レーマン方式とは?報酬計算方法とメリットデメリットの解説
レーマン方式とは何か。税理士がその仕組みと計算方法、仲介会社選びのコツをやさしく解説します。
目次
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M&Aで支払う成功報酬は高額になりがちです。レーマン方式は取引金額をいくつかの階段に分け、下の段ほど高い料率、上の段ほど低い料率を掛ける累進構造を採ります。これにより小規模案件の仲介会社の努力を正当に評価しつつ、大規模案件では手数料負担が膨らみすぎないバランスが保たれます。
報酬額は「報酬基準額 × 料率」で算出します。基準額は株価や企業価値など仲介会社ごとに定める金額で、料率は一般的に5億円以下5%、5億円超10億円以下4%、10億円超50億円以下3%、50億円超100億円以下2%、100億円超1%が相場です。段階ごとに掛け算を行うため、隣接する金額で報酬が跳ね上がる心配はありません。
日本では投資銀行リーマン・ブラザーズで用いられた算定式を株式会社レコフの創業者が紹介した説が有力です。発音変化から「レーマン方式」と呼ばれるようになりましたが、基本概念は世界共通で「累進料率方式」です。
6億円で株式譲渡が成立した場合を例に取ります。
合計2,900万円が成功報酬です。取引額のすべてに5%を掛ける単純計算なら3,000万円になりますが、レーマン方式では階段を分けるため100万円節約できる仕組みです。
例えば基準額が5億円と5億1000万円でも報酬差はわずかです。これが累進構造の大きなメリットで、予算計画を立てやすくします。
同じ料率表を使っても、何を基準に計算するかで最終支払額は大きく変わります。
株価レーマン方式は株式譲渡対価だけに料率を掛けるため、他の資産や負債を含めません。事業承継など比較的シンプルな株式譲渡ではコストメリットが際立ちます。
企業価値基準は純有利子負債、移動総資産基準はすべての負債を加算して計算します。借入が多い会社では成功報酬が1億円単位で増えることも珍しくありません。
オーナー受取額基準はオーナー借入を含める特殊ケース
オーナーが貸付金を持つ場合、その返済分も基準額に上乗せされるため計算が複雑になります。買い手側は交渉前に負債内訳を必ず確認しましょう。
料率がテーブルで決まっており、成功報酬以外の費用を加えれば総コストが概算できます。資金調達やタイムラインを組み立てるうえでの指標になります。
累進構造のおかげで、50億円を超える大型案件でも料率は2%以下へ逓減します。固定料率と比べて数千万円規模の節約が期待できます。
成功報酬はクロージング後に支払うため、成約しなければ多額の報酬を払う必要がありません。仲介会社と利害を一致させることができます。
手数料体系に万能な選択肢はありません。レーマン方式には以下のような弱点があります。
仲介会社が最低報酬を定めていると、譲渡価格が低い案件では料率換算で二桁になることがあります。契約書に記載された最低報酬は口頭でも確認しましょう。
階段ごとに料率を適用し、さらに基準額が企業価値なのか株価なのかを合わせて確認しなければ正しい報酬にたどり着けません。契約書を読み込むだけでなく具体的な金額を口頭で質問する習慣が不可欠です。
成功報酬が得られなければ仲介会社も報酬を受け取れません。条件交渉よりスピードを優先する恐れがあるため、担当者の現在の案件数やコミュニケーション体制を確認しておくと安心です。
逆レーマン方式という別の累進設定
一部の仲介会社では逆レーマン方式を採用しています。基準額5億円までの部分を1%、10億円までを2%とするなど、少額レンジの料率が低く、譲渡価格が低い案件では報酬を抑えられる仕組みです。ただし50億円を超えると通常方式より料率が高くなる点に注意が必要です。
近年は無料化の動きもありますが、依頼を受けた時点で調査や資料作成に多くの工数がかかるため30万〜200万円程度を請求する会社も残っています。返金されないのが一般的です。
交渉が大きく前進した証として成功報酬の10〜20%を前払いする形です。破談時の返金規定を必ず確認しましょう。
毎月20万円など定額で発生します。交渉が長期化するとコストが膨らむものの、成功報酬に比べれば少額であるため実務では交渉遅延の直接原因になりにくいと言えます。
デューデリジェンス費用は専門家への外部支払い
法務・財務の調査費用は100万円単位で発生します。売り手負担か買い手負担か契約書で明確にしておきましょう。
以下の順序で請求が行われるのが通例です。自社のキャッシュフロー計画に照らして確認しましょう。
項目 | 発生タイミング | 一般的な金額感 | 返金有無 |
---|---|---|---|
相談料 | 契約前 | 無料〜数万円 | 不要 |
着手金 | 業務委託契約時 | 0〜200万円 | 返金なし |
