レーマン方式とは?M&A成功報酬の計算方法と仲介会社選び

M&A取引におけるレーマン方式の基本概念から具体的な計算方法、さらに仲介会社選びのポイントまで詳しく解説。成功報酬の仕組みを理解し、最適なM&Aパートナーを見つけるための必須知識を提供します。

目次

  1. レーマン方式の基本概念
  2. レーマン方式による成功報酬の算出方法
  3. レーマン方式の多様性と注意点
  4. レーマン方式の長所と短所
  5. M&A手数料の種類と成功報酬以外の費用
  6. M&A仲介会社への手数料発生時期
  7. レーマン方式採用のM&A仲介会社選定ポイント
  8. まとめ

レーマン方式の基本概念

レーマン方式は、M&A(合併・買収)取引における成功報酬の計算方法として広く認知されています。この方式は、M&A仲介会社や金融機関が提供するM&Aマッチングサービスの手数料算出基準として標準的に用いられています。

レーマン方式の特徴は、以下の点にあります:

1. 報酬算出基準額(取引金額や移動総資産など)に手数料率を乗じて計算します。

2. 報酬基準額が増加するほど、適用される料率が段階的に低下します。

3. M&A取引の規模に応じて、公平性のある報酬体系を実現します。

この方式の名称は、ドイツの経営学者であるレーマン博士に由来しています。レーマン博士は企業の業績向上要因を資本と労働の2つに分類し、それぞれの貢献度を測定する方法を提唱しました。この考え方が広く認知され、現在のレーマン方式として発展しました。

M&A取引において、レーマン方式を理解することは非常に重要です。この方式を採用することで、M&A仲介会社と依頼者の間で公平な報酬体系を構築し、円滑な取引進行を促進することができます。

レーマン方式による成功報酬の算出方法

レーマン方式による成功報酬の計算は、基本的に以下の式で表されます:

成功報酬の金額 = 報酬基準額 × 料率

この計算式の特徴は、報酬基準額が増加するほど適用される料率が段階的に低下することです。一般的なレーマン方式の料率は以下のような構成になっています:

5億円以下:5%

5億円超~10億円以下:4%

10億円超~50億円以下:3%

50億円超~100億円以下:2%

100億円超:1%

「報酬基準額」は各M&Aアドバイザーが独自に設定するベースとなる金額で、実際に依頼者が支払う成功報酬額に大きな影響を与えます。一方、「料率」はM&Aアドバイザーによって若干の違いがありますが、上記の料率が一般的な相場とされています。

レーマン方式の計算では、報酬基準額をステップごとに分けて異なる料率をかけるため、わずかな金額の違いで成功報酬が大きく変動することはありません。例えば、6億円の報酬基準額の場合、以下のように計算します:

1. 5億円までの部分:5億円 × 5% = 2,500万円

2. 残りの1億円:1億円 × 4% = 400万円

3. 合計:2,500万円 + 400万円 = 2,900万円

このように、成功報酬は段階的に増加していきます。

レーマン方式を理解し、適切に適用することで、M&A取引に関わる成功報酬を適切に見積もることができます。これにより、M&Aの計画立案や予算設定をより正確に行うことが可能となります。

レーマン方式の多様性と注意点

レーマン方式は、M&A取引における成功報酬の計算方法として広く使用されていますが、その適用方法には多様性があり、いくつかの重要な注意点があります。

総資産基準と株価基準の違い

レーマン方式の適用において、報酬の算定基準が総資産ベースか株価ベースかによって、手数料に大きな差が生じる可能性があります。

総資産ベース:企業の総資産を基準に報酬を計算します。

株価ベース:企業の株価を基準に報酬を計算します。

これらの方法では、同じ譲渡価格であっても報酬額の基準となる金額が異なるため、最終的な手数料に1億円以上の差が出ることもあります。そのため、M&A仲介会社がどのような報酬額の基準を設定しているのかを事前に確認することが重要です。

成功報酬の最低額設定

多くのM&A仲介会社では、成功報酬に最低額を設定しています。これは、小規模なM&Aであっても仲介業務には相当の労力が必要であるため、買収価格が低い場合でも一定の報酬を確保するためです。

