M&A仲介売上高ランキング上位企業の強みと選び方を解説
M&A仲介会社の売上は実績と信頼のバロメーターです。この記事では売上高トップ3社の強みや注意点を整理し、譲渡企業が安心してパートナーを選ぶ判断材料を提供します。市場動向やDXトレンドにも触れ、税理士目線で選び方を解説します。
目次
▶目次ページ:M&Aの相談先(M&A仲介/コンサルタント)
M&A仲介会社は、譲渡企業と譲受企業の間に立ち、中立の立場でM&A取引を成立へ導く専門家です。譲渡企業が抱える後継者問題や資本回収ニーズと、譲受企業の事業拡大ニーズを結び付け、双方に納得できる条件を設計します。近年は10億円未満の小規模案件から100億円超の大型案件まで領域が拡大し、仲介会社には高度な専門性と機密情報管理体制が求められています。
1. 取引マッチング
全国ネットワークや独自DBで適切な譲渡企業・譲受企業を探索。
2. 交渉支援
価格・条件ギャップを調整し合意形成を後押し。
3. 企業価値評価
DCF法などで適正価格レンジを提示。
4. 財務・法務・税務デューデリジェンス
リスクを可視化し安心材料を提供。
5. 契約書作成支援
譲渡契約や表明保証条項を精査し紛争リスクを低減。
6. 成約後のPMI支援
組織統合や人材定着策をフォロー。
7. 機密情報管理
厳格なアクセス制御と守秘義務契約で重要情報を保護。
これらをワンストップで提供できるかが仲介会社選びの分岐点です。
デューデリジェンスはM&A成否を左右する工程ですが、仲介会社が専門家と連携して網羅的にリスクを洗い出すことで、譲渡企業の安心感と譲受企業の納得感を同時に確保できます。
国内M&A仲介市場は、人口減少と高齢化による事業承継ニーズを原動力に拡大しています。2024年時点の最新統計では、市場規模は過去10年間で約2倍に成長。上場仲介会社の増加による情報開示の進展も追い風となりました。IT・DX関連を中心とした戦略的M&Aが増加し、仲介会社の売上と成約件数を押し上げています。
SaaSやAI、フィンテック領域では、企業同士を組み合わせて付加価値を最大化するシナジー効果が期待されます。譲受企業は短期間で技術と人材を確保でき、譲渡企業は事業を次のステージへ進める資金を得られるため、仲介相談が急増しています。
仲介会社の収益は主に成功報酬で構成されます。成約しなければ報酬が発生しないため、各社は案件管理システム整備やAI導入で成約率を高め、売上を最大化。一方で最低手数料や中間金を設ける会社もあり、小規模案件では割高になる可能性があります。手数料体系とサービス内容のバランスを見極めることが重要です。
上位3社は全国対応ですが、ネットワーク構築手法は異なります。日本M&Aセンターは地方金融機関との提携で地域密着情報を収集。M&Aキャピタルパートナーズは都市圏大型案件に注力し、レコフデータのDBで譲受企業候補を網羅。ストライクはWebからの問い合わせが4割超でオンライン集客に強みを持ちます。案件特性に応じて最適な仲介会社は変わります。
機密情報管理体制も売上規模に直結します。上場3社は内部統制報告制度の下で情報セキュリティポリシーを公開し、VDR導入により閲覧履歴やDL制限を細かく設定。譲渡企業は安心して機密資料を提供でき、案件が円滑に進行することで売上にも寄与します。
デジタル化も成長ドライバーです。AIマッチングは条件突き合わせを瞬時に行い、候補リスト作成を短縮。アドバイザーは交渉戦略やPMI計画に注力でき、案件当たりの付加価値が向上します。
売上が大きい仲介会社は案件対応力やブランド力の指標です。
日本M&Aセンター |
売上413億円(2023年3月期) |
経常利益154億円 |
M&Aキャピタルパートナーズ |
売上207億円(2022年9月期) |
経常利益97.7億円 |
ストライク |
売上138億円(2023年9月期) |
経常利益52.1億円 |
1994年設立、累計成約4,000件超。公認会計士・税理士に加え元金融機関出身者が在籍し、20以上の専門チームで業種別課題を分析します。
