M&Aにおいて公認会計士を活用して企業を守る戦略を解説


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M&Aにおいて公認会計士を活用して企業を守る戦略を解説

M&Aの成否は公認会計士の知見に左右されます。企業価値評価や財務・税務DDを誰に任せるべきか、すぐに答えを知りたい方へ要点を紹介します。

目次

  1. 公認会計士とは会計監査を独占業務とする国家資格者
  2. M&Aで公認会計士が重要視される理由
  3. 公認会計士と他専門家の違いを理解する
  4. M&A専門家選定で失敗しない八つの視点
  5. 公認会計士への依頼費用とレーマン方式の仕組み
  6. 専門家と協働する際に押さえる三つのポイント
  7. 財務デューデリジェンスで重点確認される五つの論点
  8. PMIを成功させるための初期アクション
  9. 譲受企業と譲渡企業が得るメリットの整理
  10. まとめ

M&Aにおいて公認会計士を活用して企業を守る戦略を解説

▶目次ページ:M&Aの相談先(士業)

公認会計士とは会計監査を独占業務とする国家資格者

公認会計士は「会計監査」を独占業務とする国家資格者です。日本公認会計士協会の登録者は約3万9,000人(2020年時点)。上場企業や大会社の財務諸表を監査し、社会の信頼を支えています。監査では経営者へのヒアリングを通じて事業環境や将来計画まで把握し、その内容が財務諸表に正しく反映されているかを検証します。内部統制やガバナンスの有効性を確認する過程で企業の強み・弱みを俯瞰する洞察力が養われ、それがM&A支援にも直結します。

財務諸表の信頼性を担保する会計監査

法定監査が義務づけられた大会社では、財務諸表だけでなく内部統制報告書(J-SOX)の監査も求められます。公認会計士は帳簿の正確性や業務プロセスを点検し、粉飾や不正の兆候を探します。棚卸資産の実査や偶発債務の検証を通じて簿外債務の有無を把握し、この手腕が財務デューデリジェンス(財務DD)でも大いに生かされます。

幅広い業務で磨かれるM&A支援力

公認会計士の業務は監査だけにとどまりません。


  • 財務諸表作成支援

  非上場企業が金融機関向けに高品質な決算書を整備するときの助言


  • 税務申告と相談

  複雑な組織再編税制にも対応


  • 経営コンサルティング

  事業計画策定や内部統制構築、予算管理制度の導入支援


  • 譲受・承継アドバイザリー

  企業価値評価、デューデリジェンス、PMI支援


こうした多面的な経験が、M&A現場で即戦力となる分析力と調整力を生み出します。

M&Aで公認会計士が重要視される理由

国内M&A件数は2010年の約1,200件から2017年には2,180件へ増加し、その後も承継ニーズを背景に拡大傾向です。短期間で的確な判断を下すためには、財務・会計・税務を横断的に理解する公認会計士の関与が不可欠です。

譲受企業を成功へ導く5つの支援

1.M&A戦略策定
 現状分析と将来計画を踏まえ、譲受による非連続成長を設計

2.企業価値評価
 DCF法や類似会社比準法で価格レンジを算定

3.財務デューデリジェンス
 簿外債務や収益性を精査し潜在リスクを数値化

4.PMI支援
 経営体制やシステムを統合しシナジー創出を加速

5.税務アドバイス
 最適スキームと節税策を提示し取引後の税負担を抑制

譲渡企業オーナーを守る4つの支援

1.財務アドバイス
 経営者貸付金や遊休資産を整理して交渉材料を整備

2.適正な企業価値評価
 DCF法と時価純資産法を併用し客観性を確保

3.税務面の助言
 株式譲渡益課税や事業承継税制の適用可否を検討

4.専門家連携
 弁護士や社労士と協働し円滑なプロセスを実現

公認会計士と他専門家の違いを理解する

譲受・譲渡は法務・税務・労務など多面的な調整が伴います。ここでは主な士業との違いを示し、各専門家をどう組み合わせるかの指針を示します。

税理士との比較ポイント

  • 業務範囲
  公認会計士は監査・企業価値評価・PMIまで網羅、税理士は税務DDや申告を専門


  • 対象企業
  公認会計士は上場・大規模譲受企業も担当、税理士は中小企業支援で強み


  • M&A領域
  公認会計士は財務分析とシナリオ作成、税理士は実効税率比較と税務リスク低減


弁護士との比較ポイント

  • 専門分野
  公認会計士は数値と制度、弁護士は契約と規制を専門


  • 主担当領域
  公認会計士は財務DDとバリュエーション、弁護士は法務DDや契約書作成


  • 対処するリスク
  公認会計士は資産評価リスク、弁護士は許認可や競争法違反リスク


協働が生むシナジー

財務・税務・法務の専門家が縦割りで動くと情報が分断され判断が迷走します。公認会計士は数値データを軸に議論を整理し、税理士が税負担を最小化、弁護士が契約リスクを封じることで、譲受価格と契約条件のバランスが取れた取引を実現します。

