M&A手数料の相場と会社売却時の見積確認ポイントを解説

M&A手数料の種類、相場、レーマン方式の基準額を整理し、会社売却時の手取りを守る見積比較、補助金、税務会計の注意点まで解説します。

目次

  1. M&A手数料は見積総額で判断する
  2. 費用項目ごとの相場と発生時点
  3. レーマン方式は基準額の違いを見る
  4. 両手取引と片手取引で手数料の意味が変わる
  5. 手数料を抑える契約前の確認事項
  6. 会計・税務と補助金で手取りを確認する
  7. まとめ

M&A手数料とは何か 成功報酬や着手金の費用仕組を徹底解明

M&A手数料は見積総額で判断する

M&A(合併・買収)の手数料は、会社売却で受け取る金額をそのまま手元に残せるかどうかに関わる大切な費用です。譲渡価格だけを見て安心してしまうと、成約後に「想定より手取りが少ない」と感じることがあります。意外と多い落とし穴です。

M&A手数料とは、候補先探し、企業価値の整理、条件交渉、基本合意、最終契約、クロージングまでを支援する専門家に支払う報酬です。一般的には、相談料、着手金、中間金、月額報酬、成功報酬、実費、デューデリジェンス費用などがあります。

成約時の総額は取引金額の1〜5%が目安

M&A手数料の中心は成功報酬です。成功報酬は、成約金額に一定の料率をかける「レーマン方式」で計算されることが多く、成約時の総額は取引金額の1〜5%程度が一つの目安です。

ただし、この数字だけで安い、高いを判断してはいけません。着手金や中間金が別にかかる場合もあり、最低報酬額が設定されていることもあります。小規模な会社売却では、取引金額に対する実質的な負担割合が高くなりやすい点にも注意が必要です。

会社売却では手取り額から逆算する

経営者にとって本当に重要なのは、譲渡価格ではなく手取り額です。手取り額は、譲渡代金からM&A手数料、税金、役員借入金の返済、退職金、金融機関対応に伴う費用などを差し引いて考えます。

見積書で確認すべき基本項目

見積書を見るときは、次の点を順番に確認します。

・いつ発生する費用か

・成約しなかった場合も返金されない費用か

・成功報酬の計算基準は株式譲渡対価か、企業価値か、移動総資産か

・最低報酬額はいくらか

・消費税や実費は別途か

・相手方にも手数料が発生するか


M&A実務では、ここで判断が止まることがあります。とくに「レーマン方式です」と説明されただけで安心せず、何を基準にレーマン方式を使うのかまで確認することが大切です。

費用項目ごとの相場と発生時点

M&A手数料は、1つの費用ではありません。どの段階で、何に対して支払うのかを分けて理解すると、見積書の比較がしやすくなります。

相談料は無料から1万円程度が多い

相談料は、初回相談や案件概要の説明を受ける段階で発生する費用です。現在は無料相談としている支援会社も多いですが、一部では数千円から1万円程度の相談料がかかることがあります。

無料相談でも、話す内容は軽く見ない方がよいです。自社の株主構成、借入金、役員借入金、個人保証、希望する譲渡時期を整理しておくと、より現実的な見積りを受けやすくなります。

着手金は無料から200万円程度まで幅がある

着手金は、仲介契約やFA契約を結び、業務が本格的に始まるときに支払う費用です。無料の会社もありますが、50万円から200万円程度、案件によってはそれ以上かかることもあります。

着手金は、M&Aが成立しなかった場合でも返金されないのが一般的です。そのため、着手金がある場合は、候補先探索、企業概要書の作成、価値算定、面談調整など、どこまでの業務が含まれるのかを確認してください。

中間金は基本合意時に発生しやすい

中間金は、買い手候補と基本合意書を締結した時点などで発生する費用です。相場は、成功報酬全体の10〜20%程度、または数十万円から数百万円程度です。

中間金は、手付金のような性質を持つことがあります。基本合意後にデューデリジェンスで問題が見つかり、最終契約に進まなかった場合でも、返金されない条件になっていることが少なくありません。契約前に必ず確認しましょう。

成功報酬は最終契約またはクロージング時に発生する

成功報酬は、M&Aが成立したときに支払う最大の費用です。最終契約締結時に発生する契約もあれば、株式譲渡代金の決済が完了するクロージング時に発生する契約もあります。

完全成功報酬制でも確認は必要

完全成功報酬制とは、成約まで報酬が発生しない仕組みを指すことが一般的です。ただし、成功報酬の最低額、実費、譲受企業側の費用、中間金の例外などが別に定められている場合があります。

