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M&Aにおける弁護士の役割や費用と法務DDやPMIを解説

「M&Aに弁護士は本当に必要?」という疑問に即答します。法務リスクの発見から契約交渉、費用相場まで、M&A 弁護士を活用して企業譲受を安全・迅速に進めるための実践知識をやさしく解説します。読めば弁護士依頼のタイミングも判断できます。

目次

  1. M&Aに弁護士が必要な理由
  2. 税理士・公認会計士との役割の違い
  3. 弁護士に依頼できる主な業務
  4. 弁護士に依頼するメリット
  5. 弁護士に依頼するデメリットと費用相場
  6. 弁護士を依頼しない場合のリスク
  7. M&Aに強い弁護士事務所を選ぶポイント
  8. 弁護士費用を抑えるコツと活用事例
  9. PMIフェーズで弁護士が担う法務統合支援
  10. M&A弁護士活用で成功する進行スケジュール
  11. 弁護士費用の会計処理と税務上の扱い
  12. 弁護士と他専門家を連携させる実務フロー
  13. 地方中小企業での活用事例と学び
  14. 弁護士活用チェックリスト
  15. まとめ

▶目次ページ:M&Aの相談先(士業)

M&Aに弁護士が必要な理由

M&Aは企業譲渡や企業譲受という大きな意思決定を伴うプロジェクトです。譲渡企業と譲受企業の双方が巨額の資産移動を行い、組織体制が大きく変わるため、些細な法的見落としが後に甚大な損害へ発展する恐れがあります。社内だけで全てを賄おうとすると、会社法、金融商品取引法、独占禁止法など多岐にわたる法律を横断的に調べ、関係書類を整える必要があり、時間と労力が膨大になります。ここで専門知識を備えたM&A弁護士を活用することで、手続を適法かつ円滑に進められる環境が整います。

法的リスクを早期に検出して取引を守る

弁護士は契約書や社内規程、知的財産、労務状況などを総合的に確認し、潜在リスクを洗い出します。表面化していない訴訟リスクや未把握の債務を事前に発見できるため、後に賠償請求を受けたり経営統合が停滞したりする事態を防止できます。

法務デューデリジェンスで潜在債務を可視化

売り手が気付いていない債務や権利関係を法務デューデリジェンスで丁寧に調査し、発見されたリスクは契約書の表明保証条項に反映します。これにより、譲受企業は予期しない責任を負わずに済み、譲渡企業は取引後の紛争を避けられます。

交渉力を補強し対等な協議を実現

譲受企業が大手、譲渡企業が中小の場合、交渉力の差が契約条件に反映されやすいものです。弁護士を代理人とすることで、法律的根拠を持った主張を行い、譲渡企業に不利な条項を回避できます。また、仲介会社やFAが提示する案に対するセカンドオピニオンとしても機能し、独立した視点での交渉が可能になります。

紛争時にも迅速に対応できる安心感

取引途中でトラブルが生じた場合でも、既に契約関係にある弁護士が対応すれば事実関係を把握しているため解決が速く、余計なコストの増加を抑えられます。

税理士・公認会計士との役割の違い

M&Aには法務・財務・税務という三つの専門領域が密接に関わります。ここでは、税理士・公認会計士との役割分担を整理し、弁護士へ依頼する範囲を明確にします。

財務を担う公認会計士と税務を担う税理士

公認会計士は財務デューディリジェンスを実施し、企業価値算定や財務書類の適正さを検証します。税理士は税務デューディリジェンスを担当し、追徴課税リスクや最適な税制スキームの提案を行います。

法務全般を統括する弁護士の独自性

弁護士は法律に基づく交渉代理を唯一行える資格者であり、契約交渉やステークホルダーとの法律行為を報酬目的で代行できるのは弁護士だけです。これが税理士や公認会計士との最大の違いとなります。

