投資ファンドへのM&Aは企業に多くの機会をもたらします。本記事では、投資ファンドの種類や役割、M&Aのメリット・デメリット、注意点を詳しく解説。事業承継や成長戦略にお悩みの経営者の方々にとって有益な情報をお届けします。
目次
▶目次ページ:第三者承継とは(ファンドへの譲渡)
投資ファンドは、M&Aの世界で重要な役割を果たす存在です。ここでは、投資ファンドの基本的な仕組みと、M&Aにおける具体的な機能について詳しく解説します。
投資ファンドとは、複数の投資家から資金を集め、それを専門家が運用して利益を得る仕組みです。ファンドの種類は大きく分けて、誰でも購入できる「公募」と、特定の投資家のみが参加できる「私募」の2つがあります。
公募型ファンドの代表例として、一般的によく知られているのが投資信託です。一方、M&Aの分野で活躍するのは主に私募型のファンドです。これらのファンドは、特定の投資家から資金を集め、未上場企業や事業再生が必要な企業などに投資を行います。
投資ファンドの運用は、あらかじめ定められた方針に基づいて行われます。例えば、特定の業種や地域に特化したファンド、ベンチャー企業に投資するファンドなど、様々な特徴を持つファンドが存在します。
M&Aにおいて、投資ファンドは非常に重要な役割を果たします。主な機能としては以下のようなものがあります。
1.資金提供:
投資ファンドは、M&Aを実行するための資金を提供します。これにより、買収側企業は大規模なM&Aも実現可能にな
ります。
2.経営支援:
多くの投資ファンドは、単に資金を提供するだけでなく、投資先企業の経営にも積極的に関与します。経営のプロフェ
ッショナルが、企業価値を高めるための戦略立案や実行をサポートします。
3.企業価値向上:
投資ファンドの目的は、投資先企業の価値を高め、最終的に株式を売却して利益を得ることです。そのため、企業の
成長戦略や経営効率化に注力します。
4.出口戦略の提供:
投資ファンドは、IPO(新規株式公開)や他企業への売却など、投資回収(エグジット)の方法を計画し実行します。
これは、オーナー企業の事業承継問題の解決策としても機能します。
5.業界再編の促進:
投資ファンドは、同業種の複数企業に投資し、それらを統合することで業界の再編を促進する役割も果たします。
これにより、業界全体の競争力向上にも寄与します。
M&Aにおいて特に活躍するのが、未上場株式に投資するプライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)です。PEファンドは、中堅・中小企業への投資を通じて、日本経済の活性化にも貢献しています。
投資ファンドは、その専門性と資金力を活かして、M&Aの世界で重要な役割を果たしています。企業の成長や事業承継、業界再編など、様々な局面で投資ファンドの機能が活用されているのです。
M&Aの場面では、様々なタイプの投資ファンドが活用されます。ここでは、代表的な5つのファンドタイプについて、その特徴や役割を詳しく解説します。
ベンチャーキャピタル(VC)は、主に新興のベンチャー企業に投資するファンドです。以下がその主な特徴です。
1.投資対象
•創業間もない企業
•高い成長可能性を持つ企業
•革新的な技術やビジネスモデルを持つ企業
2.投資段階
•シード期(事業アイデアの段階)
•アーリー期(事業開始直後)
•エクスパンション期(事業拡大期)
3.支援内容
•資金提供
•経営アドバイス
•人材紹介
•ビジネスパートナーの紹介
4.投資回収方法
•IPO(新規株式公開)
•M&A(他企業への売却)
VCは、リスクは高いものの大きなリターンが期待できる投資を行います。ベンチャー企業の成長を支援し、新しい産業の創出に貢献する役割を果たしています。
バイアウトファンドは、既存の企業を買収し、経営改善を通じて企業価値を高めることを目的としたファンドです。
1.投資対象
•安定した収益を上げている成熟企業
•経営改善の余地がある企業
•事業承継問題を抱える企業
2.投資手法
•LBO(レバレッジド・バイアウト):借入金を活用した買収
•MBO(マネジメント・バイアウト):経営陣による自社買収の支援
•事業部門の切り出し(カーブアウト)
3.バリューアップ戦略
•コスト削減
•経営効率化
•新規事業展開
•M&Aによる事業拡大
4.投資回収方法
•戦略的買い手への売却