主な特徴
・国内中堅中小企業を中心に幅広く対応し地域専門組織を配置
・毎年1,000件以上の譲渡案件を取り扱う経験を蓄積
・金融機関や会計事務所と連携したセミナーを全国で開催
・AIマッチングで早期に譲受候補を提示
2005年創業。譲渡企業に着手金を求めない完全成功報酬型で大型案件を中心に急拡大。
主な特徴
・成功報酬型で初期負担を抑制
・子会社レコフデータのDBで高精度な企業価値評価
・専任制コンサルタントがスピード成約を支援
・上場企業として透明性の高い情報開示を徹底
1997年設立。公認会計士が多く在籍し専門知識に基づく提案力が魅力。
主な特徴
・公認会計士・税理士が複合課題をワンストップ支援
・匿名情報を公開するオンラインプラットフォームで広範な譲受企業と接点
・クロスボーダー案件や医療福祉などニッチ分野に強み
・主要都市にオフィスを分散し地方企業にも機動的に訪問
日本M&Aセンターは売上413億円・経常利益154億円・成約件数1,050件(2022年度)と圧倒的規模を誇ります。M&Aキャピタルパートナーズは売上207億円・経常利益97.7億円・成約199件、ストライクは売上138億円・経常利益52.1億円・成約408件で専門性を武器に存在感を高めています。なお、日本M&Aセンターは譲渡企業と譲受企業を別々に1件としてカウントしているため単純比較には注意が必要です。
3社とも増収増益基調にあり、市場拡大の追い風を受けて成長を続けています。日本M&Aセンターは案件数とブランド力、M&Aキャピタルパートナーズはデータ活用とスピード、ストライクは専門チームとオンライン基盤で差別化を図っています。
大手M&A仲介会社は上場企業としての透明性と豊富な実績を兼ね備えています。譲渡企業にとっては「相談相手を信頼できるか」が最優先事項になるため、上場基準を満たす内部統制やガバナンス体制は大きな安心材料です。さらに、全国規模のネットワークやAIを活用したマッチング技術により、短期間で多様な譲受企業候補を提示できる点も魅力です。ここでは具体的な7つの利点を整理して解説します。
大手仲介会社は金融商品取引法に基づく情報開示義務を負い、第三者監査で業務プロセスが確認されています。譲渡企業は「本当に任せて大丈夫か」という不安を抱えがちですが、上場企業の開示資料や監査報告を確認することで経営の透明性を直接評価できます。上場後に培った内部統制は顧客資産や機密情報の管理にも活かされ、取引相手にとっても信頼度が高まり交渉が進みやすくなります。
大手3社は年間数百件規模で譲渡案件を支援しているため、デューデリジェンスで指摘されやすい論点や価格調整の落とし所を体系化しています。実績に裏打ちされたデータベースを参照しながら最適な譲渡スキームや表明保証の内容を提案できるため、交渉が停滞しにくく結果として成約までの期間短縮と条件最適化が同時に実現します。
日本M&Aセンターは地方銀行や信用金庫を含む2,000超の金融機関と提携し、未公開の譲受ニーズを早期把握しています。M&Aキャピタルパートナーズはメガバンク出身者が多く、ファンドや上場企業と強固な結び付きを構築。ストライクは全国の会計事務所と連携し、独立系ならではのフットワークで地域ごとの特色を把握しています。広いネットワークがあるほど「最も高く買ってくれる企業」「理念が合う企業」を探し出す確率が上がります。
譲渡企業は財務や税務だけでなく従業員の処遇や許認可の承継など幅広い課題に直面します。大手仲介会社では公認会計士、税理士、弁護士、社会保険労務士などの専門家が案件ごとにチームを組成し、多面的な検証を短期間で実施します。事前に潜在リスクを洗い出すことで譲受企業からの追加条件要求を抑え、スムーズなクロージングを実現します。
大手企業はISO27001等の国際規格に準拠した情報管理体制を整備し、バーチャルデータルーム(VDR)を用いてアクセス権を細かく制御しています。ログを自動記録するため「誰がいつ資料を閲覧したか」が可視化され、情報漏洩リスクを極小化できます。地方企業や医療法人など機密性の高い案件でも安心して資料共有が可能です。