三者連携で総合力を発揮するM&A体制

実務では各専門家が連携し、弁護士が法務リスクを、会計士が財務リスクを、税理士が税務リスクを分担して検証することで、取引全体の安全性とスピードを高めます。

弁護士に依頼できる主な業務

次に、弁護士へ委任できる具体的な業務内容を整理します。依頼範囲を把握することで、無駄なコストを抑えつつ最大限の効果を引き出せます。

契約書の作成・精査で不利な条項を排除

弁護士はNDA、基本合意書、最終契約書など各段階の契約書を起草し、譲渡企業に不利な条項や将来紛争を招く恐れのある表明保証条項を徹底的にチェックします。必要に応じて、ノートーク条項やロックアップ条項にフィデュシャリーアウト条項を付し、譲渡企業の選択肢を確保します。

法務デューデリジェンスで企業の健康診断を実施

株式、契約、知的財産、労務、許認可、訴訟履歴など多面的な調査を行い、重大な法的問題の有無を確認します。調査結果はリスク一覧表としてまとめられ、交渉条件や価格調整に反映されます。

調査レポートを基にしたスキーム提案

発見されたリスクを低減するため、事業譲渡や会社分割などより適切なスキームを提案するのも弁護士の役割です。

交渉代理とステークホルダー対応

弁護士は譲受企業や金融機関と直接交渉し、譲渡企業の個人保証解除や取引先の同意取得を進めます。法律的根拠を示しながら譲歩案を作成するため、交渉が行き詰まりにくい点が特徴です。

法的手続と書面作成のスケジュール管理

合併や会社分割では事前開示や株主総会など厳格な期限が課されます。弁護士がカレンダーを作成し、株主・債権者への通知、労働契約承継法上の協議などを漏れなく管理します。

許認可申請・独占禁止法届出も包括支援

独占禁止法や業法上の届出が必要となる場合、弁護士が当局との折衝を担い、クロージング遅延リスクを低減します。

弁護士に依頼するメリット

弁護士を活用する最大の利点は、安心感とスピード、そして交渉力の向上です。ここでは代表的なメリットを具体的に紹介します。

不安を解消して契約を結べる心理的メリット

多数の条文と専門用語が並ぶ契約書を読むだけでも、経営者にとっては相当な心理的負担です。弁護士が逐条解説を行い、リスクの所在を明示することで、「何が起こるか分からない」という漠然とした不安を解消できます。結果として意思決定が早まり、譲渡機会を逃さずに済みます。

書類作成の効率化と成約の早期化

書類に不備があれば、相手企業や金融機関から差し戻しがあり、交渉が停滞します。弁護士は初回から法に適合する書式を用意できるため、手戻りが減り、クロージングまでの期間を短縮できます。

チェックリスト運用で抜け漏れゼロへ

弁護士は業務フローに応じたチェックリストを整備しており、必要書類の提出先や期限を可視化します。担当者交代時でも引継が容易で、組織的にM&Aを進められます。

リスク軽減により将来費用を抑制

潜在債務や知的財産侵害など、発覚後に訴訟へ発展しやすいリスクを契約前に把握することで、多額の損害賠償やレピュテーション低下を未然に防げます。短期的には弁護士費用が発生しますが、長期的にはコスト削減効果が大きいと言えます。

未然防止型コストマネジメントの実例

例えば、譲受企業が5,000万円の賠償を請求された判例では、当初に弁護士が法務デューディリジェンスを実施していれば危険箇所が特定でき、補償条項でカバーできた可能性が高いと分析されています。このように「費用対効果」を数字で説明できるのも弁護士の強みです。

弁護士に依頼するデメリットと費用相場

専門家へ報酬を支払う以上、コスト負担は避けられません。ここでは契約形態ごとの費用目安と、予算内で効率よくサポートを受けるコツを紹介します。

主な契約形態と費用テーブル

契約形態        概要                                                      目安費用

スポット依頼      契約書チェックや法務デューディリジェンスなど        数十万円〜規模に応じ数千万円
           単発業務                                                         

顧問契約        月次で法務相談を行う継続契約                          月額数万円〜数十万円

アドバイザリー契約 プロジェクト全体を包括支援し成功報酬を含む          取引額の1%〜5%(レーマン方式)


