株式交換による買収の全容解説:メリットとデメリット、手続の流れ

株式交換は、資金調達不要で100%子会社化を実現できる企業買収手法です。本記事では、株式交換の定義、メリット・デメリット、具体的な実施手順、そして重要な株式交換比率の決定方法について詳しく解説します。

目次

  1. 株式交換の定義と概要
  2. 株式交換における譲受企業の利点と課題
  3. 株式交換の実施手順
  4. 株式交換比率の決定方法
  5. まとめ

株式交換の定義と概要

株式交換とは、企業買収や組織再編の手法の一つで、ある会社(売り手)の全ての発行済株式を別の会社(譲受企業)が取得し、100%親子会社関係を構築する方法です。この手法を用いることで、既存の法人を完全子会社化することができます。

株式交換の特徴

株式交換の特徴として、以下の点が挙げられます。

譲受企業の株式を対価として使用するため、大規模な資金調達が不要です。

売り手の株主は、譲受企業の株主になります。

法的手続を経ることで、売り手の少数株主の意思に関わらず、全株式を取得できます。

株式交換の対価としては、一般的に譲受企業(完全親会社)の株式が用いられますが、場合によっては以下の方法も認められています。

1. 三角株式交換:完全親会社の株式を交付する方法

2. 現金交付型株式交換:現金などの財産を交付する方法

株式交換の具体的な手法

株式交換を実施する際の具体的な手順は以下の通りです。

1. 完全親会社と完全子会社の間で株式交換契約を締結します。

2. 原則として、両社の株主総会で特別決議による承認を得ます。

3. 株式交換に反対する株主や新株予約権者には、株式や新株予約権の買取請求権が与えられます。

株式交換は、各当事会社の財産に直接的な影響を与えないため、通常は会社法上、債権者保護手続は必要ありません。ただし、以下の場合は例外的に債権者保護手続が求められます。

新株予約権付社債を承継する場合

完全親会社の株式以外を対価として交付する場合

株式移転と株式交換の相違点

株式移転は株式交換と似た手法ですが、以下の点で異なります。

1. 株式交換:既存の法人を100%子会社化する手法

2. 株式移転:新たに設立する法人の100%子会社にする手法

株式移転では、一つまたは複数の株式会社(株式移転完全子会社)がその発行済株式の全部を、新たに設立する株式会社(株式移転完全親会社)に取得させます。つまり、株式移転では新しい親会社が設立されるのに対し、株式交換では既存の会社が親会社となる点が大きな違いです。

▶目次ページ:M&Aの種類・方法(株式交換)

株式交換における譲受企業の利点と課題

株式交換は、企業買収や組織再編の手法として多くの企業で採用されています。譲受企業(買収側)にとって、この手法には様々なメリットとデメリットがあります。以下では、それぞれについて詳しく説明します。

株式交換がもたらすメリット

1. 資金調達が不要: 株式交換では、自社の株式を対価として使用するため、大規模な資金調達を行う必要がありませ
    ん。これは、現金での買収に比べて財務的な負担が軽減されるという大きな利点です。

2. 100%子会社化が可能: 株式交換契約を締結し、両社の株主総会で特別決議による承認を得ることで、完全子会社
        の株主の意思に関わらず、強制的に全ての株式を取得することができます。これにより、迅速かつ確実に100%子
        会社化を実現できます。

3. 反対株主への対応: 株式交換に反対する完全子会社の株主に対しては、公正な価格での株式買取請求権が与えられ
        ます。これにより、少数株主の利益を保護しつつ、円滑な手続の進行が可能となります。

株式交換に伴うデメリット

1. 株価の希薄化リスク: 株式交換を実施する際には、自己株式の処分や新株発行を行うことになります。これにより
        発行済株式数が増加し、株式価値の希薄化につながる可能性があります。特に譲受企業が上場企業の場合、株価の
        下落リスクに注意が必要です。ただし、統合によるシナジー効果が期待される場合は、逆に株価が上昇することも
        あります。

2. 簿外債務の承継リスク: 株式交換は包括的な承継方式であるため、想定外の簿外債務等を引き継ぐリスクがありま
        す。これは事業譲渡のような個別資産・負債の承継方式とは異なる点です。このリスクを軽減するためには、適切
        なデューデリジェンス(詳細な事前調査)の実施が重要です。

3. 複雑な手続: 株式交換の実施には、以下のような複雑なプロセスが必要となり、相当な労力と時間を要します。

株式交換契約の締結

契約関連書類の株主閲覧のための備置

株主総会での特別決議

株式交換実施の通知・公告

反対株主による買取請求への対応

4. 株主構成の変化: 株式交換により、完全親会社の株主に完全子会社の株主が新たに加わることになります。これに
        より株主構成が変化し、場合によっては完全子会社の元株主が一定の影響力を持つ可能性があります。この点は、
        既存株主との関係や今後の経営方針に影響を与える可能性があるため、慎重に検討する必要があります。

これらのメリットとデメリットを十分に理解し、自社の状況や目的に照らし合わせて、株式交換が最適な手法であるかを慎重に判断することが重要です。

株式交換の実施手順

株式交換を実施する際には、会社法やその他の法令に基づいて定められた手続を順守する必要があります。以下に、主要な手順を詳しく説明します。

株式交換契約の作成と締結

株式交換を行うためには、まず完全親会社となる会社と完全子会社となる会社の間で株式交換契約を締結する必要があります。この契約には以下の事項を必ず記載しなければなりません。

