事業会社のM&A部門への転職でキャリアを拓くポイントを解説
M&A事業会社のM&A部門に転職したいけれど、何を準備すればよいか分からない――そんな疑問に即答します。採用動向、必要スキル、報酬水準まで具体例を交えて丁寧に解説。この記事を読めば、あなたのキャリア戦略が今日から動き出します。
目次
▶目次ページ:M&Aの相談先(M&A業界への転職)
日本のM&A市場はここ数年で急速に拡大しています。買収だけでなく、不採算部門の売却やノンコア事業の切り離しなど、企業再編の動きが日常的になりました。結果として、事業会社の中でM&Aを専門に担当する部門の重要度は大きく高まり、人材需要が右肩上がりに増えています。しかし、M&A部門は少数精鋭体制が一般的で、採用枠は一度の募集でわずか1~2名です。そのため求人の競争倍率は極めて高く、転職希望者には綿密な準備とタイムリーな情報収集が欠かせません。
M&A戦略は経営陣の意思決定と直結しています。限られた人数で案件を回す関係上、即戦力かつ幅広い知識を持つ人材が優先して採用される傾向にあります。経営企画での経験、投資銀行でのディール実務、あるいは新規事業開発の経験などが評価されやすいです。
2024年1–9月期には上場企業の買い案件が前年同期比22.8%増、売り案件も11.4%増というデータがあります。案件数が増える一方で組織の拡大が追いつかず、人手不足が常態化しています。このミスマッチが転職市場をよりタイトにしているのです。
事業会社のM&A部門が担う仕事は、案件の種を探すところから統合完了後のモニタリングまで、想像以上に幅広いです。以下では代表的なフェーズを時系列で整理します。
まずは経営戦略に沿ったM&Aの目的を明確にします。たとえば「中核事業の補完」「新市場参入」「リスク分散」「純投資リターンの追求」など、多面的な視点から狙いを言葉にします。目的が曖昧なままでは役員会の承認を得られず、社内の賛同も集まりません。
メリットとストーリーを数字で裏付ける
目標とする売上増加額やコスト削減効果を試算し、シナジーが生まれる根拠を資料に落とし込みます。この定量的裏付けがあるか否かで、経営陣の判断スピードは大きく変わります。
実務では仲介会社や取引銀行から届く案件提案書を精査することが多いです。秘密保持契約(NDA)を締結後、企業概要書(IM)を読み込み、興味を持てる案件かどうかを判断します。ここで案件を見極める眼力が求められます。
トップ面談では、相手企業が「この会社なら任せられる」と感じるかが鍵です。意向表明書(LOI)を出す際も、価格条件だけでなく統合後のビジョンを具体的に示すと交渉がスムーズに運びます。
財務・法務・税務・ITなど多面的に調査し、リスクと価値を定量化します。非上場企業は情報開示が限定的なため、専門家や各部門と連携して情報を補完する必要があります。
デューデリジェンス結果を価格に反映させつつ、契約書の表現を一行ずつ確認します。クロージング時には許認可移転や資金決済など、実務的なタスクも数多く発生します。
買収後の100日プランを策定し、システム統合・人事制度統一・ブランド方針整理などを進めます。ここでシナジーが形にならなければ、M&Aの成功とは言えません。
M&A部門の仕事は難易度が高い分、得られるリターンも大きいです。
各事業部や管理部門と議論するため、財務・法務・人事など多様な知識が自然と蓄積されます。
M&Aで結果を出せば、経営企画責任者や子会社社長に抜擢されるケースも珍しくありません。
大手企業の部長クラスで1,500万円~2,000万円、課長クラスで1,000万円前後が一般的です。大型案件の成立時には特別賞与が支給されることもあります。
採用側は応募者に万能型を求めているわけではありません。とはいえ複数の領域で“平均以上”を証明できる人材が選考を突破しやすいです。以下では具体的なスキルセットと人間的資質を、子どもにも伝わる言葉でまとめます。
企業価値を測る計算式が分かれば、相手企業の強みと弱みを定量的に説明できます。
数字を見るときの三つのポイント
会社法や金融商品取引法を理解していれば、契約書のリスクを早めに察知できます。
社内外の関係者を結びつけ、同じゴールを見ながら進むには分かりやすい説明と相手目線の対話が重要です。
M&Aでは複数の問題が同時進行します。どこが原因か、優先順位は何かを整理し、段取りを立てる力が欠かせません。
締切が短い上に金額も大きいため、精神的負荷は高めです。適度に休み、チームで支え合う工夫が長続きの秘訣です。
採用枠が狭いM&A部門では、“準備”と“情報収集”が合否を分けます。
求人を見つけてから履歴書を書くのでは遅いです。普段から職務経歴をアップデートし、英語版レジュメも用意しましょう。資格取得やオンライン講座で弱点を補強すれば、面接時の説得力が増します。
志望先の中期計画、過去のM&A実績、文化や価値観まで調べることで、入社後のギャップを防げます。競合他社の動きもチェックし、多角的に比較すると判断材料が増えます。
チェックリスト例
業界セミナーでの名刺交換やLinkedInでの発信は、思わぬオファーにつながることがあります。M&A業界に特化した転職エージェントからは、非公開求人の紹介や面接対策のフィードバックも得られます。
部長クラス
年収1,500万円〜2,000万円
課長クラス
年収1,000万円〜1,500万円
一般社員
年収600万円〜1,000万円
成果連動ボーナスを導入している企業では、大型案件クロージング時に年収の数十%が追加支給されることもあります。
部長クラス
年収1,200万円〜1,800万円
課長クラス
年収800万円〜1,200万円
一般社員
年収500万円〜800万円
中堅では役割の守備範囲が広い分、経験を積めば早く昇進できるメリットがあります。
転職市場はタイミングがすべてと言われるほど変化が速いです。この記事を読みながら、自分のキャリアプランを今日から具体的に設計してみてください。準備を進めた分だけ、チャンスが来たときに一歩前へ踏み出せます。
チェックリストで書類の質を担保する
書類提出前のセルフレビュー三点
M&A事業会社のM&A部門へ転職するには、書類の具体性、面接での論理的説明、PMIでの実行力が三位一体となる準備が不可欠です。スカウトサイトとエージェントを併用しながら最新動向をつかみ、買い手と売り手双方の視点で価値提案できれば、狭き門でも十分に突破できます。学び続ける姿勢が長期的なキャリアアップを確実に後押しします。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事