後継者を確保するための中小企業事業承継M&Aのポイント

後継者不足に悩む中小企業経営者へ向け、事業承継を成功に導く具体的な方法とポイントを詳しく解説します。後継者探しの流れ、M&Aの活用、税務対策など、専門家と連携して最適な承継を実現するための情報を分かりやすくまとめました。

目次:

  1. 後継者不足問題の根本原因と解決策
  2. 後継者不足改善の最新動向
  3. M&Aを用いた効果的な事業承継の進め方
  4. 事業承継におけるM&Aの長所と短所
  5. M&Aを活用した成功例と失敗例
  6. 後継者を探す具体的な方法と専門家選定
  7. 後継者育成とマッチングの要点
  8. 事業承継に伴う法的手続と税務対策
  9. 会社価値を高めるポイント
  10. まとめ

後継者不足問題の根本原因と解決策

中小企業の経営者にとって、後継者不足は事業継続を脅かす大きな悩みです。特に高齢化が進む日本では、社長の平均年齢が年々上昇しており、引退時期を迎えても適切な後継者が見つからないまま事業承継を先送りにしているケースが目立ちます。こうした状況が長引けば、企業の成長機会を逃すだけでなく、やむを得ず廃業に追い込まれるリスクも高まるでしょう。


しかし、後継者不足問題は企業が早めに対策を講じることで、ある程度は解決へ導くことができます。経営者が引退を考える3~5年前から計画的に次の世代への橋渡しを始めれば、専門家の支援やマッチングサービス、あるいはM&Aの活用など、多様な選択肢を検討する時間的余裕が生まれます。


また、後継者候補に対しては、経営者自身が率先して経営ノウハウを伝えることが重要です。特に社内から後継者を育てる場合は、経営理念や組織の文化を理解した上でリーダーシップを発揮できる人材を、段階的に教育・登用していくことが求められます。一方で社内に適任者がいない場合は、外部から適切な人材を招き入れる方法も視野に入れましょう。

親族内に後継者がいない場合の選択肢

これまで中小企業の事業承継は、親族内の後継者を指名することが一般的とされてきました。しかし、近年は親族間での引継ぎが難しく、外部の人材を活用したり、M&Aを通じて事業を承継するケースも増えています。

従業員承継

長年会社を支えてきた従業員の中から候補者を選ぶ

社外からの招へい

専門家のネットワークや人材紹介サービスを使い、新しいリーダーを探す

M&Aによる承継

他社に経営権を譲り、現経営者の想いを引き継いでもらう


経営者の高齢化と事業承継のタイミング

後継者選定を先延ばしにしてしまう主な理由として、経営者自身が「まだ動かなくても大丈夫」と考えてしまう傾向が挙げられます。しかし、実際には事業承継の準備にはかなりの時間が必要です。特に後継者に十分な実務経験やリーダーシップを身につけてもらうには、早期からの計画的な育成が欠かせません。

「いつかはやらなければならない」という意識だけでなく、「今から少しずつ備えておこう」という心構えが大切です。こうした意識改革が進めば、後継者不足の解消や、企業価値向上に向けた社内体制の整備を前向きに推進できます。

後継者不足改善の最新動向

近年、後継者不足は全国的に深刻な問題として取り上げられてきました。しかし一部調査によると、後継者不在率は改善傾向にあるとも言われています。例えば、2023年の調査で全国の後継者不在率が約53.9%にまで低下しているとのデータが発表されています。

一方で、依然として半数以上の企業が後継者不在の課題を抱えているのも事実です。社長の平均年齢が上昇し続ける中、抜本的な解決策を見つけていない企業も多く、早急な対策が求められます。

こうした中で注目されているのが、外部の専門家やマッチングサービスの活用です。外部サポートを受けることで、親族内や社内に後継者がいない場合でも、企業の将来を託せる適切な人材と出会える可能性が高まります。

後継者を探す際の母数確保

社外から後継者を募集しようとするとき、最初の壁となるのが候補者の母数確保です。一般的に経営者個人の人脈だけでは限界があり、十分な数の応募やマッチングが期待できないことが多いでしょう。

そこで、多くの企業が事業承継の仲介業者やマッチングサイト、あるいは公的機関などを活用しています。特に事業承継やM&Aに特化した仲介業者は、豊富な成約事例とネットワークを持ち、個々の企業のニーズに合った候補者を探し出す支援を得意としています。

専門家や公的支援を活用するメリット

後継者探しを専門家に依頼する最大のメリットは、幅広い情報網を活用できることです。加えて、譲渡企業と譲受企業との間に入る仲介者がいることで、条件交渉や企業価値の説明がスムーズに進みやすくなります。

公的機関である「事業承継・引継ぎ支援センター」では、無料相談に対応している点も魅力です。自力で後継者を見つけるのが難しい場合や、まずは専門家に話を聞いてみたいというときに、気軽に利用できます。

M&Aを用いた効果的な事業承継の進め方

会社内外に後継者となる人材がいない場合、M&Aは非常に有効な承継手段です。M&Aを活用すれば、会社を引き継いでくれる企業や個人を外部から見つけ出せるほか、譲受企業が持つ経営資源やノウハウを活用して事業を成長させるチャンスも得られます。

