M&Aプロセスを支える公認会計士:その役割と選び方

M&Aプロセスにおける公認会計士の重要性と役割について解説します。企業価値評価やデューデリジェンスなど、M&A成功に不可欠な公認会計士の専門性と、適切な専門家選定のポイントをご紹介します。

目次

  1. 公認会計士の定義と役割
  2. M&Aプロセスにおける公認会計士の重要性
  3. M&Aにおける公認会計士と他の専門家の比較
  4. M&A専門家選定の重要ポイント
  5. まとめ

公認会計士の定義と役割

公認会計士は、会計と監査のスペシャリストとして知られる国家資格保有者です。その主要な業務には、上場企業などの会計監査が含まれます。これは、企業が作成する財務諸表が会計基準に従って適切に経営状態や財政状況を反映しているかを、第三者の立場から検証する重要な役割です。

公認会計士の業務は、会計監査にとどまらず、以下のような幅広い分野に及びます:

1. 財務諸表の作成支援

2. 税務相談および申告書の作成

3. 経営コンサルティング

4. M&A(合併・買収)に関するアドバイザリー

特に、M&Aの分野では公認会計士の専門知識が非常に重要となります。企業価値評価、デューデリジェンス(買収監査)、税務計画など、M&Aプロセスの多くの局面で公認会計士の expertise が求められます。

公認会計士は、その高度な専門性と倫理観から、経済系の資格の中でも最も信頼される存在の一つとされています。企業の財務健全性を守り、投資家や債権者の利益を保護する重要な役割を担っているのです。

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M&Aプロセスにおける公認会計士の重要性

M&Aプロセスにおいて、公認会計士は買収側企業と売却側オーナーの双方にとって重要な役割を果たします。その専門知識と経験は、M&Aの成功に大きく寄与します。

買収側企業にとっての公認会計士の役割

買収側企業にとって、公認会計士は以下のような重要な役割を担います:

1. M&A戦略の策定:現在の経営状態や将来の経営戦略を踏まえ、M&A戦略の策定をサポートします。

2. バリュエーション(企業価値評価)の実施:対象企業の価値を適切に算定し、交渉の基礎となる情報を提供しま
   す。

3. デューデリジェンスの実施:財務・税務面での潜在的リスクを洗い出し、適切な買収判断をサポートします。

4. PMI(Post Merger Integration)の支援:M&A完了後の経営統合プロセスにおいて、経営体制の構築やシステム統
   合などをサポートします。

5. 税務面のサポート:M&Aに伴う税務処理や節税対策について助言を行います。

売却側オーナーにとっての公認会計士の意義

売却側オーナーにとっても、公認会計士は以下のような重要な役割を果たします:

1. 専門的な財務・会計アドバイス:M&Aプロセスにおける財務面の専門的な助言を提供します。

2. 適正な企業価値評価:客観的な立場から企業価値を評価し、適正な売却価格の交渉をサポートします。

3. 税務面のアドバイス:M&Aに伴う税務上の影響や最適な資産承継の方法について助言します。

4. 他の専門家との連携:弁護士や経営コンサルタントなど、他分野の専門家との連携をサポートし、スムーズなM&A
   プロセスの進行を促進します。

公認会計士は、その職業倫理に基づき、独立した立場で公正かつ誠実に業務を遂行します。このため、M&Aプロセスにおいて、単なる仲介役以上の信頼できるアドバイザーとして機能し、売却側オーナーの利益を守る重要な役割を果たします。

M&Aにおける公認会計士と他の専門家の比較

M&Aプロセスでは、公認会計士以外にも様々な専門家が関与します。ここでは、公認会計士と他の主要な専門家との違いについて説明します。

公認会計士と税理士の違い

公認会計士と税理士は、ともに財務・会計分野の専門家ですが、その役割と専門性には以下のような違いがあります:

