廃業とは?倒産と破産と休業と閉店と解散の違いを解説

廃業とは何でしょうか?この記事ではその意味を端的に示しつつ、倒産・破産・休業・閉店との違い、清算の流れ、M&Aで事業を守る方法まで一気に解説します。

目次

  1. 廃業とは自主的に事業を終える選択
  2. 倒産・破産・休業・閉店・解散との概念比較
  3. 2023年に顕著だった廃業動向
  4. 廃業時に必要な清算手続スケジュール
  5. M&Aで事業を存続させる代替策
  6. 廃業判断と専門家活用のポイント
  7. 廃業費用の内訳を詳しく解説
  8. 清算方法別手続(通常清算・特別清算・破産)を比較
  9. 休廃業・休業・廃業の使い分け
  10. 廃業前に検討すべきチェックリスト
  11. 専門家へ相談する意義
  12. まとめ

廃業とは自主的に事業を終える選択

廃業とは、会社や個人事業主が自らの意思で事業活動を終了することを指します。資産が債務を上回る「資産超過」の状態でも、経営者の判断で幕引きを図るケースが多い点が特徴です。近年は経営者の高齢化や後継者不在、事業環境の激変を背景に、廃業という選択肢が注目されています。

廃業の方法


廃業が選択される主な理由を整理

廃業の理由は多岐にわたりますが、代表的なものを整理すると以下の通りです。

  • 後継者が決まらないまま経営者が高齢化した
  • 業界構造の変化で将来の成長が見込みにくい
  • 原材料や人件費の高騰で利益改善の見通しが立たない
  • コロナ禍の長期化で経営基盤が脆弱化した

倒産・破産・休業・閉店・解散との概念比較

廃業と混同されやすい用語として倒産、破産、休業、閉店、解散があります。それぞれの違いを整理しておくことで、経営者が取るべき次の一手を誤らずに済みます。

倒産と廃業は発生原因が異なる

廃業
資産超過のまま自主的に事業を終了


倒産
支払不能や債務超過により事業継続が不可能になる強制的な終了

破産は債権者への公平な清算手続

破産

倒産した企業が裁判所の管理下で債務を整理し、残余財産を債権者に配分


廃業

必ずしも裁判所を介さず、自主的に資産を処分して清算できる

休業と閉店は再開の有無で判断

休業

再開を前提に一時的に事業を停止


閉店

特定店舗や営業所の恒久的な閉鎖


廃業

会社全体を終結し再開の予定がない

解散は廃業への入口となる法的ステップ

解散とは株主総会の特別決議などで会社の法人格を消滅させる第一歩です。解散後に清算を経て初めて廃業が完了します。

2023年に顕著だった廃業動向

2023年の休廃業・解散件数は約5万件と、東京商工リサーチが調査を始めた2000年以降で最多を更新しました。企業倒産も8,690件(前年比35.1%増)となり、企業の「消滅」は加速しています。

急増の背景にある五つの要因


 


  1. コロナ禍支援策の縮小
  2. コスト上昇と円安
  3. 変化対応力の不足
  4. 生産性向上の遅れ
  5. 後継者問題

経営者が今取るべきアクション

  • 自社の財務と市場環境を客観的に点検
  • 事業再構築やM&Aを含む選択肢の早期検討
  • 公的支援策や専門家の無料相談を活用

廃業時に必要な清算手続スケジュール

廃業を決めたら、会社法に基づき株主総会で解散を決議し清算に入ります。以下は通常清算を前提とした流れです。



 

 1. 株主総会での解散決議と清算人の選任 

   • 議決権を持つ出席株主の3分の2以上の賛成による特別決議が必要

   • 清算人を選任(通常は代表取締役が就任)

