M&Aに資格は必要?資格の選び方や取得メリットまで解説
「M&Aの仕事に資格は必須?どの資格を選ぶと良い?」と悩む経営者や転職希望者へ、必要性や種類・費用・選び方をやさしく解説します。
目次
▶目次ページ:M&Aの相談先(M&A業界への転職)
M&Aや事業承継は専門性が高い分野といわれますが、実はサービス提供に必須の資格は定められていません。譲渡企業の支援に携わるコンサルタントも、資格がなくても業務自体は可能です。ただし、M&Aには財務・法務・税務など多面的な知識が欠かせません。特に税務アドバイスは税理士法により税理士(税理士法人)の独占業務であるため、税金に関わる助言を行う場合は税理士資格が求められます。
資格が不要だからといって勉強を怠ると、取引の安全性やスピードに影響します。譲受企業・譲渡企業の双方が安心して取引できるよう、法律や会計、業界慣行を学び続ける姿勢が欠かせません。
資格取得は任意ですが、保有していると次のような効果が期待できます。
専門家としての信頼性が向上
資格は第三者機関が知識を認定した証拠です。譲渡企業は安心して相談しやすくなります。
転職やキャリアアップで優位に立てる
求人で「M&A経験者優遇」とある場合でも、資格があれば経験を可視化しやすく、面接で強みを示せます。
知識を体系的に習得できる
試験範囲に沿って学ぶことで、実務で抜けがちな論点も網羅的に理解できます。
経営者にとってM&Aは一度きりの大きな決断です。資格があれば「この人に任せても大丈夫だろう」という初期信頼を獲得しやすく、交渉開始までの心理的ハードルを下げられます。
M&A仲介会社や金融機関では、即戦力となる人材が求められます。資格は勉強量や向上心を定量的に示す証拠となり、書類選考や配属面談でプラスに働きます。
資格試験は法務・税務・財務など幅広い分野を効率よく学べるカリキュラムになっています。独学では見落としやすい実務上の注意点も整理できる点がメリットです。
民間資格はM&Aに特化した内容が多く、実務に直結する知識を得やすいのが特徴です。ここでは代表的な五つの資格を紹介します。
日本M&Aセンターと金融財政事情研究会が共同認定する資格で、試験料は7,700円と手軽です。基礎知識を確認したい方に適しています。
講座受講と審査で認定される仕組みで、受講料198,000円・入会金33,000円・月会費132,000円が必要です。年2回の会員集会で人脈を広げられる点が魅力です。
日本経営管理協会が運営し、講座受講後の試験料は11,000円です。選択問題と記述問題で実務対応力を測るため、合格すれば即戦力としてアピールできます。
M&Aエキスパートの上位資格で、養成スクール132,000円と受験料11,000円が必要です。高度な案件を扱うアドバイザーを目指す方に向いています。
事業承継協会が認定し、講座300,000円・試験9,000円・入会金10,000円が必要です。M&Aの中でも親族外承継や株式譲渡に強い人材を証明できます。
国家資格は取得までに時間と難易度が伴いますが、それだけ専門性が高く評価されます。以下ではM&Aの現場で特に重宝される七つの資格を概観します。
公認会計士はデューデリジェンスや株式価値評価で中心的役割を担います。短答式・論文式の厳しい試験を突破した証として、譲渡企業からの信頼は抜群です。
M&Aでは譲渡益課税や組織再編税制の判断が不可欠です。税理士資格があれば節税とコンプライアンスを両立する提案ができます。
会社法・金商法など複数の法律を横断し、リスクを最小化する条項を盛り込むのが弁護士の役割です。司法試験を通じた高度な法的思考が強みになります。
M&Aに伴う登記は期限や必要書類が厳格に定められています。司法書士は独占業務として確実に手続を完了し、取引遅延を防ぎます。
成長戦略の立案や組織再編後のモニタリングを得意とし、M&A後のPMI(統合プロセス)で経営者をサポートします。
人事デューデリジェンスで未払残業代や就業規則の整合性を確認し、譲受企業の将来的な負担を減らします。
経営者が得た譲渡対価をどのように管理し、次世代に承継するかを中長期視点で提案できる資格です。
