株式譲渡の仕訳とは?法人・個人・買い手別に詳しく解説

株式譲渡の仕訳は、売り手が法人か個人か、株式の保有目的、買い手の支配関係によって変わります。売却益・売却損の具体例、個人事業主の記帳、未収入金、手数料、消費税の5%計算まで整理し、会社売却時に確認すべき会計・税務の要点を分かりやすく解説します。

目次

  1. 株式譲渡の仕訳は3つの確認から始める
  2. 法人が株式を売るときの仕訳
  3. 個人・個人事業主が株式を売るときの記帳
  4. 買い手と対象会社の会計処理
  5. 手数料・未収入金・消費税で迷いやすい処理
  6. 会社売却前に会計資料を整える理由
  7. まとめ

株式譲渡の仕訳と会計処理:売り手・買い手の違いを徹底解説

▶目次ページ:株式譲渡(株式譲渡の税金)

株式譲渡の仕訳は3つの確認から始める

「株式を売ったのだから、会社の帳簿に売却益を計上する」と考えると、最初から処理を誤ることがあります。株式譲渡の仕訳は、誰の帳簿が動くのかを確かめるところから始まります。

確認するのは、売り手が個人か法人か、株式をどの目的で保有していたか、代金の受取日と会計上の認識日にずれがあるかの3点です。M&A(合併・買収)による会社売却でも、基本となる考え方は変わりません。

1. 売り手が個人か法人か

個人株主が自分の保有株式を売る場合、通常は対象会社の帳簿にも、個人事業の帳簿にも仕訳をしません。譲渡益は、個人の確定申告で計算します。

一方、持株会社や事業会社などの法人が株式を売る場合は、法人の帳簿から株式を減らし、譲渡価額と帳簿価額との差額を売却益または売却損として計上します。

2. 株式の保有目的は何か

法人が保有する株式の勘定科目は、保有目的によって異なります。短期的な価格変動から利益を得る目的なら「売買目的有価証券」、支配や重要な影響力を持つ目的なら「子会社株式」「関連会社株式」「関係会社株式」、長期投資や政策保有が目的なら「投資有価証券」などです。

売却時には、帳簿で使っている資産科目を取り崩します。売却益や売却損の名称も、会社の勘定科目体系に合わせて設定します。

3. 対象会社の帳簿が動くか

中小企業の会社売却では、経営者個人が保有する自社株を買い手へ譲る形がよく使われます。この場合、売却代金を受け取るのは株主であり、対象会社ではありません。

対象会社は株主が替わるだけなので、株式譲渡そのものについて仕訳は不要です。

ただし、株主名簿の書換え、役員変更、買い手からの借入れ、役員退職金の支給など、株式譲渡と同時に別の取引を行えば、その取引に応じた仕訳や手続が必要です。

法人が株式を売るときの仕訳

法人の株式売却は、受け取る金額だけを記帳して終わりではありません。帳簿に残っている株式の価額を減らし、譲渡価額との差額を損益へ振り替えます。

ここでは、帳簿価額100の株式を150または80で売却した例を使います。

売買目的有価証券を売却する場合

売買目的有価証券は、短期間の価格変動から利益を得る目的で保有する株式です。一般の事業会社が長期保有する非上場株式や、子会社株式とは性格が異なります。

利益が出た場合

帳簿価額100の株式を150で売った場合、差額50が有価証券売却益です。


(借方)現金預金 150

(貸方)売買目的有価証券 100

(貸方)有価証券売却益 50

損失が出た場合

帳簿価額100の株式を80で売った場合、差額20が有価証券売却損です。


(借方)現金預金 80

(借方)有価証券売却損 20

(貸方)売買目的有価証券 100

子会社株式・関連会社株式を売却する場合

支配目的で保有する子会社株式や、重要な影響力を持つために保有する関連会社株式は、個別の決算書では原則として取得原価で計上されています。

勘定科目は「子会社株式」「関連会社株式」「関係会社株式」など、会社により異なります。

利益が出た場合

帳簿価額100の関係会社株式を150で売った例です。


(借方)現金預金 150

(貸方)関係会社株式 100

(貸方)関係会社株式売却益 50

損失が出た場合

帳簿価額100の関係会社株式を80で売った例です。


(借方)現金預金 80

(借方)関係会社株式売却損 20

(貸方)関係会社株式 100


子会社株式の一部だけを売る場合は、売却後も支配が続くか、関連会社へ変わるか、支配を失うかによって連結上の処理が変わります。

個別決算の仕訳だけで判断せず、売却後の議決権割合と実質的な支配関係を確認することが重要です。

その他有価証券を売却する場合

長期投資や取引関係の維持を目的に保有する株式は、一般に投資有価証券として処理します。売却時には、投資有価証券を帳簿から減らし、譲渡価額と帳簿価額との差額を売却損益に計上します。