M&A基本計画の立案

M&Aを成功させるためには、まず自社の経営状況と譲渡の目的を明確にする必要があります。経営者が「どの時点で引退するのか」「会社をどのように成長させてほしいのか」といったビジョンを固め、その上で専門家と協力して基本計画を立てましょう。

目的の明確化

経営者の引退時期や事業の将来像を整理

自社の分析

財務状況、強み・弱みの把握

候補先の要件設定

譲受企業に期待する業種や規模、経営方針など


マッチングと交渉の進め方

M&A仲介会社などの専門家が、譲受先になり得る企業をリストアップし、条件面を擦り合わせていきます。譲渡価格の目安や、従業員の雇用維持、経営方針の継続など、譲渡企業が重視するポイントを明確に提示すると、相手企業とのミスマッチを減らすことができます。

交渉段階では、将来のビジョンや経営理念の共有がとても大切です。トップ同士のコミュニケーションを密に行い、「売り買い」だけの関係に終わらないよう十分に意見交換を重ねることで、統合後のスムーズな運営が期待できます。

事業承継におけるM&Aの長所と短所

M&Aには、事業承継手段としての明確なメリットとリスクの両方があります。自社の状況や経営方針と照らし合わせながら、慎重に判断することが肝要です。

M&Aの長所

承継先の選択肢拡大

親族や従業員以外も含め、多角的にパートナーを探せる

経営資源の強化

譲受企業が持つ資金力、人材、ノウハウなどを取り入れられる

急速な事業拡大

合併後のシナジー効果によって売上向上や市場拡大を狙いやすい


M&Aの短所

企業文化の違い

組織体制や風土が合わず、従業員のモチベーション低下を引き起こす可能性がある

社内の不安感

M&Aによって雇用形態や役職が変わる懸念から、混乱が生じる場合がある

費用負担

仲介会社への報酬や専門家費用が必要になるため、資金計画が欠かせない

後継者を探す具体的な方法と専門家選定

後継者を外部から迎える際に最初に考えるべきことは、「信頼できるサポート役をどう選ぶか」です。事業承継を進めるためには、自社の経営状況や目標を正しく理解した上で、最適な後継者候補を見つけるための情報網や経験を持つ専門家の支援が欠かせません。特に以下のような選択肢を比較検討すると、候補者の母数を拡大できるだけでなく、手続面や交渉面での不安を大きく軽減できます。


事業承継専門の仲介業者

事業承継やM&Aに特化した仲介業者は、長年の仲介実績や幅広いネットワークを活用し、譲渡企業と譲受企業の最適なマッチングをサポートしてくれます。担当者が企業経営に関する深い知識を持っていれば、交渉時に生じる細かな疑問点にも的確に対処してくれるでしょう。

  • メリット:専門知識が豊富で、徹底的なサポートを受けやすい。対面相談を重ねながら進められる場合も多い。
  • デメリット:費用が発生するため、仲介会社ごとの料金体系をしっかり確認する必要がある。

後継者・M&Aのマッチングサイト

インターネット上には、後継者を探す企業と、会社を承継したい個人や企業を結びつけるためのマッチングサイトが増えています。登録企業数が多ければ多いほど、広範な候補者との出会いが期待できるでしょう。

  • メリット:気軽に利用しやすく、全国規模で候補者を見つけられる。
  • デメリット:自分で情報を整理し、交渉や法的手続を進める必要があるため、専門家のサポートなしでは難航しやすい。

事業承継・引継ぎ支援センター

国が全国各地に設置している公的機関で、後継者不足に悩む中小企業を支援しています。大きな特徴は相談が無料であることです。実際に具体的な仲介業務を担うわけではありませんが、企業が抱える課題を整理し、必要に応じて民間の専門家を紹介してくれます。

  • メリット:公的機関ならではの安心感があり、初めての相談でもハードルが低い。
  • デメリット:詳細な手続や交渉は、別途専門家を探して任せる必要がある。


専門家を選ぶ際の費用とサービス内容の見極め

後継者を探すための専門家を選ぶとき、まずは各機関が提供するサービス内容と費用の内訳を明確に比較することが重要です。費用項目の例としては、以下のようなものが挙げられます。

相談料

初回のヒアリングや経営状況の簡易診断などにかかる費用

着手金

本格的に仲介業務を始める段階で支払う前金

中間報酬

譲受企業の候補が見つかり、基本合意に至った際などに支払う報酬

成功報酬

最終的に事業承継(M&A)が成立したときに支払われる報酬

料金水準は企業の規模や経営状況によって変わります。高額に感じられる場合でも、それだけ充実したサポートを受けられる可能性が高いため、単に費用面だけで判断するのではなく、提供されるサービスの質や専門家の実績を総合的に検討することが大切です。

後継者育成とマッチングの要点

後継者不足を解消するだけでなく、次期経営を担う人材をしっかりと育成することが、企業の長期的な発展につながります。特に社外から後継者を迎える場合は、後継者本人が社内文化や従業員の信頼を得るまでに十分な時間を要するため、できるだけ早期から計画的に準備を進めましょう。

