M&A就職の難易度は?仕事内容・必要スキルと選考対策

M&A業界への就職は、高年収や成長機会が期待できる一方、営業力、財務・会計知識、経営者との信頼構築力が問われる難関分野です。M&A仲介とFASの違い、新卒・中途で見られるポイント、向いている人、入社後の働き方、2026年の市場動向まで分かりやすく解説します。

目次:

  1. M&A就職は難関だが業態で求める人材が違う
  2. 採用で評価される3つの力
  3. 高年収だけでは分からない入社後の現実
  4. 新卒と中途では選考対策が違う
  5. 2026年の市場動向からM&A就職を考える
  6. 入社先を比べるときの判断軸
  7. まとめ

M&A業界への転職|業界の特性・求められる能力・適性

M&A就職は難関だが業態で求める人材が違う

「M&A業界は高年収らしいが、自分でも入れるのか」。就職や転職を考え始めると、最初に気になる点ではないでしょうか。

M&A(合併・買収)業界は、高い報酬や若いうちから経営者と仕事ができる環境などから応募が集まりやすく、一般に選考難易度も高くなりやすい分野です。

ただし、M&A業界を一つの仕事として考えると判断を誤ります。M&A仲介、FA、FAS、事業会社のM&A部門などでは、仕事内容も評価される能力も異なるためです。

M&A仲介は営業力と経営者対応が軸

M&A仲介では、中小・中堅企業の事業承継や成長戦略を支援します。

実務では、会社を譲渡したい経営者の開拓、買い手候補の探索、面談、条件調整、デューデリジェンスの進行支援、契約からクロージングまで、長い期間をかけて案件を進めます。

経営者が悩むのは譲渡価格だけではありません。従業員の雇用、取引先との関係、金融機関への対応、個人保証、税金、引退後の生活まで、多くの問題が同時に動きます。

だからこそ、営業成績だけでは足りません。相手の話を聞き、秘密を守り、難しい内容を分かりやすく説明しながら信頼を得る力が必要です。

FASは財務・会計の専門性が軸

FAS(ファイナンシャル・アドバイザリー・サービス)は、財務デューデリジェンス、企業価値評価、財務分析、PMI(M&A後の統合プロセス)などを通じてM&Aを支援する仕事です。

