多くの中小企業が後継者不足に悩む今、m&a仲介は円滑な事業承継や企業成長の有力な手段です。本記事ではm&a仲介の業務内容、FA・士業との違い、手数料の仕組み、利益相反問題などを詳しく解説し、成功へのポイントを示します。M&A仲介会社を選ぶ際の留意点やメリット・デメリットも紹介し、スムーズな手続を進めるための知識を提供します。
目次
1.M&A仲介とは
2.M&A仲介と他の支援機関(FA・士業)の違い
3.M&A仲介の業務内容
4.M&A仲介のビジネスモデル
5.M&Aが増加する背景
6.売り手企業が受けるメリット
7.買い手企業が受けるメリット
8.M&A仲介会社を選ぶポイント
9.M&A仲介手数料の仕組み
10.M&A仲介における利益相反問題
11.M&A仲介のメリットとデメリット
12.専門家に依頼する理由
13.まとめ
▶目次ページ:M&Aの相談先(M&A仲介/コンサルタント)
中小企業の後継者不足が深刻な日本において、事業承継を実現する手段の一つとしてM&Aが注目されています。そのM&Aを円滑に進める際、譲渡企業(売り手)と譲受企業(買い手)の間に立ってサポートを行うのがM&A仲介です。M&A仲介は、同じアドバイザーが双方と契約し、交渉を進める立場を指します。具体的には、両社の希望条件を調整しながら、適切な価格や譲渡スキームなどを検討し、成約に向けて中立的に支援します。
また、M&Aには税務・法務・財務など多角的な知識が求められるため、譲渡企業と譲受企業の間に立つM&A仲介会社は、幅広い連携やノウハウをもとに案件をサポートします。こうした仲介の存在が、経営者の高齢化に伴う後継者不在などの課題解決に寄与し、会社や事業を後世に引き継ぐための重要な手段となっているのです。
M&Aを支援する機関は、仲介会社のほかにもFA(ファイナンシャル・アドバイザー)や弁護士、公認会計士、税理士などの士業事務所があります。これらの支援機関は、財務や法務、税務の専門知識を持ち、M&A全体をサポートするうえで欠かせません。しかし、M&A仲介は売り手と買い手の両方を一括して調整し、ときには交渉を取りまとめる役割を担う点で大きく異なります。
FA(アドバイザリー)の場合
どちらか一方の企業と契約し、その企業の利益を最優先にアドバイスを行います。報酬はコンサルティングフィーや成功報酬として支払われることが一般的で、大規模案件でのアドバイザリー契約が多い傾向です。
士業事務所の場合
税理士・公認会計士は企業の財務や会計に精通し、弁護士は契約書や法的リスクの確認などを行います。日常の経営相談とは別に、事業承継やM&Aに強い士業がいるかどうかが重要なチェックポイントになります。
一方、M&A仲介会社は売り手と買い手のマッチングから譲渡交渉まで一貫して担い、基本的には両者の利害を調整する立場です。売り手にも買い手にも大きなメリットがもたらされるよう契約を取りまとめるのが特徴といえます。
M&A仲介の主要な業務には、売り手・買い手両社の意向を確認しながら、実務面をサポートするさまざまなプロセスが含まれます。具体的には、下記のようなステップが挙げられます。
これらは幅広い知識と調整能力を要するため、仲介会社が関与することで、法務・税務・財務などの観点を踏まえながらスムーズに手続を進めることが期待できます。特に中小企業のM&Aでは、後継者不在や個人保証などの問題も考慮しながら交渉を行う必要があるため、仲介会社の存在意義は大きいといえます。
近年は大企業だけでなく、中小企業の事業承継目的でのM&Aが増加し、それに伴いM&A仲介会社への注目度も高まっています。M&A仲介のビジネスモデルは、譲渡企業と譲受企業をマッチングさせ、成約に至った段階で仲介会社が報酬を得る仕組みが基本です。
具体的には、売り手企業から事業承継の相談を受けた仲介会社が業務委託契約を締結し、希望条件に合う買い手を探すところから始まります。たとえば、専任アドバイザリー契約を結べば、他の仲介会社を通じた重複依頼を行わない点で情報管理や交渉の一元化が期待できます。
