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M&Aでの銀行の役割と活用術で資金調達や支援を成功させる方法

M&Aで銀行をどう活用すべきか?資金調達からアドバイザリー、最新トレンドまで、メリット・デメリットや注意点を税理士が初心者にも分かりやすく具体的に解説します。さらに、銀行以外の相談先との比較も提示し、最適なパートナー選びをサポートします。

目次

  1. 銀行の機能と役割を理解しよう
  2. 銀行によるM&A資金調達支援のポイント
  3. 銀行のM&Aコンサルティングサービス
  4. 銀行にM&Aを依頼するときの留意事項
  5. 銀行以外のM&A相談先を検討しよう
  6. 銀行業界のM&A最新トレンドを押さえる
  7. M&Aで銀行を活用する実践ステップ
  8. 失敗事例と成功事例から学ぶ教訓
  9. 銀行活用でM&Aを成功に導くポイント
  10. まとめ

銀行の機能と役割を理解しよう

M&Aは企業の未来を大きく変える重要な経営判断です。その舞台裏で銀行は二つの顔を持ちます。一つは資金を供給するパートナー、もう一つは専門知識を生かすアドバイザーです。まずはこの二つの役割を押さえ、銀行と上手につき合う土台をつくりましょう。

資金調達パートナーとして融資で支援

譲受企業が事業を買い取るには多額の現金が必要になります。手元資金だけで足りないとき、銀行融資は有力な選択肢です。銀行は譲受企業の財務健全性、買収後の計画、返済能力を総合的に審査し、金利や返済期間を提示します。

審査過程では「なぜその企業を買うのか」「買収によっていくら稼げるのか」を具体的な数字で示すことが極めて重要です。銀行は将来キャッシュフローを厳しく確認し、リスクが高いと感じれば担保や保証を求めます。土地や建物など換金性の高い資産を準備しておくと条件が有利になりやすいでしょう。

M&Aアドバイザーとして全プロセスをサポート

銀行にはM&A専門部署があり、経験豊富なスタッフが戦略立案から契約締結まで並走します。買収候補や譲渡企業の紹介、デューデリジェンス支援、交渉アドバイス、契約書チェックなど、一連の手続をワンストップで受けられる点が強みです。

特に大手銀行は海外案件や大型ディールに強く、クロスボーダー対応や多通貨融資をまとめて依頼できる利便性があります。ただし後述するように、銀行がアドバイスを行う背景には融資の安全性という自らの利益も絡みます。提案をそのまま受け入れるのではなく、第三者の視点で検証する姿勢が欠かせません。

銀行によるM&A資金調達支援のポイント

M&A成功の第一関門は資金調達です。ここでは、銀行融資を引き出すために企業が押さえておくべき審査ポイントと準備事項を解説します。

融資審査プロセスを押さえる

銀行は以下の流れで融資可否を判断します。

  1. 財務分析と信用力評価
    決算書や試算表を基に自己資本比率、債務償還年数などをチェックし、既存借入とのバランスを確認します。

  2. 事業計画の合理性検証
    買収後3〜5年間の売上高・利益・キャッシュフロー予測を見ながら、前提となるシナジー効果が実現可能かを吟味します。

  3. 返済能力の査定
    フリーキャッシュフローと借入額を比較し、返済負担比率が適正かを計算します。

  4. リスク分析
    市場環境、技術革新、主要顧客動向など外部リスクに加え、統合失敗リスクや人材流出リスクを洗い出します。

これらの審査結果を踏まえて金利、融資期間、返済方法が提案されます。資料の整合性や説明の説得力が高いほど、条件は柔軟になります。

財務分析と信用力評価が出発点

自己資本比率が低い、赤字部門を抱えているなど課題がある場合は、あらかじめ改善計画を示しておくと印象が大きく変わります。また、過去に延滞やリスケ実績があるとマイナス評価になるため、代表者保証や追加担保でリスクを補填する準備が必要です。

返済能力とリスクを総合的に判断

銀行は安全運転を重視します。楽観的なシナリオだけでは説得力に欠けるため、保守的なケース・最悪ケースも用意し、キャッシュフローが悪化した場合の対応策を提示しましょう。

