廃業するとは|倒産・破産・休業・閉店と何が違う?清算手続も紹介

廃業の定義や関連用語との違い、2023年の最新動向を詳しく解説します。また、清算手続の流れやM&Aを活用した事業継続の選択肢についても紹介しています。

目次

  1. 廃業の定義
  2. 2023年の廃業動向
  3. 廃業時の清算手続のスケジュール
  4. M&Aを活用した事業継続の選択肢
  5. まとめ

廃業の定義

廃業とは、会社や個人事業主が自主的に事業を終了することを指します。経営者の高齢化や後継者不在、事業環境の変化などが主な理由となっています。


廃業の方法


廃業と似た言葉には「倒産」「破産」「休業」「閉店」などがありますが、それぞれ意味や状況が異なります。これらの用語の違いを正しく理解することは、経営者や事業に関わる方々にとって重要です。

倒産と廃業を区別する特徴

倒産と廃業は、どちらも事業の終了を意味しますが、その状況と経緯に明確な違いがあります。

廃業:資産超過の状態で自主的に事業を終了すること 

倒産:債務の支払いが困難になり、事業継続が不可能になった状態

東京商工リサーチなどの民間調査機関では、倒産を以下のような状況と定義しています。

 • 銀行取引停止処分を受けた場合

 • 代表者が倒産を認め、債権者と個別に話し合いの上、債務整理を行った場合

 • 裁判所で会社更生手続、民事再生手続、破産手続、特別清算手続を開始した場合

つまり、廃業は経営者の意思による自主的な判断であるのに対し、倒産は財務状況の悪化による強制的な事業終了といえます。

破産手続と廃業の相違点

破産と廃業は、どちらも事業の終了を意味しますが、その手続と状況に大きな違いがあります。

・廃業:会社や個人事業主が自ら事業をやめること 

・破産:倒産した会社や個人事業主が債権者に対して財産を配分するために裁判所で行う法的手続

破産手続は、倒産した企業の約8割が選択する方法です。債務超過状態にある企業が、裁判所の管理下で公平に債務を清算するためのプロセスとなります。

一方、廃業は必ずしも債務超過状態ではなく、経営者の判断で事業を終了するケースも多くあります。廃業の場合、裁判所を介さずに自主的に債務の清算や資産の処分を行うことができます。

休業と廃業の明確な違い

休業と廃業は、どちらも事業活動の停止を意味しますが、その目的と期間に大きな違いがあります。

・休業:事業の再開を前提に、一時的に事業活動を停止すること

・廃業:事業を完全に終了し、再開の予定がないこと

休業の場合、以下のような特徴があります:

 1. 手続が比較的簡便(税務署や労働基準監督署、各自治体への届出で完了)

 2. 営業を行っていない期間は、一部の税金(住民税の均等割や固定資産税など)を除き、通常の事業税は発生しない

 3. 休業期間中も税務申告や登記に関する義務は継続

 4. 2期連続で税務申告を行わなかった場合、青色申告が取り消される可能性がある

 5. 所定の期間を超えて登記義務が履行されない場合、法務局が強制的にみなし解散の登記を行う可能性がある

休業は一時的な事業停止であるため、再開を見据えた対応が必要です。一方、廃業は事業の完全な終了を意味し、再開の予定がない点が大きく異なります。

閉店と廃業の概念の違い

閉店と廃業は、どちらも事業活動の停止を意味しますが、その範囲と影響に違いがあります。

・閉店:特定の店舗や営業所を閉鎖すること 

・廃業:事業全体を終了すること

閉店の理由は様々で、以下のようなケースが考えられます:

 • 倒産による強制的な店舗閉鎖

 • 廃業に伴う全店舗の閉鎖

 • 経営戦略による特定店舗の閉鎖(他店舗は継続営業)

 • 移転や改装のための一時的な閉店

つまり、閉店は必ずしも事業全体の終了を意味せず、一部の店舗や営業所のみを閉鎖する場合もあります。一方、廃業は事業全体の終了を意味し、全ての店舗や営業所が閉鎖されることになります。

