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上場企業とのM&A買収戦略の成功事例と注意点を解説

上場企業とのM&Aは事業拡大の大きなチャンスですが、時間や権限面の制約も伴います。本稿では最新動向からメリットデメリット、成功の勘所までを分かりやすく解説します。

目次

  1. 上場企業M&A最新動向と実施件数の概要
  2. 上場企業と非上場企業の違いと市場区分
  3. 上場企業とのM&Aメリット五選
  4. 上場企業とのM&Aデメリットと対策
  5. 上場企業とM&Aを進める際の重要ポイント
  6. 上場企業とのM&Aで一般的な手法
  7. 企業合併でシナジーを最大化
  8. 資本業務提携の柔軟性を活かす
  9. 上場企業M&A戦略別の狙いと留意点
  10. 上場企業によるM&A実例から学ぶ
  11. 上場企業とのM&Aで注意すべき三つの視点
  12. まとめ

上場企業M&A最新動向と実施件数の概要

日本の上場企業によるM&Aは年々増加しています。2023年には国内譲受企業によるM&A件数が1,069件となり、リーマンショック以降で最多を更新しました。さらに海外案件も7年ぶりに年間200件を超え、国内外で積極的な動きがみられます。経済産業省の調査によれば、2010年度から2019年度にかけて件数は624件から1,536件へとおよそ2.5倍に伸長しました。In-In型取引の比率が高いことから、国内市場内での提携や再編が活発化していることが分かります。

この背景には、人口減少による国内需要縮小への対応、グローバル競争の激化、技術革新のスピードアップなどが挙げられます。上場企業は外部の技術、人材、市場を取り込むことで短期間で競争力を強化しようとしており、M&Aが経営戦略の中心に位置付けられている状況です。

増加を支える主な要因は競争激化と資本効率向上

株主からの要求が高まる中、上場企業には資本コストを意識した経営が求められています。内部資金を眠らせず、成長投資へ振り向けることでROEを高める姿勢が評価されるようになりました。また、新規市場への参入や事業モデルの転換を自前で行うには時間がかかるため、即効性のあるM&Aを選択するケースが増えています。経営環境の急激な変化に対応する手段として、M&Aは不可欠なカードとなっています。

上場企業と非上場企業の違いと市場区分

上場企業は証券取引所に株式を公開し、広く投資家から資金を集められる点が最大の特徴です。株式が自由に売買されるため、資金調達コストが相対的に低く、成長資金を迅速に確保できます。一方、非上場企業は株式の譲渡制限を設けることが一般的で、第三者による取得を防ぐ代わりに資金調達手段が限定されます。

2022年4月に東京証券取引所はプライム市場、スタンダード市場、グロース市場へ再編されました。


プライム市場
規模が大きく流通株式比率やガバナンス基準が最も厳格。大型M&Aや海外買収など巨額案件が多い傾向。


スタンダード市場

中堅規模で成長性と安定性を兼ね備える企業が上場。事業拡大を狙った買収が中心。


グロース市場

高成長志向の新興企業が上場。技術獲得や人材確保を目的とした小中規模の買収が目立ちます。

株式公開の有無が手続とガバナンスに影響

上場企業株式は譲渡制限がなく、取引所外での公開買付けや市場内取引で取得できます。非上場企業では会社法一三六条などに基づき株主総会や取締役会で承認を得る必要があり、手続が煩雑です。また、上場企業は継続開示義務を負うため、M&A過程でも情報開示と説明責任が厳格に求められます。

上場企業の株主構成が取引に与える影響

譲受企業の株主は機関投資家や投資信託が多く、短期的なリターンを重視する傾向があります。そのため、M&Aに伴う希薄化や収益性の変化について説明責任が厳格です。取引金額や統合後の収益計画が合理的かどうか、第三者意見書を取得して株主へ提示することが一般的です。

一方、非上場企業ではオーナー経営者の持株比率が高く、意思決定は迅速ですが、価格決定プロセスがブラックボックスになりがちです。上場企業を相手とする場合は、評価手法や前提条件をあらかじめ共有し、透明性を担保することでスムーズな協議が可能となります。

公開買付けと相対取引の使い分け

株式が広く分散している場合は公開買付けが有効です。期間と価格を公告し、短期間で必要数の株式を取得できます。特定の支配株主がいる場合は相対取引で条件を合意し、機動的に経営権を移転する方法が選ばれます。どちらの手法でもインサイダー情報の管理が欠かせません。