買収後の事業計画を具体的に示す

買収金額の根拠と統合後の成長戦略が明確であるほど、銀行融資は通りやすくなります。

シナジー効果と統合計画が決め手

製品ラインの補完、販路の共有、人員配置の最適化など、どのような相乗効果が何年目にどの程度利益を押し上げるのかを数字で示します。併せて統合後の組織図やITシステム統合スケジュールも提示すると説得力が増します。

担保設定で融資条件が有利に

土地・建物・有価証券といった流動性資産を担保に差し入れると、金利が下がったり借入限度が拡大したりするケースがあります。担保余力が不足する場合は、メザニンローンやファンドとの協調融資も検討材料となります。

銀行のM&Aコンサルティングサービス

銀行は資金提供者にとどまらず、専門的助言を行うコンサルタントとしても機能します。特に取引金額が大きい案件では、銀行の情報網と分析力が交渉を優位に進める武器になります。

大型案件で発揮される専門性

メガバンクは業界横断のデータベースと国際ネットワークを駆使し、譲受企業の候補探索や企業価値評価を行います。クロスボーダー案件では現地法規制や税制を踏まえた最適スキームを提案できる点が魅力です。

一方、地方銀行は地元ネットワークの深さを強みとし、中小企業の友好的M&Aを支援します。顔の見える関係性を大切にするオーナー経営者にとって、身近な相談相手として機能しやすい存在です。

報酬体系を把握して費用対効果を高める

銀行の報酬は着手金+リテイナーフィー+中間成功報酬+成功報酬が基本形ですが、最近は着手金と成功報酬のみのケースも増えています。成功報酬はレーマン方式が一般的で、取引金額が大きいほど料率が逓減する点を理解しておきましょう。

レーマン方式と成功報酬の仕組み

成功報酬は契約で定めた基準価格に対して段階的に率が下がります。例えば取引額が12億円の譲渡の場合、1億円まで5%、1億円超5億円まで4%、5億円超10億円まで3%、10億円超部分は2%という料率が適用されると、報酬総額はおおよそ3,400万円になります。料率表と自社の想定価格帯を照合し、最終的な負担額を試算しておくと安心です。

銀行にM&Aを依頼するときの留意事項

銀行の助言を最大限活用するためには、メリットだけでなく制約にも目を向ける必要があります。

融資業務を軸とする銀行の評価視点

銀行の本業は融資です。そのため企業価値評価がやや保守的になりやすく、キャッシュフローの安定性を最重視する傾向があります。買収後の成長シナリオが大きくても、確度が低いと判断されれば融資枠が縮小することもあります。

アドバイスを受ける際は「融資目線での安全性評価」と「経営目線での成長評価」の二つを切り分け、必要に応じて税理士や公認会計士など第三者の意見を組み合わせましょう。

利益相反を見抜き適切に管理する

銀行が譲受企業側へ融資しつつ譲渡企業側へアドバイスを行う場合、どちらを優先するかで利害が衝突する可能性があります。

法律上、銀行は情報遮断体制や取引類型の事前特定など利益相反管理を義務づけられていますが、利用企業としても契約時に体制図や担当部門の役割分担を確認することが大切です。疑問点がある場合は「どの部門がどの立場で関与するのか」を具体的に質問し、記録に残しましょう。

手数料の水準と範囲をチェック

メガバンクは人員体制や国際ネットワークを維持するコストが大きいため、手数料水準が高めです。地方銀行や独立系アドバイザリー会社と比較し、費用対効果を把握したうえで委託先を決定しましょう。

また月額のリテイナーフィーが設定される場合、成約まで半年〜1年に及ぶと想定以上の費用になることがあります。着手金・月額報酬を支払う目的や成果物を明確にして、重複作業を防ぐことがコスト削減につながります。

営業地域外紹介の制約に注意

特に地方銀行は営業地域の企業ネットワークには強い一方、県外や異業種の譲受企業紹介には制限がかかる場合があります。自社が望む相手が地域外に存在する可能性があるなら、銀行だけに頼らず専門アドバイザリー会社との併用も検討すると良いでしょう。