•他のファンドへの売却
•IPO(新規株式公開)
バイアウトファンドは、企業の潜在的な価値を引き出し、短期間で大きな成長を実現することを目指します。
企業再生ファンドは、経営不振に陥った企業を立て直すことを目的としたファンドです。
1.投資対象
•財務状況が悪化している企業
•過剰債務を抱える企業
•事業に将来性はあるが一時的に困難な状況にある企業
2.再生手法
•債務の圧縮
•不採算事業の整理
•経営体制の刷新
•新規事業の立ち上げ
3.支援内容
•資金提供
•経営人材の派遣
•再生計画の策定と実行支援
•金融機関との交渉
4.投資回収方法
•事業の建て直し後の売却
•スポンサー企業への譲渡
企業再生ファンドは、企業を破綻から救い、雇用を守るとともに、地域経済の安定にも貢献する重要な役割を果たしています。
MBO(マネジメント・バイアウト)ファンドは、企業の経営陣による自社買収を支援するファンドです。
1.主な目的
•経営陣の独立支援
•親会社からの事業分離の支援
•オーナーの事業承継問題の解決
2.支援内容
•買収資金の提供
•経営戦略の策定支援
•ガバナンス体制の構築支援
3.メリット
•従業員の雇用維持
•既存の事業継続性の確保
•経営の自由度向上
4.投資回収方法
•IPO(新規株式公開)
•戦略的買い手への売却
MBOファンドは、「現代版のれん分け」とも呼ばれ、円滑な事業承継や経営の独立性確保に貢献しています。
ディストレスファンドは、経営危機に陥った企業や不良債権に投資するファンドです。
1.投資対象
•破綻・倒産の危機にある企業
•不良債権
•大幅に割り引かれた企業の株式や債券
2.投資戦略
•企業価値の大幅な向上を目指す
•債権者として企業再建に関与
•資産の売却や事業の再構築を通じた価値実現
3.リスクと期待リターン
•高リスク・高リターンの投資
•成功すれば大きな利益が得られる可能性
•失敗すれば投資額の大部分を失うリスクも
4.投資回収方法
•企業再建後の株式売却
•債権回収
•資産の売却
ディストレスファンドは、他の投資家が避ける困難な状況にある企業に投資することで、独自の投資機会を見出しています。
これらの5つのファンドタイプは、それぞれ異なる特徴と役割を持っています。M&Aに関わる企業は、自社の状況や目的に合わせて適切なファンドを選択することが重要です。
企業が投資ファンドへM&A(譲渡)を行う際には、様々なメリットがあります。ここでは、主要な5つのメリットについて詳しく解説します。
事業承継は多くの中小企業が直面する重要な課題です。投資ファンドへのM&Aは、この問題に対する有効な解決策となり得ます。
1.後継者不在の解消:
帝国データバンクの2022年の調査によると、全国・全業種約27万社の後継者不在率は57.2%に達しています。
投資ファンドへのM&Aは、適切な後継者が見つからない企業にとって、事業の継続性を確保する手段となります。
2.専門的な経営能力の導入:
投資ファンドは経営のプロフェッショナルを擁しているため、新たな経営陣や経営の専門家を迎え入れることができま
す。これにより、企業のさらなる成長や発展が期待できます。
3.従業員の雇用維持:
多くの場合、投資ファンドは既存の従業員の雇用を維持します。これにより、事業承継に伴う人材流出のリスクを軽減
できます。
4.スムーズな経営権の移転:
オーナー経営者が引退を考えている場合、投資ファンドへのM&Aは、経営権をスムーズに移転する手段となります。
5.事業の継続性確保:
投資ファンドは通常、企業価値の向上を目指すため、既存の事業を継続しながら成長戦略を実行します。これにより、
創業者の想いを引き継ぎつつ、事業を発展させることができます。
投資ファンドへのM&Aは、企業の財務基盤を強化し、信用力を高める効果があります。
1.大規模な資金調達:
投資ファンドは豊富な資金力を持っているため、企業は大規模な資金調達が可能になります。これにより、設備投資や
新規事業展開などの成長戦略を実行しやすくなります。
2.財務基盤の安定化:
投資ファンドからの資金注入により、企業の自己資本比率が向上し、財務基盤が安定します。これは、金融機関からの
追加融資を受けやすくする効果もあります。
3.信用力の向上:
投資ファンドからの出資を受けたという実績は、取引先や金融機関からの信用力向上につながります。これにより、新