上場市場別に異なるM&A目的

  • プライム企業はグローバル展開や新規ビジネス参入を狙った大型案件を好む
  • スタンダード企業は国内シェア拡大や販路統合を目的とする中規模案件が中心
  • グロース企業は技術獲得と人材確保を目的とし、資本業務提携など柔軟な枠組みを活用


市場特性を踏まえて交渉すれば、自社の希望条件とマッチする相手先を探しやすくなります。

上場企業とのM&Aメリット5選

上場企業との提携は譲渡企業に数多くの恩恵をもたらします。

キャピタルゲインで多額の資金を確保

株式譲渡の対価は税率が一律で、事業譲渡に比べて課税後手取り額が多くなるケースがあります。得た資金を次の投資や資産承継へ充当できるため、経営者個人のライフプランにも好影響を与えます。

活用例

  • 新事業立ち上げの元手に充当
  • 従業員持株会の設立資金とする
  • 自社ビル売却後の移転費用に充当

従業員の雇用継続が期待できる

譲受企業が大規模であれば、人員を吸収できる余力があります。譲受企業が持つ教育制度や福利厚生を活用できることで、従業員の定着率向上も見込めます。交渉段階で雇用条件や評価制度を共有し、合意書に盛り込むことが重要です。

ブランドと信用力を活用した販路拡大

上場企業の知名度は取引先の信用調査を通りやすくし、新規顧客開拓を後押しします。特に地方企業にとっては全国展開の足掛かりとなり、販路の地理的制約が小さくなります。

資金調達力を活かした研究開発の強化

公開市場からの増資や社債発行により、譲受企業は研究開発投資を加速可能です。新製品開発やITシステム刷新など、単独では難しかった施策を実行しやすくなります。

子会社入りによる管理体制の高度化

内部統制報告制度やJ-SOX対応が義務付けられることで、業務プロセスの標準化が進みます。結果として金融機関からの格付け向上や取引条件の改善が期待できます。

上場企業とのM&Aデメリットと対策

利点と表裏一体で、注意点も存在します。

クロージングまでの長期化リスクに備える

譲受企業は複数部門や取締役会、監査役会、場合によっては株主の理解を得る必要があります。デューデリジェンスの範囲が広がり、税務・法務・人事など専門家の確認も増えるためです。スケジュール策定時に余裕期間を設定し、途中経過を双方で共有する仕組みを整えましょう。

権限縮小による経営自由度の低下

親会社の年次計画や稟議制度に合わせる必要から、意思決定のスピードが遅くなる場合があります。事前に経営方針のすり合わせを行い、自社の価値観を尊重してもらえるよう交渉することが大切です。

情報開示負担の増加

上場企業グループに入ると四半期決算や監査対応が求められます。経理体制の整備やシステム導入コストが発生するため、準備期間を確保し、外部専門家と連携しながら移行計画を策定しましょう。

買収後統合による文化摩擦

社員規模や業界慣行が異なる場合、評価制度や意思決定フローの違いがストレスになることがあります。統合前から交流機会を設け、両社の文化を共有する仕組みが不可欠です。

価値毀損のリスク

相手企業の法令違反や偶発債務が後に発覚すると、ブランド価値が損なわれる恐れがあります。表明保証条項や補償条項を契約に組み込み、リスクを分担することで負担を軽減できます。

デメリット緩和に役立つ実務対応例

  • 早期にデューデリジェンス資料を共有し、回答期限を明確化する
  • PMI専門チームを共同で設置し、月次で進捗をモニタリングする
  • 重要な事業判断については一定金額以下を子会社側で決裁可能とする合意を取り付ける
  • 退職金規程や評価制度を段階的に統合し、従業員説明会を複数回開催する


上記のような具体策を講じれば、デメリットを最小化しながら譲受企業のリソースを享受できます。


ここまでで、上場企業とのM&Aに伴う環境変化とその対応策を整理しました。次のセクションでは、取引を成功させるための目的設定と譲受企業調査の要点について詳しく解説します。


また、譲受企業と長期的に良好な関係を築くためには、契約締結後の統合フェーズであるPMIを軽視しない姿勢が不可欠です。文化融合と目標共有の枠組みを早期に整備することが、シナジー創出を加速させる第一歩となります。

