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企業買収とM&A完全理解で事業成長を実現する方法を解説

企業買収やM&Aを成功させるにはどうすればいいでしょうか。答えは、目的を明確にし、適切な手法を選び、統合まで一貫して準備を進めることです。本記事ではその全体像をわかりやすく説明します。

目次

  1. 企業買収とは他社の株式や事業を取得し経営権を得る取引
  2. 企業買収の主な目的は経営資源獲得と競争力強化
  3. 友好的買収と敵対的買収の違いを理解する
  4. 企業買収が譲受企業にもたらす五つのメリット
  5. 企業買収に潜む四つのデメリットとリスク
  6. 企業買収の代表的な五つの方法
  7. 企業買収の相場と費用構成を把握する
  8. 企業買収を成功させる五つのポイント
  9. PMIを円滑に進めるための実務ステップ
  10. 企業買収を取り巻く法規制とガバナンス面の留意点
  11. 企業買収のバリュエーション基礎を理解する
  12. 企業買収の防衛策で経営の独立性を守る
  13. 企業買収の流れとプロセスを6ステップで理解する
  14. 企業買収の費用とその内訳を具体例で確認
  15. 成功事例から学ぶ企業買収のポイント

企業買収とは他社の株式や事業を取得し経営権を得る取引

企業買収とは、譲受企業が譲渡企業の株式や事業を取得して支配権を手に入れ、グループ会社や事業部として組み込むM&Aの一類型です。価格は特殊な算式で算定されつつも、当事者間の合意で決定されます。買収後は譲渡企業が子会社化されるため、資源やノウハウを短期間で取り込める点が特徴です。

近年の企業買収とM&A件数は高水準で推移

新型コロナウイルスの影響で2020年に一時減少したものの、2021年は回復し過去最高件数、2022年は4 304件、2023年も4 015件と高水準を維持しています。国は中小企業の後継者不足を背景に2021年に中小M&A推進計画を策定し、買収を後押ししています。

後継者不足が企業買収需要を押し上げる背景

2025年までに70歳を超える中小企業経営者は約245万人、そのうち約127万人は後継者が未定です。日本企業の約3分の1を占めるこの課題は、譲渡企業が買い手を探す流れを加速させ、譲受企業にとっては成長機会となっています。

