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M&AにおけるFAと仲介の違いと活用方法を解説

M&A FAとは何でしょうか。仲介とどう違い、費用やメリットは本当にあるのでしょうか。この記事では、中小企業オーナーが安心してM&Aを進めるために、FAの役割と選び方を分かりやすく解説します。

目次

  1. FAとは何か その基本概念
  2. M&A仲介会社とFAの根本的な違い
  3. 仲介方式が国内M&Aで主流となる理由
  4. M&A仲介会社とFAそれぞれのメリット
  5. M&A仲介会社とFAそれぞれのデメリット
  6. FAの主な業務内容と役割
  7. FA報酬体系と費用の目安
  8. FA選びのポイント
  9. FAにM&Aを相談する際の留意点
  10. まとめ

FAとは何か その基本概念

FAはフィナンシャルアドバイザーの略で、M&A全体を通じて依頼企業の利益を最大化することを使命とする専門家です。具体的には戦略立案、相手候補の選定、価値評価、交渉支援、クロージング、PMIまで伴走し、公認会計士や税理士、弁護士など外部専門家とも連携して最適なチームを組成します。依頼サイドは売り手か買い手のいずれか一方であり、FAは契約したクライアントの意向を最優先に行動します。

FAが活躍する代表的な3類型を理解する

FAが多く関与する案件には、

(1)上場企業グループ内での再編

(2)クロスボーダーM&A

(3)数十億円規模以上の事業承継型M&A

があります。これらはいずれも取引規模が大きく、法務・税務の論点が複雑であるため、高度な専門家による専任サポートが必要とされるからです。


銀行系FAの特徴は既存取引先への総合提案

メガバンクや地方銀行のM&A部門は、既に融資関係のある顧客に対しワンストップで提案できる点が強みです。一方で取扱案件の大半がグループの顧客に限られるため、独立性の面では留意が必要です。


証券会社系FAは上場企業案件に強みを持つ

大手証券会社は資本市場で培った知見を武器に、株価評価や公開買付など市場連動型スキームへ的確に対応します。主な対象は上場企業同士または子会社売却などで、高いディールサイズが前提となります。


独立系FAは中立性と柔軟性が魅力

独立系FA専業会社は特定の金融機関に属さないため、利害関係を排しながらクライアント本位で助言できます。中小企業の事業承継案件で豊富な実績を持つ会社も多く、業界の垣根を越えたマッチング力が評価されています。

M&A仲介会社とFAの根本的な違い

M&A仲介会社もFAも取引を成功させる支援者ですが、立場と報酬構造が大きく異なります。仲介会社は売り手・譲受企業双方と同時に契約し、交渉を中立にまとめる「橋渡し」の機能に特化します。対してFAは片側当事者の利益を守る「代理人」として振る舞い、必要に応じて相手側FAと対峙しながら条件を引き上げる役割を担います。

契約形態と責任範囲の違いを整理する

仲介は一つのアドバイザー契約で双方から報酬を受け取るため、情報共有や工程管理が一本化されるメリットがあります。その反面、利益相反のリスクが指摘されます。FAの場合は売り手FAと買い手FAが別々に存在し、自社側の情報を守りながら交渉戦略を立案できる半面、当事者が増えることで協議が長期化しやすい傾向があります。

対象案件規模と専門性の住み分け

国内では譲渡価額が数十億円未満の中小企業M&Aは仲介方式が主流です。一方、100億円を超える大型取引や国際案件ではFAが選択されやすく、高度な法律・税務・ファイナンス構造を設計する能力が不可欠とされます。

仲介方式が国内M&Aで主流となる理由

日本の中小企業M&Aは友好的な取引が大半を占めます。売り手も買い手も長期的に良好な協力関係を築きたいと考えるケースが多く、双方の妥協点を探る仲介モデルが円滑さやスピード面で有利に働くためです。また、仲介会社は多様な買い手候補のデータベースを保有しており、地域性や業種特性を踏まえたマッチングに強みがあります。

ガイドラインによる仲介の透明性確保

中小企業庁の中小M&Aガイドラインは、仲介会社が自社の立場を明示し、利益相反リスクを顧客に説明することを定めています。これにより、利用者の不安軽減と取引の健全化が図られています。