名前だけで判断しないことです。契約書では「いつ」「誰が」「何を基準に」「いくら払うか」を確認します。

月額報酬と調査費用も総額に入れる

月額報酬は、契約期間中に毎月支払うランニングコストです。月額20万円から200万円程度まで幅があり、成功報酬に充当される場合と、別建てで発生する場合があります。交渉が長期化すると負担が重くなります。
デューデリジェンス費用は、買い手が対象会社を調査するための費用です。財務、税務、法務、労務などを確認するため、50万円から数百万円程度かかることがあります。通常は買い手が負担しますが、売り手側が事前調査を行う場合や、補助金の申請を検討する場合には、自社にも関係する費用になります。

レーマン方式は基準額の違いを見る

レーマン方式は、金額が大きくなるほど料率が下がる成功報酬の計算方法です。計算自体は難しくありませんが、どの金額を計算の出発点にするかで、手数料は大きく変わります。

一般的な料率の考え方

一般的なレーマン方式では、次のように段階的に料率を下げて計算します。

  • 5億円以下の部分は5%
  • 5億円超から10億円以下の部分は4%
  • 10億円超から50億円以下の部分は3%
  • 50億円超から100億円以下の部分は2%
  • 100億円超の部分は1%

たとえば、基準額が8億円の場合、5億円部分に5%、残り3億円部分に4%をかけます。この場合の成功報酬は、2,500万円と1,200万円を合計した3,700万円です。実際には消費税や最低報酬額の有無も確認します。

株式譲渡対価を基準にする場合

株式譲渡対価を基準にする方式は、売り手が株式を譲渡して受け取る金額をもとに計算します。株式譲渡で会社売却を行う中小企業では、経営者にとって比較的分かりやすい基準です。
たとえば、株式譲渡対価が5億円であれば、5億円を基準に計算します。借入金や買掛金などの負債を含めないため、他の方式より手数料が抑えられる場合があります。

企業価値を基準にする場合

企業価値を基準にする方式では、株式価値に有利子負債などを加えた金額を基準にすることがあります。有利子負債とは、銀行借入金のように利息が発生する負債です。

この方式では、同じ株式譲渡対価でも、借入金が多い会社ほど基準額が大きくなります。買い手の投資規模に近い考え方ですが、売り手の手取りから見ると、手数料負担が重く感じられることがあります。

移動総資産を基準にする場合

移動総資産を基準にする方式では、株式価値に負債全体を加えるなど、より広い金額を基準にすることがあります。この場合、買掛金や未払金なども含まれることがあり、成功報酬が高くなりやすいです。

同じ会社売却でも、株式譲渡対価基準なら5億円、企業価値基準なら7億円、移動総資産基準なら8億円というように、基準額が変わることがあります。料率表が同じでも、手数料が同じになるとは限りません。

最低報酬額も確認する

最低報酬額とは、レーマン方式で計算した金額が一定額を下回っても、最低限支払う報酬額のことです。500万円、1,000万円、2,000万円など、会社によって設定は異なります。

小規模M&Aでは、最低報酬額の影響が大きくなります。譲渡価格が数千万円から1億円程度の場合、レーマン方式の料率よりも最低報酬額の方が重要になることがあります。

両手取引と片手取引で手数料の意味が変わる

同じ手数料でも、支援会社が誰のために動く契約なのかで意味が変わります。ここを理解しないまま契約すると、価格交渉や条件交渉で違和感が出ることがあります。

両手取引は双方から報酬を受け取る

両手取引とは、1つの支援会社が売り手と買い手の双方と契約し、双方から手数料を受け取る形です。中小企業のM&Aではよく見られる方式です。

情報共有が早く、交渉が進みやすい面があります。一方で、売り手は高く売りたい、買い手は安く買いたいという立場の違いがあります。1社が双方を支援するため、利益相反の懸念をどう管理しているかを確認する必要があります。

片手取引は依頼者側の利益を重視しやすい

片手取引とは、売り手または買い手のどちらか一方と契約する形です。FA契約とも呼ばれます。FAはファイナンシャルアドバイザーの略で、依頼者側の助言者という意味です。

売り手側FAであれば、譲渡価格、表明保証、退任時期、従業員の処遇、個人保証解除など、売り手の条件を整理しやすくなります。ただし、相手方にも別のFAがつく場合があり、交渉に時間がかかったり、総費用が高くなったりすることがあります。

手数料の安さだけで選ぶと判断を誤る

両手取引が悪く、片手取引が必ず良いという話ではありません。重要なのは、自社の目的とリスクに合うかです。

売り手が重視すべき判断軸

・譲渡価格を重視するのか

・従業員の雇用継続を重視するのか

・取引先や金融機関への影響を小さくしたいのか

・スピードを重視するのか

・交渉過程の透明性を重視するのか


会社売却では、金額だけでなく、個人保証、役員退任、借入金返済、従業員説明の時期まで含めて判断します。手数料が安く見えても、条件交渉で不利になれば、結果的に手取りや安心感を損なう場合があります。