企業買収の主な目的は経営資源獲得と競争力強化

企業買収の目的は譲受企業の戦略により多岐にわたりますが、大きく分けて次の四点が挙げられます。

経営資源の獲得で事業拡大を加速

設備・人材・ブランド・ノウハウなどを一括で取得できるため、新規事業立ち上げや既存事業の強化を短期間で実現できます。

業界再編やグループ再編によるシェア拡大

同業他社の子会社化やグループ内再編で重複機能を統合し、コスト削減と競争力向上を図ります。株式交換や株式移転がよく用いられます。

事業多角化でリスクを分散

本業と異なる分野へ進出することで収益源を分け、景気変動の影響を和らげます。買収済企業の販売網やノウハウを活用すれば参入コストを抑えられます。

税務上の繰越欠損金を活用し節税効果を得る

赤字企業を買収した場合、一定の要件下で欠損金を相殺できるため法人税を軽減できるケースがあります。ただし利用には制限があるため専門家の確認が必要です。

友好的買収と敵対的買収の違いを理解する

企業買収は譲渡企業の取締役会が同意するか否かで「友好的」と「敵対的」に大別されます。

友好的買収は双方が協議し合意して進行

譲渡企業の取締役会が株式譲渡を承認した上で実施されるため、PMI(経営統合)が比較的円滑に行われやすい点が利点です。

敵対的買収は同意なく公開買付を通じて株式取得

上場企業で用いられることが多く、譲渡企業経営陣の反発や買収防衛策に留意しなければなりません。

企業買収が譲受企業にもたらす五つのメリット

1.事業拡大で売上と市場シェアを伸ばす

同業買収により人材・販路・ノウハウが一体で手に入り、既存事業を強化できます。

2.規模の経済を生かしコストを削減

大量仕入れによる単価交渉力の強化、生産性向上、物流効率化により経費を下げられます。

3.新規分野への参入をスピードアップ

既存顧客基盤や技術を活用できるため、一から事業を立ち上げる場合に比べて時間とコストを大幅に短縮できます。

4.競争力を迅速に高められる

人材育成や研究開発に数年かかるところを、買収で即時にリソースを獲得し成長を加速できます。

5.シナジー効果で収益増加と費用削減を両立

グループ全体で資源を共有し弱みを補完することで、売上向上とコスト削減の二面で相乗効果が期待できます。

企業買収に潜む四つのデメリットとリスク

簿外債務・偶発債務を引き継ぐ可能性

株式譲渡で企業全体を買う場合、貸借対照表に現れない負債や将来の訴訟リスクも包括的に継承します。

PMIの負担と従業員への影響

人事制度や労働条件の統一には時間と労力がかかり、従業員にストレスを与える恐れがあります。計画的なコミュニケーションが不可欠です。

キーマン流出が競争力を低下させる

統合プロセスが不十分だと、譲渡企業の主要人材が離職し組織ノウハウが失われるリスクがあります。

のれんの減損で損失計上リスク

買収時に計上したのれんの価値が下がると減損損失が発生し、財務に大きなダメージを与えます。

企業買収の代表的な五つの方法

1.株式譲渡は手続が簡便で実務例が最多

譲受企業が発行済株式を取得し経営権を得る方法で、債権者保護手続が不要な点が利点です。

2.株式交換で資金を使わず100%子会社化が可能

買収対価を自社株式で支払い、少数株主を排除して完全子会社化を実現できます。

3.第三者割当増資は資本提携と資金調達を両立

譲渡企業が新株を発行して譲受企業に割り当てる方式で、財務基盤強化に活用されます。

4.事業譲渡は資産と負債を限定して取得できる

譲受側が簿外債務を回避できるため、リスク選別がしやすいというメリットがあります。

5.会社分割は権利義務ごと事業を承継し運営を円滑化

新設分割と吸収分割があり、譲渡後の事業運営をスムーズにできる点が評価されています。

企業買収の相場と費用構成を把握する

買収価額は譲渡企業の規模や無形資産の有無に左右されます。さらに買収監査や仲介手数料などの周辺コストも忘れてはいけません。一般に取引総額の1%から5%程度が諸費用として上乗せされるため、資金計画には余裕を持たせる必要があります。

デューデリジェンス費用は範囲と深度で変動

財務・税務・法務・ビジネスなどの調査範囲が広いほど専門家報酬は高額になります。特に海外拠点を持つ案件ではクロスボーダー税制や現地法令の確認が不可欠になり、費用が膨らみがちです。

仲介会社への成功報酬も予算に計上

仲介手数料はレーマン方式が一般的で、取引金額を階層に分けて料率を掛け合わせます。上限率は案件サイズで異なるため、あらかじめ契約形態を確認しましょう。

企業買収を成功させる五つのポイント

1.シナジー効果を数値で試算し実現性を検証

売上増やコスト削減のインパクトを定量化し、買収後3〜5年の財務シミュレーションを行うことで、適切な買収価格とPMI計画を策定できます。

2.デューデリジェンスで潜在リスクを洗い出す

未払い残業代・環境負債・知財紛争など簿外要素を徹底調査し、契約条項で表明保証や補償を設定することが欠かせません。

3.自社に見合う案件サイズを選定

自社規模を大きく上回る買収は資金負担や統合難度が跳ね上がります。初めてのM&Aでは特にレバレッジをかけ過ぎない慎重さが求められます。

4.PMI計画を買収検討フェーズから作成

締結後に統合方針を固めるのでは遅く、現場レベルまで落とし込んだロードマップを事前に準備することでシナジー発現を前倒しできます。

5.信頼できるM&A支援機関を活用

案件ソーシングからクロージング後の統合支援まで一気通貫で伴走できる専門家に依頼することで、情報不足や手続ミスを防げます。

PMIを円滑に進めるための実務ステップ

統合ビジョン共有とトップメッセージ発信

買収目的とシナジー創出の方向性を明確にし、両社従業員へトップが直接語りかけることで不安を払拭します。

クロスファンクショナルチームの設置

財務・人事・IT・営業など機能横断でメンバーを選抜し、統合課題を分担。進捗を毎週レビューし課題を即時解決します。

クイックウィン施策で初期成果を可視化

共同購買で仕入単価を下げるなど、3カ月以内に効果の出るテーマを設定し、統合への納得感を高めます。

文化融合ワークショップで価値観を共有

譲渡企業の強みを尊重しつつ新ガバナンスを構築するため、研修やワークショップを通じて共通言語を育みます。

企業買収を取り巻く法規制とガバナンス面の留意点

買収プロセスでは金融商品取引法や会社法の手続を遵守するだけでなく、独占禁止法の届出が必要な場合もあります。取締役会はデューデリジェンス結果を踏まえた合理的な意思決定が求められ、ガバナンス強化は友好的買収成立にも不可欠です。