費用を抑える三つのポイント

  1. 依頼範囲を明確化し、社内対応可能な作業を切り分ける。

  2. 初回相談で見積を取り、上限額を設定したうえで委任契約を締結する。

  3. 必要に応じてスポット依頼と顧問契約を組み合わせ、ピーク時だけ費用を厚くする。

費用交渉には根拠資料が有効

見積書と作業範囲一覧を比較し、削減余地を検証してから弁護士へ要望を伝えると、不要な業務を除外しやすくなります。

弁護士を依頼しない場合のリスク

弁護士を置かずにM&Aを進めると、「自社だけで交渉を担う負担」「譲受企業側の弁護士に対抗できない不均衡」「法的書類の不備による取引停止」など複数の弊害が生じます。結果として予定より高いコストと長い時間を要し、最悪の場合は交渉決裂や損害賠償へ発展する恐れがあります。

書類不備が引き起こす交渉停止

NDAに競業避止条項を入れ忘れたことで重要情報が流出し、譲渡企業が取引を断念した事例があります。弁護士がいればわずかな修正で済んだ可能性が高く、このような機会損失は計り知れません。

相手側だけ弁護士を立てる心理的圧迫

譲受企業にのみ弁護士が付いている場合、専門用語で圧力をかけられ、譲渡企業が不利な条件をのまざるを得ない局面が出てきます。同じ土俵で交渉するためには、自社も弁護士を配置し対等な立場で議論することが必須です。

トラブル時の初動が遅れ損害が拡大

紛争は初期対応が重要です。弁護士がいないと社内協議に時間を費やし、適切な通知や証拠保全が遅れて損害が拡大するリスクがあります。

M&Aに強い弁護士事務所を選ぶポイント

M&A法務は一般的な訴訟業務以上に幅広い専門知識と実務経験が問われます。ここでは依頼先選定の際に確認すべき項目をまとめます。

幅広い法的問題への対応力を確認する

会社法から労働法、知的財産権法、独占禁止法まで横断的に扱える体制が不可欠です。相談時には過去の対応事例を具体的に聞き、実務範囲を確認しましょう。

実績とチーム体制を重視する

デューデリジェンスや契約書作成には短期間で膨大な作業をこなす体制が求められます。複数名でチームを組み、過去に類似業界・規模の案件を手掛けた実績がある事務所は信頼性が高いと言えます。

交渉力とコミュニケーション力を評価する

交渉代理では柔軟な提案力と明確な説明力が成果を左右します。初回面談での説明の分かりやすさや、他専門家との連携方針をチェックしておくと安心です。

弁護士費用を抑えるコツと活用事例

弁護士費用は決して安価ではありませんが、工夫次第で総額を抑えながら高品質なサポートを得ることが可能です。ここでは実際の活用例を踏まえてコスト削減策を解説します。

依頼範囲を段階的に分割する方法が有効

最初からフルパッケージを求めるのではなく、①契約書レビューのみ、②法務デューディリジェンスの重要部分のみ、といったように段階的に委任することで見積を細分化できます。これにより不要な作業を削り、法務リスクの高い領域へ資源を集中できます。

成功報酬型アドバイザリーの活用例

買収金額が一定規模以上になる場合、着手金や中間報酬を抑え、クロージング時の成功報酬に厚みを持たせる料金設計が選択されることがあります。これにより初期キャッシュアウトを抑え、負担感を軽減できます。顧問契約と併用し、平時は月額数万円で相談窓口を確保しつつ、ディールが動く局面のみスポットで時間制報酬を追加する事例も増えています。


キャップ条項を設定して予算超過を防止

委任契約書に「総報酬上限」を明記することで、想定外の追加費用発生を防げます。弁護士と協議し、業務フローの途中で上限近くまで達した場合には必ず事前連絡を受ける運用を定めておくと安心です。

PMIフェーズで弁護士が担う法務統合支援

クロージング後の経営統合(PMI)は、M&Aの成果を最大化する重要フェーズです。ここでも弁護士の知見が生きます。

人事・労務リスクの整理と労働条件変更サポート

労働契約承継法に基づき、分割対象事業の従業員に対して協議・通知を適切に行う必要があります。弁護士は対象者リストの確認や通知文のリーガルチェックを担当し、無効リスクを回避します。

グループ内契約の再編と知財管理体制の整備

買収企業と被買収企業で重複する取引契約やライセンスを整理し、重複契約の統廃合をサポートします。知的財産権の帰属確認を行い、商標・特許の権利者変更手続をスムーズに実行します。