  • DCF法は将来キャッシュフローを現在価値に割引

DCF法では将来キャッシュフローを資本コストで現在価値へ換算します。前提が変わると評価額も大きく変動するため、複数シナリオを比較するのが実務上の基本です。


  • 時価純資産法は貸借対照表を洗い替えて評価

資産・負債を時価に換算し純資産額を算出します。遊休不動産や減価償却が進んだ設備を再評価し、最低譲渡価格を見極める指標として活用されます。


  • 類似会社比準法は業界倍率で相対評価

同業上場企業の株価倍率を参考に評価します。市場環境の影響を反映できる一方、適切な比較対象選定が重要です。


  • 財務デューデリジェンスの主要調査項目

  1. 収益性分析(売上総利益率・営業利益率の推移)
  2. 資産の実在性(在庫実査や固定資産現物確認)
  3. 負債の網羅性(未払残業代、保証債務など簿外債務抽出)
  4. 運転資本の適正水準(回転率分析と資金繰り試算)
  5. 税効果の反映(繰延税金資産・負債の洗い替え)

  • PMIで重視される100日プラン

取引完了から100日以内に収益向上の初期成果を示すことが推奨されます。公認会計士はKPI設計や内部統制再構築を主導し、早期シナジーを可視化します。


  • 税務スキーム比較の具体例

株式譲受と事業譲受では、欠損金の引継ぎ可否や消費税課税の有無が異なります。公認会計士は譲渡企業の税務リスクと譲受企業の節税余地を数値化し、双方が納得できる譲渡価格へ落とし込みます。


  • 国内M&Aが増える背景

事業承継対策、DX投資、海外需要の取り込みなど目的は多様です。法制度の整備や税制優遇も進み、M&Aは「時間を買う」手段として定着。公認会計士は品質を担保するゲートキーパーとして市場全体の健全性を守る役割も担います。


ここまでで、公認会計士が幅広い専門知識と経験を駆使し、譲受企業と譲渡企業双方に最適な提案を行う姿を整理しました。次章では、公認会計士を選ぶ際に確認すべきポイントやレーマン方式の計算例を取り上げ、専門家の力量を見極める視点を詳しく解説します。また、自社の財務情報を整理し将来計画を数値化しておくと、会計士との打合せが円滑になり見積もりも精緻になります。

M&A専門家選定で失敗しない八つの視点

M&Aを成功させるには、適切な専門家選定が欠かせません。原文で示された八つの基準を実務でどう確認するかを整理します。

1.専門的な対応能力が譲受・譲渡を左右する

財務デューデリジェンスや企業価値評価を自社対応できるか、M&A実績を具体的な件数で提示できるかを確認します。デューデリジェンス報告書の構成例を提示してもらうと力量を測りやすくなります。


2.PMIを含むサポート体制の有無を確認する

M&A成立後に経営統合まで支援できるかは重要です。原文が示すように、PMIの支援範囲(経営体制構築やシステム統合)を事前に開示してもらうことで、取引後の追加コストを抑えられます。


3.実績と経験は業界類似案件の有無が鍵

同業種や同規模案件の経験がある専門家は、交渉過程で想定外のリスクに早期対応できます。案件事例を非機密情報で共有してもらいましょう。


4.料金設定は業務範囲と連動しているか

着手金・月額報酬・成功報酬を分け、成功報酬は原文に示されたレーマン方式で計算するのが一般的です。費用内訳と料率階段を一覧で確認し、追加作業単価も明示してもらうと安心です。


5.コミュニケーション能力で進行速度が変わる

クライアントの要望を的確に理解し、専門用語を分かりやすく説明できるかを面談でチェックします。議事録や報告書の納期を確認しておくと情報共有が円滑になります。


6.独立性と客観性は意思決定の公正さを守る

職業倫理に基づく独立した立場を維持できるか、利益相反を避ける仕組みがあるかをヒアリングしましょう。


7.ネットワークの広さがワンストップ体制を実現

弁護士や経営コンサルタントなど他士業との連携状況を確認します。必要な専門家を紹介できるネットワークを持つと、追加手配の手間が省けます。


8.機密保持能力で情報流出リスクを抑える

契約前にNDAを締結し、資料管理方法やアクセス権限設定を確認することで、情報漏えいを防止できます。


  • 具体的な確認事項(専門的な対応能力)

