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事業会社のM&A部門への転職でキャリアを拓くポイントを解説

M&A事業会社のM&A部門に転職したいけれど、何を準備すればよいか分からない――そんな疑問に即答します。採用動向、必要スキル、報酬水準まで具体例を交えて丁寧に解説。この記事を読めば、あなたのキャリア戦略が今日から動き出します。

目次

  1. 事業会社M&A部門の採用動向と背景
  2. M&A部門の主要業務とその流れを理解しよう
  3. キャリアの魅力は“経営のど真ん中”で成長できること
  4. M&A部門で評価されるスキルと資質を整理
  5. 転職活動を成功させる二つの鍵
  6. 報酬水準を数字で具体的にイメージする
  7. M&A部門で長く活躍するための心構え
  8. ここまでのまとめと後半の予告
  9. 履歴書と職務経歴書の準備ポイント
  10. 面接対策で自分の強みを伝える方法
  11. PMIフェーズで成果を上げるための実践ポイント
  12. 情報収集を深化させる七つの観点
  13. スカウトサイトと転職エージェントを使いこなすコツ
  14. 買い手視点だけでなく売り手視点を養うメリット
  15. まとめ

事業会社M&A部門の採用動向と背景

日本のM&A市場はここ数年で急速に拡大しています。買収だけでなく、不採算部門の売却やノンコア事業の切り離しなど、企業再編の動きが日常的になりました。結果として、事業会社の中でM&Aを専門に担当する部門の重要度は大きく高まり、人材需要が右肩上がりに増えています。しかし、M&A部門は少数精鋭体制が一般的で、採用枠は一度の募集でわずか1~2名です。そのため求人の競争倍率は極めて高く、転職希望者には綿密な準備とタイムリーな情報収集が欠かせません。

少数精鋭組織だからこそ採用基準が厳格

M&A戦略は経営陣の意思決定と直結しています。限られた人数で案件を回す関係上、即戦力かつ幅広い知識を持つ人材が優先して採用される傾向にあります。経営企画での経験、投資銀行でのディール実務、あるいは新規事業開発の経験などが評価されやすいです。

市場全体の活況が人材不足を強める

2024年1–9月期には上場企業の買い案件が前年同期比22.8%増、売り案件も11.4%増というデータがあります。案件数が増える一方で組織の拡大が追いつかず、人手不足が常態化しています。このミスマッチが転職市場をよりタイトにしているのです。

M&A部門の主要業務とその流れを理解しよう

事業会社のM&A部門が担う仕事は、案件の種を探すところから統合完了後のモニタリングまで、想像以上に幅広いです。以下では代表的なフェーズを時系列で整理します。

M&A戦略の立案は“なぜやるのか”を定義する作業

まずは経営戦略に沿ったM&Aの目的を明確にします。たとえば「中核事業の補完」「新市場参入」「リスク分散」「純投資リターンの追求」など、多面的な視点から狙いを言葉にします。目的が曖昧なままでは役員会の承認を得られず、社内の賛同も集まりません。

メリットとストーリーを数字で裏付ける

目標とする売上増加額やコスト削減効果を試算し、シナジーが生まれる根拠を資料に落とし込みます。この定量的裏付けがあるか否かで、経営陣の判断スピードは大きく変わります。

仲介会社や銀行を活用して案件を発掘

実務では仲介会社や取引銀行から届く案件提案書を精査することが多いです。秘密保持契約(NDA)を締結後、企業概要書(IM)を読み込み、興味を持てる案件かどうかを判断します。ここで案件を見極める眼力が求められます。

売主との交渉で信頼関係を築く

トップ面談では、相手企業が「この会社なら任せられる」と感じるかが鍵です。意向表明書(LOI)を出す際も、価格条件だけでなく統合後のビジョンを具体的に示すと交渉がスムーズに運びます。

デューデリジェンスでリスクを洗い出す

財務・法務・税務・ITなど多面的に調査し、リスクと価値を定量化します。非上場企業は情報開示が限定的なため、専門家や各部門と連携して情報を補完する必要があります。

最終契約からクロージングまで抜け漏れを防ぐ

デューデリジェンス結果を価格に反映させつつ、契約書の表現を一行ずつ確認します。クロージング時には許認可移転や資金決済など、実務的なタスクも数多く発生します。

PMIで統合効果を実現する

買収後の100日プランを策定し、システム統合・人事制度統一・ブランド方針整理などを進めます。ここでシナジーが形にならなければ、M&Aの成功とは言えません。

キャリアの魅力は“経営のど真ん中”で成長できること

M&A部門の仕事は難易度が高い分、得られるリターンも大きいです。

企業全体を俯瞰する視野が身につく

各事業部や管理部門と議論するため、財務・法務・人事など多様な知識が自然と蓄積されます。

経営幹部候補としての道が開ける

M&Aで結果を出せば、経営企画責任者や子会社社長に抜擢されるケースも珍しくありません。

高水準の報酬と成果連動ボーナス

大手企業の部長クラスで1,500万円~2,000万円、課長クラスで1,000万円前後が一般的です。大型案件の成立時には特別賞与が支給されることもあります。

M&A部門で評価されるスキルと資質を整理

採用側は応募者に万能型を求めているわけではありません。とはいえ複数の領域で“平均以上”を証明できる人材が選考を突破しやすいです。以下では具体的なスキルセットと人間的資質を、子どもにも伝わる言葉でまとめます。