規取引の開拓や有利な条件での取引が可能になる場合があります。
4.企業価値の向上:
投資ファンドの支援により、財務面だけでなく経営面での改善も期待できます。これらの総合的な効果により、企業価
値の向上が見込めます。
5.無形資産の評価:
投資ファンドは、企業の持つ技術やノウハウ、顧客基盤などの無形資産も適切に評価します。これにより、従来は評価
されにくかった企業の潜在的価値が顕在化する可能性があります。
投資ファンドとのM&Aは、企業にとって事業拡大の機会となるだけでなく、高度な経営ノウハウを獲得するチャンスでもあります。
1.事業拡大のサポート:
投資ファンドは、投資先企業の成長を重視します。そのため、新規事業の立ち上げや、M&Aによる事業拡大など、積極
的な成長戦略の実行をサポートします。
2.販路拡大:
投資ファンドの持つネットワークを活用することで、新たな販路の開拓や取引先の拡大が可能になります。
特に海外展開を目指す企業にとっては、グローバルなネットワークを持つファンドとの提携が有効です。
3.人材採用支援:
成長に必要な幹部人材や専門人材の採用に関しても、投資ファンドのネットワークや知見を活用できます。
これにより、自社だけでは難しい優秀な人材の確保が可能になります。
4.経営ノウハウの移転:
投資ファンドは多くの企業への投資経験を持ち、様々な業界や企業規模での成功事例を蓄積しています。
このような豊富な経験に基づく経営ノウハウを学ぶことができます。
5.組織管理能力の向上:
投資ファンドは通常、組織的・計画的な経営を重視します。これにより、内部管理体制の強化や
効率的な組織運営のノウハウを習得することができます。
投資ファンドへのM&Aは、企業の独立性や中立性を維持しやすいというメリットがあります。
1.ブランドイメージの維持:
事業会社へのM&Aとは異なり、投資ファンドへの譲渡では既存のブランドイメージを維持しやすいです。これは顧客
や取引先との関係を大きく変えることなく事業を継続できる可能性が高いことを意味します。
2.経営の自由度:
多くの投資ファンドは、日々の業務運営には深く関与せず、大きな方向性の決定や重要な経営判断に関与します。
これにより、既存の経営陣は一定の自由度を持って経営を継続できます。
3.競合との関係維持:
事業会社への譲渡とは異なり、直接的な競合関係にある企業の傘下に入ることを避けられます。これにより、既存の
取引関係や業界内での立場を維持しやすくなります。
4.柔軟な出口戦略:
投資ファンドは通常、一定期間後の出口(EXIT)を前提としています。これにより、将来的に異なる戦略的パートナー
を選択する可能性が残されます。
5.政治的中立性:
特定の企業グループに属さないことで、政治的な中立性を保ちやすくなります。これは、公共事業や国際的なビジネス
に関わる企業にとって重要な要素となる場合があります。
投資ファンドへのM&Aは、経営危機に直面している企業にとって、再生する機会となる可能性があります。
1.緊急の資金注入:
経営危機に陥った企業にとって、投資ファンドからの資金注入は事業継続の生命線となる可能性があります。これによ
り、急場をしのぎ、再建のための時間を確保できます。
2.債務整理のサポート:
多くの投資ファンド、特に企業再生ファンドは、債務整理のノウハウを持っています。過剰債務に苦しむ企業の財務体
質改善をサポートします。
3.事業再構築の支援:
投資ファンドは、不採算事業の整理や新規事業の立ち上げなど、事業ポートフォリオの再構築を支援します。これによ
り、企業の収益構造を改善し、持続可能な成長軌道に乗せることを目指すことが可能となります。
4.経営管理体制の刷新:
経営危機に陥った要因の一つが経営管理体制の不備である場合、投資ファンドの支援により、適切なガバナンス体制や
内部統制システムを構築することができます。
5.信用回復のチャンス:
投資ファンドの支援を受けることで、取引先や金融機関からの信用回復につながる可能性があります。これは、事業再
生を進める上で極めて重要な要素となります。
以上のように、投資ファンドへのM&A(譲渡)には多くのメリットがあります。ただし、これらのメリットを最大限に活かすためには、自社の状況や目的に合った適切なファンドを選択することが重要です。また、ファンドとの交渉や契約内容の詳細な検討も必要となるため、専門家のアドバイスを受けながら慎重に進めることが推奨されます。
