M&A仲介の利益相反問題を解説 成功への重要ポイントとは

M&A仲介における利益相反問題の本質と対策を解説します。仲介会社の役割、法的規制、取引当事者の注意点、適切な仲介会社の選び方まで、M&A成功のための重要ポイントを網羅的に紹介します。

目次

  1. M&A仲介会社の役割と重要性
  2. M&A仲介における利益相反の問題
  3. M&Aプロセスにおける注意事項
  4. 適切なM&A仲介会社の選定方法
  5. まとめ

M&A仲介会社の役割と重要性

M&A仲介会社は、企業の買収や合併を希望する売り手と買い手の間に立ち、取引が円滑に進むよう支援する重要な役割を担っています。これらの会社は、中立的な立場から現実的な提案を行うことで、M&A取引の成約率を高める傾向があります。

M&A仲介会社が多く利用される理由

M&A仲介会社が頻繁に利用される背景には、以下のようなメリットがあります。

1. 取引の円滑な進行: 

 o マッチング、交渉、契約締結など、M&Aの各段階で専門的な支援を受けられます。

 o 必要な情報が両者に適切に伝わりやすくなり、取引の成約確度が向上します。

2. 迅速な意思決定: 

 o 仲介会社の専門知識や交渉経験を活用することで、法律、会計、税務などの複雑な問題に対して、迅速な判断が可
   能になります。

3. 取引成立の可能性向上: 

 o 中立的な立場から調整や説得を行うため、利害対立による交渉の決裂リスクが軽減されます。

 o 専門的なアドバイスにより、両者にとって納得のいく条件での合意形成が促進されます。

このように、M&A仲介会社は取引をスムーズに進行させ、成約の確度を高める重要な役割を果たしています。そのため、多くの企業がM&Aプロセスにおいて仲介会社のサービスを活用しています。

M&A仲介における利益相反の問題

M&A仲介業務において、利益相反の問題は常に注意を払うべき重要な課題です。仲介会社が両者の利益を公平に代表することが求められる一方で、取引の成立自体が仲介会社の利益につながるという構造的な問題が存在します。

利益相反の定義

利益相反とは、ある取引において、一方の利益が他方の不利益につながる状況を指します。M&Aの文脈では、買い手はできるだけ安価での買収を望み、売り手はより高額での売却を希望するという、相反する利害関係が典型的な例として挙げられます。

M&A仲介業務が利益相反と見なされる背景

M&A仲介会社が利益相反の立場に立たされやすい理由として、以下の点が挙げられます。

1. 双方からの報酬:仲介会社は売り手と買い手の両方と契約を結び、双方から手数料を得る立場にあります。

2. 取引成立の優先:仲介会社にとって最も重要なのはM&Aの成立であり、そのために一方の利益を優先する可能性が
   あります。

3. 完全な中立性の困難さ:両者にとって同等に有利な取引を実現することは、実質的に不可能とされています。

利益相反が引き起こす問題点

利益相反は、M&A取引において以下のような問題を引き起こす可能性があります。

1. 買い手有利の取引傾向: 

 o M&A経験が豊富で資金力のある買い手企業が優遇される傾向があります。

 o 取引成立を優先するあまり、売り手の利益が損なわれる可能性があります。

2. 情報漏洩のリスク: 

 o 売り手の交渉戦略や売却可能最低額などの機密情報が、買い手に漏れるリスクがあります。

 o これにより、売り手が交渉において不利な立場に置かれる可能性があります。

3. 買い手企業の優遇: 

 o 仲介会社は、将来的に再びM&Aを行う可能性が高い買い手企業を優遇する傾向があります。

 o これは、長期的な取引関係の構築を目指す仲介会社の利益と合致するためです。

利益相反取引に関する法的規制

利益相反取引に関しては、以下のような法的規制が存在します。

1. 会社法: 

 o 会社法第356条では、取締役と会社間の利益相反取引について規定しています。

 o 以下の場合、取締役は株主総会や取締役会の承認を得る必要があります: 

   ・会社が取締役に贈与を行う場合

   ・会社と取締役間で売買契約を結ぶ場合

   ・取締役と第三者間の債務を会社が保証する場合

2. 民法: 

 o 民法第108条は、自己契約(相手方の代理人となること)と双方代理(両当事者の代理人となること)を禁止して
   います。

 o ただし、M&A仲介会社はアドバイザーの立場であるため、通常は双方代理には該当しません。

 o 債務の履行や本人が事前に許可した行為は、例外的に認められる場合があります。

3. 宅地建物取引業法: 

 o 不動産取引の仲介に関しては、利益相反取引の規定が存在しません。

 o これは、不動産仲介もM&A仲介と同様に代理行為に該当せず、利益相反が生じないと考えられているためです。

これらの法規制を理解し、適切に対応することが、M&A仲介業務を適正に行う上で重要です。

M&Aプロセスにおける注意事項

M&Aを円滑かつ公正に進めるためには、取引当事者双方が特定の点に注意を払う必要があります。ここでは、売り手と買い手それぞれが心掛けるべき重要なポイントについて解説します。

