M&Aの意味から歴史や手法や流れメリットデメリットまで解説

M&Aの意味は何でしょうか?結論から言えば、企業同士が合併や買収を通じて将来を切り拓く手段です。本記事では、その概要から目的、歴史、手続の流れまでをやさしく説明します。

目次

  1. M&Aの意味
  2. M&A関連略語を理解する
  3. M&Aの主な目的
  4. 国内M&Aの歴史
  5. M&Aの主要類型
  6. M&Aのメリット
  7. M&Aのデメリット
  8. M&Aの基本的な流れ
  9. 譲渡先・譲受先の探し方
  10. 国内M&A動向
  11. M&A後の統合(PMI)の進め方
  12. よくある課題と解決策
  13. M&Aの基本的な流れ(詳細版)
  14. 今後の展望と備えるべきアクション
  15. PMIで成果を測定する指標例
  16. M&Aのまとめ

M&Aの意味

M&Aは企業の合併や買収を示す言葉

M&Aは英語のMergers and Acquisitionsを略した表現で、直訳すれば「企業の合併や買収」を意味します。つまり、複数の企業が経営統合したり、一方の企業が他方を買収したりする行為全般を指す言葉です。企業規模の大小を問わず、目的に応じて柔軟に活用できる点が特徴であり、譲渡企業と譲受企業の双方に大きな経営上の変化をもたらします。

後継者不足などがM&A活用を後押し

近年、事業承継の担い手不足や市場環境の急速な変化が深刻化し、中小企業を中心にM&Aを検討する動きが活発になりました。後継者不在のまま時間だけが経過すれば、黒字企業であっても清算を余儀なくされかねません。そうした状況下でM&Aは、店舗や従業員、事業ノウハウを次世代へ引き継ぐ有力な選択肢として注目されています。

ここからは、M&Aに関する基礎知識を段階的に整理します。まずM&Aとは何かを押さえ、次に関連略語や取引の目的を確認し、歴史的背景を理解したうえで代表的な手法を見ていきましょう。構成を追って読むだけで、計画立案に必要なポイントを一通り把握できるはずです。

M&A関連略語を理解する

M&Aの領域では略語が多用されます。ここでは代表的な三つの略語を整理し、基本的な意味を押さえておきましょう。

MBOは経営陣が自社を買い取る手法

MBO(Management Buyout)は、経営陣が自社株式や事業部門を取得し支配権を得る仕組みです。たとえば上場企業が株式を非公開化するときに採用されるケースがあり、経営者が長期的視点で意思決定しやすくなるといった利点が挙げられます。

LBOは譲渡企業の信用力を活用して資金調達する買収

LBO(Leveraged Buyout)は、譲渡企業自身の信用力を担保に金融機関から資金を調達し、その資金で買収を行う方式です。譲受企業単独では十分な与信が得られない場合でも取引を成立させやすい点が特徴です。

PMIは統合後に効果を最大化する統合プロセス

PMI(Post Merger Integration)は、M&A成立後に経営方針や業務ルールを調整し、シナジーを引き出す統合作業を指します。統合が機能しなければM&Aの成果は限定的になるため、PMIの設計と実行は成功可否を分ける重要ポイントです。

M&Aの主な目的

譲渡企業側の目的は事業の存続と成長加速

譲渡企業がM&Aを選ぶ動機の一つは、長年築いてきた事業を存続させることです。従業員の雇用や取引先との関係を守りながら企業全体を承継できるため、経営者の引退後も事業が続く安心感があります。また、大手グループの傘下に入ることで資本やネットワークを活用し、成長をスピードアップできる点も魅力です。

譲受企業側の目的は新規分野参入と自社強化

一方、譲受企業にとってM&Aは新規事業への迅速な参入手段となります。ゼロからビジネスを立ち上げるよりも時間とコストを抑えられるのが大きな利点です。さらに、専門的なノウハウや優秀な人材を取り込むことで、既存事業を強化・拡大する効果も期待できます。

国内M&Aの歴史

1980年代バブル期は海外企業買収が中心

バブル経済下では、好景気を背景に日本企業が海外のホテルやマンション、映画会社などを相次いで買収しました。当時はクロスボーダー型M&Aが象徴的で、国内同士の取引は今ほど一般的ではありませんでした。