休業と閉店の区別

休業と閉店は、どちらも事業活動の一時的な停止を意味しますが、その範囲と目的に違いがあります。

・休業:事業全体または特定の店舗、部門の活動を一時的に停止すること 

・閉店:特定の店舗や営業所を完全に閉鎖すること

主な違いは以下の通りです:

 1. 再開の可能性: 

   • 休業:原則として事業再開を前提としている

   • 閉店:その店舗での営業再開は通常想定していない

 2. 範囲: 

   • 休業:企業全体や特定の部門など、幅広い範囲で適用可能

   • 閉店:特定の店舗や営業所に限定される

 3. 期間: 

   • 休業:明確な期間を設定することが多い

   • 閉店:基本的に恒久的な措置

 4. 手続: 

   • 休業:比較的簡易な手続で実施可能

   • 閉店:賃貸契約の解除や従業員の異動など、より複雑な手続が必要

休業は事業の一時的な中断を意味し、再開を前提としています。一方、閉店は特定の店舗や営業所の完全な閉鎖を意味し、その場所での事業再開は通常想定されていません。ただし、企業戦略によっては、閉店後に同じ場所で別のコンセプトの店舗をオープンするケースもあります。

2023年の廃業動向

2023年の日本における廃業の動向は、経済環境の変化や企業の経営状況を反映して、注目すべき特徴が見られました。この情報は、経営者や事業関係者にとって重要な指標となります。

近年の廃業件数の推移

東京商工リサーチの調査によると、2023年の休廃業・解散件数は約5万件に達し、2年連続で増加傾向を示しました。これは、同社が調査を開始した2000年以降で最多の件数となっています。

また、2023年の企業倒産件数は8,690件で、前年比35.1%増となりました。この数字は、休廃業・解散と倒産を合わせた企業の「消滅」が加速していることを示しています。

 


企業が廃業に至る主な要因

2023年に廃業や倒産が増加した背景には、以下のような要因が考えられます:

 1. コロナ禍の影響の長期化: 

   • 感染症対策の緩和により、一時的な支援策が縮小

   • 事業継続の判断を先送りにしていた経営者の決断が増加

 2. 経済環境の変化: 

   • 人件費や原材料価格の高騰

   • 円安の影響

 3. 市場環境の変化への対応力不足: 

   • 事業環境の急激な変化に適応できない企業の増加

   • 過小な資本力で対応しきれない中小企業の苦戦

 4. 生産性向上や利益改善の見通しが立たない企業の増加: 

   • 競争力の低下

   • 事業モデルの陳腐化

 5. 後継者問題: 

   • 経営者の高齢化

   • 事業承継の課題

これらの要因が複合的に作用し、特に中小企業や個人事業主にとって厳しい経営環境が続いています。今後も、市場や事業環境の変化への対応が遅れている企業や、経営基盤が脆弱な企業の倒産や休廃業が加速する可能性があります。

経営者は、これらの動向を注視しつつ、自社の経営状況を客観的に分析し、必要に応じて事業再構築や承継計画の検討を行うことが重要です。また、政府や金融機関による支援策の活用も、事業継続や円滑な廃業のための有効な選択肢となる可能性があります。

廃業時の清算手続のスケジュール

廃業を決定した場合、適切な手続を踏んで清算を行うことが重要です。以下に、一般的な廃業時の清算手続の流れを詳しく説明します。


 

 1. 株主総会での解散決議と清算人の選任 

   • 議決権を持つ出席株主の3分の2以上の賛成による特別決議が必要

   • 清算人を選任(通常は代表取締役が就任)

