会社清算の手続を弁護士が解説通常清算と特別清算の具体的流れ

会社清算の手続と費用具体的スケジュールや通常清算・特別清算

会社清算の手続やM&A活用事業継続と通常清算・特別清算を徹底解説

会社清算とは、会社の財産や負債を整理し、残余財産を株主へ分配して法人格を消滅させる重要なプロセスです。通常清算と特別清算の違い、手続の流れや費用、税務面での注意点、債務超過の場合の対応など、経営者が知っておきたいポイントを分かりやすく解説します。

目次:

  1. 会社清算とは
  2. 会社清算を検討する状況
  3. 会社清算のメリットとデメリット
  4. 債務超過会社における清算の注意点
  5. 会社清算の具体的な流れと手順
  6. 通常清算と特別清算の違い
  7. 会社清算にかかる費用の内訳
  8. 会社清算時の税務処理
  9. M&Aによる事業継続の可能性
  10. 会社清算における専門家のサポート
  11. 税理士と司法書士の役割と適切な選び方
  12. まとめ

会社清算とは

会社清算とは、解散した会社の財産や債務を整理し、残余財産を株主に分配して法人格を正式に消滅させる手続です。具体的には、会社の資産を現金化して債務を返済し、最終的に残った財産を出資者である株主に分配する一連の流れを指します。この清算手続を終えることで、会社は法律上も消滅し、経営者や株主の法的責任は一定の区切りがつきます。


一方、「廃業」は事業全般をやめることを指す言葉で、個人事業主でも行う場合があります。会社の場合は、廃業の過程の一部として「解散」や「清算」が含まれるイメージです。債務超過に陥る前に清算を判断できれば、会社の資産だけで債務を処理して経営者個人に返済責任が及ばない可能性が高まるため、早期の検討が重要です。

廃業と解散・清算の違い

廃業は、経営を終わらせるプロセス全般を指し、会社のみならず個人事業でも用いられる言い方です。一方、会社においては解散と清算がそれぞれ異なる意味を持ちます。解散とは、株主総会などで事業を終了し、清算段階に入ることを決定することです。解散後も法人格は形式的に存続し、清算専任の組織(清算会社)として手続を進めます。


清算とは、解散した会社の財産や負債を整理し、残余財産を出資者に分配して会社を完全に消滅させるための作業です。法的には、解散が決定してから清算結了までが会社の最終段階という位置づけになります。

会社清算の概要

会社が解散して清算段階に入る主な目的は、以下のように整理できます。

・会社の資産を現金化して債務を返済する

・債権を回収する

・残った財産を株主へ分配する

・正式に法人格を消滅させる


清算手続を適切に行うことで、経営者の法的責任を明確にし、債権者や取引先への対応を正確に進めることができます。逆に、債務超過に陥った状態で手続が遅れると破産や特別清算など、より厳格で煩雑な倒産手続を検討せざるを得なくなるため、費用やリスクが大きくなる点に注意が必要です。

会社清算を検討する状況

会社清算を考える主なケースには、大きく分けて次のような状況があります。


1.事業の先行き不透明 売上不振などで今後の経営改善が見込めない場合、負債がさらに増える前に清算することで傷を最小限に抑えられます。倒産処理まで踏み込まなくて済む可能性が高まるため、経営者の個人資産を守れるケースもあります。


2.後継者不在 順調に売上があっても後継者がいないために事業継続が困難な場合、清算という道を検討する必要があります。最近では、子が親の事業を継承しないケースも増え、他の親族や従業員にも意欲がないときは解散・清算が選択されることがあります。もっとも、社内承継やM&Aにより事業を譲受企業へ承継し、会社を存続させる選択肢もあるため、清算を検討する際には同時にM&Aや事業譲渡の可能性も探るのが望ましいです。