バブル崩壊後は事業再編目的のM&Aが普及

バブル崩壊による景気悪化で業績が伸び悩むなか、企業は不採算事業の整理や資産効率化を目的にM&Aを利用するようになりました。とくに中小企業は後継者問題が顕在化し、社会的課題として取り上げられるようになります。

2000年代のITバブルでは敵対的買収が増加しイメージ悪化

ITバブル期にM&A件数は増加しましたが、相手の合意を得ずに進める敵対的買収も目立ち、世間では負のイメージが先行しました。結果として、M&A全体が必ずしも歓迎されない時代が続きました。

2010年代以降は連携強化と成長戦略が主流

2010年代に入ると、同業の経営統合による業界再編型や、成長戦略型のM&Aが活発化します。企業は連携を深めて新たなビジネスモデルを構築し、M&Aは前向きな経営手段として再評価されるようになりました。

これらの変遷を振り返ると、M&Aは時代ごとに性格を変えながら普及してきたことが分かります。バブル期の海外買収型、ITバブル期の敵対的買収型、そして近年の連携・成長型と、目的や手法は大きく変わりましたが、企業が存続と発展を図るうえでの重要性は一貫しています。

M&Aの主要類型

株式譲渡型は株式50%以上を譲渡し支配権を移転

株式譲渡型M&Aでは、譲受企業が譲渡企業の50%以上の株式、一般的には100%を取得して経営権を得ます。対価は現金が中心で、譲渡企業は事業売却益を資金調達や引退後の生活費に充当できます。

事業譲渡型は一部事業や人材を選択して譲渡

事業譲渡型M&Aは、企業の特定事業やノウハウ、人材など必要な資産のみを譲渡する手法です。譲渡企業は不要事業の整理ができ、譲受企業は即戦力となる事業を獲得して強化を図れます。

吸収合併は一社が存続し他社資産を包括承継

吸収合併は複数社の統合方法で、存続会社が一社に絞られ、他社の資産・権利義務をすべて引き継ぎます。組織が一本化されるため統合効果を早期に得やすいのが特徴です。

新設合併は新会社を設立し対等統合を実現

新設合併では新たに会社を設立し、既存の企業は消滅して新会社へ統合されます。対等な関係での合併が行えるため、敵対的買収のようなネガティブな印象を避けられます。


上記の四つの類型は、目的やリスク、統合の難易度が大きく異なります。株式譲渡型や吸収合併のように支配権が完全に移る形態は迅速な意思決定を期待できますが、組織文化の統合が課題となります。一方、事業譲渡型は対象範囲を限定できるため柔軟性があります。新設合併は対等な立場を尊重できる反面、設立手続に時間がかかる点に留意が必要です。

M&Aのメリット

事業承継問題を解決し企業を存続させる

経営者が高齢化しているにもかかわらず、後継者が見つからずに廃業に追い込まれるケースは少なくありません。M&Aを活用すれば、譲渡企業は取引先や従業員を守りながら事業を未来へと託せます。黒字のままでも清算を迫られるという最悪の事態を回避できることは、企業にとって最大級のメリットです。

成長スピードを高め早期に成果を実現する

譲受企業にとっても、既に事業基盤が整った企業を取り込むことで成長曲線を急速に引き上げられます。設備投資や採用活動に時間をかけるのではなく、M&A完了後すぐにシナジーを追求できるため、経営資源を効率良く活用できます。


M&Aの効果を最大化するには、譲渡企業と譲受企業双方が目的を共有し、適切な価値算定と綿密な交渉を行うことが重要です。メリットはあくまでも計画通りに統合が進んだ場合に実現するものですから、準備段階から専門家に相談し、課題を洗い出しておくことで成功確率を高められます。

M&Aのデメリット

条件に合う相手を探す負担と時間

理想的な相手先が見つからなければ、交渉やデューデリジェンスの段階で時間がかさみます。その結果、譲渡企業は資金面や人材面で追加の負担を抱えるリスクがあります。専門家の助言を受けながら候補を絞り込むことが重要です。

コスト増大により事業継続に影響が及ぶ可能性

交渉の長期化は仲介手数料や諸費用の増加につながります。予定通りにクロージングできなければ資金繰りが厳しくなり、本来守るべき事業にも影響しかねません。適切なスケジュール管理と費用見積もりが不可欠です。