売り手企業の留意点

売り手企業は、以下の点に特に注意を払う必要があります。

1. 情報の全面開示: 

 o 給与未払いや粉飾決算など、不利な情報も含めてすべての情報を開示することが重要です。

 o 後日、隠蔽や虚偽が発覚した場合、譲渡価格の減額や訴訟リスクが生じる可能性があります。

 o 不利な情報ほど、自発的に開示することが信頼関係の構築につながります。

2. 事前準備の徹底: 

 o M&Aの目的を明確にし、自社の希望事項に優先順位をつけることが重要です。

 o M&Aに関する知識を深めることで、より効果的な交渉が可能になります。

 o 十分な準備により、スムーズなM&Aプロセスの進行が期待できます。

情報管理の重要性

M&Aに関する情報の管理は、取引の成功に直結する重要な要素です。

1. 秘密保持の徹底: 

 o M&A検討の事実が漏洩すると、従業員の不安や不信感を招く可能性があります。

 o 最悪の場合、大量離職につながる恐れもあります。

 o 取引先にマイナスイメージを持たれると、事業に悪影響が及ぶ可能性があります。

2. 対策: 

 o 買い手との間で秘密保持契約を締結することが有効です。

 o M&Aの情報を知る人物を最小限に抑えることで、情報漏洩のリスクを低減できます。

買い手企業の留意点

買い手企業は、以下の点に特に注意を払う必要があります。

1. 従業員への配慮: 

 o 売り手の従業員に対する配慮は非常に重要です。

 o 情報開示の方法やタイミングによっては、従業員の不安や不満、不信感を招く可能性があります。

 o モチベーション低下による業績悪化を防ぐため、慎重なコミュニケーションが求められます。

2. デューデリジェンスの徹底: 

 o 財務、法務、経営など、多岐にわたる分野のデューデリジェンスを徹底して行うことが重要です。

 o 簿外債務、脱税、人材流出、リコール問題など、経営に関わるリスクを洗い出す必要があります。

 o デューデリジェンスの結果は、M&A後の経営戦略立案にも活用できます。

3. PMIの慎重な実施: 

 o PMI(統合プロセス)は、M&A後の事業規模拡大や成長のために極めて重要です。

 o 企業理念や戦略のすり合わせ、各種制度の統合、業務システムやオペレーションの統合など、多岐にわたる作業が
   必要です。

 o 慎重かつ計画的なPMIの実施が、M&A成功の鍵となります。

これらの点に注意を払いながらM&Aを進めることで、取引の成功確率を高め、M&A後の円滑な事業運営につなげることができます。

適切なM&A仲介会社の選定方法

M&A取引を成功に導くためには、適切な仲介会社の選定が極めて重要です。ここでは、信頼できるM&A仲介会社を見つけるための主要なポイントについて解説します。

案件規模と業種の適合性確認

M&A仲介会社を選ぶ際は、以下の点を確認することが重要です。

1. 取扱案件の規模: 

 o 仲介会社によって扱う案件の規模は異なります。

 o 自社の事業規模に合った案件を扱う仲介会社を選ぶことが望ましいです。

2. 業界での経験と実績: 

 o 担当者の経験や実績が豊富であるかを確認します。

 o 自社と同じ業界での実績があるかどうかは、重要な選定ポイントの一つです。

3. 案件の成約実績: 

 o 過去の案件成約率や具体的な成功事例を確認することで、仲介会社の実力を判断できます。

料金体系の透明性確認

仲介会社の料金体系は、M&A取引のコストに直結する重要な要素です。

1. 料金構成の確認: 

 o 相談料、着手金、中間金の有無と金額を確認します。

 o 成功報酬の計算方法を理解し、自社にとって適切かどうかを判断します。

2. 透明性の重要性: 

 o 料金体系が明確で理解しやすいことは、信頼できる仲介会社の特徴の一つです。

 o 隠れた費用や不明瞭な請求がないか、十分に確認することが大切です。

3. 比較検討: 

 o 複数の仲介会社の料金体系を比較し、最も適切なオプションを選択します。

専門家の在籍状況確認

M&A取引には多岐にわたる専門知識が必要となるため、仲介会社の専門家の在籍状況は重要な選定基準となります。

1. 必要な専門分野: 

 o M&Aでは特に税務、会計、法務の専門知識が不可欠です。

 o これらの分野の専門家が在籍しているか、または連携体制が整っているかを確認します。

2. 専門家の不在がもたらす問題: 

 o 専門家がいない、または専門家との連携が取れていない仲介会社では、M&Aをスムーズに進行させることが困難に
   なる可能性があります。

 o 専門的な助言が得られないことで、取引に不利な影響が出る恐れがあります。

3. 確認のポイント: 

 o 税理士、公認会計士、弁護士などの資格保有者が在籍しているか確認します。

 o 外部の専門家と連携体制が整っている場合は、その連携の実績や頻度を確認します。

4. 専門家のバックグラウンド: 

 o 単に資格を持っているだけでなく、M&A取引における実務経験が豊富であることが望ましいです。

 o 可能であれば、担当する専門家の経歴や実績を確認することをお勧めします。

適切なM&A仲介会社を選定することで、取引の成功確率を高め、潜在的なリスクを最小限に抑えることができます。案件規模と業種の適合性、料金体系の透明性、専門家の在籍状況という3つの主要ポイントを慎重に評価し、自社のニーズに最も適した仲介会社を選ぶことが重要です。

JTのM&A戦略について更に深く学びたい方には、以下の2冊の書籍がおすすめです。これらの書籍を通じて、JTのM&A戦略の詳細や、その背後にある企業文化について理解を深めることができます。

まとめ

M&A仲介における利益相反問題は、取引の公平性と成功に大きな影響を与える重要な課題です。仲介会社の役割を理解し、適切な会社を選定することが取引の成功につながります。また、売り手・買い手双方が注意点を押さえ、専門家の助言を得ながら慎重にプロセスを進めることが、M&Aの円滑な実施と望ましい結果の達成に不可欠です。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

相続の教科書