銀行以外のM&A相談先を検討しよう

銀行サービスに制約を感じたときは、目的に合わせた外部専門家を組み合わせることで弱点を補えます。以下に代表的な相談先と特徴を整理します。

M&Aアドバイザリー会社で専門性を確保

アドバイザリー会社はM&Aに特化したプロ集団です。成功報酬型が多く、譲渡企業と譲受企業双方の目線を踏まえた中立的助言が期待できます。幅広い業界データに基づくマッチング力も魅力で、規模を問わず案件対応が可能です。

税理士・会計士で税務と財務の安心を得る

税理士法人や会計事務所は財務デューデリジェンス、税務ストラクチャリングに強みがあります。既に顧問契約がある場合は企業内部事情を把握しているため、M&A計画をスムーズに共有できる点がメリットです。

法律事務所で法的リスクを最小限に

契約書作成やコンプライアンスの確認は法務専門家の領域です。特に複雑なスキームや株式交換などを用いる案件では、法律事務所のサポートにより将来の紛争リスクを低減できます。

証券会社で上場案件や資本市場に対応

上場企業間の大型M&Aでは株価対策やIR対応が欠かせません。証券会社は資本市場の知見を活かし、株式交換や新株発行を伴うスキーム設計を支援します。

コンサルティング会社で戦略とPMIを強化

経営戦略や組織統合の観点でサポートを受けたい場合はコンサルティング会社が選択肢になります。M&A後のPMI計画を策定し、シナジー実現まで伴走することで買収効果を最大化できます。

ここまで銀行を中心としたM&A支援の概要と、代替となる相談先の特徴を整理しました。次の章では銀行業界そのものが直面する再編トレンドとフィンテック統合の動きを解説し、今後の活用戦略を考察します。

銀行業界のM&A最新トレンドを押さえる

銀行自身も再編の波に直面しています。低金利で収益が圧迫され、フィンテック企業との競争も激化しています。その結果、銀行は規模の経済を追求しつつ、新技術を取り込むためにM&Aを積極化させています。

金融セクター再編が加速する4つの背景

  1. 低金利長期化による収益性低下
    利ざや縮小で従来の融資モデルが限界を迎え、コスト削減と事業多角化を目的に統合が進んでいます。

  2. フィンテック企業との競争激化
    モバイル決済やAI与信など新サービスが台頭し、銀行は技術を外部調達する必要性が高まっています。

  3. 規制コストの上昇
    バーゼルⅢなど国際規制強化に伴う自己資本比率の充足やシステム投資への負担が大きく、規模メリットで吸収を図っています。

  4. 地方経済の縮小と人口減少
    地域金融機関は貸出先の減少に直面し、合併や共同持株会社設立で基盤強化を図る動きが活発です。

フィンテック統合で生まれる5つのシナジー

  1. デジタルチャネル高度化
    スマホ完結の口座開設やローン審査で顧客接点を拡大できます。

  2. AI与信モデルの高度化
    ビッグデータ分析により信用リスクを精緻に計測し、融資の迅速化が可能です。

  3. コスト削減と業務効率化
    ブロックチェーンによる決済インフラ共通化でシステム運用費を圧縮します。

  4. 非金融サービスの拡張
    ポイント連携やECプラットフォーム接続で多面的な顧客体験を提供できます。

  5. スタートアップ文化の注入
    柔軟な意思決定や新規事業開発ノウハウが組織活性化につながります。

地方銀行再編が地域経済に与える影響

合併で店舗統廃合が進むと、地域の雇用やサービス網が再編されます。一方、経営体力が強化されることで地域企業への資金供給が安定し、事業承継M&Aへの支援幅も広がる利点があります。企業側は地銀再編の動向を把握し、相談窓口が変わるタイミングで新たなサービスを積極活用しましょう。

規制強化とテクノロジー投資の両立

規制対応は不可避ですが、システム投資がコスト増につながります。銀行はフィンテック企業との共同開発で初期投資を抑え、クラウド化による固定費削減を図る傾向です。企業が銀行と連携する際は、セキュリティ基準や個人情報保護の体制を必ず確認しましょう。