譲受企業は「知らない仲介会社が提示してきた案件」よりも「業界大手が管理する案件」に高い信頼を寄せます。結果として初期提案の段階から前向きに検討してもらえる確率が高く、競争入札が成立しやすいため価格や条件が好転する可能性があります。
成約後の統合(PMI)はシナジーを最大化する重要プロセスです。大手仲介会社は人事制度統合やITシステム統合、業務フロー整備までフォローアップメニューを用意しており、双方経営陣の負荷を軽減。長期的な企業価値向上を視野に入れた提案が受けられます。
大手仲介会社は多くの利点を持つ一方で、規模ゆえの弱点も存在します。譲渡企業は手数料負担だけでなく、自社の文化や希望に合う対応を得られるかを事前に確認する必要があります。以下では利用前に把握しておきたい5つの注意点を整理します。
最低手数料が1億円超に設定されている事例もあり、譲渡価格が数億円規模の案件では負担割合が高まります。着手金や中間金が必要な会社もあるため、見積時には総額と支払い時期を必ず確認し、複数社で比較検討することが重要です。
上場企業は四半期ごとの業績目標を意識せざるを得ません。そのため「早期に成約して売上を計上したい」というインセンティブが働き、最終的に適合度の高い譲受企業を十分に探さないままクロージングに進むリスクがあります。面談時に「自社が最も重視する条件」を明確に共有し、優先順位を事前に確認しておくことでリスクを軽減できます。
大手では一人のアドバイザーが10件以上同時進行するケースもあります。進捗報告が月1回など最低限に留まると、譲渡企業は不安を感じやすくなります。初回面談で担当者の案件数や報告頻度を質問し、連絡体制を文書で合意しておくことが望ましいです。
標準化された手順は効率的ですが、医療法人や建設業など許認可が関わる案件では柔軟な対応が必要です。自社特有の課題を説明し、プロセスをカスタマイズできるか確認しましょう。
組織が大きいほど意思決定層まで情報が伝わりにくく、齟齬が生じる場合があります。契約前に報告内容や頻度、会議体の形式を合意し、必要に応じて経営者が直接アドバイザーと面談する場を設けることで情報ギャップを防げます。
仲介会社を選ぶ際は「規模が大きいか」だけでなく、自社の業種・地域・目標にマッチするかを総合的に評価することが大切です。以下の5つの観点をチェックリストとして活用すると、自社に最適なパートナーを選びやすくなります。
同じ5億円規模の譲渡でも製造業とIT業では課題が異なります。過去に類似案件を手掛けた実績があるか、担当予定者が業界特有のビジネスモデルを理解しているかを面談で確認しましょう。
地方企業の場合、地銀や地元企業との独自ネットワークが案件成功の鍵になります。支店の有無や担当者が直接訪問可能かを確認し、地域特化型の中小仲介会社も選択肢に入れることで選択肢が広がります。
成功報酬率だけでなく、着手金・中間金・最低手数料を含めた総額を複数社で比較します。また、デューデリジェンス支援やPMI支援が基本料金に含まれるか、追加費用が発生するかも重要です。
社内に専門家チームがあるか、外部専門家と連携する場合は責任分界点が明確かを確認します。ワンストップで完結できる体制があればスケジュール遅延を防ぎ、費用予測が立てやすくなります。
守秘義務契約、VDR導入状況、内部監査体制、社員教育プログラムなどを資料で提示してもらい、基準をクリアしているかチェックします。情報漏洩は譲渡価格だけでなく従業員や取引先との関係にも影響するため、最優先で確認しましょう。
M&A仲介会社を選ぶ際は、売上規模やブランド力だけでなく、手数料体系、地域・業種との相性、情報管理体制、担当者の対応力を総合的に比較することが成功への近道です。大手の強みと注意点を理解し、自社に最適なパートナーを見極めましょう。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画