M&Aシニアエキスパートとは?資格・試験と活用法を解説

M&Aシニアエキスパートは、中小企業のM&A実務を学ぶ上位の民間資格です。制度上の位置づけ、受講資格、取得の流れ、試験形式、費用、難易度、転職や社内業務での生かし方を整理し、会社売却の相談相手を選ぶ際に資格をどう見るべきかも分かりやすく解説します。

目次

  1. M&Aシニアエキスパートの位置づけと学べる内容
  2. 受講できる人と資格取得までの流れ
  3. 認定試験の形式・費用・難易度
  4. 資格を仕事や転職でどう生かすか
  5. 会社売却で資格を過信しないための確認点
  6. まとめ

M&Aシニアエキスパートとは、どんな資格? 

M&Aシニアエキスパートの位置づけと学べる内容

M&Aシニアエキスパートは、中小企業のM&A(合併・買収)や第三者承継に関する実務知識を学び、その理解度を示す民間資格です。金融財政事情研究会が、M&Aの実務を扱う民間企業などと共同で創設した資格認定制度の上位に位置づけられています。

M&Aの仕事を行うために、この資格が法律上必要なわけではありません。ただし、法務、会計、税務、企業価値評価、相手探し、交渉、PMI(M&A後の統合プロセス)まで幅広く学ぶため、実務の全体像を整理する機会になります。

現在の認定制度は4段階

古い解説では3資格の制度として紹介されていることもありますが、2026年7月時点の公式案内では、次の4段階です。


・事業承継・M&Aベーシック

・事業承継・M&Aエキスパート

・事業承継シニアエキスパート

・M&Aシニアエキスパート


事業承継・M&Aベーシックは基礎知識を学ぶ資格、事業承継・M&Aエキスパートは標準的な知識を確認する資格です。

事業承継シニアエキスパートは、親族内承継や従業員承継などの実務を中心に扱います。M&Aシニアエキスパートは、中小企業M&Aの実務に重点を置く上位資格であり、公式にはプロフェッショナル編と位置づけられています。

講義で扱う主な分野

講義では、M&Aの基本的な考え方だけでなく、案件の発掘、企業概要書の作成、買い手候補とのマッチング、法務、企業価値評価、会計・税務、組織再編、PMI、トラブル防止などを扱います。

成功事例だけではありません。失敗事例や、実務で起きやすい問題への対応も学習範囲に含まれています。

財務だけ、法務だけでは完結しないのがM&Aです。案件がどのような順序で進み、どの段階で何を確認すべきかを、ひと続きの流れとして学びたい人に向いています。

受講できる人と資格取得までの流れ

M&Aシニアエキスパートは、申し込めば誰でもすぐに試験を受けられる資格ではありません。一定の資格や実務経験が必要であり、所定の養成講座を修了した後に認定試験へ進みます。

主な受講資格

公式案内では、一般に次のいずれかに当てはまる人が受講対象です。


・事業承継・M&Aエキスパート認定者、または事業承継シニアエキスパート試験合格者

・弁護士、税理士、公認会計士、司法書士

・銀行、信用金庫、信用組合、証券会社、生命保険会社で法人営業を5年以上経験し、現在も在籍している人

・会計事務所等で5年以上の実務経験があり、現在も在籍している人

・1級ファイナンシャル・プランニング技能士

・M&A支援機関協会の会員役職員


実務経験を条件とする区分では、経験年数だけでなく、現在の所属状況も確認されます。以前に金融機関や会計事務所で働いていたというだけでは、対象にならない場合があるため注意が必要です。

自分が受講資格を満たすか判断しにくい場合は、申込前に運営事務局へ確認すると安心です。

資格取得までの基本的な流れ

養成スクールを受講する

受講方法には、録画講義を視聴するWeb講義と、指定会場で受ける養成スクールがあります。

Web講義は、仕事を続けながら自分の都合に合わせて学びやすい点が特徴です。一方で、決められた期間内にすべての講義を視聴する必要があります。

Web講義には修了期限がある

Web講義の利用可能期間は、原則として利用開始日から13週間です。期間内にすべての録画講義を視聴し、修了手続を終えなければ、認定試験を受験できません。

期間を過ぎると、再度有料で受講しなければならない場合があります。試験前の復習時間も考え、余裕を持って修了することが大切です。

講義修了後に認定試験を申し込む

Web講義では、すべての録画講義を視聴し、修了証の発行手続を終えた後にCBT方式の試験を予約します。

会場型の養成スクールを受講した場合も、所定の講義を修了したことを示す番号などが必要です。試験の実施方法や申込手続は変更されることがあるため、その時点の開催案内を確認してください。

