事業承継計画書の重要性と作成方法を詳しく解説します。計画策定の必要性、効果的な立て方、作成時の注意点、さらにM&A活用のポイントまで、事業承継を成功させるための情報を網羅的にお伝えします。
目次
事業承継計画とは、企業の経営者が自社の事業を次世代に引き継ぐための中長期的な戦略を示すものです。この計画書は、通常5年から10年という期間を対象とし、誰に事業を承継するかという重要な決定も含まれます。
承継先としては、主に以下の3つの選択肢があります:
1. 親族への承継
2. 役員・従業員への承継
3. 第三者への承継
これらの選択肢のいずれも実現が困難な場合、最終的には廃業という選択肢を検討することもあります。
事業承継計画は、企業の将来を左右する極めて重要な経営課題です。後継者への円滑なバトンタッチなくして、会社の持続的な発展は望めません。しかし、事業承継の準備には10年以上の時間を要するとも言われており、早期からの計画立案と実行が不可欠です。
▶目次ページ:事業承継とは(事業承継とは)
事業承継計画を策定することは、企業の持続的な成長と安定した経営基盤の構築に欠かせません。その必要性は主に以下の点にあります。
1. 現経営者と後継者候補の意思疎通促進: 計画策定プロセスを通じて、現経営者の経営理念や事業展望を後継者候補
と共有し、相互理解を深めることができます。
2. 社外ステークホルダーへの安心感提供: 金融機関や取引先などの社外関係者に対して、計画的な事業承継の姿勢を
示すことで、信頼関係の維持・強化につながります。
3. スムーズな事業承継の実現: 計画的に進めることで、想定外の事態を最小限に抑え、円滑な事業承継を実現できま
す。
事業承継時の税負担を軽減するための特例措置として、「事業承継税制」があります。この特例措置の適用を受けるためには、事業承継計画の提出が要件の一つとなっています。計画を策定することで、この税制優遇を活用し、承継時の財務的負担を軽減できる可能性があります。
事業承継計画を効果的に立てるためには、以下の点に注意しながら進めていくことが重要です。
事業承継計画には、法律で定められた統一フォーマットはありません。各企業の状況に応じて、自由な形式で作成することができます。ただし、以下のような資料を参考にすると、網羅的でわかりやすい計画を立てやすくなります:
• 事業承継支援センターや金融機関が提供するひな形
• 中小企業庁が公開している「事業承継ガイドライン」
これらを基に、自社にとって重要な項目を追加したり、不要な項目を削除したりしてカスタマイズすることがポイントです。
事業承継計画を立てる上で、以下のような基本情報を整理しておくことが不可欠です:
1. 家族構成:
o 法定相続人および親族関係
o 株式の保有状況
2. 承継予定時期:
o 現経営者の年齢
o 引退のタイミング
3. 企業概要:
o 会社の沿革
o 事業内容
o 業績や財務状況
o 組織体制
これらの情報を事前に整理し、準備しておくことで、より実効性の高い計画を立てることができます。
現在の経営状況や事業環境を分析した上で、今後の見通しを立てることが重要です。具体的には以下のような項目を検討します:
1. SWOT分析: 自社の強み・弱み、機会・脅威を整理します。
2. 事業の将来展望: 今後の事業見通しや成長戦略を明確にします。
3. 承継方針: 後継者への引き継ぎ方針を定めます。
4. 人材育成計画: 後継者を含む次世代の経営人材の育成方針を策定します。
現状をしっかりと分析し、中長期的に目指すべき方向性を示すことで、より実現可能性の高い事業承継計画を立てることができます。
事業承継計画を作成する際には、以下の点に特に注意を払う必要があります。
事業承継の準備を始めるタイミングは、遅くとも経営者が60歳前後になる頃が適切だとされています。60代に入ると、体力や判断力の低下を感じる人も少なくありません。
急な事態に備えて、計画的に後継者を選定し、十分な引き継ぎ期間を設けることが重要です。理想的なスケジュールとしては、以下のようなタイムラインが考えられます:
1. 60歳前後:事業承継計画のスタート
2. 70歳まで:後継者への事業の全面的な譲渡
3. その後:後継者のサポート期間
このように、十分な準備期間を確保することで、円滑な事業承継を実現できる可能性が高まります。
事業承継計画は、全体の大まかな流れだけでなく、組織的に実行するための具体的なスケジュールも立てておくことが重要です。これにより、後々の混乱を防ぐことができます。