M&A仲介会社とFAそれぞれのメリット

M&A仲介会社の主なメリットは交渉円滑化

仲介会社は両当事者の希望条件を聞き取りながら、落としどころを提案して合意形成をスピーディーに進めます。バランス調整役として機能するため、マッチングが適切であれば短期間で成約する可能性が高まります。

FA活用のメリットは依頼者利益の最大化

FAは依頼側の意向を最優先に交渉条件を設計できるため、上場企業など価格の妥当性を第三者説明する必要があるケースで有効です。売り手企業の規模が大きい場合には、高値売却の実現や契約条件の詳細な最適化が期待できます。

M&A仲介会社とFAそれぞれのデメリット

次に検討すべきは、方法ごとの弱点です。メリットだけでなくデメリットを理解し、自社に合った支援形態かどうかを判断することが大切です

M&A仲介会社のデメリットは利益相反の懸念

仲介会社は成功報酬を売り手と買い手双方から受け取るため、案件によっては買い手企業の再利用可能性を重視し、買い手寄りに傾く余地があると指摘されます。ただし、契約上は最終判断が当事者に委ねられており、情報操作は自社リスクを拡大させるだけでメリットが乏しい点も併せて理解すべきでしょう。

FAのデメリットは費用負担と交渉長期化

FAは片側サポートゆえに成功報酬率が高くなりがちで、リテイナーフィーを含めトータルコストが大きくなる傾向があります。また、当事者側に立って主張を強めるため、条件面で折り合いが付かず交渉が長引き、最終的に破談となるリスクもあります。

FAの主な業務内容と役割

相手候補の選定と紹介

FAは業界ネットワークや専門データベースを活用し、依頼企業の戦略に合致する候補を抽出します。その後、秘密保持契約を締結した上で情報交換を行い、関心度合いの高い先に提案書やティーザーを提示します。

交渉スケジュールの設計と管理

取引実行までの大枠スケジュールを策定し、デューデリジェンス、基本合意、最終契約、クロージングといった各フェーズで必要なタスクを洗い出します。FAは会議体を設定し、マイルストーンの進捗を管理しながら課題を早期に顕在化させます。

価値評価とストラクチャー助言

FAはDCF法や類似会社比較法などを用いて企業価値を算定し、最適な譲受スキーム(株式譲渡か事業譲渡かなど)を提案します。評価根拠を客観的に示すことで、価格交渉を円滑に進める基盤を築きます。

専門家チームの組成と統括

法務デューデリジェンスを弁護士、税務面を税理士が担当するなど、専門家を適切にアサインし、FAが全体ディレクションを行うことで情報共有と工程管理の一元化を図ります。

クロージングからPMI支援までの伴走

最終契約締結後の資金決済、登記、社内外への公表、統合作業、体制整備など、PMIフェーズにおいてもFAは依頼企業が早期に統合効果を享受できるよう伴走します。

FA報酬体系と費用の目安

初回相談料は無料か時間課金かを確認

多くのFAは初回相談を無料としていますが、経験豊富なシニアアドバイザーを指名する場合など、時間当たりで費用が発生する事例もあります。事前に条件を明確にしておくことで、想定外の出費を防げます。

着手金は意思確認と準備費用の意味合い

中小企業の事案では50万〜200万円が一般的なレンジです。着手金は初期の市場調査や資料作成に充当されるほか、「本気度」を測る性質もあります。成約の有無にかかわらず返還されないため、契約前に金額だけでなく対象範囲を精査しましょう。

リテイナーフィーはプロセス期間に比例する固定費

月額30万〜200万円程度が目安で、支払いが長期に及ぶほど負担も増加します。リテイナーフィー無料を掲げるFAも存在しますが、その場合は成功報酬率が高い、または最低報酬設定があるなど、別のコスト構造が組み込まれているケースがあるため、条件を総合的に比較することが不可欠です。

成功報酬はレーマン方式が主流

レーマン方式では取引総額の区分ごとに料率が設定されます。例えば5億円以下5%、5億超10億円以下4%といった段階的計算で、全帯の合算結果が手数料となります。最低報酬の有無や総額の定義(役員退職慰労金の含む・含まない等)はFAごとに差異があるため、見積書で確認しましょう。


費用交渉のポイントは総額ではなく費用対効果

費用だけを見て高い安いを判断すると、必要なサポートが抜け落ちる危険があります。自社が求めるサービス内容と費用の対応関係を把握し、見合う価値を得られるのかを検討する視点が重要です。複数社から提案を受け、同一条件で比較することで適正相場を見極めやすくなります。

