M&A税理士の役割とは?会社売却の手取り・費用・選び方
M&Aで税理士が担う税務デューデリジェンス、企業価値評価への関与、譲渡スキームの検討、成約後の申告を解説します。売り手・買い手別の依頼内容、報酬の目安、顧問税理士との使い分け、信頼できる相談先の見極め方まで、会社売却を検討する経営者向けに整理します。
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▶目次ページ:M&Aの相談先(士業)
会社売却の相談で、経営者が最も気にする数字は譲渡価格です。しかし、実際に生活設計や次の事業へ使えるのは、税金や借入返済などを差し引いた後の手取り額。ここを見ないまま価格交渉へ進むと、「希望額で成約したのに、想定ほど資金が残らなかった」ということがあります。
M&A(合併・買収)における税理士の中心的な役割は、税務リスクを見つけ、複数の譲渡方法を税引後の金額で比べ、申告まで正しくつなぐことです。通常の税務顧問では、毎月の記帳確認や決算・申告が中心になります。一方、M&Aでは組織再編税制、非上場株式の評価、役員退職金、繰越欠損金、消費税などが同時に関係することがあります。そのため、M&A実務に慣れた税理士の関与が重要です。
税理士が必要になるのは、成約直前だけではありません。会社売却を考え始めた段階、買い手候補から条件提示を受けた段階、基本合意後の調査段階、最終契約前、成約後の申告まで、判断の節目ごとに出番があります。
税理士が得意なのは、税務申告、税務リスクの確認、手取り額の試算、税務面からのスキーム検討です。買い手候補の探索、条件交渉の進行、契約書の作成、登記などは、M&A支援会社、弁護士、司法書士などの役割になります。
そのため、「税理士に頼めば全部終わる」と考えるより、税理士を専門家チームの一員として位置付ける方が現実的です。誰が全体を進行し、誰が税務判断を行い、誰が契約を確認するのか。最初に役割を分けておくと、責任の空白が生じにくくなります。
同じM&Aでも、売り手と買い手では税理士に求める仕事が異なります。自社の立場を曖昧にしたまま見積りを取ると、必要な業務が抜けたり、不要な作業まで依頼したりすることも。依頼前に目的を整理しましょう。
売り手側で重要なのは、提示された譲渡価格を税引後の手取り額へ置き換えることです。株式譲渡、事業譲渡、会社分割など、選ぶ方法によって課税される人や会社、税率、消費税の扱い、会社に残る資産と負債が変わります。
個人株主が非上場株式を譲渡する場合、譲渡益には原則として、所得税、復興特別所得税、住民税を合わせた20.315%の税金がかかります。ただし、取得費や譲渡費用、株主構成などによって確認すべき点は変わります。
事業譲渡では、譲渡する資産の種類に応じて法人税や消費税も検討対象です。税率だけを比べて結論を出すことはできません。会社と株主の双方に最終的にいくら残るのかを確認する必要があります。
株式譲渡と役員退職金を組み合わせることで、オーナーの手取りが増える場合があります。退職所得には税負担を抑える仕組みがあるためです。
ただし、実際に役員を退任するのか、会社の支給能力に無理がないか、金額が不相当に高額ではないか、買い手が支給を受け入れるかという確認が欠かせません。
退職金を増やせば必ず有利になるわけではありません。会社の現預金が減れば株式価値に影響し、買い手の資金負担も増えます。税金だけではなく、株式の譲渡価格と退職金の合計で判断することが大切です。
買い手側の税理士は、税務デューデリジェンス、略して税務DDを担当します。税務DDとは、対象会社の過去の申告や取引を調べ、将来の追徴課税につながるリスクを確認する調査です。
確認対象には、法人税、消費税、源泉所得税、同族会社間の取引、役員への貸付金、組織再編の処理、過去の税務調査における指摘事項などがあります。
問題が見つかった場合は、想定される税負担を金額で示し、譲渡価格の調整、契約上の補償、成約前の是正につなげます。一般に、買い手が依頼して実施する業務です。
売り手側でも、買い手の調査を受ける前に簡易的な税務点検を依頼することがあります。事前に弱点を把握して説明資料を整えておけば、調査で突然問題が出て交渉が止まる事態を避けやすくなります。
非上場会社には、市場で日々決まる株価がありません。そのため、決算書、保有資産、利益水準、将来計画などを基に企業価値を検討します。
税理士は、決算数値の整理、税務上の含み損益、繰越欠損金、役員報酬などを確認し、評価の前提を整える役割を担います。税理士自身が企業価値評価を行う場合もあれば、公認会計士やM&A支援会社が行う評価を税務面から確認する場合もあります。