 2. 解散登記 

   • 株主総会での解散決議から2週間以内に実施

   • 本店および支店の所在地で解散と清算人の登記を行う

 3. 官公庁への届出 

   • 税務署:法人税・消費税等の届出

   • 都道府県税事務所:法人事業税・法人住民税等の届出

   • 労働基準監督署:労働保険関係の届出

   • 年金事務所:社会保険関係の届出

 4. 現務の結了と債権の取り立て 

   • 未完了の業務を完了させる

   • 未回収の債権を回収する

 5. 公告および通知 

   • 取引先へ解散の説明

   • 債権者保護のため、解散事実と債権申出に関する事項を公告

 6. 財産調査と財産目録の作成・承認 

   • 会社の保有財産を調査

   • 財産目録を作成し、株主総会で承認を得る

 7. 確定申告 

   • 解散事業年度の確定申告:事業年度開始日から解散日まで

   • 清算事業年度の確定申告:解散日の翌日から1年ごとの期間

 8. 資産の現金化、債務弁済、残余財産の分配 

   • 保有資産を売却して現金化

   • 申し出のあった全ての債務を弁済

   • 残余財産がある場合、清算人の決定に基づき株主に分配

 9. 残余財産の確定申告 

   • 残余財産確定日から残余財産の確定申告を行う

 10. 決算報告の作成・承認 

   • 清算事務完了後、最終的な決算報告書を作成

   • 株主総会で承認を得る

 11. 清算結了の登記 

   • 決算報告書の承認後2週間以内に清算結了の登記を行う

M&Aを活用した事業継続の選択肢

廃業を検討する前に、M&A(合併・買収)を活用した事業継続の可能性を探ることも重要な選択肢となります。M&Aは、後継者不在や業績不振などの問題を抱える企業にとって、事業を存続させながら課題を解決する有効な手段となる可能性があります。

M&Aによる廃業回避のメリット

M&Aを活用して廃業を回避することには、以下のようなメリットがあります:

 1. 事業の存続: 

   • 会社や事業を継続させることができる

   • 長年培ってきた技術やノウハウを次世代に引き継ぐことが可能

 2. 雇用の維持: 

   • 従業員の雇用を守ることができる

   • 熟練した人材の流出を防ぐことが可能

 3. 経済的メリット: 

   • 会社売却による売却益を得られる可能性がある

   • 引退後の生活資金を確保しつつ、会社の資金を減らさずに済む

 4. 取引先への影響の最小化: 

   • 事業が継続されるため、取引先や関係者への影響を抑えられる

   • 突然の廃業による混乱を避けることができる

 5. ブランド価値の維持: 

   • 長年築いてきた会社のブランドや信用を存続させることが可能

 6. 新たな成長の機会: 

   • 買収企業のリソースやノウハウを活用し、事業を発展させる可能性がある

これらのメリットにより、M&Aは経営者、従業員、取引先など、会社に関わるすべての人にとって有益な選択肢となり得ます。経営者の交代を除けば、M&Aは会社の出口戦略として最も合理的な選択肢の一つと言えるでしょう。

利用可能な制度と支援策

日本政府は、中小企業の円滑な事業承継やM&Aを促進するため、さまざまな支援策を実施しています。主な制度や支援策は以下の通りです:

 1. 事業承継・引継ぎ支援センター 

   • 全国47都道府県に設置された無料の公的相談窓口

   • 事業承継全般やM&Aのマッチング支援を提供

 2. 事業承継・引継ぎ補助金 

   • M&A実行時の専門家活用費用を補助

   • 事業承継時の設備投資費用などを支援

 3. 事業承継税制 

   • 事業承継に伴う贈与税や相続税の負担を軽減する制度

   • 非上場株式等に係る贈与税・相続税の納税猶予制度など

 4. 日本政策金融公庫の融資 

   • M&Aや事業承継に関連する各種資金の融資を実施

 5. 各種ガイドラインとハンドブック 

   • 「事業承継ガイドライン」:円滑な事業承継のためのポイントを解説

   • 「中小M&Aハンドブック」:M&Aプロセスや注意点をわかりやすく説明

これらの支援策を活用することで、M&Aや事業承継のハードルを下げることができます。特に、事業承継・引継ぎ支援センターは無料で利用できる公的機関であり、初期の相談や情報収集に適しています。

まとめ

廃業は、経営者が直面する重要な選択肢の一つですが、その影響は広範囲に及びます。近年の経済環境の変化や後継者不足により、廃業を検討する企業が増加していますが、M&Aなどの代替策も注目されています。適切な判断と手続を行うことで、経営者、従業員、取引先にとって最善の結果を導くことができます。専門家の助言を得ながら、慎重に検討することが重要です。

著者|竹川 満  マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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