投資ファンドへのM&A(譲渡)には多くのメリットがある一方で、考慮すべきデメリットも存在します。ここでは、主要な3つのデメリットについて詳しく解説します。
投資ファンドの主な目的は投資収益の最大化です。そのため、企業価値向上のための施策として、人員削減や事業の縮小・売却が行われる可能性があります。
1.リストラの可能性:
投資ファンドは、企業の収益性を高めるために人件費の削減を行うことがあります。これは、従業員の解雇や早期退職
の勧奨といった形で現れる可能性があります。
2.事業の見直し:
投資ファンドは、企業の事業ポートフォリオを見直し、収益性の低い事業や将来性の乏しい事業を縮小または売却する
傾向があります。これにより、長年続けてきた事業が廃止される可能性があります。
3.コスト削減の徹底:
投資ファンドは短期的な収益改善を重視する傾向があるため、過度なコスト削減が行われる可能性があります。これ
は、長期的な成長に必要な投資が抑制されるリスクを伴います。
4.従業員のモチベーション低下:
リストラや事業縮小の可能性が高まると、従業員の間に不安が広がり、モチベーションの低下や優秀な人材の流出につ
ながる可能性があります。
5.地域社会への影響:
特に地方の中核企業の場合、大規模な人員削減や事業縮小は地域経済に大きな影響を与える可能性があります。
投資ファンドによるM&Aは、企業文化に大きな変化をもたらす可能性があります。これは従業員の不満や離職につながるリスクがあります。
1.経営スタイルの変化:
投資ファンドは通常、より数字重視の経営スタイルを導入します。これまでの企業文化や価値観と大きく異なる場合、
従業員の戸惑いや反発を招く可能性があります。
2.コミュニケーションの問題:
新しい経営陣と従業員の間でコミュニケーションギャップが生じる可能性があります。これは、相互理解の欠如や信頼
関係の構築の障害となる可能性があります。
3.評価制度の変更:
投資ファンドは往々にして、より成果主義的な評価制度を導入します。これまでの年功序列的な制度に慣れた従業員に
とっては、大きなストレスとなる可能性があります。
4.意思決定プロセスの変化:
投資ファンドの関与により、意思決定プロセスが変化する可能性があります。これまで現場に任されていた判断が本社
や投資ファンドの承認を必要とするようになるなど、従業員の自律性が制限されると感じる可能性があります。
5.企業理念やビジョンの変更:
投資ファンドの介入により、企業の理念やビジョンが変更される可能性があります。長年その企業理念に共感して働い
てきた従業員にとっては、大きな衝撃となる可能性があります。
これらの変化に適応できない従業員が離職を選択する可能性があり、結果として貴重な人材や知識・ノウハウの流出につながるリスクがあります。
投資ファンドへのM&Aでは、事業会社同士のM&Aと比較して、事業シナジーの創出が難しい場合があります。
1.事業知識の不足:
投資ファンドは多くの場合、特定の事業に関する深い知識や経験を持っていません。そのため、事業の細部に踏み込ん
だ改善や革新を行うことが難しいケースがあります。
2.短期的視点の弊害:
投資ファンドは通常、3〜5年程度の投資期間を想定しています。この比較的短い期間で成果を出すことを重視するた
め、長期的な視点での事業シナジー創出が難しい場合があります。
3.事業シナジーの難しさ:
事業会社同士のM&Aであれば、両社の技術やノウハウのシナジー効果が期待できますが、投資ファンドの場合はその
ような効果を期待しにくいです。
4.販路拡大の限界:
事業会社とのM&Aであれば、相手先の販路を活用した事業拡大が期待できますが、投資ファンドの場合はそのような
シナジーは限定的です。
5.業界再編の難しさ:
投資ファンドは通常、特定の業界で複数の企業を買収・統合するような大規模な業界再編を行うことは少ないです。
そのため、業界全体を見据えた戦略的なシナジー創出が難しい場合があります。
しかしながら、これらのデメリットは必ずしもすべての場合に当てはまるわけではありません。実際には、投資ファンドの種類や特性、対象企業の状況、M&Aの目的などによって、その影響度は大きく異なります。例えば、同じ業界で複数の企業を買収しているファンドであれば、業界知識を活かしたシナジー創出が可能な場合もあります。