ただし、計画通りに進まないこともあります。そのため、以下の点に注意しましょう:
1. 柔軟性を持つ: 計画通りであることに固執せず、状況に応じて柔軟に対応する姿勢を持ちます。
2. 定期的な見直し: 事業承継は長期にわたるプロセスです。計画を作成して満足せず、常にアップデートを心がけます。
3. 進捗管理: 定期的に進捗状況を確認し、必要に応じて計画を修正します。
事業承継を円滑に進めるためには、現在抱えている問題点を事前に解決しておくことが重要です。特に以下のような問題がある場合は、早急に対策を講じる必要があります:
1. 業績不振
2. 資金繰りの悪化
3. 後継者候補の不在
これらの問題が解決されていない状態では、後継者候補が事業を引き継ぐことを躊躇する可能性が高くなります。場合によっては、専門家など外部の力を借りながら、組織的に問題解決に取り組むことが求められます。
事業承継の方法は、子供や親族への承継だけが選択肢ではありません。主に以下の3つの選択肢があり、それぞれに特徴やメリット・デメリットがあります:
1. 親族への承継:
o メリット:経営理念や企業文化の継続性が高い
o デメリット:適切な能力を持つ後継者が見つからない可能性がある
2. 役員・従業員への承継:
o メリット:事業に精通した人材が引き継ぐため、スムーズな移行が期待できる
o デメリット:資金面での課題が生じる可能性がある
3. 第三者への承継(M&Aなど):
o メリット:広範囲から最適な後継者を見つけられる可能性がある
o デメリット:企業文化や従業員の処遇に変化が生じる可能性がある
自社の状況や経営者の意向、後継者候補の有無などを総合的に考慮し、最適な承継方法を選択することが重要です。
M&Aによる事業承継を検討する場合、専門家の支援を受けることで、より円滑に進めることができます。
M&Aアドバイザーに依頼できる主な業務には、以下のようなものがあります:
1. 譲渡候補企業の探索: 自社の希望に沿う譲渡先企業を見つけ出します。
2. 企業価値算定: 自社の価値を適切に評価し、算定資料を作成します。
3. サマリー資料の作成: 自社の魅力を効果的にアピールする資料を作成します。
4. 譲渡候補企業への提案: 選定した候補企業に対して、M&Aの提案を行います。
5. 条件交渉: できるだけ希望の譲渡額に近づけるよう、交渉を代行します。
6. デューデリジェンスのサポート: 財務、法務、人事など多岐にわたる調査をサポートします。
7. 契約書作成支援: 法的な観点から適切な契約書の作成をサポートします。
これらの専門的な業務を依頼することで、M&Aプロセスをより効率的かつ効果的に進めることができます。
M&A専門会社を活用することには、以下のようなメリットがあります:
1. 最適な譲渡先企業の発見: M&A専門会社は多くの企業情報を保有しているため、自社の意向に沿った譲渡候補企業
を見つけられる可能性が高くなります。
2. 専門的な知識とスキルの活用: 企業価値評価や条件交渉など、専門的な知識が必要な場面で適切なサポートを受け
られます。
3. 時間と労力の節約: M&Aに関する煩雑な作業を専門家に任せることで、経営者は本業に集中できます。
4. 守秘義務の徹底: M&A情報の漏洩リスクを最小限に抑えることができます。
5. 公平な立場からの助言: 第三者の視点から、客観的な助言を受けることができます。
6. ネットワークの活用: M&A専門会社の持つ幅広いネットワークを通じて、より多くの選択肢から最適な譲渡先を見
つけられる可能性が高まります。
7. スムーズな交渉進行: 経験豊富な専門家が交渉を代行することで、感情的になりがちな直接交渉を避け、円滑に進
めることができます。
後継者が見つからず事業承継に悩んでいる場合、M&A専門会社に相談することで新たな選択肢が見つかる可能性があります。専門家の知見を活用し、最適な事業承継の道を探ることをおすすめします。
事業承継計画の策定は、企業の持続的発展を実現するための重要なステップです。早期から準備を始め、現状分析から将来展望まで包括的に検討することが大切です。特に、後継者の育成や社外関係者の理解と協力を得るためには、長期的な視点で取り組む必要があります。自社の実情に即した実践的な計画を立て、必要に応じて専門家の支援を受けながら、着実に実行に移していくことが事業承継成功の鍵となります。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事