  1. M&A経験が豊富であること
  2. 財務・税務・法務など必要な専門知識を有すること
  3. デューデリジェンスなどを適切に遂行できること

  • 具体的な確認事項(PMI体制)

  1. PMIをサポートできる体制がある
  2. 取引後に発生する問題に対応できる

  • 具体的な確認事項(実績と経験)

  1. 類似案件の経験がある
  2. 業界特有の知識や課題への理解がある

  • 具体的な確認事項(料金設定)

  1. 料金体系が明確である
  2. 業務範囲と料金が適切に対応している
  3. レーマン方式等の一般的基準に基づく

  • 具体的な確認事項(コミュニケーション能力)

  1. 要望を理解し分かりやすく説明できる
  2. 他専門家と円滑に連携できる

  • 具体的な確認事項(独立性と客観性)

  1. 利益相反がなく、公正に助言できる
  2. 職業倫理に従い独立性を保持

  • 具体的な確認事項(ネットワークの広さ)

他専門家を紹介できるネットワークを保有

  • 具体的な確認事項(機密保持能力)

機密情報を適切に管理できる

公認会計士への依頼費用とレーマン方式の仕組み

作業時間単価×作業時間が基本

個人事務所では1時間あたり約1万〜1万5,000円が目安。


  • バリュエーション:50万〜300万円

  • 財務デューデリジェンス:数十万〜数百万円

  • M&A全体支援:数十万〜数百万円

成功報酬は階段制レーマン方式が主流

成功報酬基準額13億円の場合


  • 5億円まで:5億円×5%=2,500万円

  • 5億円超〜10億円:5億円×4%=2,000万円

  • 10億円超〜13億円:3億円×3%=900万円

合計:5,400万円

費用相場を理解し予算計画を立てる

案件規模と業務範囲で費用は変動します。自社の希望を整理し、段階的に依頼すると無駄を抑えられます。


レーマン方式の区分と料率を把握する

料率が逓減する仕組みを試算し、交渉時の根拠にしましょう。

  • 成功報酬が高額になりやすいケース

  1. 海外展開企業の譲受
  2. 競争入札で案件が長期化
  3. DD・評価・PMIを一括依頼

専門家と協働する際に押さえる三つのポイント

1.財務データと将来計画を事前共有する

試算表・事業計画を整理し提供すれば、専門家が迅速に分析できます。


2.意思決定スケジュールを明確にする

取締役会や金融機関との交渉日程を共有し、調査工程を逆算します。


3.報告書を社内向けに要約して活用する

専門家の報告書を要約して部門共有し、PMI準備を加速させます。


財務デューデリジェンスで重点確認される五つの論点

1.収益性分析で将来キャッシュフローを検証する

利益率推移と事業計画の妥当性を確認し、異常値を洗い出します。


2.資産の実在性を棚卸資産実査で確認する

固定資産現物確認や棚卸資産実査で帳簿残高との整合性を検証します。


3.負債の網羅性を簿外債務調査で確保する

未払残業代や訴訟リスクなど潜在債務を洗い出し、価格調整に反映します。


4.運転資本の適正水準を分析する

回転日数と在庫水準を分析し、クロージング後の資金繰り悪化を防ぎます。


5.税務影響の反映を確認する

繰延税金資産・負債の評価と税効果会計の適用を確認します。

PMIを成功させるための初期アクション

経営体制の構築で注意すべき二つの点

  1. ガバナンス整備

  2. 組織文化の調整

システム統合で発生しやすい課題

会計ソフトの仕様差や連携設定の問題を早期に洗い出し、統合後の試算表を早期作成できるよう助言します。

譲受企業と譲渡企業が得るメリットの整理

譲受企業のメリット

  • 新規事業や拡大にかかる時間を短縮

  • シナジーで収益性向上

譲渡企業のメリット

  • 投資回収・現金化を早期実現

  • 後継者不在問題を解決

メリットの最大化には専門家の協働が不可欠

公認会計士を中心に税理士・弁護士と連携し、上記メリットを確実に享受できる体制を整えましょう。

まとめ

公認会計士は企業価値評価、財務デューデリジェンス、税務計画、PMI支援でM&A成功を支えます。八つの選定基準と費用構造を理解し、密なコミュニケーションを取ることで、譲受企業は投資回収を、譲渡企業は適正価格による承継を実現できます。

著者|土屋 賢治  マネージャー/M&Aアドバイザー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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