注意したいのは、相続税や贈与税のための株価と、M&Aで買い手が提示する価格は目的が異なることです。顧問税理士から税務上の株価を聞き、その金額が会社売却価格だと思い込むケースは珍しくありません。
M&Aの価格は、収益力、事業の将来性、顧客基盤、技術、人材、買い手との相乗効果なども含めて交渉されます。
M&Aが成立した後も税務業務は残ります。株主個人の譲渡所得申告、役員退職金の源泉徴収、事業譲渡に伴う法人税・消費税の処理、組織再編後の申告などです。
契約書に書かれた金額と、会計・税務上の処理が一致しているかも確認します。成約後に初めて税理士へ資料を渡すと、株式の取得費を示す資料が見つからない、契約内容から想定した処理ができないといった問題が生じることもあります。
契約前から申告を担当する税理士を決め、契約内容を共有しておく方が安全です。
税務の検討は、買い手から価格が出た後に行えばよいと思われがちです。実務では、その時点では変更しにくい項目があります。
役員報酬の見直し、不要資産の整理、保険契約の扱い、株主構成の調整などは、短期間では動かせません。決算をまたぐと、希望する処理が間に合わなくなることもあります。
「3億円以上で売りたい」という希望だけでは、税理士は適切な方法を比較できません。引退後に必要な生活資金、借入金と個人保証の状況、会社に残したい資産、従業員の雇用、売却後に続ける事業の有無まで伝える必要があります。
税理士は、それぞれの前提から手取り額と税務リスクを試算します。その結果、譲渡価格を優先するのか、早期成約を優先するのか、事業の一部を手元に残すのかという経営判断がしやすくなります。
基本合意後も条件は動きます。役員退職金の追加、譲渡対象資産の変更、債務の引継ぎ、クロージング日の変更などがあれば、税額も変わる可能性があります。
最初の試算をそのまま使い続けるのは危険です。重要条件が変わるたびに、売り手の手取り、買い手の取得コスト、会社側の納税資金を再計算します。
M&A実務では、税金の確認を後回しにしたため、契約直前になって経営者の判断が止まることがあります。早い段階から試算を更新できる体制を整えておきましょう。
企業価値評価や財務デューデリジェンスでは、公認会計士の知見が役立ちます。契約書、表明保証、補償条項、許認可などは弁護士の担当領域です。
税理士が税務リスクを金額にし、公認会計士が決算書への影響を整理し、弁護士が契約へ反映することで、経営者は一つの判断材料として理解できます。
M&Aに関する税理士報酬には、全国共通の定価がありません。会社規模だけでなく、対象年度、拠点数、株主数、取引の複雑さ、資料の整理状況、報告書の詳しさによって金額が変わります。
初回相談は無料の事務所もあれば、1時間当たり数千円から数万円程度を設定する事務所もあります。税務デューデリジェンスは中小企業で50万~200万円程度、株式価値算定は20万~100万円程度、税務スキームの検討や手取り試算は20万~80万円程度が一つの目安です。
ただし、海外取引、複雑な組織再編、多数の子会社がある案件では、これを上回ることがあります。金額だけを見るのではなく、どこまで調査し、何を成果物として受け取れるのかを確認してください。
税理士法人や会計事務所が、税務業務だけでなく、M&Aの全体支援やFA業務まで引き受ける場合があります。FAとは、売り手または買い手の一方を支援する専門家です。
このような業務では、固定報酬ではなく、レーマン方式による成功報酬が設定されることがあります。レーマン方式は、譲渡価格など一定の基準額に段階的な料率を掛けて報酬を計算する方法です。
同じ「M&A支援」でも、税務DDの報酬と仲介・FAの成功報酬は、別の仕事に対する費用です。見積りでは、着手金、中間金、成功報酬、最低報酬、追加作業の単価、成約しなかった場合の費用を分けて確認しましょう。
費用を抑えるには、必要な業務を削るのではなく、重複をなくすことが重要です。例えば、企業価値評価を別の専門家が実施済みなら、税理士には税務前提の確認だけを依頼する方法があります。
反対に、財務と税務を同じチームが確認できるなら、資料提出やヒアリングをまとめられることもあります。
依頼前に、成果物が口頭説明だけなのか、計算書なのか、正式な報告書なのかを確認してください。価格差は作業時間だけではなく、後の交渉や金融機関への説明に使える成果物かどうかでも生じます。
長年付き合う顧問税理士は、自社の数字や経営者家族の事情を理解しています。一方、M&A案件への関与経験が少ない場合、相手探し、交渉、税務DD対応、組織再編税制まで一人で担うのは難しいことがあります。