ただし、この最低報酬設定により、小規模なM&Aでは割高な報酬となる可能性があります。契約書に記載されている最低報酬についても、必ず口頭で確認し、自社の売却対価に対して経済的メリットがあるかどうかを慎重に判断する必要があります。

逆レーマン方式の特徴

一部のM&A仲介会社では、逆レーマン方式を採用しているケースがあります。逆レーマン方式の特徴は以下の通りです:

基準額5億円までの部分:1%

基準額5億円超~10億円の部分:2%

基準額10億円超~50億円の部分:3%

基準額50億円超~100億円の部分:4%

基準額100億円超の部分:5%

逆レーマン方式では、譲渡価格が低い小規模なM&Aの場合、手数料が安く済むメリットがあります。一方で、譲渡価格が高い大規模なM&Aの場合、通常のレーマン方式よりも手数料が高くなるデメリットがあります。

契約書における算定方式の確認重要性

M&A仲介会社のウェブサイトなどでレーマン方式による報酬算定の概要が公開されていることがありますが、詳細な報酬額については契約前に算定方式や合理性を十分に確認することが重要です。

契約書にはレーマン方式の詳細が記載されているため、そこでも確認作業が必要です。また、算定方法を書面で確認するだけでなく、M&A仲介会社に対して「本件の場合はいくらになるのか」と具体的な金額を確認することが望ましいです。

これらの多様性と注意点を十分に理解し、適切に対応することで、M&A取引における成功報酬の算定をより適切に行うことができます。

レーマン方式の長所と短所

レーマン方式は、M&A取引における成功報酬の計算方法として広く採用されていますが、他の方式と同様に長所と短所があります。これらを理解することで、M&A取引を進める上で適切な判断を下すことができます。

レーマン方式のメリット

1. 事前に手数料や費用の把握が可能: 

 o レーマン方式では、基準額に対して料率をかけることで容易に算出できるため、M&Aにかかる手数料や費用を事前
   に把握できます。

 o これにより、M&Aの計画立案がスムーズに行えるようになります。

2. 報酬体系の公平性: 

 o レーマン方式は基準額に応じて料率が変わるため、大企業でも中小企業でも不公平な状況が生じにくい報酬体系と
   なっています。

 o 一般的に、M&A会社から提供されるサービスは企業規模に関係なく同様のものですが、固定の手数料率で計算する
   と大企業の場合に手数料が膨らんでしまうケースがあります。

 o 反対に、報酬体系を固定額にすると、規模の小さい企業では不公平感が生じる可能性があります。

 o レーマン方式では、M&Aの取引規模に応じて手数料率が逓減するため、これらの問題を解決しています。

3. 透明性の高さ: 

 o レーマン方式は計算方法が明確であるため、依頼者にとって報酬の根拠が理解しやすいです。

 o これにより、M&A仲介会社と依頼者の間で信頼関係を築きやすくなります。

レーマン方式のデメリット

1. 小規模M&Aにおける負担の大きさ: 

 o 小規模なM&Aの場合、手数料の負担が相対的に大きくなることがあります。

 o M&Aでは規模の大小にかかわらず一定の業務が必要であり、小規模M&Aでも戦略立案やマッチング、専門家の紹介
   など、費用が変わらない業務があります。

 o そのため、M&A会社によっては最低報酬金額を設定している場合も多く、小規模M&Aではこの最低報酬が相対的に
   高額になる可能性があります。

2. 複雑な計算方法: 

 o レーマン方式は段階的に料率が変化するため、計算が複雑になる場合があります。

 o 特に、複数の基準や条件が設定されている場合、正確な報酬額の算出に時間がかかることがあります。

3. 報酬基準額の設定による変動: 

 o M&Aアドバイザーによって報酬基準額の設定方法が異なる場合があり、同じ取引規模でも報酬額に差が生じる可能
   性があります。

 o これにより、M&A仲介会社の選択が難しくなる場合があります。

レーマン方式のこれらの長所と短所を十分に理解した上で、自社のM&A取引に最適な報酬体系を選択することが重要です。また、M&A仲介会社と交渉する際には、これらの点を踏まえて適切な条件設定を行うことが望ましいでしょう。