 2. 解散登記 

   • 株主総会での解散決議から2週間以内に実施

   • 本店および支店の所在地で解散と清算人の登記を行う

 3. 官公庁への届出 

   • 税務署:法人税・消費税等の届出

   • 都道府県税事務所:法人事業税・法人住民税等の届出

   • 労働基準監督署:労働保険関係の届出

   • 年金事務所:社会保険関係の届出

 4. 現務の結了と債権の取り立て 

   • 未完了の業務を完了させる

   • 未回収の債権を回収する

 5. 公告および通知 

   • 取引先へ解散の説明

   • 債権者保護のため、解散事実と債権申出に関する事項を公告

 6. 財産調査と財産目録の作成・承認 

   • 会社の保有財産を調査

   • 財産目録を作成し、株主総会で承認を得る

 7. 確定申告 

   • 解散事業年度の確定申告:事業年度開始日から解散日まで

   • 清算事業年度の確定申告:解散日の翌日から1年ごとの期間

 8. 資産の現金化、債務弁済、残余財産の分配 

   • 保有資産を売却して現金化

   • 申し出のあった全ての債務を弁済

   • 残余財産がある場合、清算人の決定に基づき株主に分配

 9. 残余財産の確定申告 

   • 残余財産確定日から残余財産の確定申告を行う

 10. 決算報告の作成・承認 

   • 清算事務完了後、最終的な決算報告書を作成

   • 株主総会で承認を得る

 11. 清算結了の登記 

   • 決算報告書の承認後2週間以内に清算結了の登記を行う

株主総会での解散決議と清算人選任

議決権を持つ出席株主の3分の2以上の賛成による特別決議で解散を決定します。同時に清算人を選任し、登記を行います。

官公庁への届出と公告

解散登記後2週間以内に登記を済ませ、税務署や労働基準監督署などに届出を行います。また官報公告と債権者への個別通知も欠かせません。

財産目録作成と債権回収・債務弁済

会社の全財産を洗い出して目録を作成し株主総会で承認を得た後、資産を現金化し債務を弁済します。

確定申告と残余財産の分配

解散事業年度と清算事業年度の法人税等を申告し、債務弁済後に残余財産があれば株主へ分配します。

清算結了登記で法人格が消滅

決算報告書が承認されたら2週間以内に清算結了登記を行い法人格が消滅します。

債務超過なら特別清算や破産へ移行

資産で債務を賄えない場合は特別清算を申し立て、それも困難なら破産手続に移行します。

M&Aで事業を存続させる代替策

廃業を選ぶ前に、M&Aによって事業を第三者へ引き継ぐ方法があります。

M&Aを選ぶ六つのメリット

  1. 事業の連続性
  2. 雇用の維持
  3. 経済的利益
  4. 取引先への影響を最小化
  5. ブランド価値の維持
  6. 新たな成長機会

活用できる公的支援策

  • 事業承継・引継ぎ支援センター
  • 事業承継・引継ぎ補助金
  • 事業承継税制
  • 日本政策金融公庫の融資
  • 各種ガイドライン・ハンドブック

M&Aは合理的な出口戦略の一つ

廃業費用や社会的損失を抑えつつ事業価値を維持できます。

廃業判断と専門家活用のポイント

廃業は経営者だけでなく従業員や取引先にも影響します。

慎重な意思決定が求められる理由

  • 従業員の雇用調整
  • 在庫・設備の大量処分費
  • 賃貸物件の原状回復費
  • 相続など家族間トラブルの可能性

廃業にかかる主な費用の目安

  • 解散登記の登録免許税:3万円
  • 清算人登記の登録免許税:9千円
  • 官報公告費用:3万~5万円
  • 債権者通知費用:1万~5万円
  • 税理士報酬:10万~30万円
  • 清算結了登記の登録免許税:2千円

費用負担を抑える視点


  • 在庫の早期処分
  • 設備の買い取り先探し
  • 原状回復の複数見積
  • 公的相談の活用

休業と廃業を比較する際のチェックリスト

観点    休業               廃業

目的    事業再開を視野に入れ一時停止   事業を完全に終了

手続    届出で完了            解散登記後に清算

費用    比較的少額                               高額

税務    申告義務継続                               清算ごとに申告

リスク  みなし解散の恐れ                       債権者対応漏れ


休業は固定費を抑えられますが税負担は一部残り、廃業は費用がかかる分維持費ゼロになります。時間軸とコストを見比べ、最適な道を選択しましょう。経験豊富な専門家へ早期に相談することが後悔しない第一歩です。