財務・会計スキルは“M&Aの言語”

企業価値を測る計算式が分かれば、相手企業の強みと弱みを定量的に説明できます。

数字を見るときの三つのポイント

  1. 売上や利益の伸び方が安定しているか。
  2. 借金が重すぎないか。
  3. キャッシュが十分に回っているか。

法律の基礎知識でトラブルを回避

会社法や金融商品取引法を理解していれば、契約書のリスクを早めに察知できます。

コミュニケーション力は“橋を架ける”力

社内外の関係者を結びつけ、同じゴールを見ながら進むには分かりやすい説明と相手目線の対話が重要です。

論理的思考力は“複雑なパズル”を解く鍵

M&Aでは複数の問題が同時進行します。どこが原因か、優先順位は何かを整理し、段取りを立てる力が欠かせません。

プレッシャーに強い心と体

締切が短い上に金額も大きいため、精神的負荷は高めです。適度に休み、チームで支え合う工夫が長続きの秘訣です。

転職活動を成功させる二つの鍵

採用枠が狭いM&A部門では、“準備”と“情報収集”が合否を分けます。

早めの準備でスタートラインに立つ

求人を見つけてから履歴書を書くのでは遅いです。普段から職務経歴をアップデートし、英語版レジュメも用意しましょう。資格取得やオンライン講座で弱点を補強すれば、面接時の説得力が増します。

情報収集で“企業と自分の相性”を見極める

志望先の中期計画、過去のM&A実績、文化や価値観まで調べることで、入社後のギャップを防げます。競合他社の動きもチェックし、多角的に比較すると判断材料が増えます。

チェックリスト例

  • 志望企業のM&A戦略と組織図
  • 部門長の経歴と案件実績
  • 報酬・福利厚生の詳細
  • PMIの結果に関する公開情報

ネットワーキングと転職エージェントの活用

業界セミナーでの名刺交換やLinkedInでの発信は、思わぬオファーにつながることがあります。M&A業界に特化した転職エージェントからは、非公開求人の紹介や面接対策のフィードバックも得られます。

報酬水準を数字で具体的にイメージする

ここでは大手・中堅それぞれの年収レンジを例として示します。金額は目安であり、企業規模や実績で上下します。

大手企業の場合のモデルケース

部長クラス
年収1,500万円〜2,000万円

課長クラス
年収1,000万円〜1,500万円

一般社員
年収600万円〜1,000万円


成果連動ボーナスを導入している企業では、大型案件クロージング時に年収の数十%が追加支給されることもあります。

中堅企業の場合のモデルケース

部長クラス
年収1,200万円〜1,800万円

課長クラス
年収800万円〜1,200万円

一般社員
年収500万円〜800万円


中堅では役割の守備範囲が広い分、経験を積めば早く昇進できるメリットがあります。

報酬だけでなく成長機会を比較する

年収を単純に追うと、スタート時に高くても成長が止まるリスクがあります。スキルアップの場や海外案件への参加チャンスなど、“長期的なリターン”も評価軸に入れましょう。

M&A部門で長く活躍するための心構え

学び続ける姿勢こそがキャリアの寿命を伸ばします。

最新の知識をアップデート

法律改正や税制変更があるたびに、影響を整理し直す習慣を持つと、市場価値を維持できます。

買い手と売り手、両方の視点を意識する

買い手だけの経験では交渉の幅が狭まります。売り手の論点を理解できれば、Win-Winの落とし所を描く提案が可能になります。

組織としてのM&A能力を高める意識

個人プレーでは案件を連続して成功させることは困難です。プロセスを標準化し、ナレッジをチームで共有する姿勢が評価されます。

ここまでのまとめと後半の予告

ここまで、採用動向から報酬水準、転職準備の具体策までを概観しました。後半では、履歴書の書き方や面接でのアピール方法、PMIフェーズで活躍するコツをさらに深掘りします。実際の質問例や回答例も紹介するので、ぜひ続きをご覧ください。


転職市場はタイミングがすべてと言われるほど変化が速いです。この記事を読みながら、自分のキャリアプランを今日から具体的に設計してみてください。準備を進めた分だけ、チャンスが来たときに一歩前へ踏み出せます。

履歴書と職務経歴書の準備ポイント

M&A部門の選考では書類選考を通過できなければ面接の舞台にすら立てません。原文が示す通り「M&A関連の経験や成果を具体的に記載」し、「英語版履歴書も準備」しておくことが大前提です。ここではその二点をさらに掘り下げて整理します。

実績は数字で語り、成果の規模感を共有する

職務経歴書では「評価結果を基に経営陣の意思決定を●週間短縮」「PMIでコストを▲%削減」など結果を数字で可視化すると、読む側は成果の大きさを短時間で理解できます。