上場企業とM&Aを進める際の重要ポイント

上場企業との交渉を円滑に進めるには、社内外での情報共有と事前準備が不可欠です。譲渡に関わる全員が同じゴールを理解し、手順を明確化することで、価格交渉や従業員への説明がスムーズになり、期待する成果を実現しやすくなります。

目的を明確にして一貫した方針を共有

M&Aを成功させる第一歩は、「なぜ上場企業と組むのか」を定量的に示すことです。目的が曖昧だと交渉軸がぶれ、相手との条件調整や社内合意形成に時間がかかります。関係者全員が同じゴールと数値目標を理解し、PDCAサイクルに組み込むことが重要です。

目的設定4つのステップ

  1. 自社の現状分析(財務・人材・市場) 
    財務諸表やキャッシュフロー、保有スキル、人材構成を洗い出し、自社の強み・弱みを明確化します。

  2. 中長期ビジョンとギャップの見える化
    自社の目指す三年後、五年後の姿を描き、現状とのギャップを数値で把握します。

  3. M&Aが埋めるべきギャップを定量化
    ギャップを埋める具体策として、営業網拡大率や人員増強数など、必達目標を設定します。

  4. 全社説明会で共有しPDCAサイクルに組み込む
    役員会だけでなく、現場も巻き込み説明会を開催。進捗管理と見直しルールを決めて定期的に検証します。

譲渡先上場企業を綿密に調査する

上場企業だから安心というわけではありません。譲渡後の統合やリスクを最小化するため、財務面だけでなく組織風土や過去実績まで幅広く確認します。不明点は早期に質問状でクリアにし、議事録を残すことで後日のトラブル防止につなげます。

調査で確認したい5つの視点

  1. 財務健全性
    過去数期の売上推移、EBITDA、自己資本比率、負債比率、フリーキャッシュフローを分析します。
  2. 企業文化
    経営理念や行動指針、意思決定スピード、組織図を通じて社風との相性を評価します。
  3. M&A実績
    過去に手掛けた合併・買収の手法・規模・統合後の成果指標(離職率、シナジー達成度など)を把握します。
  4. コンプライアンス体制
    内部監査の仕組み、反社チェック状況、ガバナンス体制、第三者監査の結果を確認します。
  5. 業界評判 
    取引先や同業他社からの評価、メディア報道、各種ランキングを参照し、レピュテーションリスクを洗い出します。


以上の準備を通じて、上場企業との交渉を戦略的に進め、M&A後の円滑な統合へつなげましょう。

上場企業とのM&Aで一般的な手法

上場企業とのM&Aでは、企業買収、合併、資本業務提携など、目的や規模に応じた複数の手法が活用されます。各手法の特徴と留意点を押さえ、最適な方法を選ぶことが成功の鍵となります

企業買収―株式取得と事業譲渡

株式取得

譲受企業が発行済株式の過半数以上を取得し、経営権を掌握する方法です。公開買付け(TOB)や相対取引などで行われ、対象会社の資産・負債を包括的に承継します。デューデリジェンスで簿外債務の有無を精査し、表明保証条項でリスクをコントロールします。


事業譲渡

譲受企業が特定の事業部門や資産、契約、従業員など、必要な範囲のみを取得する手法です。不要な負債を切り離せますが、個別契約の承認手続きが必要となる場合があります。また、譲渡資産に対して消費税が課税され得る点に留意が必要です。

株式取得の特徴と留意点

  • 手続きが比較的簡潔で、株主総会・取締役会の承認で迅速に実行可能です。
  • 株式譲渡益に課税が生じるため、税務シミュレーションを事前に行います。
  • 簿外債務リスクを表明保証や補償条項でカバーし、価格調整条項で調整可能です。

事業譲渡の特徴と留意点

  • 譲渡対象を柔軟に選択できるため、不要資産や負債を回避できます。
  • 個別の契約移転手続き(取引先・従業員など)の承認が必要なケースがあります。
  • 譲渡資産に対して消費税が課税される可能性があるため、税務対応を検討します。

企業合併でシナジーを最大化

企業合併は二社を一体化し、法人格を統一することで経営資源を集約します。組織文化の融合には時間を要しますが、管理コスト削減や資本効率改善など大規模なシナジー創出が期待できます。