M&A手数料の種類と成功報酬以外の費用

M&A取引において、レーマン方式で計算される成功報酬以外にも、いくつかの手数料や費用が発生する可能性があります。これらの費用を理解し、適切に管理することがM&A取引の成功につながります。

着手金の性質と役割

着手金は、M&A仲介会社がクライアントに対してサポートを開始する際に請求される手数料です。

目的:適切な買い手や売り手を探すため、企業情報を調査分析するための初期費用として支払われます。

特徴:M&A業務はコンサルタントの工数を多く割く業務が多く、着手金はそれらの人件費と捉えることができま
      す。

注意点:M&Aが最終的に成立しなかった場合でも、着手金は原則として返金されません。

最近の傾向:近年では、着手金を請求しないM&A仲介会社が増えており、着手金の代わりに中間報酬を利用

中間報酬の発生タイミング

中間報酬は、M&A取引の進行過程で発生する報酬です。

発生時期:一般的に、売り手と買い手の交渉が進み、基本合意書の締結時に発生します。

変動性:契約段階で固定されることが多いですが、M&Aプロセスの進行状況によっては変更されることもありま
       す。

返金可能性:基本合意書締結後にM&Aが破談となった場合の中間報酬の返金有無は、契約内容によって異なりま
         す。

発生頻度:中間報酬がフェーズごとに複数回発生する場合もあれば、一切かからないM&A仲介会社も存在します。

妥当性:中間報酬が発生する時点では相当な工数がかかっている場合が多く、M&A仲介会社からの請求にも妥当性
       があるケースが多いです。

成約可能性:中間報酬が発生するタイミングまで交渉が進んでいる場合、成約までいく可能性も高まっている状況
         といえます。

月額報酬(リテイナーフィー)の特徴

月額報酬、またはリテイナーフィーは、M&A仲介会社に定期的に支払われる報酬です。

定義:M&Aにおけるリテイナーフィーは、月額報酬のことを指します。

発生タイミング:着手金や中間報酬とは別に発生することがあります。

目的:売り手や買い手に対してM&Aに関するアドバイスやサポートを提供する目的で設定されます。

支払い方法:一般的に毎月定額で発生します。

注意点:M&Aの成立までに時間がかかる場合、多額の報酬を支払う必要が生じる可能性があります。

長期化への影響:月額報酬が発生することにより、交渉が長期化するのではないかと懸念する依頼主もいますが、実際にはそのようなケースはほぼありません。これは、月額報酬が成功報酬に比べて少額であることが多いためです。

これらの費用は、M&A取引の全体的なコストに大きな影響を与える可能性があります。そのため、M&A仲介会社と契約を結ぶ前に、これらの費用の詳細について十分に理解し、交渉することが重要です。また、自社のM&A戦略や財務状況に照らし合わせて、最も適切な報酬体系を選択することが望ましいでしょう。

M&A仲介会社への手数料発生時期

M&A取引において、仲介会社への手数料はプロセスの各段階で発生します。これらの発生タイミングを理解することは、資金計画を立てる上で非常に重要です。以下に、主な手数料の発生タイミングを時系列順に説明します。

1. 相談料: 

 o 発生時期:正式な依頼前の相談段階

 o 特徴:多くの場合、無料で提供されます

2. 着手金: 

 o 発生時期:業務委託契約締結時

 o 特徴:近年では発生しない会社も増えています

3. リテイナーフィー(月額報酬): 

 o 発生時期:業務委託契約締結からM&A成立まで毎月

 o 特徴:発生しない会社も多く存在します

4. 中間報酬: 

 o 発生時期:基本合意書の締結時

 o 特徴:M&Aプロセスの進行状況によって変動する可能性があります

5. 成功報酬: 

 o 発生時期:最終契約書の締結後、クロージング(契約内容の履行)時

 o 特徴:レーマン方式で計算されることが多いです

6. デューデリジェンス費: 

 o 発生時期:デューデリジェンス終了後

 o 特徴:M&A仲介手数料とは別で、主に買い手のみに発生します

これらの手数料の発生タイミングは、M&Aアドバイザー各社によって独自に設定されている場合があります。そのため、依頼先によって費用発生の時期が異なる可能性があり、事前に確認しておくことが重要です。

