事業承継計画で押さえるべき計画書の書き方とひな型活用法を解説

事業承継計画は、企業を次世代へ円滑に引き継ぐための重要な設計図です。承継先や税制の活用、後継者育成のポイントから具体的な計画書の書き方まで、小学生にも分かるよう噛み砕いて解説します。事業承継に悩む経営者必見の内容です。

目次

  1. 事業承継計画とは何か
  2. 事業承継計画を作成するメリット
  3. 事業承継計画策定の必要性と基本ステップ
  4. 効果的な計画書の立て方とひな形活用法
  5. 計画作成時の注意点と準備すべきこと
  6. 親族・従業員・第三者への承継方法の特徴
  7. M&Aを活用した事業承継のポイント
  8. まとめ

事業承継計画とは何か

事業承継計画は、現経営者が自社を次世代へ引き継ぐために、中長期的な視点でまとめた設計図のようなものです。具体的には「何年後に誰へ引き継ぐのか」「どのように後継者を育成するのか」といった基本方針をはじめ、株式移転の方法や社内外のステークホルダーへの対応策、承継完了までのスケジュールなど、承継の全プロセスを明確に示します。

事業承継には5~10年といった長い期間が必要になる場合が多く、また、後継者にふさわしい人材が必ず身近にいるとも限りません。後継者が見つからず悩んだ末にM&Aを選ぶこともあれば、やむを得ず廃業という選択肢を考えなくてはならないケースもあり得ます。こうした中で、事業承継計画を立案しておくことは、突発的なトラブルを回避し、将来の進むべき道を見失わないためにも非常に重要です。

事業承継計画を作成するメリット

事業承継計画を作成する具体的なメリットとしては、次のような点が挙げられます。

現状分析と将来設計を同時に行える

企業の経営状況や財務内容、事業環境を改めて整理し、将来のビジョンを共有できます。経営者が思い描いている将来像と、後継者が考える将来像をすり合わせる機会にもなり、より現実的な方向性を導きやすくなります。

関係者の理解を得やすい

事業承継には従業員や金融機関、取引先などの協力が欠かせません。事業承継計画の存在を示すことで、「計画的な経営を行っている会社」として信頼度が高まり、周囲からのサポートを受けやすくなります。

後継者育成を体系的に進められる

経営理念や経営ノウハウを後継者に伝えるには時間と計画が必要です。後継者候補の教育を早期に始めることで、経営交代時の混乱を最小限に抑えられます。段階的な経験を積ませることにより、従業員からの信頼を獲得しやすくなる利点もあります。

株式の整理と税制優遇の活用

事業承継では株式の集約が大きなテーマになります。事前に株価対策をしたり、贈与・相続などの方法を検討したりする際には、計画を立案しておくことが必須です。また、「事業承継税制の特例措置」が利用できるケースもあり、事前に計画書を作成しておくことで税負担軽減を図れる可能性があります。

このように、事業承継計画を作成するメリットは多岐にわたります。経営者の想いをしっかりと後継者へ引き継ぎ、会社の経営理念や企業文化を安定的に継続していくためにも、計画の存在が大きく役立ちます。

事業承継計画策定の必要性と基本ステップ

早めに計画を策定すれば、後継者の選定や教育、社内外の合意形成などを十分な時間をかけて行うことができます。一方で、事業承継は遅れれば遅れるほど難易度が増し、場合によっては優秀な後継者候補が離れてしまうリスクもあります。そこで、具体的な策定の流れを押さえておきましょう。

STEP1:現状把握

自社の経営資源(従業員数や資産・負債、業績、経営者個人の資産状況など)を正確に把握します。あわせて、社内の体制や社外の事業環境、そして後継者の有無や能力について客観的に分析・整理することが大切です。

STEP2:承継方法や承継時期の検討

親族承継・従業員承継・第三者への承継(M&A含む)など、会社の状況に応じた方法を選びます。同時に、いつのタイミングで事業承継を実施するのか、おおよその目標を設定します。株式の譲渡や贈与、あるいは相続対策など、どのように後継者へ権限を集中させるかも重要です。

