M&Aにおいて重要な役割を担うFA(ファイナンシャル・アドバイザー)は、企業のM&A(合併・買収)をサポートするために活躍する専門職です。FAは、売り手・買い手の双方に対応し、適切なアドバイスやサポートを提供しています。
この記事では、M&AにおけるFAの立場や役割について詳しく解説し、M&A仲介会社との違いやメリット・デメリットについても説明します。
目次
FAは、企業のM&A戦略立案や分析、交渉、クロージング、PMIなどのプロセス全体にわたって、財務やM&Aに関する専門知識・実務能力を活かしたサポートを提供します。また、必要に応じて公認会計士・税理士・弁護士・M&A仲介会社などと連携し、M&Aチームを組織して柔軟に対応する役割も担っています。
それでは、M&Aに携わるFA会社の種類について見ていきましょう。
■銀行
メガバンクにはM&A専門部署が設置されており、大手企業や関連会社のM&Aを主に扱います。また、地方銀行や信用金庫も事業承継型M&Aを取り扱うようになってきていますが、すべての銀行でM&Aが行われているわけではありません。
■証券会社
国内大手証券会社にはM&A専門部署があり、主に上場企業の案件を扱います。
■FA専業会社
中小企業の事業承継問題に関するM&Aをサポートする会社で、銀行や証券会社とは異なり、独立性が高いことが特徴です。
■税務会計事務所
M&A対応には実績・経験・ネットワークが不可欠で、単独で対応するのは難しいケースが多いですが、独立系FA会社やM&A仲介会社と提携している場合は十分に対応可能です。
本節では、M&A仲介会社と財務アドバイザリー(FA)の違いについて、詳しく解説していきます。
M&A仲介会社とFAは、共に企業の合併や買収(M&A)をサポートする役割を担いますが、そのアプローチ方法や対象が異なります。
FAは、基本的には売り手か買い手のどちらか一方と契約し、クライアントの意向を尊重してサポートを行います。主に、大手企業同士や国境を越えたM&A(クロスボーダーM&A)で活用されることが多いです。
一方、M&A仲介会社は、売り手と買い手双方と契約し、中立の立場でM&Aをサポートします。M&Aアドバイザーとして、相手先のリサーチ、M&A実行までの相談やアドバイス、スケジューリング調整など、様々な業務をこなします。特に、非上場の中堅・中小企業や地域密着型のオーナー企業同士のM&Aが多いでしょう。
M&A仲介会社とFAそれぞれのメリットについて検証していきましょう。
M&A仲介会社を利用する場合、売り手と買い手双方の利益を考慮してバランスを取りつつ、合意点を見つけ出しやすいことが大きな強みとなります。そのため、M&Aが成功しやすくなる傾向があります。
さらに、交渉がスムーズに進むことが多く、良好なマッチングが成立すれば、M&Aが短期間で完了する可能性が高まります。
FAに依頼する場合、まず、依頼元企業の意向が最大限に尊重されることが利点です。特に、上場企業などは価格や目的の妥当性を第三者に説明する必要がありますが、FAの支援により、M&Aの正当性を説明しやすくなることが期待できます。
その結果、売り手である企業の規模が大きく、自社の企業価値に自信がある場合、FAを利用すれば、より高い価格での売却が可能になることがあります。
本稿では、M&A仲介とFA(ファイナンシャルアドバイザー)に依頼する際のそれぞれのデメリットについて詳しく説明していきます。
M&A仲介会社は中立の立場で交渉を調整いたしますが、買い手はリピート利用の可能性があるため、場合によっては買い手に有利な形で進められてしまうことがあります。
M&A仲介会社は両方の企業から報酬を得るのに対して、FAは依頼を受けた方のみから報酬を受け取るため、報酬金額が高額になりがちです。また、各FAが依頼者の利益を主張するため、交渉期間が長引いてしまい、破談になるケースも少なくありません。
FAとの契約は一般的にアドバイザリー契約と呼ばれ、業務内容や業務範囲を明確に規定しています。具体的な業務としては、以下のようなものが挙げられます。