また、近年では長期的な視点で投資を行うファンドも増えており、必ずしも短期的な収益のみを追求するわけではありません。さらに、特定の業界に特化したファンドも存在し、そういったファンドであれば深く事業を理解していることも多いです。
投資ファンドへのM&Aを検討する際は、これらのデメリットを十分に理解した上で、自社の状況や目的に最も適したファンドを選択することが重要です。また、M&Aの交渉段階で、これらのリスクを最小限に抑えるための条件交渉を行うことも有効な戦略となります。
投資ファンドを活用したM&Aを成功させるためには、いくつかの重要な注意点があります。ここでは、特に重要な2つの項目について詳しく解説します。
投資ファンドを選択する際には、そのファンドの過去の実績や成長手法を詳細に調査することが極めて重要です。
1.投資実績の確認:
•過去の投資案件数と成功率
•投資先企業の成長率や業績改善の具体的な数値
•投資期間と投資回収(エグジット)の方法
これらの情報を分析することで、ファンドの投資スタイルや能力を把握することができます。
2.専門分野の確認:
投資ファンドにはそれぞれ得意とする分野があります。例えば、ベンチャー企業、中小企業、大企業など、企業の成長
ステージによって適したファンドが異なります。自社の状況に最も適したファンドを選択することが重要です。
3.成長手法の調査:
•オーガニックグロース(既存事業の拡大)重視か、M&A重視か
•コスト削減重視か、売上拡大重視か
•経営陣の刷新を行うか、既存経営陣を活用するか
これらの方針は、M&A後の自社の方向性に大きく影響します。自社の望む成長戦略と一致しているかを確認すること
が重要です。
4.投資期間の確認:
ファンドの想定投資期間を確認し、自社の長期的なビジョンと合致しているかを検討します。短期的な収益改善のみを
目指すファンドか、長期的な成長を支援するファンドかを見極めることが重要です。
5.支援体制の確認:
•経営支援の具体的な内容(戦略立案、財務管理、人材紹介など)
•ファンドからの人材派遣の有無とその役割
•投資先企業とのコミュニケーション頻度や方法
これらの情報から、ファンドが単なる資金提供者なのか、積極的な経営支援者なのかを判断することができます。
投資ファンドとのM&Aを検討する際には、ファンド側に適切な承継者候補がいるか、十分な事業の知識を持っているかを確認することが重要です。
1.承継者候補の確認:
•ファンドが想定している承継者(新CEOなど)の経歴や実績
•承継者候補の業界経験や専門知識
•承継者候補と既存経営陣とのコミュニケーション能力
適切な承継者の存在は、M&A後の円滑な経営移行と持続的な成長に不可欠です。
2.業界知識の深さ:
•ファンドの投資担当者や経営支援チームの業界経験
•同業他社への投資実績
•業界特有の課題やトレンドへの理解度
十分な業界知識を持つファンドであれば、より的確な経営判断や戦略立案が期待できます。
3.技術・ノウハウの理解度:
•自社の主要技術やビジネスモデルに対する理解度
•技術開発や知的財産戦略への取り組み姿勢
•イノベーション創出に対する支援体制
特に技術系企業の場合、ファンド側の技術への理解度は極めて重要です。
4.顧客基盤の維持・拡大策:
•既存顧客との関係維持に対する方針
•新規顧客獲得のための戦略
•顧客満足度向上のための取り組み
顧客基盤は企業価値の根幹であり、これを維持・拡大する能力がファンドにあるかを確認することが重要です。
5.人材育成・組織開発への取り組み:
•人材育成プログラムの有無と内容
•組織構造の最適化に関する知見
•企業文化の維持・発展に対する考え方
長期的な企業価値向上には、人材と組織の継続的な発展が不可欠です。
6.グローバル展開の知見:
•海外市場に関する知識と経験
•クロスボーダーM&Aの実績
•グローバル人材の活用方針
国際展開を視野に入れている企業にとっては、ファンドのグローバルな知見が重要になります。
これらの項目を詳細に確認し、評価することで、自社にとって最適なファンドを選択する可能性が高まります。また、これらの点について十分な情報が得られない場合は、ファンド側に積極的に質問し、必要な情報を収集することが重要です。
適切なファンドを選択し、綿密な計画を立てることで、投資ファンドとのM&Aを成功に導き、企業価値の向上を実現することができるでしょう。