STEP3:計画書の作成と具体的スケジュール策定

現状分析と承継方法・時期の検討を経て、具体的な計画書を作成します。どの時期に、誰が何を行うのかを明確にするため、ロードマップ形式で書き出すのがおすすめです。テンプレートとしては金融機関や中小企業支援機関が提供するひな形、日本政策金融公庫や中小企業基盤整備機構の事業承継計画表などが参考になります。

STEP4:実行と定期的な見直し

計画は一度立てたら終わりではありません。承継が完了するまでの間、定期的に進捗をチェックし、必要に応じて修正を加えながら進めることが大切です。特に事業環境や後継者のスキルアップ状況に変化が生じた場合には、柔軟な対応が求められます。

効果的な計画書の立て方とひな形活用法

事業承継計画を作る際、法的に決まったフォーマットはありません。しかし、「どのような項目を盛り込むか」を明確にしておくだけで、抜け漏れを防ぐことができます。以下の点を押さえたうえで、必要に応じて金融機関や公的機関が提供するテンプレートを活用するとスムーズです。

事業承継計画書の概要欄を設ける

現経営者や後継者の名前、想定する承継の時期などを明示し、一目で全体像を把握しやすくします。

経営理念・ビジョンを明記する

事業承継の目的が後継者の単なる「業務引継ぎ」に終わらないためにも、企業理念や将来像をしっかりと文章化しておくことが大切です。

承継に伴う具体的な取り組みを列挙する

株式・財産の移転や後継者教育、少数株主・名義株の整理など、抜けやすいポイントを洗い出して順番に整理します。記載内容を「いつ・誰が・何を行うのか」という形で細分化すると、後から見返すときにも役立ちます。

承継に必要な資金計画を示す

贈与税や相続税、株式譲渡の資金など、承継に伴い発生する費用がどの程度になるかを具体的な数字で示します。計画通りに資金を確保できるか、金融機関に相談する必要があるかといった判断材料にもなります。

計画作成時の注意点と準備すべきこと

事業承継計画書を作るだけではなく、それを実行できる体制を整えておくことが欠かせません。特に以下の点には注意が必要です。

計画開始時期は60歳前後が目安

「まだまだ元気だから大丈夫」と思っているうちに、もしも経営者自身が病気や事故に見舞われてしまうと、会社は大きく揺らぎます。60歳前後には計画を始動し、70歳になる頃までに後継者へバトンタッチするタイムラインを想定するケースが多いです。

組織的なスケジュール管理を行う

事業承継には経営者だけでなく、役員や従業員、金融機関など、多くの関係者がかかわります。そのため全体のスケジュールを設定し、定期的に進捗をチェックしながら柔軟に軌道修正する仕組みが重要です。

現状の問題点は先送りしない

業績不振や資金繰り、後継者不在といった課題がある場合は、承継前にできるだけ解決を図ります。問題点が解消されていないと、後継者の経営に大きな負荷をかけることになり、スムーズに引き継ぎが行われない恐れがあります。

親族・従業員・第三者への承継方法の特徴

事業承継の方法としては、大きく分けて「親族承継」「従業員(役員)承継」「第三者承継(M&Aなど)」の3つがあります。どの方法を選択するかは、後継者候補の存在や経営者の意向、会社の財務状態などにより異なります。下記の特徴を理解し、自社に合った承継方法を検討しましょう。

親族承継

親や祖父母などの経営者が、子や孫といった親族へ事業を引き継ぐ方法です。もともとファミリービジネスとして家業を継いでいる場合にはもっとも一般的なケースかもしれません。親族承継には以下のようなメリットとデメリットがあります。

  • メリット

経営理念や社風を継続しやすい。

親族間のコミュニケーションがとりやすく、従業員も安心感を抱きやすい。

  • デメリット

後継者としての能力や適性が必ずしも高いとは限らない。

親族内に他の相続人がいる場合、株式の集約や遺留分への配慮が必要になる。

従業員(役員)承継

社内の役員や従業員が後継者となるケースです。会社の事業内容や社風を理解している人が引き継ぐことで、事業の continuity(継続性)が期待できます。ただし、親族承継とは異なる課題もあります。