統合段階で発覚した追加リスクへの対応

PMI中に新たな法的リスクが判明することがあります。弁護士は追加調査を実施し、表明保証に基づく補償請求の要否や、是正措置の優先順位を提示して経営判断を支援します。

M&A弁護士活用で成功する進行スケジュール

弁護士を適切なタイミングで関与させると、全体の工程が整理され、意思決定が加速します。以下は中規模案件(買収価格10億円規模)の一例です。

検討段階(0〜2か月)

  • 譲渡・譲受双方の意向確認
  • 弁護士へ初回相談、概算見積取得
  • NDA締結、基本条件の草案作成

初期交渉・法務デューディリジェンス(3〜4か月)

  • 重要ドキュメントの共有
  • 弁護士がリスク抽出表を作成
  • 調査結果に基づき価格・スキーム修正

契約交渉・最終契約締結(5〜6か月)

  • 表明保証条項・補償条項の確定
  • 取引保護条項の最終調整
  • 株主総会決議・取締役会決議サポート

クロージング・PMI(7か月以降)

  • 債権者異議手続、許認可届出
  • クロージング当日の書類確認
  • PMI計画に沿った統合作業を法務面で支援


タイムライン共有で社内外コミュニケーションを円滑化

弁護士が提供する工程表は、財務・税務チームとも共有することで部門間連携を強化し、遅延リスクを最小化します。

弁護士費用の会計処理と税務上の扱い

弁護士に支払った報酬は、会計上はコンサルティングフィーなどの外注費として処理し、法人税法上は損金算入が可能です。ただし成功報酬の一部が資本的支出に該当する場合は注意が必要です。

費用配分の考え方

  • クロージングまでに発生するデューディリジェンス費用
    発生時点で損金

  • 取得関連直接費用(成功報酬含む)
    BS計上後、のれんとして償却対象

  • PMI段階の顧問料 
    期間費用として損金


税務調査に備えた証憑管理のポイント

契約書・請求書・作業報告書を紐づけて保管し、費用区分と金額の合理性を示せるようにしておくことが重要です。

弁護士と他専門家を連携させる実務フロー

M&Aでは弁護士・公認会計士・税理士が三位一体で動くことで、リスク網羅性が高まります。

共同キックオフミーティングで役割を明確化

最初に全専門家が揃い、各フェーズの担当範囲と情報共有ルールを設定することで、連絡漏れを防ぎます。

クラウド共有フォルダでドキュメントを一元管理

弁護士が契約書フォルダを、会計士が財務書類フォルダを管理し、閲覧権限を設定することでセキュリティを確保しながら効率的なレビューを実現します。


週次定例会で進捗とリスクをレビュー

リスク共有をリアルタイムで行い、発生した課題に対して誰が主担当かを即決できる体制を整えます。

地方中小企業での活用事例と学び

実際に地方の部品製造業A社が後継者不在を理由に事業承継型M&Aを行った事例では、弁護士・税理士・会計士が連携し、約8か月でクロージングに至りました。

事例概要とポイント

  • 取引金額 4億円

  • 弁護士報酬 デューデリジェンス200万円、契約書作成120万円、成功報酬160万円(4億円×4%)

  • 効果 契約書チェックにより潜在債務3000万円を表明保証でカバー

コスト対効果の可視化が意思決定を後押し

経営者は弁護士費用480万円に対し、潜在債務リスクを回避できた点を高く評価し、弁護士活用の効果を定量化できたと述べています。

弁護士活用チェックリスト

最後に、実際に弁護士へ依頼する際に確認すべき項目を一覧化します。

  • 依頼目的と優先順位は明確か

  • 見積書に業務範囲・上限額が記載されているか

  • 過去に類似案件の実績があるか

  • 公認会計士・税理士との連携体制があるか

  • PMI段階のサポート有無と費用体系を把握したか

  • 紛争時の対応方針と追加費用の見積が提示されているか

まとめ

M&Aでは、契約書作成や法務デューディリジェンスなど、細部まで法的リスクを管理することが成功の鍵です。専門知識と交渉力を兼ね備えた弁護士を適切に活用すれば、費用負担を抑えながら取引を安全かつ迅速に進められます。依頼範囲を明確にし、他専門家と連携することで成果を最大化しましょう。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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