株式譲渡の仕訳と会計処理について、売り手と買い手の違いを詳しく解説します。支配権の有無による処理の違いや、税務上の注意点も含めて、実務に役立つ情報を提供します。
目次
▶目次ページ:株式譲渡(株式譲渡の税金)
株式譲渡は、事業承継や企業再編の手段として広く活用されています。この取引に伴う仕訳は、売り手と買い手で異なる会計処理が必要となります。株式譲渡の仕訳を正確に行うことは、財務諸表の適正な作成につながり、企業の財政状態を適切に表示するために不可欠です。
株式譲渡の仕訳において、以下の点に注意が必要です。
これらのポイントを踏まえて、適切な仕訳を行うことが重要です。以下、売り手と買い手それぞれの仕訳と会計処理について詳しく解説していきます。
売り手の仕訳と会計処理は、対象会社と売り手株主で異なります。ここでは、それぞれの特徴と注意点について説明します。
株式譲渡において、対象会社(譲渡される会社)自体には仕訳が発生しません。これは、株式譲渡が株主間の取引であり、対象会社の資産・負債に直接的な変動がないためです。対象会社にとっては、株主が変わるだけで、会計上の変化はありません。
したがって、対象会社では以下の点に注意が必要です。
これらの手続は必要ですが、会計上の仕訳は発生しません。
売り手株主が法人の場合、株式譲渡に伴う仕訳が必要となります。仕訳の特徴は以下の通りです。
具体的な仕訳例
(借方)現金預金 XXX (貸方)子会社株式/関連会社株式/投資有価証券 XXX
(借方)子会社株式売却損 XXX (貸方)子会社株式 XXX
または
(借方)現金預金 XXX (貸方)子会社株式/関連会社株式/投資有価証券 XXX
子会社株式売却益 XXX
売り手株主は、これらの仕訳を通じて、株式譲渡による資産の変動と損益を適切に財務諸表に反映させる必要があります。
買い手の仕訳と会計処理は、取得した株式の支配権の程度によって大きく異なります。ここでは、支配権の概念と各ケースにおける仕訳方法について詳しく解説します。
支配権とは、株式会社の意思決定に重要な影響を与えることができる権利や能力を指します。具体的には以下の場合に支配権があると判断されます。
支配権の有無は、会計処理や連結財務諸表の作成要否に直接影響するため、正確な判断が求められます。
支配権を取得した場合、通常は子会社株式として処理します。未上場企業の株式を取得した場合の基本的な仕訳は以下の通りです。
(借方)子会社株式 XXX (貸方)現金預金 XXX
上場企業の場合は、連結修正仕訳が必要となります。この際、取得した資産・負債の時価評価を行い、譲渡対価との差額を「のれん」として計上します。
支配権はないものの、重要な影響力がある場合(通常、議決権の20%以上50%以下を保有)は、関連会社株式として処理します。仕訳例は以下の通りです。
(借方)関連会社株式 XXX (貸方)現金預金 XXX
この場合、持分法による会計処理が適用されます。
議決権の20%未満を保有し、重要な影響力もない場合は、通常の投資有価証券として処理します。仕訳例は以下の通りです。
(借方)投資有価証券 XXX (貸方)現金預金 XXX
この場合、原則として取得原価で計上し、毎期末に時価評価を行います(ただし、非上場株式の場合は取得原価のまま据え置くことが一般的です)。
株式譲渡における買い手の会計処理には、いくつかの重要なポイントがあります。ここでは、それらのポイントについて詳しく解説します。
子会社株式を保有する場合、連結財務諸表の作成が必要となります。連結財務諸表作成のポイントは以下の通りです。
これらの処理を通じて、企業グループ全体の財政状態と経営成績を適切に表示します。
のれんとは、買収価額が被買収会社の純資産の時価を超過した部分を指します。のれんの処理方法は以下の通りです。
のれんの仕訳例
(借方)のれん XXX (貸方)現金預金 XXX
関連会社株式の会計処理では、持分法が適用されます。持分法の主なポイントは以下の通りです。
持分法適用の仕訳例
(借方)関連会社株式 XXX (貸方)持分法による投資利益 XXX
上場株式を投資有価証券として保有する場合、以下の点に注意が必要です。
期末評価の仕訳例(全部純資産直入法の場合)
(借方)投資有価証券 XXX (貸方)その他有価証券評価差額金 XXX
これらの会計処理を適切に行うことで、財務諸表に株式投資の実態を正確に反映させることができます。
株式譲渡に関する税務処理は、会計処理とは異なる側面があります。ここでは、売り手と買い手それぞれの税務処理のポイントについて解説します。
売り手の税務処理は、譲渡者が法人か個人かによって異なります。
法人の場合
個人の場合
注意点
買い手の税務処理には以下の点に注意が必要です。
株式の取得価額
消費税の取り扱い
負ののれん
連結納税制度
組織再編税制
外国子会社株式の取得
これらの税務上の注意点を適切に把握し対応することで、法令遵守と税務リスクの低減を図ることができます。また、税務と会計の処理の差異が生じる場合は、適切な税効果会計の適用も重要となります。
株式譲渡における仕訳と会計処理は、売り手と買い手で異なり、支配権の有無や株式の性質によっても処理方法が変わります。適切な会計処理と税務処理を行うことで、正確な財務報告と適正な納税が可能となります。複雑な処理が必要な場合は、専門家への相談を検討することが賢明です。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事