1. 完全子会社及び完全親会社の商号及び住所

2. 完全親会社が株式交換に際して完全子会社の株主に対して交付する対価の種類及び数量(株式、社債、新株予約
        権、新株予約権付社債、その他の財産など)

3. 完全子会社の株主に対する対価の割当てに関する事項

4. 効力発生日(株式交換がその効力を生ずる日)

事前開示書類の準備と備置

株式交換契約を締結した後、各当事会社は以下の事前開示手続を行う必要があります。

1. 株式交換契約の内容その他法務省令で定める事項を記載した書類を作成する。

2. これらの書類を、効力発生日の前日までの間、本店に備え置く。

3. 株主及び会社債権者等が閲覧できるようにする。

この手続は、株主や債権者の利益を保護し、取引の透明性を確保するために重要です。

株主総会における承認決議

原則として、株式交換の効力発生日の前日までに、完全親会社及び完全子会社のそれぞれにおいて、株主総会の特別決議による承認を得る必要があります。ただし、以下の場合には株主総会の決議を省略することができます。

1. 略式手続:完全親会社が完全子会社の総株主の議決権の90%以上を有する場合、完全子会社の株主総会決議を省略
                       できます。

2. 簡易手続:完全親会社が交付する株式の数等が完全親会社の発行済株式総数の10%以下である場合、完全親会社の
                       株主総会決議を省略できます。

株主の株式買取請求権

株式交換に反対する株主や新株予約権者には、公正な価格での買取請求権が認められています。この権利は少数株主の保護を目的としており、以下のような流れで行使されます。

1. 反対株主は、株主総会の日の前日までに、書面で株式交換に反対する旨を通知する。

2. 株主総会で株式交換に反対する。

3. 株式交換の効力発生日の20日前から効力発生日の前日までに、公正な価格での株式買取りを請求する。

債権者保護のための手続

通常、株式交換では各当事会社の財産に直接的な影響を与えないため、会社法上、債権者保護手続は必要ありません。ただし、以下の場合には例外的に債権者保護手続が求められます。

1. 新株予約権付社債を承継する場合

2. 完全親会社の株式以外を対価として交付する場合

債権者保護手続が必要な場合、以下の手順を踏む必要があります。

1. 債権者に対して株式交換に関する事項を官報に公告する。

2. 知れている債権者には、個別に通知する。

3. 債権者が一定期間内に異議を述べることができる旨を公告・通知する。

これらの手続を適切に行うことで、株式交換の法的安定性が確保され、円滑な実施が可能となります。

株式交換比率の決定方法

株式交換比率は、株式交換を行う際に最も重要な要素の一つです。この比率によって、完全子会社となる会社の株主が受け取る完全親会社の株式数が決定されます。公正な株式交換比率を算定するためには、以下の点に注意する必要があります。

各当事会社の株価評価 

株式交換を行う各当事会社の株価を公正に評価することが、適切な交換比率の決定につながります。株価評価の方法には複数の手法があり、会社の状況や業種に応じて適切な方法を選択する必要があります。

複数の算定手法の使用

一つの算定手法だけでなく、複数の手法を組み合わせて使用することが推奨されます。主な算定手法には以下のようなものがあります。

時価純資産法:会社の資産と負債を時価で評価し、その差額(純資産)で株価を算定する方法

収益還元法:将来の予想利益を現在価値に割り引いて株価を算定する方法

DCF(ディスカウント・キャッシュフロー)法:将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて株価を算定する方法

類似会社比準法:同業他社の株価指標を参考に株価を算定する方法

第三者算定機関の活用

株式交換比率の算定に恣意性が入ることを避けるため、各当事会社から独立した利害関係のない第三者算定機関による株価評価を採用することが望ましいです。これにより、株式交換の公正性と透明性が高まります。

市場株価の考慮 

上場企業の場合、市場株価も重要な参考指標となります。ただし、一時的な株価変動や特殊要因による影響を排除するため、一定期間の平均株価を用いることが一般的です。

シナジー効果の反映

株式交換によって期待されるシナジー効果を、どの程度株式交換比率に反映させるかも重要な検討事項です。ただし、シナジー効果の定量化は難しい場合が多いため、慎重な判断が必要です。

株主間の利益調整 

完全親会社と完全子会社の株主間で利益が適切に配分されるよう、株式交換比率を調整することも重要です。特に、少数株主の利益が不当に害されないよう注意が必要です。

法的要件の遵守 

株式交換比率の決定にあたっては、会社法や金融商品取引法などの関連法規を遵守する必要があります。特に、上場企業間の株式交換の場合、金融商品取引法に基づく開示規制に留意が必要です。

交渉プロセス

実務上、株式交換比率は当事会社間の交渉によって最終的に決定されます。この交渉プロセスを通じて、両社の状況や将来の見通し、リスク要因などが詳細に検討されます。

適切な株式交換比率の決定は、株式交換の成否を左右する重要な要素です。公正性と透明性を確保しつつ、両社の株主にとって納得できる比率を見出すことが、成功的な株式交換の鍵となります。

まとめ

株式交換は、企業の組織再編や買収の手法として広く活用されています。この方法では、譲受企業の株式を対価として使用するため、大規模な資金調達が不要という利点があります。一方で、株価の希薄化や手続の複雑さなどの課題もあります。株式交換を成功させるためには、法的手続の遵守、適切な株式交換比率の決定、そして株主や債権者の利益保護が重要です。企業は自社の状況を十分に分析し、専門家の助言を得ながら、慎重に検討を進めることが求められます。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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