このように「会社をどう終わらせるか」に迫られたとき、適切なタイミングで清算手続を行うか、あるいは別の手段を講じるかを早期に判断することが重要です。

会社清算のメリットとデメリット

会社清算には大きなメリットとデメリットがあります。経営者は、これらを見極めながら事業再生やM&Aなど、他の選択肢と比較して判断することが重要です。

会社清算のメリット

1.負債の整理

会社に残っている債務を整理して、新たなスタートを切ることができます。債務超過に陥る前であれば、経営者個人の財産を守れる可能性も高くなります。


2.法的責任の区切り

清算により法人格を消滅させることで、経営者の法的責任を最小限にできます。事業をいつまでも継続して赤字を膨らませるよりは、早期に区切りをつける方がリスクを抑えられる場合もあります。


3.資産を有効活用できる

会社が保有する資産を売却することで、現金化を図り、株主に分配することが可能です。使い道のない設備や不動産を長期間抱えるより、一定の時点で処分してしまった方が有利になるケースがあります。


4.心理的負担の軽減

経営が行き詰まっている状態で事業を続けると、経営者は大きなプレッシャーを背負い続けることになります。清算を選択することで、経営責任から解放され、次のキャリアや人生設計に集中できるようになるでしょう。


5.税負担や事務手続の軽減

存続しているだけでも発生する法人住民税の負担や、決算報告・確定申告などの定期的な事務作業から解放されます。特に、小規模企業の場合は、固定費を削減する効果も期待できます。

会社清算のデメリット

1.会社自体の消滅

清算を終えると、法人格は完全に消滅します。それに伴い、従業員を全員解雇する必要があるため、雇用に大きな影響が生じます。取引先との関係や、事業用資産、許認可などもすべて失われる点に注意が必要です。


2.取引先への影響

会社の清算により、その会社を前提とした取引ルートや供給網が途切れてしまう可能性があります。特に希少な部品を製造していた場合などは、取引先の生産体制にも打撃を与えかねません。


3.費用と手間がかかる

通常の清算手続でも、登記費用、官報公告費用、税理士や弁護士、司法書士などの専門家報酬がかかります。清算を完了させるには書類の整理や各種届出なども必要で、労力や時間がかかります。


4.事業再開のハードル

清算後に再度同様の事業を始めようとする場合、資産や許認可を一から取得しなければなりません。そのため、同じ事業分野に再チャレンジするのは容易ではなくなります。


5.社会的信用の低下

清算自体は合法的な手段ですが、周囲からは事業に失敗したイメージを与えるかもしれません。今後新たな事業を興す場合、一定の信用回復期間が必要となる可能性があります。

債務超過会社における清算の注意点

債務超過とは、負債が資産を上回った状態です。この状況下で清算を進めるには、通常清算と比べて複雑な検討事項があります。

特別清算や破産の必要性 

債務超過に陥っている場合、通常清算による弁済は不可能です。そのため、裁判所の監督下で行う特別清算や破産手続を検討することになります。いずれも高額の予納金が必要になるなど、費用面でも負担が大きい点は避けられません。

経営者の責任とタイミング

経営が明らかに成り立たないのにズルズルと事業を続け、結果的に負債を増やしてしまうと、取締役としての責任追及を受けるリスクがあります。特別清算や破産の場合は経営者の連帯保証や個人財産が差し押さえ対象となることもあるため、早めの対応が重要です。

債権者への公平な弁済

債務超過時には、特定の債権者のみに返済すると偏頗弁済とみなされ、後に問題となるおそれがあります。特別清算や破産手続では、裁判所や管財人が債権者間の公平を重視しながら財産を整理し、優先度に基づいて弁済を行います。

専門家の関与

弁護士や税理士などの専門家に早めに相談することで、最適な倒産処理方法を選択し、法的リスクを軽減できます。手続が煩雑になるほど経営者の負担が増大するため、状況を正確に把握できる専門家のサポートは不可欠です。