利益が出た場合

(借方)現金預金 150

(貸方)投資有価証券 100

(貸方)投資有価証券売却益 50

損失が出た場合

(借方)現金預金 80

(借方)投資有価証券売却損 20

(貸方)投資有価証券 100


上場株式などで期末に時価評価を行っている場合でも、売却損益は原則として取得原価などと譲渡価額との差額を基礎に計算します。実際の仕訳は、会社が採用している評価方法や会計方針も確認してください。

個人・個人事業主が株式を売るときの記帳

個人事業主だから、保有する株式の売却も事業所得になるとは限りません。個人が保有する自社株や投資株式を売る場合、その譲渡損益は通常、事業の売上ではなく、株式等の譲渡所得等として申告分離課税の対象になります。

事業用帳簿には原則として仕訳しない

個人が私有財産として保有する株式を売った場合、青色申告決算書などの事業用帳簿には原則として記帳しません。

譲渡価額から取得費と譲渡費用を差し引いて譲渡損益を計算し、確定申告書や株式等に関する計算明細書へ反映します。

会社売却では、何十年も前の株式取得資料が見つからず、取得費の確認に時間がかかることがあります。株式の払込証明、株主名簿、過去の株式譲渡契約書、相続・贈与時の資料は、早めに集めておくべきです。

事業用口座を使った場合は資金移動を記帳する

個人資産の株式を売った代金が事業用口座へ入金されたときは、株式の売却益を事業収入にせず、事業主勘定で処理します。


(借方)普通預金 150

(貸方)事業主借 150


反対に、事業用口座から個人保有株式の購入代金や手数料を支払った場合は、次のように事業主貸を使います。


(借方)事業主貸 100

(貸方)普通預金 100


株式の売買を反復継続して事業として行っているなど、特殊な事情がある場合は所得区分の検討が必要です。ただし、オーナー経営者が一度だけ自社株を譲渡する通常の会社売却とは分けて考えます。

買い手と対象会社の会計処理

株式譲渡では、同じ金額が売り手には譲渡対価、買い手には株式の取得価額として現れます。しかし、買い手側の勘定科目は、取得後に対象会社とどのような関係になるかで変わります。

買い手は取得目的に応じて資産計上する

買い手が対象会社を支配する場合は、個別の帳簿で「子会社株式」または「関係会社株式」を計上します。


(借方)子会社株式 500

(貸方)現金預金 500


支配まではしないものの重要な影響力を持つ場合は「関連会社株式」、純粋な投資であれば「投資有価証券」などを使います。

議決権割合だけで機械的に決めず、役員派遣、契約関係、ほかの株主の構成なども含めて、実態を確認することが大切です。

取得に直接要した費用の扱い

買い手の個別決算では、購入手数料など株式の取得に直接要した付随費用を、株式の取得原価に含めるのが原則です。

一方、連結決算では、外部アドバイザーへの報酬などの取得関連費用を、発生した年度の費用として処理するのが原則です。同じ費用でも、個別決算と連結決算で処理が異なることがあります。

買い手の個別決算では通常、のれんを直接計上しない

「対象会社の純資産より高く買ったため、個別の帳簿にのれんを計上する」と考えることがあります。しかし、株式を取得した会社の個別決算では、支払対価を株式の取得原価として計上するのが基本です。

のれんは、連結決算で親会社の投資と子会社の資本を相殺し、対象会社の資産や負債を評価した後に現れます。

日本の会計基準では、のれんは原則として20年以内の合理的な期間で規則的に償却します。反対に負ののれんが生じる場合は、資産・負債の把握や評価を見直したうえで、なお残る金額を利益として処理します。

対象会社は株式譲渡自体の仕訳をしない

対象会社の現金や借入金が増減する取引ではないため、株主間で株式の売買が完了しても、対象会社は売却益も買収費用も計上しません。

ここは意外と多い落とし穴です。会社売却の対価を受け取るのは、原則として株主だからです。

ただし、譲渡代金を対象会社が立て替える、経営者へ役員退職金を支払う、買い手から資金を借りて既存借入金を返済するなどの動きがあれば、それぞれ別の仕訳が発生します。

株式譲渡と周辺取引を混ぜず、誰が代金を受け取り、誰が費用を支払ったのかを確認してください。

手数料・未収入金・消費税で迷いやすい処理

基本仕訳が合っていても、手数料や入金日のずれを見落とすと、売却損益や消費税申告に影響します。M&A実務では、ここで判断が止まることがあります。

譲渡費用は売却損益と分けて記帳する

売り手法人が支払う仲介手数料や専門家報酬は、原則として「支払手数料」などで別に費用処理します。

株式の売却損益は、譲渡価額と株式の帳簿価額との差額で計算するのが基本です。仲介手数料を株式の売却益から直接差し引く処理とは分けて考えます。

例えば、帳簿価額100の株式を150で売却し、仲介手数料10を支払った場合は、株式売却益50と支払手数料10をそれぞれ計上します。結果として会社の利益に与える影響は40です。