  • メリット

業務に精通しているため、経営実態を把握しやすい。

組織への影響が少なく、従業員のモチベーションを維持しやすい。

  • デメリット

株式譲渡のための資金調達が課題となりやすい。

後継者本人が「オーナー経営者」となる意識や覚悟を持てない場合、スムーズに進まない可能性がある。

第三者承継(M&Aなど)

親族でも従業員でもなく、外部の企業や個人へ事業を承継する方法です。業界内外を問わず、幅広い企業とのマッチングを検討できるため、自社の成長やシナジーを重視する場合に有力な選択肢となります。

  • メリット

最適な譲受企業や個人を見つけられれば、大きな成長機会を得られる。

経営者個人にとって譲渡益を得やすく、リタイア後の生活を安定させやすい。

  • デメリット

企業文化や従業員の待遇など、大きな変化が生じる可能性がある。

交渉過程で情報漏洩が起きたり、従業員や取引先の不安が高まるリスクがある。

それぞれの承継方法には異なるメリット・デメリットが存在します。自社の将来展望や後継者候補の有無、資金面の問題点などを総合的に検討し、どの承継方法を選ぶかを早めに決めることが大切です。

M&Aを活用した事業承継のポイント

後継者が見つからない場合や、外部資本を導入してさらなる成長を図りたい場合などは、M&Aという選択肢が浮上します。M&Aは第三者承継の一つの形態であり、以下のようなプロセスやポイントを押さえると、よりスムーズに進められます。


M&Aアドバイザーや専門会社の活用

経営者自らが譲渡候補企業を探したり、交渉をまとめたりするのは時間と労力がかかります。そこで、M&AアドバイザーやM&A専門会社を活用することで、必要書類の作成やデューデリジェンス対応、企業価値の算定、秘密保持などを効率的に進められます。とりわけオーナー経営者が本業を優先しつつ事業承継を実現したい場合、専門家の協力は非常に心強い存在です。

企業価値の算定とサマリー資料の作成

M&Aでは、譲渡企業の価値を正しく把握することが重要です。企業価値算定書やサマリー資料を作成する際には、財務・税務・法務など総合的な視点が必要になります。適正な評価がなされていないと、交渉決裂につながる可能性があるため、専門家の助力を得て慎重に進めましょう。

候補企業とのマッチングと条件交渉

M&Aの最終的な成否は、譲渡先企業との条件が合致するかどうかにかかっています。譲渡価格のほか、従業員の雇用継続や社名・ブランドの扱いなども交渉事項になります。M&Aアドバイザーが間に入ることで、オーナー経営者が直接対峙するよりも冷静に進めやすくなり、感情的なこじれを回避しやすくなるでしょう。

デューデリジェンス(DD)の徹底

買い手企業は、財務・法務・人事などの調査を徹底的に行い、想定外のリスクや負債が潜んでいないかを確認します。譲渡企業の側も、求められる書類を正確かつ迅速に提供し、疑義があれば誠実に回答する姿勢が必要です。DDが円滑に進むかどうかは、M&A成功の大きな分かれ目になります。

契約締結と最終クロージング

M&Aの最終段階では、基本合意書や最終契約書を交わし、譲渡条件や支払スケジュールなどを法的に確定させます。締結後に追加でトラブルが起きないよう、細部まで詰めることが重要です。

M&Aによる事業承継は、自社の後継者問題を解決できるだけでなく、新たな経営資源の投入や市場拡大にもつながる可能性があります。専門会社やアドバイザーを有効に活用しながら、計画的に進めるのがポイントです。

まとめ

事業承継計画書を策定することは、企業の未来をしっかりと描きながら、着実にバトンを次世代へ渡すための重要なプロセスです。承継先や税制優遇策の活用、株式整理のポイントなど、多岐にわたる項目を総合的に検討し、早期から準備することでスムーズな承継につながります。さらに、後継者や従業員、取引先など社内外の協力を得るためにも、具体的な計画書の存在が不可欠です。必要に応じて専門家の知恵を借りながら、自社の状況に合わせた最適な方法を選び、企業の持続的な発展をめざしていきましょう。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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