さらに、企業価値算定や交渉調整などを行う際には、M&Aアドバイザーや士業のサポートを受けながら、最終的にクロージングまでをサポートする流れです。仲介報酬の体系は、着手金や成功報酬、月額報酬など会社によってさまざまですが、なかには完全成功報酬制を採用している仲介会社もあり、双方に合った契約形態を選択することが重要となります。
日本国内では2000年代以降、M&Aが大きく増加してきました。背景には、高齢化に伴う後継者不在が深刻化したことや、企業の成長戦略にM&Aが組み込まれるケースが増えたことなどが挙げられます。たとえば、譲受企業にとってはノウハウや人材をまとめて取り込むことで、短期間で事業領域を拡大できるメリットがあります。また、譲渡企業としては、廃業という道を選ばずに事業を承継できる点で魅力的といえます。
さらに、ベンチャーやスタートアップ企業など、新たな事業を興す企業がイグジット戦略としてM&Aを活用するケースも増加傾向にあります。近年では個人が小規模事業を譲受し、起業を目指す「スモールM&A」も認知が高まり、市場全体の活発化に拍車をかけています。
事業承継の一環としてM&Aを行う場合、譲渡企業にとってはさまざまなメリットが生まれます。特に以下のような点が大きいとされています。
創業者利益の実現
譲渡企業オーナーは、自らが保有している株式を現金化し、退任後の生活資金や新たな投資資金に充てることができます。会社を清算する場合と比べても、税制優遇などでより多くの利益を得られる場合がある点は見逃せません。
企業の成長機会
財務体質の安定した譲受企業の資金力や人材力を活用できるため、事業をさらに拡大していく可能性が高まります。販路や信用力の向上など、新たなステージへと進むきっかけになるケースも多いです。
従業員の雇用維持
M&Aによって従業員の雇用が原則として継続されるため、従業員にとっても将来への不安が軽減されます。自社単独では難しかった大規模採用や給与改善なども、譲受企業のサポートを受けることで実現する可能性があります。
個人保証の解除
中小企業ではオーナーが個人で銀行借入の連帯保証を負うことが一般的ですが、M&Aが成約するとこの負担が解消されるケースが多く、リスク面での安心感を得られます。
M&Aを行う最大の利点として挙げられるのが、時間の大幅な短縮です。ゼロから事業を立ち上げる場合に比べ、すでに営業基盤や人材、技術を備えた企業を取り込むことで、一気に事業規模を広げられる可能性があるからです。
新規事業へのスピード参入
新規参入するには市場調査や設備投資が必要ですが、既存の企業を取り込むことで、一連の初期プロセスを省略できる利点があります。
競争力の強化
同業種の企業を譲受すれば、シェア拡大によるスケールメリットの享受や競合他社との差別化が図りやすくなります。マーケットでの優位性を確立するためにM&Aを積極活用する企業も増えています。
既存のノウハウ・ブランドの獲得
譲渡企業が培ってきたブランドイメージや技術的優位を手に入れることで、事業の拡張やシナジー効果が期待できます。
譲渡企業のオーナーがM&Aに慣れていない場合、どの仲介会社を選ぶかは大きな課題になります。以下に挙げるポイントをチェックし、複数社を比較検討するのがおすすめです。
実績
過去に扱った業種や件数が豊富であるか、似たような規模の事例を持っているかなどを確認しましょう。同業界での成約経験がある担当者なら、業界の動向やプレイヤーも把握しやすく、有益な情報が得られやすいでしょう。
専門家の在籍や連携体制
M&Aでは税務・法務・財務など専門的な観点が不可欠です。仲介会社に士業のスタッフが在籍していたり、外部専門家と十分な連携を持っているかをチェックしてください。
契約条件
契約期間や専任契約の有無、解約の際のペナルティなど、後々トラブルにならないよう事前に契約書をしっかり確認することが必要です。
仲介手数料
料金体系は会社ごとに異なり、着手金・成功報酬・中間金などの費用が発生する場合もあります。自社が納得できる範囲での支払い水準かどうか、慎重に見極めることが大切です。
情報管理体制