会社清算の具体的な流れと手順

会社清算を進める際は、会社法で定められた各種手続を厳守する必要があります。スケジュールをざっくりと示すと、通常は以下のようなステップで進みます。


1.解散決議(株主総会による決議)

2.清算人の選任(通常は代表取締役が兼任)

3.解散・清算人就任の登記

4.債権者への官報公告と個別通知(公告期間は2か月以上)

5.財産目録・貸借対照表の作成と株主総会での承認

6.債権の取り立て、債務の返済

7.残余財産の確定と株主への分配

8.清算結了の登記

9.清算確定申告・納税

スケジュールの目安

官報への解散公告から2か月が経過するまでは、基本的に債務の弁済はできません。会社の規模や負債の状況によって清算期間は変動しますが、一般的な中小企業なら6か月から1年ほどかけて清算が完了するケースが多いです。債務超過や不動産の処分が難しい場合は、さらに時間がかかります。

準備と注意点

• 事前に従業員や取引先、金融機関への説明をし、影響を最小限にする

• 官報公告の期間を考慮し、スケジュールを余裕をもって組む

• 清算中にも税金や社会保険手続が発生するため、専門家と連携して対応する

• 清算結了後も帳簿書類は一定期間保管する義務がある

通常清算と特別清算の違い

会社清算には、大きく分けて「通常清算」と「特別清算」の2つがあります。会社の財政状況や債権者との関係によって、どちらを選択するかが変わります。

通常清算

• 前提:債務超過に陥っていない

• 流れ:解散決議→清算人選任→官報公告→資産換価→債務返済→残余財産分配

• 特徴:裁判所の関与が少なく、手続は比較的簡易

• メリット:費用が抑えられ、早く終わる場合が多い

特別清算

• 前提:債務超過や支払不能の状態

• 流れ:裁判所への特別清算開始申立→債権者集会→協定案の作成→協定認可→弁済→終結

• 特徴:裁判所が手続を監督し、債権者間の公平を確保

• メリット:破産手続よりは柔軟に進められる場合があるが、時間と費用がかかる

会社清算にかかる費用の内訳

会社清算では、解散登記や官報公告、専門家への依頼など、様々な費用が発生します。事前に全体像を把握し、適切に予算を組んでおくことが重要です。

主な費用項目

1.清算人報酬

清算業務を担当する清算人への報酬です。清算の複雑さや会社の規模によって金額が変動します。


2.登記関連費用

解散・清算人就任・清算結了など、一連の登記手続にかかる登録免許税や手数料が必要です。小規模でも数万円はかかり、特別清算など手続が増える場合は、さらに費用がかかります。


3.官報公告費用

解散や清算結了を官報で公告する際の掲載料です。掲載料はおよそ3万円台から5万円程度が目安です。


4.弁護士や税理士等の専門家費用

清算に伴う法的対応や税務申告を専門家に依頼する場合、その報酬がかかります。債務超過や資産処分が複雑なケースほど報酬が高くなる傾向があります。


5.資産処分関連費用

会社所有の不動産や設備などを売却する際、仲介手数料や撤去費などが発生します。相場は資産の種類や状態によって大きく異なります。


6.従業員退職関連費用

従業員の解雇に伴う退職金や解雇予告手当、社会保険手続の費用などが挙げられます。


7.税金関連費用

清算確定申告に伴う法人税や消費税、固定資産税など、清算中に発生する税金が存在します。

費用を抑えるポイント

• 早期に清算へ動き出し、債務超過を回避する

• 同時に複数の専門家へ見積を取り、最適な費用感を確認する

• 自社で対応できる作業(官報への掲載手続など)はなるべく内製化する

会社清算時の税務処理

会社清算時は通常の事業年度とは異なる特殊な税務処理が必要です。手続を誤ると、追徴課税や加算税などを課される場合があるため注意が求められます。

清算所得課税

残余財産の分配に伴い、清算所得が発生する場合があります。清算所得は、残余財産の価額から資本金等の額や清算費用を差し引いて算定し、通常の法人税率で課税されるのが特徴です。