顧問契約を切り替える必要はありません。顧問税理士には過去の申告内容、決算処理、株主や役員との取引を説明してもらい、M&A専門の税理士には手取り試算、スキーム検討、税務DD対応を任せる方法があります。
顧問税理士と専門税理士を併用する方が、情報の正確さと専門性を両立しやすい場合もあります。
買い手候補がまだ見つかっていない場合、税理士だけでは候補探索が進まないことがあります。その段階では、M&A仲介会社、FA、金融機関、M&Aプラットフォームなどへ相談し、自社の市場性や想定価格を確認する進め方が現実的です。
すでに相手が決まっている場合や、買い手から意向表明書を受け取っている場合は、税理士へスポットで手取り試算や税務リスクの確認を依頼する方法があります。顧問税理士の説明に不安があるときは、セカンドオピニオンとして利用することも可能です。
M&A仲介会社には、上場会社系、非上場会社系、会計事務所系・士業系があります。みつきコンサルティングは、税理士法人を母体とする会計事務所系・士業系の代表的なM&A仲介会社です。相手探しと税務・会計面の検討を連携しやすい点が特徴となります。
ただし、母体の種類だけで依頼先を決めるべきではありません。担当者の経験、税理士等の関与方法、手数料、利益相反への対応、契約条件まで確認する必要があります。
「M&Aに対応できます」という説明だけでは、実務力は分かりません。一般の法人税申告に詳しいことと、会社売却の税務設計や買収調査に慣れていることは別です。
選定基準を決めずに面談すると、話しやすさや知名度だけで依頼先を決めてしまうことがあります。具体的な経験と業務範囲を確認しましょう。
確認したいのは、M&Aの累計件数だけではありません。直近数年間にどの程度関与したか、売り手側と買い手側のどちらが多いか、自社と同じ業種・規模の経験があるかを聞きます。
さらに、「その案件で何を担当したか」まで確認してください。税務申告だけを担当したのか、税務DD、手取り試算、役員退職金、会社分割、価格交渉への助言まで行ったのかで、経験の深さが異なります。
守秘義務があるため、依頼先が過去の会社名や具体的な取引条件を明かせないのは当然です。匿名化した事例や担当業務の説明から、実務経験を判断します。
M&A専門チームがあるか、公認会計士や弁護士と日常的に連携しているか、契約書に含まれる税務事項を誰が確認するかを聞きます。
紹介先があるだけではなく、案件中に情報を共有し、論点を一緒に整理できる体制が重要です。会社売却では、税務と法務の判断が重なる場面が少なくありません。
説明の分かりやすさと回答速度も見逃せないポイントです。基本合意後は、短期間で資料提出や条件判断を求められます。初回面談後の連絡が遅い、質問への回答が抽象的、追加費用の条件が曖昧といった場合は慎重に判断します。
仲介やFAを依頼する場合は、中小企業庁のM&A支援機関登録制度への登録状況も参考になります。登録支援機関は、中小M&Aガイドラインの遵守を宣言しています。
また、事業承継・M&A補助金では、公募回や申請枠によって、登録支援機関へ支払う仲介手数料やFA費用が補助対象になる場合があります。ただし、登録されているだけで、税務の専門性や個別案件の支援品質まで保証されるわけではありません。
補助金の対象経費や申請条件は変更されることがあります。利用を検討する場合は、その時点の公募要領を確認してください。
面談前には、自社が売り手か買い手か、相手候補が見つかっているか、顧問税理士へ相談済みかを整理します。
この3点が分かれば、必要なのが相手探しなのか、企業価値評価なのか、税務DDなのか、手取り試算なのかを切り分けやすくなります。
依頼内容が明確になれば、見積りも比較しやすくなります。専門家へ丸投げするのではなく、経営者自身が「何を判断するための依頼か」を言葉にすることが、M&Aを安全に進める第一歩です。
M&Aで税理士に求められるのは、申告だけではありません。税務DD、企業価値評価の前提整理、譲渡方法と手取り額の比較、成約後の税務処理まで、重要な判断を数字で支えます。売り手・買い手の立場と依頼目的を整理し、顧問税理士、M&A専門家、弁護士、公認会計士の役割を早めに決めることが、税務リスクを抑え、納得できる成約へ進むためのポイントです。
著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事
編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人