譲渡企業のオーナーや経営陣が資格取得を検討する場面は、事業売却直前だけでなくクロージング後にも訪れます。資格が将来の経営統合や再投資に活用できるかどうかを見極めることが大切です。売却益で別事業を始める、あるいは統合後も一定期間経営に携わる場合には、体系的な知識が経営判断の質を高める材料になります。
契約締結で役目が終わると考えがちですが、PMI(経営統合)や資金再投資の場面で専門知識が求められるケースは少なくありません。将来の経営方針に関与し続ける予定があるなら、取得した資格はコンサルタントへの丸投げを防ぎ、自主的に意思決定する拠り所になります。
統合後は人事制度の一本化や税務戦略の再構築などタスクが山積みです。事業承継士や中小企業診断士など、経営改善や事業計画立案に強い資格は実務面で即効性があります。自社が直面しそうな課題を棚卸しし、必要なスキルを逆算することが大切です。
資格には受講料・試験料だけでなく学習時間も必要です。売却プロセスの短期化が優先される場合は、取得に数年を要する難関資格よりも、数十時間で完結する民間資格で基礎を固める方が現実的です。費用対効果を数値化し、機会損失を抑えましょう。
資格を持つことは信頼性を高める有効な方法ですが、過度な期待や誤解を避けるために次のポイントを必ず確認してください。
試験合格は知識の証明にすぎず、交渉力や人間関係調整といった実務スキルを保証するものではありません。実績やトラブル解決の経験を合わせて確認する視点が欠かせません。
同じ資格保有者でも、年商数億円の譲渡と百億円規模の組織再編では求められるノウハウが異なります。面談時には「過去に扱った案件規模」「成約率」「統合後のフォロー体制」など具体的な数値や事例を質問し、力量を測りましょう。
民間資格は運営団体の方針で受講料やカリキュラムが変わることがあります。公式サイトや受講者の口コミを比較し、直近で改定された試験範囲や費用を必ず確認してください。
M&Aは会社の将来を左右する一大イベントです。資格の有無だけで決めず、価値観や対応姿勢まで含めてパートナーを選ぶことが成功への近道です。
「年間何件クロージングしたか」「最長でどれくらい交渉が長期化したか」など具体的な質問を投げ、数字で示せるアドバイザーかを確認しましょう。数字が出せる人はプロセスを管理する力が高い傾向にあります。
製造業の譲渡を多く手がけているのか、IT業界に強いのかで強みは変わります。自社の業種やスキームに近い経験が豊富なアドバイザーほど、提案の切れ味が違います。
成約手数料が小さい案件では対応が後回しになりがちです。初回相談での質問への回答スピードや、資料請求に対する丁寧さなど、姿勢を細かく観察することで真摯さを判断できます。
資格選定は「何となく有名だから」ではなく、キャリアビジョンや事業計画と整合させると失敗が減ります。以下のステップを順に進めてみてください。
税務に軸足を置くなら税理士、FA業務でIPO支援まで視野に入れるなら公認会計士、事業承継に特化するなら事業承継士など、将来のサービスモデルに合う資格を棚卸ししましょう。
例えば公認会計士は受験料こそ安いものの、合格まで数千時間を要します。短期で効果を出したい場合は、受講料が高くても短期間で修了できる講座型資格を選ぶほうが合理的です。
通信講座か通学か、試験のみか講座+審査かによって学習スタイルは大きく変わります。仕事と並行して学ぶなら、オンライン受講やCBT方式を採用している資格が便利です。
受験予定がなくても、公式テキストを読み込むだけでM&Aの全体像が掴めます。範囲外の専門書に手を広げる前に、まずは試験範囲で土台を固めると学習効率が上がります。
M&A資格は必須ではありませんが、取得により専門家としての信頼性が高まり、転職や経営統合フェーズでも強みを発揮できます。費用と難易度、学習時間を冷静に比較し、目的に最適な資格を選択しましょう。資格は判断材料の一つにとどめ、実務経験や実績も併せて磨くことが成功への近道です。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画