投資ファンドとのM&Aは、適切に実行されれば企業に大きな成長をもたらす可能性があります。ここでは、実際に成功を収めた3つの事例について詳しく解説します。
1.背景:
2020年、東京に本社を置く株式会社エムアウトの子会社であるギノ株式会社は、J-STAR株式会社とMBO支援契約を
締結しました。J-STARは2006年に設立された独立系プライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)で、主に
中小企業への投資を行っています。
2.投資対象:
ギノ株式会社が運営する「paiza」は、ITエンジニアの求職や学習を支援するプラットフォームです。IT人材の需要が
高まる中、高い成長可能性を秘めた事業でした。
3.J-STARの支援内容:
•経営戦略の策定支援
•財務管理体制の強化
•マーケティング戦略の改善
•人材採用・育成支援
4.成果:
•ユーザー数の大幅増加
•サービスラインナップの拡充
•売上高の成長加速
•業界内でのブランド力向上
5.成功要因:
•J-STARのIT業界に関する深い知見
•既存経営陣との良好な関係構築
•成長市場を捉えた適切なタイミングでの投資
•長期的視点での成長支援
この事例は、投資ファンドが成長可能性の高い事業を見出し、適切な支援を行うことで大きな成果を上げられることを
示しています。
1.背景:
アートジャパン株式会社は、ゴムパッドの製造・販売を行う企業でした。代表取締役の交代に伴い、株式の第三者への
譲渡(M&A)を検討していました。
2.投資ファンドの選択理由:
アートジャパン社は「経営のプロであるPEファンドと組めば、改革が実現できるのではないか」と考え、株式会社日
本投資ファンドとのM&Aを選択しました。
3.日本投資ファンドの支援内容:
•ファンド担当者の管理本部長就任
•社内コミュニケーションの活性化
•新製品開発の推進
•経営管理体制の強化
4.成果:
•複数の新製品開発に成功
•前年比増の売上推移を継続
•従業員のモチベーション向上
•経営の透明性向上
5.成功要因:
•ファンドによる積極的な経営参画
•既存事業の強みを活かした新製品開発
•従業員との良好な関係構築
•数値に基づく経営管理の徹底
この事例は、投資ファンドが単なる資金提供者ではなく、積極的に経営に参画することで、中小企業の成長を加速させられることを示しています。
1.背景:
金城重機株式会社は、創業経営者のリタイアに伴う事業承継問題に直面していました。
2.投資ファンドの選択:
PEファンドの日本協創投資株式会社が、後継社長を選定するM&Aを実施しました。
3.日本協創投資の支援内容:
•適切な後継社長の選定と育成
•管理体制の見直し
•数値に基づく目標管理の導入
•従業員の自主性を促す仕組みづくり
4.成果:
•スムーズな経営権の移転
•予算達成時の賞与還元による従業員モチベーション向上
•自主的な業務改善の増加
•経営の透明性と効率性の向上
5.成功要因:
•ファンドによる適切な後継者の選定
•従業員との丁寧なコミュニケーション
•成果に基づく明確な評価・報酬制度の導入
•既存の企業文化を尊重しつつ、新しい経営手法の導入
この事例は、投資ファンドが事業承継問題を抱える中小企業に対して、適切な後継者の選定と円滑な経営移行を支援できることを示しています。
これらの成功事例から、投資ファンドとのM&Aが成功するための共通点として以下が挙げられます。
1.企業の状況と課題に適したファンドの選択
2.ファンドと既存経営陣・従業員との良好な関係構築
3.既存の強みを活かしつつ、新たな成長戦略の実行
4.透明性の高い経営と数値に基づく管理の徹底
5.従業員のモチベーション向上につながる施策の実施
これらの点に注意を払いながらM&Aを進めることで、投資ファンドとの提携を通じて大きな成長を実現できる可能性が高まります。
投資ファンドへのM&A(譲渡)は、企業にとって大きな転換点となる重要な意思決定です。適切に実行されれば、事業承継問題の解決、資金調達、経営ノウハウの獲得など、多くのメリットをもたらす可能性があります。一方で、人員削減や企業文化の変化といったリスクも存在します。成功のカギは、自社の状況や目的に最も適したファンドを選択し、綿密な計画を立てることです。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画