M&A仲介に比べ、財務や会計を詳しく分析する場面が多くなります。公認会計士、USCPA、金融機関、コンサルティング会社などで得た経験が強みになりやすい分野です。

大企業や海外企業が関係する案件では、英語力や複雑な資料を読み解く力も求められます。

FAや事業会社のM&A部門も選択肢になる

FA(ファイナンシャル・アドバイザー)は、一般に売り手か買い手のどちらか一方の立場でM&Aを支援します。

また、事業会社のM&A部門では、自社の成長戦略として買収候補を探し、案件の検討から買収後の統合まで携わることがあります。

営業を極めたいのか、財務分析を深めたいのか、それとも経営戦略としてM&Aを実行したいのか。ここを決めることが就職先選びの出発点です。

採用で評価される3つの力

M&A業界では資格だけをそろえても、採用につながるとは限りません。

選考で重要なのは、「入社後に経営者や重要な案件を任せられる人材か」を、自分の経験から説明できることです。

1.経営者と向き合える営業力

M&A仲介では、営業力が非常に重要です。

中途採用なら、法人営業、新規開拓、金融、不動産、人材、保険などで高い実績を残した経験は評価材料になりやすいでしょう。

ただし、「売上目標を達成した」だけでは十分ではありません。

どのような顧客を担当し、どんな課題を見つけ、何を工夫して成果を出したのか。さらに、その方法がM&Aでも再現できることまで伝える必要があります。

新卒の場合は営業実績がないため、部活動、研究、アルバイト、学生団体などで高い目標に挑み、粘り強く結果を出した経験が重要になります。

M&A実務では、ここで人物評価が分かれることも珍しくありません。

2.財務・会計を理解する基礎力

M&Aでは会社の決算書を扱います。

PLは会社がどれだけ利益を出しているか、BSはどのような資産や負債を持っているか、CFはお金がどのように動いているかを示す資料です。

これらの基本が分からなければ、経営者との会話や企業価値の検討についていくことが難しくなります。

日商簿記2級などは、財務・会計の基礎を学んでいることを示す材料の一つです。ただし、資格取得そのものが採用条件とは限りません。

大切なのは、決算書を見て「この会社はなぜ利益が出ているのか」「借入金は重すぎないか」などを考えられることです。

3.なぜM&Aで、なぜその会社なのかを説明する力

面接では「なぜM&A業界なのか」という質問だけでなく、「なぜ当社なのか」まで問われます。

M&Aを扱う会社でも、対象とする企業規模、案件の獲得方法、担当者の業務範囲、研修制度、報酬体系、データやAIの活用方法などは異なります。

会社ごとの差を確認してから志望動機を作る

例えば、一人の担当者が案件発掘から成約まで広く担当する会社もあれば、役割を分業する会社もあります。

高いインセンティブを特徴とする会社もあれば、人材育成やチームによる案件支援を重視する会社もあります。

会社の特徴を調べず、「経営者を助けたい」「成長できそう」という理由だけで応募すると、他の応募者との差が出にくくなります。

英語力の重要度は業態で異なる

M&A業界だからといって、全員に高い英語力が必要なわけではありません。

国内の中小企業を中心とするM&A仲介では、日常業務で英語を使わないケースも多くあります。

一方、海外企業とのクロスボーダーM&Aや外資系FASでは、英文資料の読解、メール、会議、交渉などで英語が必要になることがあります。

応募する会社がどのような案件を扱っているかを見て、必要性を判断しましょう。

高年収だけでは分からない入社後の現実

M&A業界を志望する理由として、年収の高さを挙げる人は少なくありません。

実際、M&A仲介では、基本給に加えて成約実績などに連動したインセンティブを設ける会社があり、若くても高い年収を得る人がいます。

ただし、「入社すれば誰でも年収1,000万円になる」という仕事ではありません。

報酬は会社と個人の成績によって大きく変わる

M&A仲介では、成約件数や案件規模によって報酬が変わる制度もあります。

案件を担当できるまでの期間、案件の配分方法、インセンティブの計算方法によっても年収は変わります。

そのため、平均年収だけを見て会社を選ばないことが重要です。

FASなどでは、固定給と賞与を中心に、職位や専門性に応じて給与が上昇する会社もあります。同じM&A業界でも報酬の仕組みは異なります。

若手でも経営者と仕事をする

M&A業界の大きな特徴は、若いうちから経営者と話す機会が多いことです。

会社の将来を左右するテーマを扱うため、営業力だけでなく、経営、会計、税務、法務、業界知識まで幅広く学ぶ必要があります。

一つの案件を経験するだけでも、多くの企業を見ることになります。これがキャリア上の大きな経験になることも。

一方で、知識を更新し続ける負担もあります。

成約まで長く、複数案件が同時に動く

M&Aは、初めて経営者と話してから数か月で成約することもあれば、1年以上かかる場合もあります。

その間に、相手探し、面談、資料作成、条件交渉、専門家との調整などが続きます。

複数案件を並行して担当すれば、出張や急な対応が重なることもあります。勤務時間や働き方は会社や部署によって差がありますが、体力と精神力が必要な仕事であることは理解しておいた方がよいでしょう。

新卒と中途では選考対策が違う

新卒と中途では、企業が確認したいポイントが異なります。

新卒では将来の成長可能性、中途ではこれまでの経験をM&Aの仕事でも再現できるかが重視されやすくなります。

新卒はやり切る力と学習速度を示す

現在は大手企業を中心に新卒採用が行われ、新卒からM&A人材を育成する会社もあります。

新卒の場合、M&Aの実務経験は通常ありません。そこで選考材料になるのが、学生時代に何を考え、どのように行動したかです。

ガクチカは成果より過程を整理する

面接では、華やかな経験があるかよりも、困難な状況でどのように考え、やり切ったかを説明することが大切です。

目標を決めた理由、途中で起きた問題、自分が取った行動、結果、そこから学んだことまで整理します。

さらに、「なぜ金融機関やコンサルではなくM&Aなのか」まで説明できれば、志望理由に一貫性が生まれます。

本や社員訪問で仕事の実態を確認する

M&Aの基礎は、書籍、企業の採用サイト、業界ニュースなどから学べます。

インターンシップやOB・OG訪問の機会があれば、若手社員の担当範囲、研修内容、案件の進め方などを聞くとよいでしょう。

仕事内容を具体的に知るほど、面接での志望動機も具体的になります。

中途は過去の実績をM&Aの仕事につなげる

中途採用では、前職の経験が重要です。

法人営業であれば、新規開拓、経営者との交渉、長期間の商談をまとめた経験などがM&Aとつながります。

金融機関出身者なら財務分析や経営者への提案、コンサルティング経験者なら課題整理やプロジェクト管理、会計分野の経験者なら決算書の分析が強みになるでしょう。

数字で説明できる実績を用意する

「営業が得意です」だけでは、実力が伝わりません。

売上、達成率、社内順位、担当社数、新規顧客の獲得数など、説明できる数字があれば整理しておきます。

ただし、数字の大きさだけを競う必要はありません。成果を出すために何を考え、どう動いたかを説明することの方が重要です。

2026年の市場動向からM&A就職を考える

M&A業界への就職を考えるなら、採用情報だけではなく、仕事そのものの需要も見ておく必要があります。

国内M&A市場は高い水準で推移しています。公表案件ベースでは、2025年の日本企業関連M&Aは5,115件となり、過去最多を更新しました。2026年1月から7月も3,063件となっています。