合併プロセス六ステップ

  1. 基本合意書の締結
    スキーム、統合比率、スケジュールの概要を合意します。
  2. デューデリジェンス
    財務・法務・人事・システムなど多面的な詳細調査を実施します。
  3. 合併契約書の作成・締結
    合併比率、従業員の処遇、知的財産の帰属などを明文化します。
  4. 株主総会決議
    両社の株主総会において承認を得ます。
  5. 債権者保護手続
    公告・催告手続きを経て第三者権利を保護します。
  6. 合併登記・統合実行
    登記後に組織、システム、ブランドの統合を開始します。

資本業務提携の柔軟性を活かす

資本提携により少数株を取得しつつ、業務提携で特定分野の協業関係を築くことで、段階的に関与度を高める手法です。成果に応じて出資比率や業務範囲を拡大し、最終的に完全買収へと進むことも可能です。

資本提携と業務提携の違い

  • 資本提携
    株式取得を通じて資本関係を形成し、財務面での関与度を高めます。

  • 業務提携
    販売チャネル、技術開発、人材育成など特定領域で協力し、リスクを限定しながらシナジーを追求します。


以上の手法を理解し、自社のM&A目的やリスク許容度に応じて最適なスキームを選択してください。

上場企業M&A戦略別の狙いと留意点

上場企業が採る代表的な4つのM&A戦略ごとに、その狙いと具体的な留意点を整理します。

事業規模拡大を目的とした同業買収

同業他社を買収し、市場シェアや顧客基盤を一気に拡大する手法です。スケールメリットを活かして、間接部門のコスト削減や購買力向上を図ります。


  • 競合関係だった従業員の心理的抵抗を和らげるため、キャリアパスやポストを明示
  • 重複業務の整理計画を早期に立案し、重複人員・システムの統合スケジュールを策定
  • 顧客・取引先への説明資料を準備し、ブランド統合後の価値提案を明確化

垂直統合でバリューチェーンを強化

原材料供給から製造、流通、販売までを一貫管理し、コスト削減と品質安定を実現します。


  • 公正取引委員会による寡占審査(フェイルセーフ条項)の必要性を事前に確認
  • 物流拠点や製造ラインの統合計画を立案し、設備投資と人員配置計画を調整
  • サプライヤーとの契約見直しや在庫最適化で、統合初期のキャッシュフローを確保

商品ラインナップ拡充で顧客基盤を拡大

自社にない製品群を取り込むことで、既存顧客へのクロスセルや新規顧客獲得を狙います。

  • ブランド間の競合やカニバリを防ぐため、ポートフォリオ管理ルールを設定
  • 買収先商品の価格・販促体制を自社基準に合わせる移行計画を策定
  • 営業・マーケティング部門の連携強化で、クロスセルKPIを明確化

多角化で収益ポートフォリオを安定化

異業種の企業を買収し、景気変動リスクを平準化します。


  • 事業シナジーが見えにくいため、DCF評価に基づく慎重な価格設定を実施
  • 買収先の専門性を生かす組織体制(ジョイント・バリューチェーン)を構築
  • 新規事業領域の理解促進のため、経営陣間で定期的にワークショップを開催


以上の戦略を目的やリスク許容度に応じて組み合わせることで、上場企業が求める成長シナリオを実現可能です。

上場企業によるM&A実例から学ぶ

以下の3件は、上場企業が明確な目的を掲げて成果を上げた代表例です。取引の狙いと実際の効果を整理し、自社の戦略検討に役立てましょう。

GloLing社の技術獲得型M&A

エルテス社が2022年3月にGloLing社を全株式取得した目的は、深刻化するIT人材不足への対応と開発内製化の加速でした。買収後は、

  • エンジニア数が120名から180名へ50%増加
  • 外注率を35%から15%へ低減し、年間コスト1億円削減
  • 新規受託案件の平均リードタイムを30%短縮


といった成果を達成。PMIでは、採用・教育体系を両社統合版へ一本化し、二四か月以内に離職率を10%未満へ抑える目標を設定しました。技術獲得型M&Aでは、人材定着と知識共有のしくみ作りが投資回収のカギとなります。

中神運送社の規模拡大型M&A

ハマキョウレックス社は2022年2月、中神運送社の株式を取得しネットワークを拡充。買収理由は、EC成長に伴う都市圏ラストワンマイル需要の取り込みでした。統合後に、