それでもM&Aが経営戦略として選ばれ続けるのは、リスクを上回る成果が期待できるからです。デメリットを把握したうえで対策を講じれば、取引コストや時間を最小化しつつ、双方にとって納得のいく成果を目指すことが可能です。

M&Aの基本的な流れ

M&Aは計画、探索、交渉、統合という四つの段階に大別できます。それぞれの工程で目的と課題を整理しながら進めることが、取引を成功へ導く鍵となります。

計画の策定が成功可否を左右する

最初に取り組むべきは目的の明確化です。なぜ今M&Aなのか、どのような成果を求めるのかを社内で共有し、具体的な目標指標とスケジュールを設定します。そのうえで事前の企業価値算定を行い、希望条件を定量的に整理しておくと後工程がスムーズになります。

支援企業の選定で専門性を確保する

計画を具体化したら、M&Aをサポートしてくれる専門家や仲介会社を選びます。複数社を比較し、業界経験や手数料体系、成功実績を確認しましょう。適切なパートナーを得ることで、情報収集や候補先との調整、契約書作成まで一貫した支援を受けられ、社内負担を軽減できます。

契約合意に向けた交渉は段階的に進む

実際の交渉はトップ面談から始まり、基本合意、デューデリジェンス、最終契約と進みます。基本合意では価格帯と大枠の条件を決め、デューデリジェンスで財務・税務・法務状況を精査します。最終契約締結後にクロージングを行い、株式や事業の譲渡を完了させます。段階ごとに専門家が介在してリスクを洗い出すことで、予期せぬトラブルを回避できます。

譲渡先・譲受先の探し方

理想的な相手を見つけることはM&Aを円滑に進める前提条件です。ここでは代表的な二つの手段を取り上げます。

M&Aプラットフォームで迅速にマッチング

オンラインのM&Aプラットフォームを利用すれば、譲渡情報を匿名で掲示し、全国の候補先と効率的に接触できます。掲載コストが比較的低く、初期段階で市場の反応を探るのに適しています。ただし支援範囲が限定的な場合が多いため、交渉や契約実務に不安がある企業は追加で専門家を活用すると安心です。

M&A仲介会社の専門支援で成約率を高める

仲介会社に依頼すると、弁護士や税理士がチームを組み、候補先探索からクロージングまで総合的にサポートしてくれます。秘密保持契約の締結や情報管理を徹底できる点も強みです。手数料はプラットフォームより高めですが、妥当な条件での成約を重視する場合には検討する価値があります。

国内M&A動向

近年の国内M&A市場は拡大トレンドが続いています。背景を押さえておくことで、今後の取引機会を見極めやすくなります。

取引件数は過去最高水準で推移

レコフデータによれば、2017年の国内取引件数は3,000件を超え、2023年も4,015件と高水準でした。クロスボーダー取引を含めても活発な状況が続いており、市場の厚みが増しています。

人手不足と事業承継ニーズが増加要因

中小企業の後継者不足や生産性向上の必要性が、M&Aを通じた事業譲渡を後押ししています。加えて、労働人口減少に伴う人手不足が、企業間連携による規模の経済追求を促しています。

今後も成長戦略型M&Aが加速見込み

国内市場が成熟するなかで、企業は新規分野参入や海外展開を目的にM&Aを積極活用すると見込まれます。特にITや医療、環境関連など成長産業を中心に、成長戦略型の案件が増加すると予想されます。

M&A後の統合(PMI)の進め方

PMIは契約締結と同じくらい重要な工程です。統合計画を怠ると、期待していたシナジーが得られず、従業員の離職や取引先離れが発生する恐れがあります。ここでは具体的なアクションを整理します。

経営方針を共有し組織文化の衝突を防ぐ

買収直後は、譲渡企業と譲受企業で組織文化や意思決定プロセスが大きく異なる場合があります。最初に行うべきは、ミッション・ビジョン・バリューを両社で共有し、統合後の方向性を示すことです。経営トップが合同説明会やタウンホールミーティングを開催し、理念と具体的目標を語ることで、従業員は将来像を描きやすくなります。

業務ルールとITシステムを早期に統一する

バックオフィス業務が二重に存在すると非効率が生じます。会計基準、稟議フロー、販売管理などの日常業務を順序立てて統一し、ERPや会計ソフトの連携も早期に図りましょう。ルール統一は従業員の混乱を抑え、早期シナジー創出につながります。