• 相手先の選定・紹介
• 交渉・諸手続に関するスケジューリング
• 価値評価・推進方法に関する助言
• 相手との交渉時の立会い
• 法律事務所・会計事務所などの専門家の紹介
• デューデリジェンスの調整および立ち会い
これらの業務を通じて、FAはM&A実行までの全ての業務をサポートします。
ここでは、FAの報酬体系についての目安と、報酬が発生する時期について説明します。
初回の相談料は通常無料ですが、中には時間単価で料金がかかるFAも存在するため、事前に確認が必要です。
企業がM&A(合併・買収)の際に、金融アドバイザー(FA)と契約を締結した段階で支払う必要があるのが着手金です。中小企業の場合、50万円~200万円程度が一般的な目安ですが、規模が大きくなるとそれ以上の金額になることもあります。着手金は、FAの初期活動の諸経費に充てられるだけでなく、依頼企業のM&Aに関する意思を確認する意味合いも持っています。
ただし、M&Aが成立しなかった場合でも着手金は返還されないことに注意が必要です。近年では、着手金不要を提案するFAも増えています。
一般的には、M&A成立まで毎月支払う形の月額報酬がリテイナーフィーです。月額30万円~200万円程度が目安とされていますが、報酬が不要なFAも存在しています。
成功報酬とは、M&Aが実際に成立した場合にのみ支払う報酬です。成立していない場合には支払いが不要であり、多くのFAはレーマン方式によって金額算出が規定されています。
レーマン方式とは、基準額の金額帯ごとに異なる手数料率を設定し、それぞれの金額帯に対して計算した結果を合算し、手数料を算出する方法です。ただし、成約金額に含める内容や金額帯、手数料率、最低報酬の有無などは、FAごとに異なるため、契約時には事前確認が必要となります。
【レーマン方式の一例】
成約金額(役員退職金支給などを含む)を示す手数料率は、以下のようなものです。
5億円以下の部分: 5%
5億円超10億円以下の部分: 4%
10億円超50億円以下の部分: 3%
50億円超100億円以下の部分: 2%
100億円超の部分: 1%
本章では、M&Aにおいて金融アドバイザー(FA)を選ぶ際のポイントについて解説いたします。
M&Aの実績が豊富なFAは、ノウハウも十分に蓄積されています。そのため、FAの経験・実績が豊富であるか、自社と同じ業界や規模感での実績経験はあるか、といった点はFA選びにおいて最も重要なポイントのひとつです。
FAに依頼する場合、担当者に直接相談し、コミュニケーションの取りやすさや自社の案件に通じる経験が豊富で得意分野かどうかを確認することが重要です。担当者との相性が良くなければ、M&Aが進まなくなる可能性もあります。そのため、複数のFAに相談して比較し、検討することをおすすめします。
この記事では、FA(フィナンシャルアドバイザー)にM&A(合併・買収)を依頼する際に注意すべきポイントについて説明します。
各々の会社で提供されるサービス内容が異なるため、単純な報酬額の比較ではなく、自分たちにとって必要かつ適切なサービスであるか、また、そのサービスに対して報酬が妥当かどうかを検討することが重要です。料金体系が複雑で理解しにくい場合もありますので、担当者に十分に確認し、必要に応じて複数のFAから見積もりを取得して比較検討することをお勧めします。
先に述べた通り、中小企業のM&Aにおいては仲介会社への依頼が一般的であり、多くのメリットがあります。FAに依頼することが自社にとって本当に適切かどうか、特に注意して検討してください。
FAは、自社の利益を最大限に考えながらM&Aを進めてくれるメリットがありますが、「成約が難しい」というデメリットも存在します。
FAに依頼するかどうかは、自社の事業規模を十分に考慮した上で、複数のFA会社や仲介会社と比較検討し、慎重に選択することが望ましいです。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事