プロセス順の構成で“案件の流れ”を想起させる

ソーシング、デューデリジェンス、クロージング、PMIの順序で経験を並べると、読み手はスキルマップを瞬時に描けます。

英語版レジュメで国際案件への適性を示す

日本語と英語で情報量を一致させ、専門用語も統一すると、グローバル案件を扱う企業での評価が高まります。

チェックリストで書類の質を担保する

  • 案件名・役割・成果指標をセットで記載
  • PMI関与経験は統合期間・削減額を明示
  • 日本語・英語で表記を揃える
  • 求人票に合わせたキーワードを配置

書類提出前のセルフレビュー三点

  1. 誤字脱字がないか
  2. 各案件の成果が一行で把握できるか
  3. 志望企業のM&A方針に沿ったキーワードが含まれているか

面接対策で自分の強みを伝える方法

原文では「M&A関連の時事問題や専門知識への備え」「キャリアビジョンの明確化」が面接対策として挙げられています。

時事問題を“自分の言葉”に置き換える練習

新聞や業界レポートを読む際、「なぜその案件が成立したのか」「買い手の狙いは何か」を要約し、自分の論点として語れるようにしましょう。

キャリアビジョンは“会社との接点”で語る

志望企業の中期計画を踏まえ「PMIを主導できる人材になる」など、会社の目標との重なりを示すと納得度が向上します。

ケース質問はシンプルなフレームで構造化

因果関係を整理し「売上」「利益率」「成長率」「資本コスト」を順に点検するだけで論理的思考力を示せます。

面接で聞かれやすい三つのテーマ

M&A市場の最近のトレンド/自分が関わった案件の振り返り/志望企業で実現したいこと——この三点を軸に準備しましょう。
回答フレームの一例(トレンド説明)
①結論→②数値で裏付け→③自分の見解→④志望企業との関係、の順で構成すると明快です。

PMIフェーズで成果を上げるための実践ポイント

原文は「PMIの推進がM&Aの成否を左右する」と明言しています。

100日プランで優先順位と責任者を明確にする

統合開始から100日間で「誰が何を」「いつまでに」実行するかを決め、毎週モニタリングするとシナジー創出が加速します。

デューデリジェンスで判明したリスクを継続監視

DD報告書を“操作マニュアル”として活用し、KPIを設定して月次レビューを行います。

シナジー効果の測定は“見える化”がカギ

売上シナジーならクロスセル率、コストシナジーなら購買コスト削減額などをダッシュボード化し、関係部署が成果を共有しやすくします。

情報収集を深化させる七つの観点

原文の「徹底した情報収集」を再整理すると次の七つが重要です。

企業研究で戦略との整合性を確認

IR資料や中期計画を読み、買収実績が多い領域と今後の投資方針をリンクさせます。

業界動向の分析で市場規模を把握

上位企業のM&A比率や競争要因をまとめ、参入すべきニッチを見極めます。

組織構造の把握で入社後の動線をイメージ

部門の役割分担を調べ、どのポジションに空きがあるかを把握してミスマッチを防ぎます。

採用傾向の分析で求める人物像を逆算

求人票やプレスリリースから応募条件の共通点を抽出し、自分の強みを当てはめます。

社風・文化の理解で長期定着を見据える

OB訪問やSNSの口コミで意思決定速度や働き方を把握し、価値観のずれを最小化します。

報酬・待遇の確認で総合的リターンを評価

ストックオプションや研修制度など非金銭的インセンティブも一覧化し比較します。

法規制・政策の把握でリスクを事前回避

会社法改正や独占禁止法の動向をメモにまとめ共有すると部門全体の対応速度が上がります。

競合他社の採用動向を“鏡”として活用

求人票のキーワード比較や年収帯推移は市場トレンドを映す指標です。

スカウトサイトと転職エージェントを使いこなすコツ

原文は「複数のスカウトサイトへの登録」「M&A業界に精通した転職エージェントを複数選定」を推奨しています。

スカウトサイトは“常時稼働の名刺”

プロフィール更新の目安は月に一度。最新情報があるとアルゴリズムに評価されやすくなります。

エージェント面談は“市場価値の健康診断”

第三者視点で経歴を棚卸し、非公開求人の打診も受けやすくなります。

買い手視点だけでなく売り手視点を養うメリット

参考記事は「売り手の視点こそ優れた買い手への第一歩」と指摘します。

条件交渉の論点が深まる

価格だけでなく従業員処遇やブランド維持といった定性的価値も提案できるようになります。

デューデリジェンスで“隠れた価値”を見逃さない

売り急ぎの背景を察し適正価格を見極める精度が上がります。

PMIでの文化統合がスムーズに進む

売り手の組織文化を尊重する姿勢は従業員離職防止に直結し、PMI成功の要となります。

まとめ

M&A事業会社のM&A部門へ転職するには、書類の具体性、面接での論理的説明、PMIでの実行力が三位一体となる準備が不可欠です。スカウトサイトとエージェントを併用しながら最新動向をつかみ、買い手と売り手双方の視点で価値提案できれば、狭き門でも十分に突破できます。学び続ける姿勢が長期的なキャリアアップを確実に後押しします。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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