企業買収のバリュエーション基礎を理解する

買収価格の妥当性を判断するにはDCF法・類似会社比較法・純資産価額法の三つを組み合わせるアプローチが一般的です。

DCF法は将来キャッシュフローを現在価値へ割引

成長率・割引率・ターミナルバリューの設定が企業価値を大きく左右するため、複数シナリオで感度分析を行います。

類似会社比較法は市場における相対評価

PERやEV/EBITDA倍率を同業上場企業と比較し、マーケットが織り込む期待成長率を把握します。

純資産価額法は保守的な下限値として機能

不動産や在庫など帳簿価額を時価修正した上で純資産を算出し、のれん価格とのバランスを確認します。

企業買収の防衛策で経営の独立性を守る

企業買収には望まない敵対的買収のリスクもあります。経営陣は平時から防衛策を整え、株主と企業価値を守る準備が欠かせません。

事前防衛策は買収コストを引き上げ抑止力を高める

ポイズンピル
特定株主が一定比率を超えて株式を取得した場合、既存株主に割安で新株予約権を付与し持株比率を希薄化する。

黄金株
合併や株主総会の特定決議に拒否権を持つ株式を発行し、重要議案を経営陣がコントロールできる。

スーパーマジョリティ条項
合併等の決議に通常以上の賛成比率を要求し、敵対的買収側が議決権を集めにくくする。

事後防衛策は買収提案を受けた後の最終手段

ホワイトナイト招へい
友好的第三者に株式取得を依頼し敵対的提案を打ち消す。

自社株買い
市場で自社株を取得して買収側の議決権比率を希釈。

パックマン防衛
逆に敵対的買収者の株式を公開買付で取得し主導権を取り返す。

いずれも株主平等原則や資本政策の整合性を十分に検証して実施することが不可欠です。

企業買収の流れとプロセスを6ステップで理解する

買収プロジェクトは平均6〜12か月を要し、各フェーズで専門家と二人三脚の進行が望まれます。

①目的明確化と買収戦略立案

自社の成長課題を洗い出し、買収で補完すべき経営資源とターゲット基準を設定します。

②仲介会社・アドバイザー選定

業界実績、国際案件対応力、報酬体系を比較し、自社戦略に合う支援者を選びます。

③候補企業リストアップと初期打診

ノンネームシート(匿名概要書)で条件合致する候補に接触し、秘密保持契約(NDA)締結後に詳細資料を提示。

④トップ面談・基本合意(LOI)

経営者同士がビジョンを確認し、独占交渉期間や大枠価格を定める基本合意書を締結します。

⑤デューデリジェンスとバリュエーション

財務・税務・法務・人事・IT・環境など多面的調査でリスクを洗い出し、企業価値を最終査定。

⑥最終契約・クロージング・PMI

表明保証・補償条項を盛り込んだ譲渡契約を締結し、対価決済と株式移転を実行。その直後から統合計画を本格稼働させます。

企業買収の費用とその内訳を具体例で確認

10億円の株式譲渡案件を想定した費用シミュレーションです。

   費用項目                               概算額                                 備考

株式取得代金                 1,000,000,000円      企業価値算定結果

仲介成功報酬                     30,000,000円      レーマン方式3%(5億円以下5%、残額1%)

デューデリジェンス費用     12,000,000円      財務・税務・法務・ビジネス

弁護士費用                               5,000,000円      契約書作成と交渉

登記・登録免許税               1,500,000円      株式譲渡承認議事録等

PMI初期投資                     25,000,000円      システム統合・人事制度改定

合計                                 1,073,500,000円      買収対価の約7.3%が諸費用

大企業案件になるほど専門家報酬は上振れし、クロスボーダー案件では通貨ヘッジや現地規制対応費も加算されます。

成功事例から学ぶ企業買収のポイント

事例1 中堅製造業A社×金型メーカーB社(友好的買収)

事例2 IT企業C社×SaaSスタートアップD社(第三者割当増資)

共通ポイント

A社は自社製品の内製率向上を狙い、B社を株式譲渡で子会社化。買収前から共同開発を先行させ、クロージング当日に新製品を発表する“クイックウィン”を実現。PMI成功の秘訣は①買収目的を社内外に明示、②キーマンの待遇維持、③資材共同購買で6か月で原価率2%改善。

C社は顧客課題解決の幅を広げるためD社へ出資し持分法適用会社化。段階的出資でシステムAPIを相互開放し、2年後に追加取得し完全子会社化。分散投資でのリスク低減とシナジー検証期間の確保が奏功しました。

  1. 買収前PoC(概念実証)でシナジー実現可能性を検証
  2. PMI専任チームを早期に立ち上げガバナンス課題を洗い出す
  3. キーパーソン向けストックオプションで離職防止策を設計

まとめ

企業買収は経営資源獲得や競争力強化の近道ですが、適正価格算定とPMI準備を怠れば損失リスクも大きくなります。買収目的を明確にし専門家と連携してデューデリジェンス・統合計画を徹底すれば、シナジー効果を最大化し企業価値を高めることが可能です。

著者|竹川 満  マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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