M&A税理士の選定と活用で事業承継を円滑に実行する方法を解説
M&A税理士は何をしてくれるの?――企業価値評価や税務デューディリジェンスを任せるメリットと費用感、失敗しない選定のコツを分かりやすく解説します。
目次
▶目次ページ:M&Aの相談先(士業)
M&Aは譲渡企業と譲受企業の双方にとって会社の将来を決める重大なイベントです。大量の書類と複雑な税法、会計基準を短期間で整理しなければならず、経営者だけで進めるのは困難です。税理士は税務・会計の専門家として、次の3つの角度から取引を支えます。
M&Aの現場では公認会計士、弁護士、仲介会社など多彩な専門家が関わります。その中で税理士は「数字の番人」として取引全体を通じて税負担やリスクを管理し、関係者間の調整役を担います。
公認会計士は監査報告書の作成や財務デューディリジェンスを通じ、譲渡企業の財務実態を正確に映し出す役割を担います。一方税理士は、法人税・所得税・消費税を中心とした税務調査と申告書作成のプロフェッショナルです。企業価値評価においては両者が協働し、公認会計士が作成する財務モデルに税理士が税金計算の前提を組み込み、正味のキャッシュフローを算定します。この連携により、経営者は「理論上妥当で実務上も実現可能な」買収価格を把握できます。
弁護士は契約書作成や法的リスクの検証を担います。税理士が税務リスクを洗い出し、弁護士が補償範囲を明確化することで、想定外の追徴や追加税を防ぎつつ取引コストを抑えられます。
税理士が提供するサービスは多数ありますが、特に重要な業務を五つに整理しました。これらは譲渡企業・譲受企業どちらの立場でも不可欠です。
非上場企業の場合、株価の指標がないためDCF法・マルチプル法・ネットアセット法を組み合わせて価値を算定します。税理士は結果の妥当性を検証・調整し、納得感ある譲渡価額を提示します。
過去の申告書や税務調査記録を精査し、寄附金認定や組織再編税制逸脱などをチェック。リスク額試算により譲渡価額調整や補償条項設計を支援します。
買収価格の妥当性、支払方法、分割スキームを助言し、経営者の意思決定をスピードアップさせます。
特別利益や一時費用を適切に処理し、追徴リスクを低減。金融機関への決算開示も円滑にします。
会計システム統合やPPA対応、内部統制整備を行い、PMIを加速させます。
ここでは税理士へ依頼することで得られる4つの主要メリットを整理します。
特例条項や繰越欠損金引継ぎ要件を適正処理し、追徴税額と加算税を防ぎます。
役員退職金や優遇税制を活用し、実効税率を下げるスキームを提案します。
リスクを数値化し交渉材料とすることで、合理的な価格決定を後押しします。
弁護士や公認会計士と連携したワンストップ体制で、経営者の負担を軽減します。
M&A税理士が対応するその他の関連業務を知る
・事業計画策定支援
・内部統制構築のアドバイス
・第三者委員会への出席
・クロージング後の会計統合支援
会計士や弁護士との連携がもたらす効果を整理
・情報共有の迅速化
・網羅的リスク洗出し
・意思決定のスピード向上
具体事例で学ぶ税理士活用の効果
譲渡代金5億円の案件で寄附金認定リスク1,200万円発覚。税理士主導で譲渡価額を250万円調整し双方合意に至った例があります。
クロスボーダーM&Aでの税理士の追加役割
源泉税率の確認や連結納税制度移行可否を検討し、国際税務面でもグループ全体の実効税率を最適化します。
メリットを最大化するためのチェックリスト
・M&A実務経験件数の確認
・買収側・売却側対応可否の把握
・コミュニケーション速度の確認
・業務範囲と追加費用の明示
次へ進む前に、現在のニーズと課題を整理し、税理士に期待する役割を明確にしておきましょう。ここで得た知識を踏まえ、次のステップに進みましょう。
M&Aでは専門家費用が大きな投資項目になります。あらかじめ相場を把握しておくことで、見積内容が適正かどうか判断しやすくなります。
企業価値評価は対象企業の規模や複雑性によって工数が変わります。標準的な案件は10万円程度で対応できますが、事業部門が多岐にわたる場合や複数手法で詳細に評価する場合は50万円程度まで増額します。見積書では評価手法と作業日数を必ず確認しましょう。
税務デューデリジェンスはリスク洗出しに直結するため手厚い調査が必要です。標準的な中小規模案件は100~200万円、大規模案件は300~500万円、詳細調査が必要な特殊案件では800~1,000万円に達します。調査範囲と資料開示状況が費用に大きく影響する点を押さえておきましょう。
買収価格に連動するレーマン方式が主流です。譲渡代金5億円以下の場合は約5%が目安で、5億円の取引なら2,500万円程度が報酬となります。金額帯が上がるほど料率は逓減しますが、最低報酬額を設定する事務所もあるため契約前に確認します。
M&Aアドバイザリーは案件規模で50~150万円、大型案件では1,000万円超となるケースがあります。確定申告業務は年間30~50万円が標準ですが、月額顧問料が別途発生する場合もあります。総額を試算する際は「範囲外業務の追加料」「成功報酬の発生条件」を漏れなくチェックすることが重要です。
税理士の力量は取引成否に直結します。ここでは選定時に欠かせない4つの視点を示します。
まずはM&A実務経験数と過去案件の規模、業種をヒアリングします。自社業界での実績や特殊税制への対応歴があるほど安心です。面談では「担当した役割」と「達成した成果」を具体的に挙げてもらい、案件理解度を測りましょう。
M&Aは長期戦です。説明が分かりやすいか、質問へのレスポンスが速いか、経営者の価値観に共感してくれるかを確かめます。初回面談だけで判断せず、メールや電話でのやり取りも通じて相性を見極めると安心です。
M&A実務経験が乏しい、専門家ネットワークが狭い、コミュニケーションが一方通行――こうした特徴がある事務所は避けた方が無難です。また、費用や業務範囲を曖昧にする姿勢も要注意ポイントです。
案件によっては仲介会社が総合プロデューサーとなり、税理士が税務面の専門家として参加する方が効率的です。ワンストップ体制を整える仲介会社なら、相手探しからクロージングまで一貫支援が受けられます。
ここでは準備段階からクロージング後まで、税理士がどのタイミングで何をするかを整理します。
1. 事前相談フェーズ
経営者と目標を共有し、節税策やスキーム案を検討
2. 基本合意フェーズ
企業価値評価結果を提示し、概算譲渡価額を確定
3. デューデリジェンスフェーズ
税務リスクを洗出し、補償条項を調整
4. 最終契約フェーズ
契約直前に税負担を最終試算し、資金繰りを確認
5. クロージング後フェーズ
決算・申告支援と会計統合、人員再配置の助言
企業価値評価は仲介会社が実施済みならセカンドオピニオンに絞り、デューデリジェンスも税務のみ依頼するなど範囲設定で費用を抑えられます。
弁護士・公認会計士と情報を共有し、税理士がリスク額を数値化、弁護士が補償条項へ反映、公認会計士が財務諸表へ影響を落とし込みます。三者連携が意思決定を早め、交渉を優位に進める鍵となります。
M&A税理士は企業価値評価、税務デューデリジェンス、申告支援を担い、税負担最適化とリスク回避を実現します。費用相場と選定ポイントを把握し、仲介会社や他士業と連携することで、取引を安全かつ円滑に進められます。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事