手数料を抑える契約前の確認事項

M&A手数料を抑える方法は、単に安い会社を選ぶことではありません。必要な支援を受けながら、不要な費用や見えにくい費用を避けることです。

複数社から見積もりを取る

最も基本的な対策は、複数社から見積もりを取ることです。相談料、着手金、中間金、月額報酬、成功報酬、最低報酬額、実費、消費税を含めた総額で比較します。

見積もりを取るときは、同じ前提条件を伝えてください。想定譲渡価格、純資産、有利子負債、負債総額、役員借入金、譲渡希望時期などが変わると、比較ができません。

同じ成功報酬率でも総額は変わる

成功報酬率が同じでも、基準額が違えば総額は変わります。株式譲渡対価、企業価値、移動総資産のどれを使うのかを確認し、最低報酬額も含めて試算しましょう。

契約書で費用発生時点を確認する

契約前には、費用の発生時点を必ず確認します。とくに中間金と成功報酬は、基本合意書の締結時、最終契約書の締結時、クロージング時のどこで発生するのかが重要です。

最終契約書を結んだ後にクロージング条件を満たせず、取引が止まることもあります。成功報酬が最終契約時点で発生する契約では、実際に代金を受け取る前に報酬負担が生じる可能性があります。

M&A支援機関登録制度も確認する

M&A支援機関登録制度では、登録支援機関の種類、所在地、手数料の算定基準、最低手数料の水準、報酬基準額の種類などを確認できます。手数料体系を比較する際の参考になります。

ただし、登録されていることだけで、必ず自社に合うとは限りません。業種経験、担当者の説明力、税務・会計・法務の連携、利益相反への対応方針を合わせて見ます。

契約前に聞きたい質問

・成功報酬の基準額は何ですか

・最低報酬額はいくらですか

・着手金や中間金は成約しない場合に返金されますか

・相手方からも手数料を受け取りますか

・利益相反が起きた場合はどう対応しますか

・補助金を使う場合、契約時期に問題はありませんか

・税務や会計の専門家はどの段階で関与しますか


この質問に対する回答が曖昧な場合は、契約を急がない方が安全です。

会計・税務と補助金で手取りを確認する

M&A手数料は、支払った時点で終わりではありません。会計処理、税務処理、補助金の対象になるかどうかで、最終的な負担感が変わります。

売り手側は譲渡所得の計算に影響する

個人株主が株式を譲渡する場合、一般に株式の譲渡所得は、譲渡価額から取得費と委託手数料等を差し引いて計算します。非上場株式の会社売却では、株式譲渡対価、取得費、M&A手数料の関係を早めに整理することが大切です。

ただし、すべての費用が同じ扱いになるわけではありません。株式譲渡に直接関係する費用か、会社側の費用か、個人株主側の費用かで処理が変わることがあります。契約前に、誰の名義で契約し、誰が支払うのかを確認してください。

買い手側は取得原価になる費用がある

買い手側では、株式を購入するために直接要した費用が、税務上、有価証券の取得価額に含まれる場合があります。会計上の処理は、個別決算か連結決算か、取得関連費用の内容によって判断が分かれることがあります。

中小企業の買収では、M&A手数料、デューデリジェンス費用、登記費用、契約書作成費用などが混在します。費用処理できるもの、資産計上するもの、税務上注意すべきものを分けて管理することが必要です。

補助金は対象経費と契約時期に注意する

事業承継・M&A補助金では、専門家活用枠により、M&Aに際して活用する専門家費用などが補助対象となる場合があります。仲介・FA費用については、M&A支援機関登録制度に登録された業者に係る費用が対象となる点に注意が必要です。

また、補助対象となるには、補助事業期間内に契約、発注、支払を行うなどの条件があります。交付決定前に契約してしまうと対象外になる場合があります。補助金は便利ですが、後から使えるものではないと考えて、M&Aの初期段階で確認しましょう。

補助金を前提にし過ぎない

補助金は採択や交付の条件があり、必ず受け取れるとは限りません。補助金がなくても支払えるか、成約しなかった場合の費用負担に耐えられるかを先に確認しておくことが安全です。

手取り試算は複数パターンで行う

手取り額は、次のように複数パターンで試算します。

・希望価格で成約した場合

・値下げ交渉を受けた場合

・中間金支払い後に不成立となった場合

・補助金が使える場合

・補助金が使えない場合

・個人保証解除に時間がかかる場合


会社売却は、最後の契約書に署名するまで条件が変わる可能性があります。早い段階で手取りの幅を把握しておくと、価格交渉でも冷静に判断できます。

まとめ

M&A手数料は、種類、発生時点、成功報酬の基準額、最低報酬額によって総額が大きく変わります。会社売却では、譲渡価格だけでなく手取り額から逆算し、複数社の見積もり、契約条件、補助金、税務会計処理まで確認することが重要です。不明点を残したまま進めず、早めに専門家へ相談しましょう。

著者|竹川 満  マネージャー/M&Aアドバイザー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事