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株式譲渡の仕訳と会計処理 | 売り手・買い手の違いを徹底解説

株式譲渡の仕訳と会計処理について、売り手と買い手の違いを詳しく解説します。支配権の有無による処理の違いや、税務上の注意点も含めて、実務に役立つ情報を提供します。

目次

  1. 株式譲渡における仕訳の基本
  2. 売り手の仕訳と会計処理
  3. 買い手の仕訳と会計処理
  4. 買い手の会計処理における重要ポイント
  5. 株式譲渡に関する税務処理のポイント
  6. まとめ

▶目次ページ:株式譲渡(株式譲渡の税金)

株式譲渡における仕訳の基本

株式譲渡は、事業承継や企業再編の手段として広く活用されています。この取引に伴う仕訳は、売り手と買い手で異なる会計処理が必要となります。株式譲渡の仕訳を正確に行うことは、財務諸表の適正な作成につながり、企業の財政状態を適切に表示するために不可欠です。

仕訳の注意点

株式譲渡の仕訳において、以下の点に注意が必要です。

  1. 売り手と買い手で異なる会計処理
  2. 支配権の有無による仕訳の違い
  3. 上場・非上場の違いによる処理方法の差異
  4. のれんの発生と償却に関する会計処理
  5. 税務上の取り扱いとの整合性

これらのポイントを踏まえて、適切な仕訳を行うことが重要です。以下、売り手と買い手それぞれの仕訳と会計処理について詳しく解説していきます。

売り手の仕訳と会計処理

売り手の仕訳と会計処理は、対象会社と売り手株主で異なります。ここでは、それぞれの特徴と注意点について説明します。

対象会社の仕訳が不要な理由

株式譲渡において、対象会社(譲渡される会社)自体には仕訳が発生しません。これは、株式譲渡が株主間の取引であり、対象会社の資産・負債に直接的な変動がないためです。対象会社にとっては、株主が変わるだけで、会計上の変化はありません。

したがって、対象会社では以下の点に注意が必要です。

  1. 株主名簿の更新
  2. 必要に応じた定款変更
  3. 役員変更がある場合の登記手続

これらの手続は必要ですが、会計上の仕訳は発生しません。

売り手株主の仕訳と会計処理の特徴

売り手株主が法人の場合、株式譲渡に伴う仕訳が必要となります。仕訳の特徴は以下の通りです。

  1. 支配権・影響力の度合いに応じた勘定科目の使用
  2. 譲渡対価と取得原価の差額の処理
  3. 売却損益の計上

具体的な仕訳例

(借方)現金預金 XXX (貸方)子会社株式/関連会社株式/投資有価証券 XXX

(借方)子会社株式売却損 XXX (貸方)子会社株式 XXX

または

(借方)現金預金 XXX (貸方)子会社株式/関連会社株式/投資有価証券 XXX
            子会社株式売却益 XXX

売り手株主は、これらの仕訳を通じて、株式譲渡による資産の変動と損益を適切に財務諸表に反映させる必要があります。

買い手の仕訳と会計処理

買い手の仕訳と会計処理は、取得した株式の支配権の程度によって大きく異なります。ここでは、支配権の概念と各ケースにおける仕訳方法について詳しく解説します。

支配権の定義と重要性

支配権とは、株式会社の意思決定に重要な影響を与えることができる権利や能力を指します。具体的には以下の場合に支配権があると判断されます。

  1. 議決権の過半数(50%超)を所有している場合
  2. 議決権の過半数を所有していなくても、実質的に支配している場合(例:大株主が分散しており、実質的に意思決定できる場合)
     

支配権の有無は、会計処理や連結財務諸表の作成要否に直接影響するため、正確な判断が求められます。

支配権取得時の仕訳方法

支配権を取得した場合、通常は子会社株式として処理します。未上場企業の株式を取得した場合の基本的な仕訳は以下の通りです。

(借方)子会社株式 XXX (貸方)現金預金 XXX

上場企業の場合は、連結修正仕訳が必要となります。この際、取得した資産・負債の時価評価を行い、譲渡対価との差額を「のれん」として計上します。

重要な影響力がある場合の仕訳

支配権はないものの、重要な影響力がある場合(通常、議決権の20%以上50%以下を保有)は、関連会社株式として処理します。仕訳例は以下の通りです。

(借方)関連会社株式 XXX (貸方)現金預金 XXX

この場合、持分法による会計処理が適用されます。

支配権も影響力もない場合の仕訳処理

議決権の20%未満を保有し、重要な影響力もない場合は、通常の投資有価証券として処理します。仕訳例は以下の通りです。

(借方)投資有価証券 XXX (貸方)現金預金 XXX

この場合、原則として取得原価で計上し、毎期末に時価評価を行います(ただし、非上場株式の場合は取得原価のまま据え置くことが一般的です)。

買い手の会計処理における重要ポイント

株式譲渡における買い手の会計処理には、いくつかの重要なポイントがあります。ここでは、それらのポイントについて詳しく解説します。

子会社株式保有時の連結財務諸表作成

子会社株式を保有する場合、連結財務諸表の作成が必要となります。連結財務諸表作成のポイントは以下の通りです。

  1. 資産・負債の時価評価
    取得した子会社の資産・負債を時価で評価し直します。
  2. のれんの計上
    取得価額と時価評価後の純資産額との差額をのれんとして計上します。
  3. 内部取引の消去
    親子会社間の取引を相殺消去します。
  4. 少数株主持分の計上
    100%子会社でない場合、少数株主持分を計上します。