特に月額報酬については、M&A検討段階から発生する場合や、基本合意書の締結時から発生するケースもあります。M&Aにかかる費用の全体を見積もり、支払いが必要なタイミングを把握し、早めに資金対策をしておくことが大切です。

また、これらの手数料の中には、M&Aが成立しなかった場合でも返金されないものがあります。例えば、着手金や月額報酬は通常返金されません。一方で、成功報酬はM&Aが成立した場合にのみ発生します。

したがって、M&A取引を検討する際には、以下の点に注意することが重要です:

1. 各手数料の発生タイミングを事前に確認する

2. 手数料の返金可能性について理解する

3. M&Aプロセス全体にわたる資金計画を立てる

4. 不測の事態に備えて、余裕を持った資金準備をする

これらの点を十分に考慮し、適切な資金管理を行うことで、M&A取引をより円滑に進めることができます。

レーマン方式採用のM&A仲介会社選定ポイント

レーマン方式を採用するM&A仲介会社を選ぶ際には、いくつかの重要なポイントを考慮する必要があります。以下に、主要な選定基準とその重要性について説明します。

1. 報酬体系: 

 o 重要性:M&Aの取引では大きな金額が動くため、仲介会社に支払う報酬額も大きく異なる可能性があります。

 o 確認ポイント:完全成果報酬制の有無、着手金や中間報酬の有無、最低報酬額の設定など

 o 注意点:成功報酬と完全成功報酬の違いを理解すること。前者は成約前に一部報酬を請求する場合があります。

2. 成約実績: 

 o 重要性:実績が豊富な会社に依頼することで、M&A成功の可能性が高まります。

 o 確認ポイント:全体的な成約件数、自社と同じ業種での実績

 o 注意点:同業種での実績は、業界特有の事情を理解したサポートにつながります。

3. 専門家のネットワークの広さ: 

 o 重要性:M&A取引では税務や法務など幅広い専門知識が必要です。

 o 確認ポイント:社内の専門家の有無、外部専門家とのネットワークの広さ

 o 注意点:中小規模のM&A仲介会社では、専門家のネットワークが限られている場合があります。

4. 自社の規模との相性: 

 o 重要性:M&A仲介会社には、大規模企業向けと中小企業向けの専門会社があります。

 o 確認ポイント:主に取り扱う企業規模、類似案件の実績数

 o 注意点:自社の規模に合った仲介会社を選ぶことで、より適切なサポートを受けられる可能性が高まります。

5. 担当者との相性: 

 o 重要性:M&Aプロセスは長期にわたるため、担当者との良好な関係が重要です。

 o 確認ポイント:担当者の経験、コミュニケーション能力、価値観の共有

 o 注意点:担当者の現在の案件数や時間的余裕も確認することが望ましいです。

6. 情報管理体制: 

 o 重要性:M&A取引では機密情報を扱うため、厳格な情報管理が必須です。

 o 確認ポイント:情報セキュリティポリシー、過去の情報漏洩事故の有無

 o 注意点:NDA(秘密保持契約)の内容も十分に確認しましょう。

7. アフターフォロー体制: 

 o 重要性:M&A成立後のサポートも重要です。

 o 確認ポイント:PMI(買収後統合)サポートの有無、アフターフォローの期間や内容

 o 注意点:M&A成立後の統合プロセスも成功の鍵となります。

8. 費用の透明性: 

 o 重要性:予期せぬ追加費用を避けるために、費用の透明性は重要です。

 o 確認ポイント:見積もりの詳細、追加費用が発生する可能性のある項目

 o 注意点:成功報酬以外の費用(着手金、中間報酬など)も含めて総合的に判断しましょう。

これらのポイントを総合的に評価し、自社のニーズや状況に最も適したM&A仲介会社を選定することが重要です。また、複数の仲介会社に相談し、比較検討することも有効な方法です。最終的には、信頼関係を築けるパートナーを選ぶことが、M&A成功の鍵となります。

まとめ

レーマン方式は、M&A取引における成功報酬の計算方法として広く採用されています。この方式は、取引規模に応じて段階的に料率が変化する特徴があり、公平性と透明性を兼ね備えています。しかし、小規模M&Aでの負担の大きさや複雑な計算方法といった課題もあります。M&A仲介会社を選ぶ際は、報酬体系や実績、専門性などを総合的に評価することが重要です。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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