人材定着とモチベーション維持を図る

優秀な人材が離脱すれば買収の価値は半減します。職位や報酬体系を明確に示し、新たなキャリアパスを提示することで安心感を与えます。譲渡企業の従業員が持つ顧客ネットワークやノウハウを尊重し、成果を評価する仕組みを整えることが重要です。

よくある課題と解決策

M&Aの実務では、情報開示の不一致や価格交渉の行き詰まりなど、さまざまな課題が表面化します。

デューデリジェンスで潜在リスクを見逃さない

デューデリジェンスは財務・税務・法務の三方面で行うのが一般的です。特に簿外債務や訴訟リスクの有無は早期に把握しておく必要があります。専門家が帳簿や契約書を精査し、問題が見つかった場合は価格調整や表明保証保険の活用を検討しましょう。

バリュエーション手法の違いが価格交渉を左右する

同じ企業でも算定手法によって評価額が大きく変動します。譲渡企業はディスカウントされ過ぎないよう、DCF法や類似企業比較法など複数指標でプレミアムを主張します。譲受企業は将来キャッシュフローの確実性に注目し、リスクを折り込んだ価格を提示することで交渉の妥当性を保ちます。

秘密保持契約で情報漏えいを防ぐ

交渉段階で機密情報が漏れると、従業員や取引先の不安を煽るだけでなく、競合に戦略を知られてしまう恐れがあります。NDA(秘密保持契約)を締結し、資料閲覧権限を限定することで情報ガバナンスを徹底します。

M&Aの基本的な流れ(詳細版)

前節で概要を示しましたが、具体的には以下のようなタイムラインで進むケースが一般的です。試算表や株主名簿など初期資料を準備する段階からクロージング後の統合フェーズまで、半年から1年程度を要することが多いとされています。


事前準備(1〜2か月)

目的設定と経営陣合意

財務資料の整備と簡易バリュエーション

秘密保持契約のドラフト作成


ノンネームシート配布・候補先探索(1〜2か月)

仲介会社による候補リスト作成

匿名情報(ノンネーム)で打診

相手の興味度合いを確認


トップ面談・意向表明書受領(1か月)

両社トップによる面談

事業ビジョンとシナジー確認

意向表明書(LOI)の提出


基本合意契約締結(1か月)

主要条件(価格帯、取得比率)合意

排他的交渉期間の設定


デューデリジェンス(2〜3か月)

財務・税務・法務・人事の詳細調査

改善すべき事項を整理し統合計画に反映


最終契約締結(1か月)

表明保証や補償条項の調整

資金調達方法と入金スケジュール確定


クロージング・対価決済(0.5か月)

株式譲渡実行/事業譲渡実行

対価支払いと登記変更


PMI実行(3か月〜)

組織再編とシステム統合

KPIモニタリングと改善施策

今後の展望と備えるべきアクション

国内M&A市場が今後も拡大するなか、各企業はチャンスを逃さずリスクを抑えるための体制整備が求められます。譲渡企業は早期から経営情報を整備し、選択肢を広げることが重要です。譲受企業はポートフォリオ戦略を描き、どのセクター・規模の案件に注力するか方針を明確にしておくと、機会が来たとき迅速に動けます。

PMIで成果を測定する指標例

PMIの進捗は数値で把握しないと改善策が打てません。代表的な指標として、統合後12か月以内の売上成長率、EBITDAマージン改善幅、重複コスト削減額、主要顧客維持率、離職率などがあります。これらを月次でモニタリングし、未達の場合は原因を特定してアクションを修正するPDCAサイクルを回します。指標を公開して透明性を保つことで、従業員の納得感と統合スピードを高める効果も期待できます。


最後に、関係者全員が統合による価値創出を実感できるよう、小さな成功事例を社内外に共有し、信頼とモチベーションを醸成する取り組みも大切です。これにより一体感が一層高まります。

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まとめ

M&Aは後継者問題の解消から成長戦略の実行まで、幅広い経営課題を同時に解決できる手段です。しかしメリットを享受するには、入念な準備と専門家のサポート、そしてPMIに至るまで一貫したマネジメントが不可欠です。市場が活況を呈する今こそ、自社の将来像を見据えてM&Aの活用を検討する時期と言えるでしょう。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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