ただし、市場が伸びていることと、就職しやすいことは別です。

応募が集まる企業では、営業力、専門性、人物面を厳しく確認することもあります。市場の成長だけを理由に応募するのではなく、十分な準備が必要です。

事業承継は引き続き重要なM&A需要

日本では経営者の高齢化が進んでいます。

2024年の全国の社長の平均年齢は60歳を超えており、60歳以上の社長も全体の半数を超えています。

後継者が決まっていない会社も残っており、親族や従業員への承継だけでなく、第三者へ会社を引き継ぐM&Aも選択肢になっています。

会社は黒字でも、後継者が見つからない。こうした経営者の相談に向き合うことが、中小企業M&Aの重要な仕事です。

人手不足や成長戦略でもM&Aが使われる

M&Aは事業承継だけの手段ではありません。

人材、販売網、技術、顧客基盤などを短期間で確保するため、企業が成長戦略として他社を買収することもあります。

IT、建設、製造、医療など、人材確保が経営課題になりやすい業界では、M&Aを通じて経営資源を補う動きもあります。

そのため、M&A人材には財務知識だけでなく、相手企業の事業や業界を理解する力も必要です。

クロスボーダーM&Aもキャリアの選択肢

海外市場への進出や海外企業の技術獲得などを目的として、国境を越えるクロスボーダーM&Aも行われています。

こうした案件を目指す場合、英語だけでなく、海外の商習慣や会計、法務などへの理解も必要になります。

国内中小企業の事業承継を中心に経験を積む道と、国際案件を目指す道では、身につけるべき能力も変わります。

入社先を比べるときの判断軸

就職活動では、内定を取ることがゴールになりがちです。

しかし、M&A業界では会社ごとに仕事の進め方が大きく異なります。入社後のミスマッチを減らすには、「どこに入れるか」だけでなく「どこなら成長できるか」を確認することが重要です。

担当する顧客と案件規模を見る

中小企業の事業承継を中心に扱う会社と、大企業や海外企業のM&Aを中心に扱う会社では、必要な能力が異なります。

経営者と直接関係を築く営業を経験したい人と、財務分析や大型案件を専門的に扱いたい人では、選ぶ会社も変わります。

一気通貫か分業型かを確認する

案件発掘からクロージングまで一人の担当者が幅広く経験できる会社もあれば、営業、マッチング、契約支援などを分業する会社もあります。

一気通貫型は広い経験を積みやすい反面、担当者の責任も重くなります。分業型は特定の業務を深く経験しやすい一方、案件全体を経験するまで時間がかかる場合があります。

どちらが優れているという話ではありません。自分がどのような能力を身につけたいかで判断します。

報酬だけでなく育成と専門家支援を見る

インセンティブの高さは魅力ですが、新人研修、OJT、上司による案件支援、会計・税務・法務の専門家と連携できる体制も確認しましょう。

未経験で入社する場合、難しい案件を一人で抱え込む環境では成長しにくいことがあります。

報酬制度と育成環境の両方を見ることが大切です。

コンプライアンスへの姿勢も確認する

M&Aでは、会社の決算内容、株主、従業員、取引先など、外部に漏れてはいけない情報を多く扱います。

さらに、会社を譲渡するかどうかは経営者にとって非常に大きな決断です。

そのため、短期的な成約だけを追うのではなく、秘密保持や利益相反への対応、顧客への説明を重視する会社かどうかも確認しておきましょう。

高い営業力と同じくらい、誠実に仕事を進める姿勢が必要な業界です。

まとめ

M&A業界への就職では、高年収や知名度だけでなく、M&A仲介やFASなど業態ごとの仕事内容と、自分の強みが合うかを見極めることが重要です。営業力、財務・会計の基礎、経営者との信頼構築力を磨き、報酬制度や育成環境、担当業務まで確認すると、入社後のミスマッチを減らせます。市場が拡大していても採用が容易とは限らないため、企業研究と選考準備を丁寧に進めましょう。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人