譲渡企業に関する機密情報を誤って譲受企業側に渡すなどの不手際が起こらないよう、セキュリティ面も確認が必要です。情報の扱いが徹底されていない仲介会社は、信頼性が疑わしいといえます。
M&A仲介会社に支払う費用は、一般的に以下のような項目に分けられます。手数料体系は仲介会社により異なるため、契約前に必ず確認を行うことが重要です。
相談料
初期的な相談や検討段階で発生する費用ですが、無料に設定している仲介会社が多く見られます。まれに有料の場合もあるため、事前確認が必要です。
着手金
FA契約を締結した時点など、正式に案件を進める段階で支払う費用です。金額は企業の総資産などに応じ、数十万円から数百万円と幅があります。最近では着手金が無料の仲介会社も増えています。
中間金
買い手との基本合意契約を結んだタイミングなどで支払う場合がありますが、最終的に成功報酬に充当されるケースが一般的です。
デューデリジェンス費用
買い手が売り手企業の財務・税務・法務等を調査する際に発生する費用です。対象の規模や調査範囲に応じ変動し、原則として買い手が負担します。
月額報酬(リテイナーフィー)
数万円~数十万円程度を月ごとに支払う仕組みですが、最近は無料とする仲介会社が多い傾向にあります。
日本の少子高齢化社会において、多くの中小企業が後継者問題に直面しています。その中で、M&Aによる事業承継は有力な選択肢となっています。売り手が受けるM&Aのメリットを以下に解説します。
M&A仲介は、同じアドバイザーが売り手・買い手双方と契約するため、条件交渉の妥協点を探る過程で、一方の利益が大きくなると他方にとって不利になる状況が生まれやすい特徴があります。これを一般的に「利益相反問題」と呼びます。
買い手にとって、M&Aは繰り返し行う可能性があるため、仲介会社にとってはリピート顧客になるケースも見込めます。そのため、譲渡企業よりも買い手の希望条件を優先しやすい、という懸念が指摘されることもあります。もっとも、仲介会社の本来の役割は公正な立場で譲渡企業と譲受企業を結ぶことにあるため、利益相反問題への取り組みや情報開示がきちんと行われている会社を選ぶことが大切です。
専門家によるサポート
財務や法務、税務など多岐にわたる専門知識が必要となるM&Aを、経験豊富なアドバイザーが支援してくれるため、本業を圧迫せずスムーズに進めやすくなります。
成約率の向上
売り手と買い手の間をうまく調整し、条件交渉から書類作成まで一括でサポートするため、独力よりも成約に至る可能性が高まります。
スピード感
過去の事例やマッチングネットワークを活用できるため、より短期間で適切な買い手を探しやすくなる利点があります。
高額な手数料
仲介会社に支払う費用が発生するため、取引金額次第では負担が大きくなるケースがあります。
利益相反リスク
売り手と買い手を同時に担当することから、一方に偏った交渉が行われる恐れがあります。会社選定時に注意が必要です。
顧問士業との調整
自社で顧問税理士や顧問弁護士がいる場合、仲介会社側の士業チームと意見が対立する可能性もあるため、事前のすり合わせを行うことが望ましいです。
M&Aには財務・法務・税務など幅広い知識が必要であり、経営者が独自に情報収集しても限界があります。専門家に依頼すれば、複数のリスクを見逃さず適正な企業評価や交渉が可能となるため、結果的に希望に近い条件で成約しやすくなります。また、複雑な手続を任せられる分、本業に集中しながら進められるメリットは非常に大きいでしょう。
さらに、適正な価格やスキームを提案できる実績豊富な仲介会社を選べば、無用な時間ロスを防ぎつつ、譲渡・譲受双方が納得できる形で企業承継を実現しやすくなります。
M&A仲介会社は、後継者不足や事業拡大など多様な課題を抱える企業にとって、有効な選択肢となります。FAや士業など専門家との連携を通じて、売り手・買い手のニーズを調整しながら交渉を円滑に進める役割は重要です。料金体系や情報管理体制を理解した上で、豊富な経験を持つ仲介会社を選ぶことが、円滑な事業承継や成長に直結します。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事