リテイナーフィー | 契約締結後毎月 | 20〜200万円 | 返金なし |
中間報酬 | 基本合意書締結時 | 成功報酬の10〜20% | 契約により異なる |
成功報酬 | クロージング時 | レーマン方式で計算 | ― |
DD費用 | デューデリジェンス後 | ケースにより変動 | ― |
上表を参考に費用が集中するタイミングを把握し、資金ショートを未然に防ぎましょう。特に中間報酬からクロージングまでは人件費や統合作業費も重なるため、余裕を持った資金準備が不可欠です。
小規模な譲渡では最低報酬と月額報酬が相対的に重くのしかかります。売却対価に対して費用が何%になるのかを算出し、経済的メリットが薄い場合は逆レーマン方式や固定報酬など別プランを検討すると良いでしょう。
資金計画を綿密に立てることで、譲渡後の運転資金や設備投資に余裕を残したまま、スムーズに次の経営フェーズへ移行できます。
レーマン方式は累進料率による公平性と透明性が魅力です。しかし、基準額の設定ひとつで手数料が大きく変わるため、契約前に「この案件でいくらになるのか」を必ず数値で確認しましょう。また、成功報酬以外の手数料も忘れずに把握し、支払いスケジュールを整理することで安全な資金計画が立てられます。
次章では、レーマン方式を採用する仲介会社を選ぶ八つのチェックポイントと、税理士法人グループならではの支援体制について詳しく解説します。
譲渡企業がレーマン方式を採用する仲介会社を選ぶときは、表面的な料率だけでなく実務面の相性を多面的に確認することが重要です。以下の八つの観点を踏まえて比較検討すれば、自社にフィットするパートナーを見極めやすくなります。
完全成果報酬はクロージングまで着手金も中間報酬もなく、成功報酬のみが発生する仕組みです。費用負担を最小化できる一方で、仲介会社が案件を厳選する傾向もあるため、契約前に対応可否を必ず確認しましょう。
累計の成約件数だけでなく、自社と同じ業種・規模での実績件数を問合せてください。業界特有の規制や評価指標を理解している仲介会社ほど、譲受企業の候補選定が的確になり交渉期間が短縮します。
税務・法務・労務などの課題は案件ごとに異なります。社内に公認会計士・税理士・弁護士を抱えるか、外部専門家と協業体制を敷いているかを確認し、デューデリジェンスや契約書作成で追加費用が発生しないかも質問しましょう。
大手は大型案件の経験が豊富ですが、譲渡価格が数億円規模の案件では担当者の優先度が下がりがちです。中堅・特化型の仲介会社は中小企業案件に注力しているため、きめ細かな対応を期待できます。
担当者が同時並行で抱える案件数が多すぎると、コミュニケーションが途切れがちになります。最終契約書まで伴走できる時間的余裕と、過去の成功事例を面談でヒアリングし、信頼関係を構築できるかを判断しましょう。
秘密保持契約(NDA)の雛形、クラウドストレージのアクセス権限設定、紙資料の管理方法など具体策を質問します。過去に情報漏洩事故がないかも併せて確認し、自社の機密情報を安心して預けられる体制かを見極めます。
クロージング後も組織統合(PMI)が続きます。アフターフォローが数カ月だけなのか、業績定着まで伴走するのかを確認し、追加報酬が必要かどうかも事前に把握しましょう。
見積書や委託契約書に、着手金・月額報酬・中間報酬・成功報酬・デューデリジェンス費用の上限を明示してもらいましょう。「追加が発生する可能性がある項目」を洗い出し、エスカレーション条件を数値で示してもらうことが大切です。
レーマン方式は「料率が段階的に下がること」と「基準額の設定で総額が変わること」を把握すれば強力な交渉材料になります。
譲渡企業は株価評価や企業価値試算を行い、仲介会社に複数パターンの成功報酬を見積もってもらいます。仮計算でも資金ニーズが可視化されるため、金融機関への融資相談や譲受企業との価格交渉で主導権を握れます。
報酬計算式・最低報酬額・返金条項は紙面で残すことが必須です。クロージング直前のトラブルを避けるため、口頭でも「この案件で最終的に支払う金額」を再確認し、疑問点があればその場で修正依頼を行いましょう。
着手金やリテイナーフィーは支払日をガントチャートに落とし込み、進捗遅延による余計な月額報酬を抑制します。中間報酬は基本合意書のスケジュールと連動させ、資金ショートを未然に防ぎます。
基準額が企業価値の場合、負債額の多寡で報酬が変動します。複数のスキーム案(株式譲渡、会社分割など)を比較し、最もコスト効率の高い案を採用することで、手数料を抑えつつ最適な譲渡を実現できます。
レーマン方式は累進料率で公平かつ透明な報酬体系を実現しますが、基準額や最低報酬の確認が必須です。仲介会社の選定では報酬体系・実績・専門家体制を総合評価し、費用の発生タイミングを把握して資金計画を立てることが成功への近道です。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画