後継者育成に必要な期間とポイント

リーダーシップ研修の実施

新たに社長になる人材には、企業全体を見渡す視野や従業員をまとめる力が求められます。外部の経営研修やセミナーに参加させることで、必要なスキルを効率的に習得できます。

ジョブローテーションや現場経験

複数部署を経験させることで、事業内容を総合的に理解してもらい、経営判断の幅を広げます。

段階的な権限移譲

いきなり全責任を任せるのではなく、部分的に経営判断を任せながら経営感覚を磨いていくことが重要です。

メンタリング制

現経営者や外部アドバイザーが後継者をフォローアップし、定期的に経営課題や組織運営の悩みを相談できる体制を整えます。

こうした育成プログラムを用意すれば、社内から後継者を登用する場合はもちろん、社外から迎え入れる人材に対しても、よりスムーズに経営を託せる可能性が高まります。

 

社外から後継者を迎える際の注意点

従業員や取引先との意思疎通

外部から招いた新経営者に対し、既存の従業員や取引先が戸惑わないよう、事前に十分なコミュニケーションを行いましょう。

経営方針の共有

事業承継後も、会社の理念やブランドイメージを維持したい場合は、引継ぎ前に後継者と細かい点まで擦り合わせておくことが大切です。

マッチングサービスの活用

社外から探す場合、人脈だけでカバーできないほどの母数が必要になるため、仲介会社やマッチングサイトを効率的に活用します。

事業承継に伴う法的手続と税務対策

事業承継は単なる経営権の引継ぎにとどまらず、法的手続や税務対策が多岐にわたるため、早めの準備と専門家の力が欠かせません。特に株式譲渡や贈与、合併、会社分割など、どの方法で承継するかによって必要となる書類や手続が大きく変わります。

法的手続の流れとポイント

承継方法の決定

株式を引き継ぐのか、事業譲渡を行うのか、組織再編(会社分割や合併)を活用するのか、企業の実情や後継者の希望に合わせて最適な方法を選びます。

承継契約の締結

具体的な引継ぎ条件やスケジュールを明記した契約書を作成し、双方の合意を正式に取り交わします。

法人登記の変更

代表者変更の登記申請はもちろん、新しい経営体制に伴う定款の修正が必要になる場合もあります。

関係機関への届出

税務署や社会保険事務所、金融機関などへの届出を漏れなく行い、名義変更や口座管理を円滑に進めます。

財産・権利の譲渡

不動産や動産、特許権、商標権などの名義がある場合は、個別に譲渡手続を行います。


税務対策の要点

事業承継税制の活用

相続税や贈与税の納税猶予制度を利用すると、後継者の税負担を軽減しながら株式の承継を進められます。

資産評価の適正化

自社株の評価が過大になりすぎないよう、専門家の助言を受けて会社の資産・負債を正確に査定します。

段階的な承継

一度に全株式を譲渡せず、複数年に分散して贈与する方法なども検討することで、一時的な税負担を抑制できます。

最新税制情報の収集

税制は改正される可能性があるため、常に最新情報をキャッチし、最適なタイミングや方法を選びましょう。

専門家との連携

税理士や弁護士、公認会計士など、各分野のプロが連携して対応することで、税務リスクや法務リスクを最小限に抑えられます。


会社価値を高めるポイント

後継者を探すことと並行して、経営者が取り組むべきなのが「会社の磨き上げ」です。後継者候補や譲受企業から見て、自社が魅力的で将来性が高いほど、マッチングの成功確率が高まります。

業績と将来性の向上

財務体質の強化

負債の整理やキャッシュフローの改善を図り、安定した経営基盤を示す。

新規事業や新サービスの検討

成長余地を積極的にアピールし、後継者が入った後のビジョンを明確に描く。

生産性の向上

業務プロセスの見直しやデジタル化を進め、人員や経費の適正化を実現する。


社内の体制整備

コンプライアンスの徹底

労務管理や安全衛生、環境規制などを適切にクリアしているか再確認する。

経営資料やノウハウのマニュアル化

企業の強みや顧客情報を体系化し、引継ぎにかかる負担を軽減する。

従業員の意欲向上

社内コミュニケーションを活発化させ、組織力を高めることで後継者がスムーズに受け入れられる雰囲気をつくる。

こうした取り組みを着実に進めておけば、譲受先を探すにせよ、社外の個人へ引き継ぐにせよ、「魅力ある企業」として見てもらいやすくなります。

まとめ

事業承継は企業の存続や発展を左右する、大切な節目となるイベントです。特に後継者不足に直面している中小企業では、親族内や社内に候補が見当たらない場合でも、M&Aや外部人材の活用によって道を切り開くことができます。早めに準備を始め、信頼できる専門家を選定し、会社価値の向上や後継者の育成を同時に進めれば、従業員や取引先に大きな不安を与えることなく、円滑な承継が実現しやすくなります。将来を見据えて丁寧に計画を立て、実行に移すことで、企業の未来と経営者自身の安定した引退後を両立させることができるでしょう。

著者|竹川 満  マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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