消費税・源泉徴収など

• 消費税:清算結了日の属する課税期間の末日から2ヶ月以内に申告・納付

• 源泉所得税:清算期間中の給与や退職金に関わる源泉徴収を行い、納付を続ける必要があります

残余財産の分配に伴う株主側の税金

個人株主の場合は配当所得や譲渡所得として課税対象になる可能性があるため、申告分離課税や総合課税を選択する場面があります。法人株主の場合は受取配当金の益金不算入制度なども検討課題となります。

M&Aによる事業継続の可能性

会社を清算する代わりに、M&A(合併・株式譲渡・事業譲渡など)を通じて事業を引き継ぎ、会社を存続させる選択も考えられます。特に後継者不在であっても、事業自体には価値がある場合、M&Aにより従業員や取引先との関係を維持しながら新たな成長が期待できます。

M&Aのメリット

• 事業価値やブランド力を活かせる

• 雇用継続につながりやすい

• 経営者や株主にとってより高い対価を得られる可能性がある

M&Aのデメリット

 • 交渉の過程で機密情報が外部に漏れるリスク

• 相手企業との企業文化の違いによる摩擦

• 交渉が長期化し、最終的に成立しない可能性がある


事業譲渡や株式譲渡の具体的な手続は複雑で、専門家の助言が必須となります。事業の先行きが不透明であっても、事業譲渡やM&Aの道を探ることで、事業再生を果たした成功事例は数多く存在します。

会社清算における専門家のサポート

会社清算には法的リスクと税務リスクが付きものです。解散や清算の流れを円滑に進めるために、弁護士、税理士、司法書士などのサポートは欠かせません。

専門家の種類と主な役割

1.税理士

清算所得の計算や税務申告をスムーズに進めるためのサポートを行います。税務リスクの洗い出しや、税務署との折衝も担当します。


2.弁護士

会社法に基づく解散・清算手続をはじめ、債権者対応や特別清算・破産などの倒産手続のアドバイスを行います。従業員の解雇や契約解除など、法的問題が大きい場合にも有用です。


3.公認会計士

財務諸表や資産評価、清算貸借対照表の作成支援を行い、複雑な資産がある場合や監査が必要な場合に対応します。


4.司法書士

解散登記や清算人就任、清算結了の登記業務を行います。官報公告の手配などの書類手続もサポート可能です。


5.社会保険労務士

従業員の退職に伴う社会保険や雇用保険などの処理を中心に担当します。


6.M&Aアドバイザー

事業の譲受企業を探す場合や会社売却の可能性を検討する場合に、企業価値評価や候補先とのマッチングを行います。

税理士と司法書士の役割と適切な選び方

特に会社清算で重要になるのが、税務面を担当する税理士と、各種登記を担当する司法書士です。

税理士の役割

• 清算所得の算出と申告

• 消費税・源泉徴収などの期間中の処理

• 税務リスクの分析や対策の立案

司法書士の役割

• 解散登記・清算人就任登記・清算結了登記の申請

• 官報公告手続のサポート

• 必要書類の作成

専門家選びのポイント

• 同種の清算手続を扱った実績が豊富かどうか

• コミュニケーション能力が高く、説明を分かりやすく行ってくれるか

• 費用の見積を明確に提示してくれるか

• 弁護士や税理士など他の専門家とも連携できる体制があるか


費用だけに注目せず、実務経験や対応スピード、信頼関係を築けるかどうかを総合的に判断しましょう。

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まとめ

会社清算は、経営者にとって苦渋の判断である一方、早めの対応により債務超過を回避し、個人資産や従業員を守れる場合もあります。後継者探しやM&Aと併せて検討することで、最適な方法を見いだすことが大切です。複雑な法務・税務手続を乗り越えるためにも、早い段階で専門家に相談しましょう。

著者|竹川 満  マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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