個人株主の場合、株式譲渡のために直接要した手数料は、譲渡所得等の計算上、譲渡価額から差し引ける費用になることがあります。

請求書、契約書、振込記録を保存し、対象会社が負担した費用と株主個人が負担した費用を混同しないことが大切です。

入金が後日なら未収入金を使う

株式売却を会計上認識する日と代金の入金日が異なる場合は、現金預金ではなく「未収入金」などを使います。

例えば、譲渡価額150、帳簿価額100で売却を認識し、入金が後日となる場合です。

売却を認識した日の仕訳

(借方)未収入金 150

(貸方)投資有価証券 100

(貸方)投資有価証券売却益 50

代金が入金された日の仕訳

(借方)普通預金 150

(貸方)未収入金 150


上場株式の通常の売買では、一般に約定日を基礎として会計処理します。一方、非上場会社のM&Aでは、契約締結から株式の引渡しと代金決済まで期間が空くことがあります。

契約書上の条件、株式が実際に移転した日、決済の状況を踏まえて、売却を認識する時期を判断します。決算期をまたぐ案件では、特に注意が必要です。

株式の譲渡は消費税の非課税取引

株式の譲渡対価そのものに消費税はかかりません。ただし、課税事業者が国内で株式を譲渡した場合、課税売上割合の計算では、原則として譲渡対価の5%相当額を分母の非課税売上に含めます。

「株式の譲渡は非課税だから、消費税の申告計算には一切関係しない」というわけではありません。

例えば、譲渡対価が1億円なら、課税売上割合の計算で分母に加える非課税売上は、原則として500万円です。課税売上割合が下がると、仕入税額控除の金額に影響することがあります。

個人株主が事業としてではなく自社株を売る通常の会社売却では、消費税の課税対象外となるのが一般的です。一方、法人株主が株式を売る場合は、課税売上割合への影響を確認する必要があります。

なお、仲介手数料や専門家報酬は、株式の譲渡対価とは別の役務提供であり、通常は消費税の課税対象です。契約書と請求書を見て、株式の対価と付随費用を分けて処理します。

支払調書などの税務書類も確認する

法人が国内で個人から株式を買い取り、その対価を支払った場合は、原則として「株式等の譲渡の対価等の支払調書」を税務署へ提出します。

提出期限は、通常、支払が確定した年の翌年1月31日です。ただし、提出対象や記載方法には一定の条件があるため、取引内容を確認します。

仕訳が終わっても、支払調書や確定申告資料がそろっていなければ実務は完了しません。売り手と買い手で、譲渡対価、決済日、手数料、取得株式数の情報を一致させることが重要です。

会社売却前に会計資料を整える理由

仕訳はクロージング後の作業に見えますが、実際には譲渡条件を決める前から準備が始まっています。

帳簿価額、取得費、株主名義、付随費用の負担者が曖昧だと、譲渡後の手取り試算までずれてしまいます。

売却主体と入金口座を一致させる

経営者個人が株式を売るのに、譲渡代金を対象会社の口座へ入れてしまうと、会社と個人の資金が混ざります。

法人株主が株式を売る場合も、契約名義と入金先が一致しているかを確認します。契約書、株主名簿、銀行口座の名義をそろえるだけで、多くの記帳ミスを防げます。

役員退職金は株式譲渡とは別取引として設計する

会社売却に合わせて役員退職金を支給する場合、株式譲渡代金とは別の取引です。

対象会社では退職金の仕訳が必要になり、個人側では退職所得として税額を計算します。金額の妥当性、支給決議、支払時期、買い手との合意をそろえなければなりません。

決算をまたぐ場合は認識日を先に確認する

株式譲渡契約の締結日、株式の譲渡実行日、代金の入金日は、必ずしも同じではありません。

条件付きの株式譲渡契約では、許認可、金融機関対応、個人保証の解除準備などが整ってから決済することもあります。

どの期に売却損益を計上するかは、法人税だけでなく、業績評価や金融機関への説明にも影響します。期末が近い案件では、契約書を会計・税務の担当者と共有し、未収入金の計上要否も含めて確認することが安全です。

まとめ

株式譲渡の仕訳は、売り手が法人か個人か、株式の保有目的、買い手との関係で変わります。法人は帳簿価額と譲渡価額の差額を売却損益に計上し、個人は原則として事業用帳簿ではなく確定申告で処理します。会社売却前に取得費、契約名義、決済日、手数料、入金口座を整理し、会計と税務を専門家と同時に確認することが重要です。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人