試験に合格して認定証を取得する

CBT方式では、試験終了後にスコアレポートが渡されます。合格者は、原則として試験日の翌日以降に、認定証をマイページからPDFで出力できます。

資格取得後は、名刺や経歴書などに認定名称を記載できます。ただし、資格名の表示方法については、認定団体のルールに従う必要があります。

認定試験の形式・費用・難易度

受験を考える際は、試験だけでなく、講義を受ける時間と費用も含めて計画することが大切です。試験料だけを見て申し込むと、想定より負担が大きかったということも。

CBT方式の試験概要

2026年7月時点の公式案内では、CBT方式の認定試験は次の内容です。


・出題形式は四答択一式50問

・試験時間は120分

・合格基準は100点満点中60点以上

・試験会場は全国のテストセンター

・試験受験料は11,000円


CBT方式とは、テストセンターに設置されたパソコンを使って受験する方法です。希望する日時と会場を選んで予約できますが、会場の空き状況によっては希望どおりにならないことがあります。

講義と試験にかかる費用

2026年7月時点では、Web講義の受講料は132,000円、CBT方式の試験受験料は11,000円です。いずれも消費税込みで、受講料と受験料は別々に支払います。

所属する団体や勤務先によって、Web講義に会員向けの特別価格が適用される場合もあります。

料金、申込期間、割引条件は変更される可能性があります。申込後のキャンセルや内容変更に制限があるため、必ず公式案内を確認してから手続を進めましょう。

合格率は公表されていない

公式案内では、合格率は公表されていません。そのため、数値を根拠に「難関資格」「簡単な資格」と断定することはできません。

ただし、M&Aシニアエキスパートは制度上の上位資格であり、受講できる人も限られています。企業価値評価、会計・税務、法務、M&Aの実務手順を横断して学ぶ準備が必要です。

四答択一式だから、用語を暗記するだけで合格できるとは限りません。M&Aの各手続がどのようにつながっているかを意識して学ぶと、資格取得後の仕事にも生かしやすくなります。

資格を仕事や転職でどう生かすか

資格を取る目的が曖昧なままだと、取得後に使い道が見つからないことがあります。現在の業務で使うのか、転職時の知識証明にするのか、将来M&A支援に関わるのかを、学習開始前に整理しておきましょう。

金融機関や会計事務所で提案の幅を広げる

金融機関や会計事務所では、後継者不在、株主構成、借入、個人保証、相続などの相談をきっかけに、M&Aの検討が始まることがあります。

資格学習を通じてM&Aの全体像を知っていれば、相談の初期段階で重要な論点を見落としにくくなります。経営者に対して、次に何を整理すべきかも説明しやすくなるでしょう。

ただし、資格を取得しただけで、企業価値評価、契約書の作成、税務判断などをすべて単独で行えるわけではありません。実際の案件では、公認会計士、税理士、弁護士などとの連携が必要です。

M&A業界への転職で知識を示す

M&A業界への転職では、基礎から実務まで体系的に学んだことを示す材料になります。

特に、金融機関、会計事務所、法人営業などの経験がある人は、これまでの仕事とM&A支援の接点を説明しやすくなります。社内のM&A部門へ異動したい場合にも、学習意欲を示す一つの材料になるでしょう。

一方、採用では資格だけでなく、営業力、財務への理解、経営者との対話力、案件を粘り強く進める力も確認されます。資格は知識を示す入口であり、実務経験そのものではありません。

会社売却で資格を過信しないための確認点

経営者が会社売却の相談相手を探すとき、M&Aシニアエキスパートの保有は、担当者の知識を確認する材料の一つになります。


しかし、資格を持っているだけで、譲渡価格の検討、条件交渉、買い手探し、秘密保持、従業員への説明まで適切に進められるとは限りません。

資格と実務経験を組み合わせて見る

担当者を選ぶ際は、資格の有無に加えて、次の点を確認することが重要です。


・自社と近い業種や規模の案件を支援した経験

・企業価値評価を分かりやすく説明する力

・税務や法務の専門家との連携体制

・報酬が発生する時期と金額

・秘密情報を管理する仕組み

・担当者本人のM&A実務経験


意外と多い落とし穴です。肩書だけで安心し、実際の担当者がどこまで経験しているかを聞かないまま契約すると、M&Aが進んでから説明不足や対応の遅さに気づくことがあります。

経営者自身が資格を取る必要はない

自社の譲渡を検討する経営者が、M&Aシニアエキスパートを取得する必要はありません。

大切なのは、希望する譲渡価格だけでなく、従業員の雇用、取引先との関係、引退時期、借入、個人保証など、自社にとって譲れない条件を整理することです。

資格制度の概要を知っていれば、相談相手の知識を測る一つの物差しにはなります。ただし、最終的には資格名だけでなく、経験、説明力、対応姿勢、支援体制を合わせて判断しましょう。

まとめ

M&Aシニアエキスパートは、中小企業M&Aの法務、会計・税務、企業評価、交渉、トラブル対応まで学ぶ上位の民間資格です。取得には所定の受講資格と養成講座の修了が必要で、転職や実務知識の整理に役立ちます。ただし、会社売却の相談相手は資格だけで決めず、支援経験、説明力、専門家との連携体制まで確認することが大切です。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人