廃業費用の内訳を詳しく解説

廃業にはさまざまな費用が伴います。ここでは原文と参考に記載された数字を整理し、経営者が見落としやすいポイントを丁寧に示します。

登記・法手続にかかる費用

廃業で避けて通れないのが法務局への登記や官報公告です。代表的な項目と目安は次の通りです。


  • 解散登記の登録免許税:30,000円
  • 司法書士費用(解散登記):50,000~100,000円
  • 清算人登記の登録免許税:9,000円
  • 司法書士費用(清算人登記):50,000~100,000円
  • 官報公告費用:30,000~50,000円
  • 債権者通知費用:10,000~50,000円
  • 税理士報酬(確定申告):100,000~300,000円
  • 清算結了登記の登録免許税:2,000円
  • 司法書士費用(清算結了登記):50,000~100,000円


合計で概ね30万~100万円が一般的です。

在庫・設備処分費のポイント

在庫が多いほど確定申告時の税負担が増えるため、早期処分が必要です。仕入価格を下回る処分も想定し、専門業者への依頼手数料も加味しましょう。機械や設備は引き取り手がなければ専門業者に依頼するため、数百万から場合によっては1,000万円超の費用がかかるケースもあります。

物件原状回復費用と留意点

賃貸物件は1坪あたり数万~10万円の原状回復が目安です。間取り変更や設備移設がある場合は追加費用が発生します。複数社から見積を取り、退去時期と工程を確認しておくと余計なコストを防げます。

清算方法別手続(通常清算・特別清算・破産)を比較

廃業後の清算には三つのルートがあります。資産と負債のバランスに応じて選択が分かれます。

通常清算のステップ詳細

  1. 株主総会で解散決議(特別決議)
  2. 清算人選任と解散登記
  3. 官報公告・債権者催告
  4. 財産目録と貸借対照表の承認
  5. 資産換価・債権回収
  6. 債務弁済
  7. 残余財産分配
  8. 決算報告承認後、清算結了登記


資産超過が前提のため裁判所関与は不要で、手続が比較的簡便です。

特別清算の流れと留意点

債務超過または疑いがある場合に選択され、清算人は弁護士が就任するのが一般的です。

特別清算のメリット


  • 破産より費用が少額
  • 手続が比較的簡易で早期終結
  • 清算人を自社で選任できる
  • 「破産」の文字を避け企業イメージの悪化を抑えられる

特別清算のデメリット


  • 債権者の過半数かつ議決権3分の2以上の同意が必要
  • 合同会社など株式会社以外は利用できない
  • 債権者間で意見が割れると協定可決が難航

債権者の同意が得られない場合は破産手続へ移行します。

破産手続を選択するケース

特別清算でも債務完済が見込めない場合、裁判所へ破産申立てを行います。すべての資産・負債を法的に整理できる一方で、ネガティブイメージや費用・期間負担が大きくなります。

休廃業・休業・廃業の使い分け

休廃業とは資産超過での事業停止

特定の手続きを取らず、資産超過のまま事業を停止する状態を休廃業と呼びます。再開は未定ですが、解散登記を行わない点が特徴です。

休廃業を選ぶメリット・デメリット

  • 手続費用が発生せず柔軟に再開できる
  • ただし固定資産税や社会保険料の一部負担は継続
  • 登記義務を怠ると法務局がみなし解散を行うリスクがある

廃業前に検討すべきチェックリスト

廃業を急ぐ前に、次の観点を点検すると判断の精度が上がります。

財務面のチェック

  • 資産と負債の最新バランス
  • 資金繰りと将来キャッシュフロー
  • 廃業費用と廃業後の生活資金

ステークホルダーへの影響評価

  • 従業員の雇用・退職金
  • 取引先の取引継続可否
  • 家族・親族の資産承継

代替策(M&A・休業)検討

  • M&Aによる事業存続メリット
  • 休業で固定費を抑える可能性
  • 支援機関や補助金の活用余地

専門家へ相談する意義

法律・税務・人事労務の論点が交錯する廃業は、経営者一人で抱えるには負担が大きいものです。税理士・弁護士・社会保険労務士が連携することで、清算コストと手間を最小化しつつ法的リスクを回避できます。無料相談窓口や公的支援の利用も視野に入れ、早期に専門家へアクセスしましょう。

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まとめ

廃業は経営者の意思で事業を終える重要な決断です。倒産・休業・解散との違いを押さえ、清算方法と費用を正しく理解することが不可欠です。M&Aや休業など代替策を比較検討し、従業員や取引先への影響を最小限に抑えつつ、自社に最適な着地点を選びましょう。

著者|竹川 満  マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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