トレンドを踏まえた企業側の活用戦略

銀行が新サービスを導入する過渡期は、資金調達やアドバイザリーの選択肢が拡大する好機です。フィンテック連携を進める銀行はデジタルローン審査が迅速なため、買収タイミングを逃さず動けるメリットがあります。地方銀行は地元企業ネットワークの再整理を進めており、優良案件の紹介が加速する可能性があります。

M&Aで銀行を活用する実践ステップ

ここからは、銀行サービスを最大限に引き出すための5段階プロセスを紹介します。

ステップ1 事前準備で自社を磨く

経営ビジョンと買収目的を整理し、3~5年の事業計画を作成します。財務指標の改善ポイントを洗い出し、デューデリジェンス想定資料をあらかじめ整備しておくと交渉がスムーズです。

ステップ2 銀行選定は相性と実績重視

メガバンクは大型・海外案件に強く、地方銀行は地域密着型サポートが魅力です。案件規模、業種、地域を軸に比較し、担当者とのコミュニケーション頻度も確認しましょう。

ステップ3 提案依頼書(RFP)で期待値を共有

銀行に求める支援内容、成果指標、報酬条件を文書化し、複数行に提示します。提案の質で銀行の真剣度を測定し、情報開示範囲と秘密保持義務を明確に定めることが重要です。

ステップ4 交渉では利益相反と費用管理に注意

利益相反リスクが認識されたら、担当部門の壁を越えて情報が流れないよう契約で担保します。報酬はマイルストーンごとに成果確認を行い、着手金や月額報酬の値下げ交渉も実践しましょう。

ステップ5 クロージング後のフォローで価値を最大化

融資条件のモニタリング、業績報告、統合進捗レビューを定期的に行い、銀行のネットワークを使って追加シナジーを探索します。PMIフェーズでの銀行活用は資金繰り相談にとどまらず、人材紹介や取引先紹介にも波及します。

失敗事例と成功事例から学ぶ教訓

具体的社名は挙げられませんが、典型的なパターンを整理します。

失敗例 利益相反を軽視した結果の混乱

銀行が買い手と売り手双方に関与し、結果的に譲渡価格が不満足な水準で決着した例があります。交渉過程を第三者がチェックできる体制を敷かず、情報格差が拡大したことが原因です。

失敗例 シナジー過大評価で返済負担が重荷に

銀行融資を前提に強気の事業計画を提示したものの、統合後の文化摩擦で売上が伸びず、返済負担が想定を上回った事例があります。保守的シナリオの検証不足が課題でした。

成功例 多様な専門家連携でリスク分散

税理士事務所が税務デューデリジェンス、法律事務所が契約書作成を担い、銀行が資金面と相手紹介を担当した結果、適正価格とスムーズな統合を両立した案件があります。役割分担が明確だった点が成功要因です。

成功例 ガバナンス強化で資金調達力を向上

取締役会に独立社外役員を迎え、買収後のガバナンス体制を強化したことで、銀行から好条件のシンジケートローンを引き出した例があります。ガバナンス改善は信用力向上に直結します。

銀行活用でM&Aを成功に導くポイント

銀行は資金と情報を持つ強力なパートナーですが、融資目線と利益相反という制約も抱えています。企業は以下3点を意識すると成功確率が高まります。

  1. 複数専門家との連携で視野を広げる
    税務・法務・戦略それぞれの専門家を組み合わせ、銀行の提案を多角的に検証します。

  2. 保守的シナリオでキャッシュフローを管理する
    最悪ケースでも返済可能な借入額を設定し、担保や保証の負担をコントロールします。

  3. 交渉と情報開示を透明化する
    利益相反管理体制を書面で確認し、重要判断は取締役会議事録に残しましょう。

銀行業界は再編とデジタル化が進み、サービスメニューが急速に変化しています。最新トレンドを把握し、最適な窓口と組むことで、資金調達と専門支援を同時に手に入れることが可能です。

まとめ

銀行は資金調達とアドバイザリーを一手に担う心強い存在ですが、融資目線の保守的評価や利益相反リスクには注意が必要です。事前準備を徹底し、複数専門家と連携して透明性を確保すれば、銀行のネットワークと分析力を最大限に活用できます。再編とフィンテック統合が進む今、最新動向を踏まえて銀行を選び、相互にメリットを引き出すことがM&A成功の鍵となります。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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