FA選びのポイント

FAを選定する行為は、M&A全プロセスの舵取りを誰に委ねるかを決める極めて戦略的な意思決定です。ここでは担当候補を比較する際に欠かせない評価軸を深掘りし、チェックリスト形式で提示します。最適なパートナーを見出すことで、譲渡企業が得られる価格や条件、さらには閉業後の従業員処遇まで大きく変わります。

過去実績を確認し自社類似案件の有無を把握

FAの力量は過去の成功事例に現れます。公開情報で累計成約件数や平均ディールサイズを調べた上で、非公開事例も面談時に質問しましょう。業種特有の論点——たとえば医療法人なら行政許認可、IT企業なら知的財産権の整理——に対応した経験があるかは大きな判断基準です。面談では「類似案件で最大の課題は何だったか」「どのように解決したか」をヒアリングし、課題設定力と課題解決力を見極めます。


成約実績の質を数字とストーリーで確認する

総件数が多くても小口取引に偏る場合や、逆に件数が少なくても一件当たりの規模が大きい場合など、実績の質は数字だけでは判断できません。担当者に案件の背景と成果をストーリーで語ってもらうと、抽象的説明か具体的説明かで力量差が見えやすくなります。


デューデリジェンス対応力を評価する質問例

「買い手側DDで重大な指摘が出た時どのように交渉を舵取りしたか」など、現場での機転を問う質問に対する返答から、リスクマネジメント能力を測りましょう。

担当者のコミュニケーション力と相性を見極める

実務では突発的な追加資料要求や価格交渉フェーズでの対案提示など、短時間で意思決定が必要な状況が頻発します。担当者が専門用語を平易な言葉に置き換え、経営陣だけでなく従業員や金融機関に向けた説明資料まで作成できるかが重要です。初回面談の後、メールや電話でフォローアップの連絡があるか、議事録を即日共有するかといった行動も相性判断の指標になります。


レスポンスの速さと正確性を簡易テストで確認する

面談後に追加資料を依頼し、その提供スピードと内容を比較することで、プロジェクト進行時のレスポンス品質を事前に把握できます。


チーム構成の明確さとリーダーシップをチェックする

FA会社によってはシニアが獲得営業のみ担当し、実務をジュニアスタッフが行う場合があります。誰が初期提案、DD調整、契約書レビューの責任者か、具体名と役割分担を確認しましょう。

契約条件と報酬体系を複数社で比較する

FAとの契約書は細部に多くのコストが潜んでいます。役員退職慰労金や在庫評価差額を含むか否かで成功報酬が数千万円変動することも稀ではありません。「基準総額の定義」「最低報酬」「中途解約時の段階的成功報酬」など、条項の用語を一つずつ読み合わせ、疑問があれば社内顧問弁護士に確認する体制を整備しましょう。


費用総額シミュレーションで隠れコストを可視化

複数の譲渡価額シナリオ(例えば8億円、15億円、25億円)を設定し、各社見積書による総費用を一覧表にすると、料率だけでは見えないコスト差が浮き彫りになります。


専任条項と情報公開義務のバランスを検討する

排他期間が長すぎると市場機会を逸失する恐れがあります。FAの交渉力担保と依頼企業の柔軟性を両立させるため、短めの専任期間+更新時双方合意の方式も検討しましょう。

FAにM&Aを相談する際の留意点

依頼した後でも「任せきり」は禁物です。経営陣が主体的に意思決定する体制を維持することで、余計なコストやスケジュール遅延を防ぎます。

サービス内容と報酬の妥当性を総合判断する

価格のみに注目すると「安かろう悪かろう」に陥ります。FAが提供するアウトプット——企業価値評価レポートの厚み、面談アジェンダの事前策定、PMIロードマップ案の有無——を細かく確認しましょう。これらはプロセス終盤で追加請求されやすい項目でもあるため、最初の提案段階で「追加費用が発生する業務範囲」をリストアップし、費用感を確定させておくと安心です。


報酬支払時期とキャッシュフローを照合する

着手金やリテイナーが重なると、成約前に資金繰りが圧迫される恐れがあります。月次CF計画と支払スケジュールを突き合わせ、必要であれば金融機関と早期に交渉して融資枠やつなぎ資金を確保しましょう。