  • 車両台数120台増強で配送能力18%アップ
  • 共同積載率を62%から78%へ向上し燃料費を年間8千万円削減
  • 共同購買で車両整備コストを15%圧縮


など、スケールメリットを具体的数値で可視化。成功要因は、物流拠点再配置を“100日プラン”に組み込み、初年度からキャッシュ創出を実現した点です。

なないろ社の関連事業拡大型M&A

ソラスト社は2022年3月、なないろ社を子会社化し保育所運営を拡大。狙いは既存の介護・医療受託事業と保育サービスを横串で連携させ、地域包括ケアモデルを強化することでした。統合後は、

  • 保育所数が66施設へ1.5倍化
  • 共通研修プログラム導入で保育士定着率が96%に改善(前年93%)
  • ICT登降園管理の共用化で事務時間を月八時間削減


と、関連事業間シナジーが顕在化しました。サービス品質指標(保護者アンケート満足度)を統合KPIに設定したことが統合推進力となりました。

事例から得られる3つの教訓

狙いを一点に絞り、KPIを明文化

技術・規模・関連領域拡大など目的を明確にし、定量目標を設定する。


統合初年度に回収計画を共有

“100日プラン”で組織・システム・拠点統合を並行管理し、早期にキャッシュ創出。


文化統合はトップ同士の信頼が起点

経営層が合同タウンホールを開催し、従業員へビジョンを直接発信する。

上場企業とのM&Aで注意すべき3つの視点

M&Aを成功に導くには、リスク管理・人材ケア・専門家活用の三本柱を押さえる必要があります。以下の要点をチェックリスト代わりに活用してください。

リスクを洗い出し契約条項で分担

表明保証

簿外債務・訴訟・知財侵害などについて、違反発覚時の損害賠償範囲と算定方法を明記。


価格調整条項

純資産や運転資本の確定値に応じて対価を後調整し、資金流出リスクを抑制。


MAC条項

クロージング前に重大事象が発生した場合の契約解除条件を設定。

従業員への情報共有とエンゲージメント維持

  • 公式説明会・FAQサイトを用意し、雇用条件・評価制度の変更点を明示。
  • モチベーション維持のため統合プロジェクトに現場代表を参画させ、決定プロセスの透明性を確保。
  • ES調査を四半期ごとに実施し、課題は経営会議で即時フィードバック。

専門家を活用しプロセスを円滑化

  • 税理士は組織再編税制・国際税務の適用可否を検証し、手取り額最大化を支援。
  • 弁護士は独禁法・労働法・知財のリスクをレビューし、契約書をドラフト。
  • M&Aアドバイザーは相手先探索・バリュエーション・交渉を一括サポート。

TOBを活用した迅速な株式取得

期間・価格・下限株数を公告し、短期間で経営権を確保します。ただし、大量保有報告書や開示スケジュールを遵守しなければ、市場からの信頼を損なう恐れがあります。

PMI成功の鍵は“100日プラン”

データ統合・組織統合・文化醸成を同時並行で進め、三か月以内に意思決定と責任の所在を明確化することで、従業員の迷いを減らしシナジー創出を加速させます。

取引コストと税務の視点

株式譲渡益、事業譲渡消費税、登録免許税などをクロージング前にシミュレーションし、必要資金を確保します。

海外子会社を含む場合の追加留意点

外為法や各国の外資規制・競争法を確認し、クロージング期限にラグが生じないよう余裕を持ったスケジュールを設定します。

因果関係を意識したシナジー測定

売上シナジーはクロスセル比率、コストシナジーは統合後コスト/売上高で月次KPI化し、進捗を可視化しましょう。

文化統合のベストプラクティス

  • オンボーディングキットで企業理念と業務フローを共有。
  • クロスファンクショナルワークショップで相互理解を促進。
  • Buddy制度により、双方従業員がペアを組み日常業務を支援し合うことで一体感を醸成。

まとめ

上場企業とのM&Aは、事業拡大や競争力強化の有効な手段となり得ます。メリットとしてキャピタルゲインの獲得や雇用の安定が挙げられる一方、クロージングまでの時間や経営権限の制限などのデメリットも考慮する必要があります。成功のカギは、明確な目的設定と綿密な企業調査にあります。買収、合併、資本業務提携など、状況に応じた適切な手法を選択することが重要です。実例からも分かるように、M&Aは様々な業界で活用され、事業成長の重要な戦略となっています。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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