M&Aにおける銀行の役割を詳しく解説。資金調達支援からコンサルティングまで、銀行のサービスを活用する際の注意点や最新トレンドを紹介します。M&Aを検討中の企業必見の情報です。
目次
M&A(合併・買収)において、銀行は重要な役割を果たします。主に2つの機能があり、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
M&Aを実行する際、買収側企業は多額の資金を必要とします。この資金を調達する方法の一つが、銀行からの融資です。銀行は、M&A取引の規模や企業の財務状況を考慮し、適切な融資条件を提示します。
銀行は融資を行う際、以下の点を重視します:
1. 買収側企業の財務健全性
2. M&A後の事業計画の妥当性
3. 返済能力の見込み
銀行は、これらの要素を総合的に判断し、融資の可否や条件を決定します。
銀行は、M&Aに関する専門知識と豊富な経験を持つスタッフを抱えています。そのため、M&Aを検討している企業に対して、専門的なアドバイスを提供することができます。
銀行のM&Aアドバイザリーサービスには、以下のような内容が含まれます:
• M&A戦略の立案支援
• 適切な買収先や売却先の選定
• デューデリジェンス(企業価値評価)のサポート
• 交渉プロセスのアドバイス
• 契約書作成の支援
このように、銀行はM&Aの全プロセスにわたって、専門的な助言と支援を提供することができます。
銀行をM&Aの相談先として活用する際は、その豊富な経験と幅広いネットワークを生かせるメリットがあります。しかし、後述する注意点もありますので、それらを踏まえた上で銀行の支援を受けることが重要です。
▶目次ページ:M&Aの相談先(金融機関)
M&Aを成功させるためには、適切な資金調達が不可欠です。銀行は、この資金調達において重要な役割を果たします。ここでは、銀行による資金調達支援の具体的な内容と、銀行が重視するポイントについて解説します。
銀行がM&Aのための融資を行う際は、慎重な審査プロセスを経ます。このプロセスには、以下のような手順が含まれます:
1. 財務状況の分析:買収側企業の現在の財務状態を詳細に調査します。
2. 事業計画の評価:M&A後の事業計画の実現可能性を検討します。
3. 返済能力の査定:融資後の返済スケジュールに対する企業の対応力を評価します。
4. リスク評価:M&Aに伴うリスクを総合的に分析します。
銀行は、これらの審査を通じて融資の可否を判断し、融資条件を決定します。審査に通過するためには、企業側も十分な準備と説得力のある事業計画が必要です。
銀行が融資を決定する際、特に重視するのが買収後の事業計画とその合理性です。銀行は以下の点を詳細に評価します:
1. シナジー効果:M&Aによって得られる相乗効果の具体性と実現可能性
2. 財務予測:買収後の売上高、利益、キャッシュフローの予測とその根拠
3. 統合計画:買収後の組織統合や事業統合の具体的な計画
4. リスク対策:想定されるリスクとその対応策
銀行は、これらの要素を総合的に判断し、M&Aの合理性と融資の妥当性を評価します。企業側は、これらの点について十分に検討し、説得力のある事業計画を提示することが重要です。
また、銀行は融資の担保として、流動性や換金性の高い資産(土地、建物、有価証券など)を求めることがあります。これは、融資のリスクを軽減するための措置です。
銀行による資金調達支援を受ける際は、単に資金を借りるだけでなく、M&A計画全体の妥当性や実現可能性を客観的に評価してもらえる機会としても活用することが大切です。銀行の指摘や助言を積極的に取り入れ、より強固なM&A計画を立てることで、成功の確率を高めることができます。
銀行は、M&Aにおいて資金調達支援だけでなく、専門的なコンサルティングサービスも提供しています。ここでは、銀行が提供するM&Aコンサルティングサービスの内容と、その報酬体系について詳しく見ていきましょう。
銀行のM&Aコンサルティングサービスは、主に大規模な企業や案件を対象としています。これは、銀行が持つ専門知識や経験が、複雑で大規模なM&A案件により適しているためです。
銀行が提供する主な専門的助言には、以下のようなものがあります:
1. 戦略立案:M&Aの目的や戦略の明確化をサポートします。
2. 企業価値評価:対象企業の適正な価値を算定します。
3. デューデリジェンス支援:財務、法務、業務など多角的な調査をサポートします。
4. 交渉支援:買収価格や条件交渉をアドバイスします。
5. スキーム構築:最適なM&A手法や取引構造を提案します。
6. PMI(Post Merger Integration)計画:M&A後の統合計画立案を支援します。
これらのサービスを通じて、銀行は顧客企業のM&Aプロセス全体をサポートします。