アウトプット品質を第三者の視点で評価する

専門用語が多い評価レポートは社内で理解しきれない場合があります。社外取締役や顧問税理士など第三者にもレビューを依頼し、FAからの説明責任を果たしてもらうと、経営判断の質が向上します。

中小企業では仲介かFAかを慎重に選択する

取引規模十億円未満であっても、取引先リストの守秘性が高い、親族への株式分散を避ける必要があるなど特殊要件がある場合にはFAを選ぶメリットが出ます。一方で従業員引継ぎや創業者の想い重視など友好的マッチングを最速で実現したいケースでは仲介方式が適合します。経営者は自社の優先順位を明確化し、FAと仲介の比較表を用いて取締役会で議論すると意思一致を図りやすくなります。


FAと仲介を併用するモデルの有効性

初期段階は仲介会社の広範ネットワークで買い手候補を募り、条件交渉フェーズへ進む際にFAへバトンタッチするハイブリッド型もあります。譲渡企業が状況に応じて選択肢を持つことで、時間とコストを最適化できる可能性があります。


判断基準は価格、スピード、秘密保持、関係継続

四つの軸をチャート化し、自社が重視する順に重み付けすることで、客観的に方式を選択できます。


役員や従業員への情報開示タイミングを設計する

FAとの協議では社内ステークホルダーへの開示計画も重要論点となります。情報漏洩を恐れて開示を引き延ばすと、クロージング間際で従業員の不安が高まり離職につながるリスクがあります。FAは守秘義務を順守しつつ、段階的説明資料や質疑応答集を準備してくれるため、経営陣はあらかじめ説明会実施日程を設計し、労務トラブルを未然に防ぎましょう。


FA活用で得られる非価格面の付加価値を理解する

買い手企業とのシナジー具体化や役員退任後の顧問契約など、金銭以外の条件調整もFAの重要な役割です。譲渡企業がブランド維持や従業員雇用継続を重視する場合、FAは買い手側の中長期経営計画を分析し、譲受後の事業運営方針を書面で取得することで、数字に表れにくい安心材料を確保できます。


FA報酬を分割支払で合意する工夫

リテイナーフィーを四半期単位で区切り、進捗に応じて支払割合を変更する契約例があります。FAの結果責任を明確にしつつキャッシュアウトを平準化できるため、資金繰り負担を軽減できます。交渉時に具体的な成果物と支払タイミングを紐づけると、双方の期待値を揃えやすくなります。


デューデリジェンス段階での役割分担を明文化する

財務・税務・法務の各デューデリジェンスは買い手主導で行われますが、売り手FAが質問表の整理や追加資料取得を主導することで、作業効率が大きく向上します。あらかじめFAとの役割分担書を作成し、依頼企業の経理担当や総務担当がどの資料をいつまでに用意するかをガントチャート化すると、手戻りを削減できます。資料漏れが続くと買い手側からの信頼が低下し、提示価格のディスカウント要因となるため、FAの進行管理能力が直接的に企業価値へ影響することを理解しておきましょう。


クロージング後のPMI支援範囲を契約前に確認する

契約書締結でM&Aが終わるわけではありません。統合初年度に財務・人事・IT・ブランド統合を進めるPMIフェーズでつまずくと、経営統合効果が遅延します。FAがPMI計画策定やPMI専門会社の紹介まで行うのか、またはクロージングで契約が終了するのか、契約前に確認し書面化しておくと、統合後の混乱を防げます。PMI支援が含まれない場合でも、追加オプション費用や提携先の提示を依頼すると、後日の選択肢が広がります。


ステークホルダー間の合意形成をサポートするFAのファシリテーション技術

M&Aは株主、金融機関、取引先など多様な利害関係者を巻き込みます。FAがロードショー形式で説明会を開催し、第三者目線で質問に回答することで、経営陣のみでは伝えきれない客観的情報が提供され、不安払拭につながります。特に地方金融機関が債務保証を有する場合、FAが中立的な立場で再編目的や返済計画を説明することで、合意取得がスムーズになります。

まとめ

FAは高い専門性と交渉力で企業価値を引き上げる半面、費用負担とプロセス複雑化のリスクを伴います。自社の優先事項、取引規模、秘密保持要件を整理し、仲介方式との比較を行ったうえで納得できる支援者を選びましょう。

著者|竹川 満  マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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