1. 業務範囲: 

 o 公認会計士:会計監査、財務諸表の作成、税務、経営コンサルティングなど幅広い業務を行います。

 o 税理士:主に税務に特化し、税金の計算、申告書の作成、税務相談などを行います。

2. 対象企業: 

 o 公認会計士:主に上場企業や大企業を対象とすることが多いです。

 o 税理士:中小企業を主な顧客とすることが多いです。

3. M&Aにおける役割: 

 o 公認会計士:財務デューデリジェンス、企業価値評価、M&A戦略の策定など、M&Aプロセス全般に関与します。

 o 税理士:主に税務デューデリジェンスや税務面でのアドバイスを担当します。

公認会計士と弁護士の違い

公認会計士と弁護士は、M&Aプロセスにおいて異なる専門性を持ち、以下のような違いがあります:

1. 専門分野: 

 o 公認会計士:財務、会計、税務が主な専門分野です。

 o 弁護士:法律全般が専門分野です。

2. M&Aにおける役割: 

 o 公認会計士:財務デューデリジェンス、企業価値評価、税務計画などを担当します。

 o 弁護士:法務デューデリジェンス、契約書の作成・チェック、法的リスクの評価などを担当します。

3. アプローチ: 

 o 公認会計士:数字やデータに基づいた分析や評価を行います。

 o 弁護士:法的観点からのリスク評価や契約条件の交渉を行います。

M&Aプロセスを成功させるためには、これらの専門家がそれぞれの専門性を活かしながら、協力して作業を進めることが重要です。公認会計士は、財務・会計の専門家として、他の専門家と連携しながら、M&Aの成功に向けて重要な役割を果たします。

M&A専門家選定の重要ポイント

M&Aプロセスにおいて適切な専門家を選定することは、取引の成功に大きく影響します。以下に、M&A専門家を選ぶ際の重要なポイントを挙げます。

1. 専門的な対応能力: 

 o M&Aの経験が豊富であること

 o 財務、税務、法務など、必要な専門知識を有していること

 o デューデリジェンスなどの専門的な業務を適切に遂行できること

2. M&A成立後のサポート体制: 

 o PMI(Post Merger Integration)をサポートできること

 o M&A完了後に発生する可能性のある問題に対応できること

3. 実績と経験: 

 o 類似案件の経験があること

 o 業界特有の知識や課題への理解があること

4. 明確で適正な料金設定: 

 o 料金体系が明確であること

 o 業務範囲と料金が適切に対応していること

 o 成功報酬型の場合、レーマン方式などの一般的な基準に基づいていること

【一般的なレーマン方式】

成功報酬基準額

料率

5億円までの部分

5

5億円を超え10億円までの部分

4

10億円を超え50億円までの部分

3

50億円を超え100億円までの部分

2

100億円を超える部分・・・1

1



【成功報酬基準額13億円の場合】

5億円までの部分

5億円×5

5億円を超え10億円までの部分

5億円×4

10億円を超え50億円までの部分

3億円×3

成功報酬

5,400万円(の合計額)


5. コミュニケーション能力: 

 o クライアントの状況や要望を適切に理解し、分かりやすく説明できること

 o 他の専門家と円滑に連携できること

6. 独立性と客観性: 

 o 利益相反がなく、公正な立場でアドバイスできること

 o 特に公認会計士の場合、職業倫理に基づいた独立した立場を維持できること

7. ネットワークの広さ: 

 o 必要に応じて他の専門家を紹介できる広いネットワークを持っていること

8. 機密保持能力: 

 o M&Aに関する機密情報を適切に管理できること

これらのポイントを考慮しながら、自社のニーズに最も適した専門家を選定することが重要です。また、複数の専門家から提案を受け、比較検討することも有効です。

まとめ

M&Aプロセスにおいて、公認会計士は財務・会計の専門家として重要な役割を果たします。企業価値評価、デューデリジェンス、税務計画など、M&Aの成功に直結する多くの局面で、その専門知識が求められます。適切な公認会計士を選定し、その専門性を活用することで、M&Aプロセスをより効果的に進めることができます。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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