能性があります。税務・法務デューデリジェンスで簿外債務や偶発債務を抽出し、表明保証・補償条項でリスク分担を契約に明記してください。未払残業代や環境対策費などが後から発覚すると、譲渡価格の減額や損害賠償に発展するケースがあります。

継続雇用と従業員への説明

経営者交代は従業員の働き方や待遇に直接影響します。就業規則や賃金体系を譲受企業が維持するかどうかを早期に示し、説明会や個別面談で不安を解消しましょう。情報共有が不十分だとモチベーション低下や離職を招き、PMI(経営統合)に遅れが生じます。

同族会社間の手続と社外ステークホルダーの理解

親族間の株式移転でも、会社法上の手続や株主総会決議を省略してはいけません。取引先・金融機関・従業員など外部ステークホルダーへの説明を怠ると、信用低下につながります。正式な稟議と開示を徹底し、反発を未然に防ぐことが大切です。

譲渡スケジュールとタイミング

決算日前後は利益変動で株価が上下するため、配当政策や設備投資計画を考慮して譲渡時期を選定しましょう。上場株式は源泉徴収で納税が完結しますが、損失が出た場合は確定申告しないと税負担が増えることがあります。非上場株式は決算書の数字がそのまま株価評価に影響するため、期末在庫や固定資産の評価にも注意が必要です。

法務・契約上の書類整備

株式譲渡契約書、株主総会議事録、譲渡承認請求書、株券(発行会社の場合)など必要書類を網羅的に準備します。書類不備は名義書換や登記手続で想定外の遅延を招きます。契約では表明保証、秘密保持、競業避止、アーンアウト条項などをバランスよく盛り込み、支払確実性と情報漏えい防止を図りましょう。

株式譲渡後の競業避止義務と顧客引き抜き問題

旧経営者が退任後に同業を立ち上げると競業避止義務違反となりかねません。競業避止条項には地域・期間・事業範囲の上限を定め、顧客リストやノウハウの引き抜きを防止します。過度に広い制限は公序良俗違反と判断される可能性があるため、合理的範囲に留めましょう。

株式譲渡後の取締役会構成とガバナンス

旧経営者が一定期間取締役や顧問として残る場合は、権限範囲と報酬を明確化します。指揮命令系統を二重化させないため、経営意思決定プロセスを文書化し、役割分担と権限移譲のスケジュールを設定してください。

税務調査で指摘されやすいポイント

  • 役員退職金の過大計上
  • 譲渡価格の過小評価と寄付金認定
  • 株主総会議事録や評価報告書の欠落
  • 未計上の簿外債務や未払残業代

事前にセルフレビューし、第三者意見書で根拠を補強しておくと指摘リスクを低減できます。

株式譲渡後のキャッシュフロー管理

アーンアウト条項で支払金額を業績連動とする、エスクロー口座で資金を管理する、担保権や買戻し権を設定するなど、譲渡対価を確実に回収するスキームを検討しましょう。

M&Aアドバイザー・税理士の選定基準

  • 株式譲渡・事業承継の実績件数と成功事例
  • 公認会計士・税理士を含む専門家チーム体制
  • 成功報酬・着手金など報酬体系の透明性
  • NDAの徹底と情報管理体制
  • PMI(統合支援)のサービス有無

信頼できる専門家を選ぶことで、価格交渉・スキーム構築・手続支援をワンストップで進められます。

株式譲渡後のPMI(経営統合)フェーズ

契約締結後は組織・会計・人事・ブランドを段階的に統合し、KPIを設定して進捗を管理します。譲渡企業の強みを生かしつつ、譲受企業の資源を投入し、早期にシナジーを創出する計画づくりが欠かせません。

まとめ

株式譲渡には、税負担・価格評価・ガバナンス・PMIといった多面的な課題があります。適正価格の算定と書類整備を徹底し、関係者とのコミュニケーションを図ることで、スムーズで安全な承継を実現できます。計画段階から税理士や公認会計士に相談し、リスクを最小限に抑えましょう。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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