M&A税理士の活用方法と実務|役割・メリット・費用から選び方まで解説

M&Aにおける税理士の役割や具体的な業務内容、報酬相場、適切な選び方について解説します。企業価値評価からデューデリジェンス、税務支援まで、M&A実行時に税理士に依頼できる業務を詳しく紹介します。

目次

  1. M&Aで税理士が果たす役割
  2. M&Aにおける税理士の具体的な業務内容
  3. 税理士へのM&A業務依頼で得られるメリット
  4. M&Aにおける税理士への報酬相場
  5. M&A案件における税理士の選定ポイント
  6. まとめ

M&Aで税理士が果たす役割

M&A(合併・買収)において、税理士は税務・会計面での専門的なサポートを提供する重要な役割を担います。主に確定申告や税務に関する助言を行い、M&A全般における税務・会計面での支援を行います。

会計士との業務の違い

公認会計士は税理士と比較して、より広範な業務を担当します。具体的には以下のような違いがあります: 

・財務諸表の調査 

・企業価値算出の実施 

・グローバルな視点でのサポート提供

弁護士との業務の違い

弁護士はM&Aにおける法務面の専門家として、以下のような役割を担います: 

・契約書の作成と確認

・法的リスクの検証 

・M&A全般における法務相談

▶目次ページ:M&Aの相談先(士業)

M&Aにおける税理士の具体的な業務内容

M&A案件において、税理士は多岐にわたる専門的な業務を担当します。以下、主要な業務内容について説明します。

企業価値評価の実施

企業価値評価は、M&Aにおける適切な買収価格算出のための重要な業務です。高度な会計知識を要するため、税理士や公認会計士が中心となって行います。複数の算出方法を用いて、対象企業の価値を多角的に分析します。

税務デューデリジェンス(買収監査・企業調査)の遂行

税務デューデリジェンスでは、売り手の税務面における価値とリスクを詳細に調査します。主な確認項目は以下の通りです: 

・過去の税務申告における漏れの有無 

・税務申告対応の適切性 

・潜在的な税務リスクの有無

なお、税務デューデリジェンスは一般的に財務デューデリジェンスに含まれますが、案件によっては別個に実施されることもあります。

ファイナンシャル・アドバイザリーの提供

企業価値算出や買収価格に関する助言を中心に、以下のような包括的なサポートを提供します: 

・相手企業の選定支援 

・契約書作成のサポート 

・M&A全般に関する助言

税務・会計面での支援

M&A実行時には、売り手・買い手双方で決算書の作成が必要となります。税理士は特に税務会計面での支援を行い、適切な会計処理をサポートします。

その他の関連業務

上記以外にも、以下のような業務を担当することがあります:

 ・事業計画の策定支援

 ・内部統制構築のアドバイス 

・第三者委員会への出席 

・M&A後の会計統合支援

税理士へのM&A業務依頼で得られるメリット

税理士にM&A業務を依頼することで、以下のような具体的なメリットを得ることができます。

適切な税務申告の実施

M&A実行後には、多額の法人税や所得税が発生することが一般的です。税理士に依頼することで以下のメリットがあります: 

・申告ミスの防止 

・税務調査におけるペナルティリスクの回避 

・複雑な税務処理の適切な対応

効果的な節税対策の立案

会社売却時の譲渡益に対して、事前に適切な対策を講じることで税負担を適正化できます: 

・M&A実行前からの計画的な節税策の検討 

・各種税制優遇措置の活用 

・最適なスキーム選択のアドバイス

税務面でのリスク把握

決算書に表れない税務リスクを事前に把握することができます: 

・潜在的な税務リスクの早期発見 

・リスク回避策の立案 

・適切な企業価値評価への反映

専門家ネットワークの活用

M&A実務経験が豊富な税理士は、以下のような専門家との連携が可能です: 

・M&A経験豊富な弁護士の紹介 

・公認会計士との協業体制の構築

 ・各種専門家とのスムーズな連携

このように、税理士への依頼は単なる税務面のサポートにとどまらず、M&A全体の円滑な進行にも寄与します。

M&Aにおける税理士への報酬相場

税理士へのM&A関連業務の報酬は、業務内容や企業規模によって大きく異なります。以下、主な業務ごとの報酬相場を解説します。

企業価値評価の費用

企業価値評価の一般的な報酬相場は以下の通りです:

 ・標準的な費用:10~50万円程度

 ・企業規模や複雑性により変動 

・事前の見積もり確認が必要

税務デューデリジェンスの費用

規模や調査範囲によって、以下のような費用が発生します: 

・標準的な案件:100~200万円程度 

・大規模案件:300~500万円程度 

・詳細調査案件:800~1,000万円程度

ファイナンシャルアドバイザリーの費用

通常、レーマン方式による報酬算定が一般的です: 

・譲渡代金5億円以下の場合:譲渡代金の5%程度 

・具体例:譲渡代金5億円の場合、2,500万円程度

M&Aアドバイザリーの費用

案件規模により以下のような費用となります: 

・一般的な相場:50~150万円程度 

・大規模案件:1,000万円以上 

・レーマン方式採用の可能性あり

確定申告業務の費用

基本的な報酬相場は以下の通りです: 

・年間:30~50万円程度 

・別途、月額顧問料が発生する場合あり 

・企業規模により変動

なお、これらの費用は目安であり、案件の複雑さや要求される業務範囲によって変動することがあります。

M&A案件における税理士の選定ポイント

M&A案件で適切な税理士を選定することは、取引の成否を左右する重要な要素となります。以下、主要な選定ポイントについて解説します。

M&A実務経験の確認

適切な税理士選定の第一歩として、以下の点を確認します: 

・M&A案件の具体的な実績数 

・過去の案件の規模や業種 

・案件での役割と貢献度 

・チーム体制と実務能力

得意分野との適合性

M&A実務経験があっても、以下の点での適合性が重要です: 

・自社業界での実績有無 

・業界特有の会計・税務への理解度 

・関連法規制への精通度 

・特殊な会計処理への対応能力

経営者との相性

M&Aは長期プロジェクトとなるため、以下の点での相性が重要です:

・コミュニケーションの円滑さ 

・レスポンスの迅速性 

・提案内容の理解しやすさ 

・価値観の共有度合い

避けるべき税理士の特徴

以下のような特徴がある税理士への依頼は注意が必要です:

・M&A実務経験が乏しい

・経営方針への理解が不足している 

・コミュニケーションに課題がある 

・専門家ネットワークが限定的

なお、案件によってはM&A仲介会社への直接相談が効率的な場合もあります。

まとめ

M&Aにおける税理士の役割は、税務・会計面での専門的支援から企業価値評価、デューデリジェンスまで多岐にわたります。適切な税理士選定は、M&A成功の重要な要素となります。選定の際は、実務経験、専門性、相性などを総合的に判断し、自社のニーズに合った専門家を見つけることが重要です。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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