銀行のM&Aコンサルティングサービスには、一般的に以下のような報酬体系があります:
1. 着手金(相談料):
o M&Aプロジェクトの開始時に支払う固定金額です。
o 案件の規模や複雑さによって金額が変動します。
2. リテイナーフィー(月額報酬):
o プロジェクト期間中、毎月支払う固定金額です。
o 長期にわたるプロジェクトで採用されることが多いです。
3. 中間成功報酬:
o M&Aプロセスの重要なマイルストーン達成時に支払う報酬です。
o 例:基本合意書の締結時など
4. 成功報酬:
o M&A取引が成立した際に支払う報酬です。
o 通常、取引金額に対する一定の割合で計算されます。
o 「レーマン方式」と呼ばれる計算方法が一般的です。
レーマン方式による成功報酬の計算例:
• 取引金額の1億円までの部分:5%
• 1億円超5億円までの部分:4%
• 5億円超10億円までの部分:3%
• 10億円超の部分:2%
このように、取引金額が大きくなるほど報酬率が逓減する仕組みになっています。
銀行のM&Aコンサルティングサービスは、専門性が高く、大規模案件に対応できる点が特徴です。しかし、その分、報酬も高額になる傾向があります。企業側は、銀行のサービス内容と報酬体系を十分に理解した上で、自社のニーズに合っているかを慎重に検討する必要があります。
銀行にM&Aを依頼する際には、いくつかの重要な留意点があります。これらを理解し、適切に対処することで、より効果的に銀行のサービスを活用できます。
銀行の本業は融資業務です。M&Aコンサルティングはあくまでも付随的なサービスであることを理解しておく必要があります。
留意点:
1. 融資の観点からのアドバイス:銀行のアドバイスは、融資の安全性を重視する傾向があります。
2. 保守的な評価:企業価値や事業計画の評価が保守的になる可能性があります。
3. 融資条件との関連:M&Aの助言が、融資条件に有利になるような方向性を持つことがあります。
これらの点を踏まえ、銀行のアドバイスを客観的に評価することが重要です。
銀行が複数の立場で関与する場合、利益相反が生じる可能性があります。
注意すべき状況:
1. 銀行が買収側と売却側の両方にアドバイスを提供している場合
2. 銀行が対象企業に融資を行っている場合
3. 銀行自身がM&Aに関与する金融商品を提供している場合
このような状況では、銀行の中立性や公平性が損なわれる可能性があります。企業側は、銀行の立場を十分に確認し、必要に応じて利益相反の管理について説明を求めることが大切です。
銀行のM&Aコンサルティング手数料は、一般的なM&Aアドバイザリー会社と比べて高額になる傾向があります。
考慮すべき点:
1. 大手メガバンクの手数料は特に高額になりやすい
2. 成功報酬が取引金額の大きな割合を占める可能性がある
3. 着手金やリテイナーフィーも相応の金額が設定される
手数料の詳細について事前に十分な説明を受け、費用対効果を慎重に検討することが重要です。
特に地方銀行の場合、営業エリアが限定されていることがあります。
制約の例:
1. 県外の企業を買手として紹介できない
2. 特定の業界や規模の企業に偏った紹介になる可能性がある
3. 地域内の競合関係や人間関係が影響する場合がある
これらの制約により、最適なM&A相手を見つけられない可能性があります。必要に応じて、銀行以外の選択肢も検討することが賢明です。
以上の留意点を踏まえた上で、銀行のM&Aサービスを利用することで、より適切な判断と効果的な活用が可能になります。銀行の強みを生かしつつ、その制約や潜在的な問題点にも注意を払うことが、成功するM&Aの鍵となります。
銀行にM&Aを相談できない場合や、より専門的なサポートが必要な場合、他の選択肢を検討することが重要です。ここでは、銀行以外のM&A相談先とその特徴について解説します。
1. M&A専門のアドバイザリー会社
M&A専門のアドバイザリー会社は、M&Aに特化したサービスを提供しています。
特徴:
• M&Aに関する深い専門知識と豊富な経験
• 中立的な立場での助言が可能
• 幅広い業界や規模の企業に対応
• 柔軟な報酬体系(成功報酬型が多い)
2. 会計事務所・税理士事務所
財務や税務の専門家として、M&Aにおける重要な側面をサポートします。
特徴:
• 財務デューデリジェンスに強み
• 税務面でのアドバイスが充実
• 中小企業のM&Aに適している
• 既存の顧問先との信頼関係を活かせる
3. 法律事務所
M&Aの法的側面に関する専門的なアドバイスを提供します。
特徴:
• 契約書作成や法務デューデリジェンスに強み
• コンプライアンス面でのチェックが厳密
• 複雑な法的問題がある案件に適している
4. 証券会社
上場企業のM&Aや大型案件に強みを持ちます。
特徴:
• 資本市場に関する知識が豊富
• 上場企業のM&Aに精通
• 株式交換などの複雑なスキームにも対応可能
5. コンサルティング会社
戦略面や PMI(Post Merger Integration)に強みを持つ場合が多いです。
特徴:
• M&A戦略の立案から実行後の統合まで幅広くサポート
• 業界動向や経営戦略の観点からのアドバイスが充実
• 大手企業の複雑な案件に適している
これらの選択肢の中から、自社の状況や案件の特性に応じて最適な相談先を選ぶことが重要です。例えば、中小企業の場合は会計事務所や地域密着型のM&Aアドバイザリー会社が適している場合が多く、大企業や複雑な案件の場合は大手M&Aアドバイザリー会社や証券会社が適しているかもしれません。
また、案件の段階や必要なサポートの内容に応じて、複数の専門家を組み合わせて活用することも効果的です。例えば、M&Aアドバイザリー会社をメインの相談先としつつ、税務面では税理士事務所、法務面では法律事務所にも相談するといった方法が考えられます。
重要なのは、自社のニーズと各相談先の特徴を十分に理解し、最適な支援体制を構築することです。M&Aは複雑で専門的な知識が必要なプロセスであり、適切な専門家のサポートを受けることで、リスクを軽減し、成功の確率を高めることができます。
銀行業界自体もM&Aの当事者となることがあります。ここでは、銀行業界におけるM&Aの最新トレンドについて解説します。
近年、金融セクターではM&Aが活発化しています。その背景には以下のような要因があります:
1. 金融緩和政策の影響
o 低金利環境により、銀行の収益性が低下
o 規模の経済を追求するためのM&Aが増加
2. 競争激化への対応
o フィンテック企業など新規参入者との競争
o サービスの多様化・高度化への対応
3. 規制環境の変化
o 金融規制の強化に伴うコスト増大
o コンプライアンス強化のための体制整備
4. 地域金融機関の再編
o 人口減少や地方経済の縮小に伴う経営環境の悪化
o 経営基盤強化のための合併や業務提携
具体的なM&Aの形態としては、以下のようなものが見られます:
• 大手銀行同士の統合
• 地方銀行の合併
• 銀行持株会社による複数行の統合
• 異業種との業務提携や資本提携
これらのM&Aを通じて、銀行業界は規模の拡大やサービスの多様化、経営効率の向上を図っています。
銀行業界におけるM&Aのもう一つの大きなトレンドが、フィンテック企業との統合です。
フィンテック企業との統合の目的:
1. 技術革新への対応
o AI、ブロックチェーン、ビッグデータ分析などの先端技術の獲得
o デジタル化によるサービス向上と業務効率化
2. 新規サービスの展開
o モバイルバンキング、ロボアドバイザー、P2P送金など
o 従来の銀行サービスにはない新たな顧客体験の提供
3. 顧客基盤の拡大
o デジタルネイティブ世代の取り込み
o 非金融サービスとの連携による顧客接点の増加
4. イノベーション文化の取り込み
o スタートアップ的な柔軟で迅速な意思決定プロセスの導入
o 新しいアイデアや事業モデルの創出
フィンテック企業との統合の形態:
• 完全買収:フィンテック企業を銀行グループの子会社化
• 資本提携:一部出資によるパートナーシップの構築
• 業務提携:特定のサービスや技術に関する協力関係の構築
• 社内ベンチャー:銀行内にフィンテック部門を設立
これらの統合を通じて、銀行は従来の強みである信頼性や規模と、フィンテック企業の持つ革新性や機動性を組み合わせることを目指しています。
ただし、フィンテック企業との統合には課題も存在します:
• 企業文化の違いによる統合の困難さ
• 規制対応とイノベーションのバランス
• 既存システムとの統合に伴う技術的課題
• 個人情報保護やセキュリティリスクへの対応
銀行業界のM&Aは、これらの課題を克服しながら、今後も活発に続いていくと予想されます。金融サービスの在り方が大きく変わる中、銀行はM&Aを通じて自らを変革し、新たな価値を創造していく必要があります。
M&Aにおける銀行の役割は多岐にわたり、資金調達支援からコンサルティングサービスまで幅広く提供しています。銀行は豊富な経験と専門知識を活かし、M&Aプロセス全体をサポートする重要なパートナーとなり得ます。しかし、銀行にM&Aを依頼する際は、その特性や制約を十分に理解し、適切に活用することが重要です。また、案件の特性に応じて、M&A専門のアドバイザリー会社など、他の選択肢も検討する価値があります。銀行業界自体もM&Aの波に乗り、規模の拡大や新技術の獲得を目指しています。今後も金融サービスの変革が進む中、M&Aは重要な戦略ツールであり続けるでしょう。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画