これらの処理を通じて、企業グループ全体の財政状態と経営成績を適切に表示します。

のれんの概念と処理方法

のれんとは、買収価額が被買収会社の純資産の時価を超過した部分を指します。のれんの処理方法は以下の通りです。

  1. 計上
    取得価額から時価評価後の純資産額を差し引いた金額をのれんとして計上します。
  2. 償却
    原則として、20年以内の一定期間にわたって定額法で償却します。
  3. 減損テスト
    毎期末にのれんの価値が損なわれていないか評価し、必要に応じて減損処理を行います。

のれんの仕訳例

(借方)のれん XXX (貸方)現金預金 XXX

関連会社株式の会計処理

関連会社株式の会計処理では、持分法が適用されます。持分法の主なポイントは以下の通りです。

  1. 取得時
    取得原価で計上します。
  2. 取得後
    関連会社の損益のうち投資会社の持分相当額を、投資価額に加減します。
  3. 受取配当金
    投資価額から控除します。

持分法適用の仕訳例

   (借方)関連会社株式 XXX (貸方)持分法による投資利益 XXX

上場株式の投資有価証券としての処理

上場株式を投資有価証券として保有する場合、以下の点に注意が必要です。

  1. 取得時
    取得原価で計上します。
  2. 期末評価
    時価(市場価格)で評価し、評価差額は全部純資産直入法または全部純資産直入法により処理します。
  3. 売却時
    売却損益を計上します。

期末評価の仕訳例(全部純資産直入法の場合)

   (借方)投資有価証券 XXX (貸方)その他有価証券評価差額金 XXX

これらの会計処理を適切に行うことで、財務諸表に株式投資の実態を正確に反映させることができます。

株式譲渡に関する税務処理のポイント

株式譲渡に関する税務処理は、会計処理とは異なる側面があります。ここでは、売り手と買い手それぞれの税務処理のポイントについて解説します。

売り手の税務処理の特徴

売り手の税務処理は、譲渡者が法人か個人かによって異なります。

法人の場合

  • 譲渡損益は原則として益金または損金に算入されます。
  • 譲渡益は法人税の課税対象となります。
  • 特定の要件を満たす場合、譲渡益の課税繰延べ(圧縮記帳)が可能です。

個人の場合 

  • 譲渡所得として課税されます。
  • 税率は、所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%です。
  • 譲渡価額が時価より著しく低い場合(時価の70%未満)、贈与税の課税対象となる可能性があります。

注意点

  • 譲渡価額の算定根拠を明確にしておくことが重要です。
  • 関係会社間の取引の場合、独立企業間価格での取引が求められます。

買い手における税務上の注意点

買い手の税務処理には以下の点に注意が必要です。

株式の取得価額

  • 購入価額に付随費用を加算した金額が取得価額となります。
  • のれんが発生した場合、その償却費は損金算入されます。

消費税の取り扱い

  • 株式の譲渡は消費税法上の非課税取引です。
  • ただし、株式譲渡に付随する専門家への報酬等は課税取引となる場合があります。

負ののれん

  • 負ののれんが発生した場合、税務上は益金算入されます。

連結納税制度

  • 完全支配関係のある子会社を取得した場合、連結納税制度の適用を検討する必要があります。
  • 連結納税制度を選択すると、グループ全体での課税所得の通算が可能となります。

組織再編税制

  • 一定の要件を満たす場合、適格組織再編として税制上の優遇措置を受けられる可能性があります。
  • 適格要件を満たさない場合、時価取引として扱われ、売り手に譲渡損益課税が生じます。

外国子会社株式の取得

  • 外国子会社株式を取得した場合、外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)の適用有無を確認する必要があります。
  • 配当受取時の源泉税や二重課税の問題にも注意が必要です。


これらの税務上の注意点を適切に把握し対応することで、法令遵守と税務リスクの低減を図ることができます。また、税務と会計の処理の差異が生じる場合は、適切な税効果会計の適用も重要となります。

まとめ

株式譲渡における仕訳と会計処理は、売り手と買い手で異なり、支配権の有無や株式の性質によっても処理方法が変わります。適切な会計処理と税務処理を行うことで、正確な財務報告と適正な納税が可能となります。複雑な処理が必要な場合は、専門家への相談を検討することが賢明です。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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