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M&Aの成功報酬とは?完全成功報酬制の仕組みと注意点

「M&A成功報酬って高いの?」そんな疑問に即答します。完全成功報酬制の仕組み、メリット・デメリット、仲介会社選びのコツを税理士がわかりやすく解説します。

目次

  1. M&A成功報酬の定義と発生タイミング
  2. 完全成功報酬制の仕組み
  3. 完全成功報酬制のメリット
  4. 完全成功報酬制のデメリット
  5. 完全成功報酬制と部分成功報酬制の違いを比較する
  6. 完全成功報酬制が向いているケース
  7. 完全成功報酬制を選ぶ際のチェックリスト
  8. 担当者選びで失敗しないコツ
  9. 契約書で必ず確認すべき三大ポイント
  10. 完全成功報酬制を利用した成功事例
  11. M&A手数料の種類と概要
  12. M&A仲介業者の手数料相場
  13. M&A仲介会社が果たす役割
  14. M&A仲介会社活用のメリットとデメリット
  15. 適切なM&A仲介会社の選択方法
  16. チェックリストを活用した事前質問例
  17. まとめ

M&A成功報酬の定義と発生タイミング

M&A成功報酬は、会社を譲渡したいオーナーや譲受企業がM&A仲介会社に支払う「成果に応じた費用」です。具体的には、最終契約書が結ばれたり、株式や事業が実際に移転した瞬間にだけ発生します。途中で交渉が中止になった場合は原則として請求されません。

成功報酬は譲渡契約締結と譲渡実行で発生する

成功報酬が発生する代表的な場面は二つあります。一つ目は最終的な譲渡契約を結んだ時、二つ目はその契約に基づき株式や事業が実際に移転した時です。M&A仲介会社によってどちらのタイミングを採用するかは異なるため、必ず契約前に確認しましょう。

広義の成功報酬に含まれる着手金等を理解する

「成功報酬」という言葉は一見シンプルですが、着手金や中間金を前払いさせたうえで残りを成約時に請求する方式も業界では“成功報酬”と呼ばれることがあります。完全に成果時のみ支払う方式か、途中で部分的に支払う方式かを把握することが大切です。

完全成功報酬制の仕組み

完全成功報酬制は、着手金や月額報酬を支払わず、M&Aが成約した時に初めて手数料が発生する料金体系です。ここ数年で急速に普及し、特に中小企業のオーナーから支持を集めています。

着手金なしで成約時のみ費用が発生する制度

成約に至らなければ費用はゼロ円です。仲介会社は報酬を得るために成約を目指すインセンティブが働き、依頼者はリスクを抑えながら検討できます。

完全成功報酬が普及する背景

M&Aを検討する企業が増えた一方で、「途中で断念したのに高額な着手金や月額報酬だけ払った」という不満が多かったことが背景にあります。費用面のハードルを下げることで相談の裾野が広がり、仲介会社にとっても案件獲得機会が増えるため、双方にメリットがある仕組みとして広まりました。

完全成功報酬制のメリット

成功報酬のみの支払いには多くの利点があります。

費用リスクを抑えて検討できる

譲渡オーナーは交渉途中で方針を変更しても、大きな出費を抱える心配がありません。これにより、「承継か廃業か」を迷う段階でも気軽にプロへ相談できます。

担当者のモチベーションが維持されやすい

仲介会社は成約しない限り報酬を得られないため、条件の調整や交渉に積極的に動きます。結果としてより納得度の高い成約が期待できます。

柔軟な承継判断が可能になる

最終局面まで譲渡の可否を保留できるため、市場環境や自社の業績を見ながら最適なタイミングを選べます。

低コストで情報収集ができる

通常、譲受企業リストの作成や企業価値の簡易算定など初期段階でも専門家の工数が掛かりますが、完全成功報酬制ではそれらの作業に対して別途料金は発生しません。オーナーは費用を気にせず複数の選択肢を比較でき、より良い譲受企業を探しやすくなります。

交渉途中の心理的ストレスを軽減できる

着手金や月額顧問料を払い続けていると「早く決めなければ損だ」というプレッシャーが生まれがちです。費用発生を成約時に一本化することで、落ち着いて条件交渉や企業文化の擦り合わせに集中できます。

完全成功報酬制のデメリット

便利に見える制度にも注意点があります。ここでは代表的な三つのリスクを解説します。

1.成功時の報酬が高額になりやすい

報酬は譲受価格に対するパーセンテージで決まるため、取引規模が大きいほど金額は膨らみます。さらに多くの仲介会社は最低報酬額を設定しているため、数千万円規模の小規模案件でも300万円以上の支払いが必要になる場合があります。

2.仲介会社が案件に優先順位を付ける可能性

報酬の大小は案件規模に比例します。大規模案件ばかりを優先し、自社案件の進行が遅れることもあり得ます。契約前に担当者と面談し、進行体制や対応スピードを確認することが重要です。

3.受託者主導で進むリスクを把握する

完全成功報酬型は仲介会社が主導権を持つことが多く、譲渡企業が希望する手順やペースが後回しになるケースがあります。定期的な進捗報告の頻度や意思決定のプロセスを契約書に明記しておきましょう。

完全成功報酬制と部分成功報酬制の違いを比較する

似ているようで実は費用構造が異なる二つの制度を、具体例を交えて分かりやすく比べます。

部分成功報酬制では途中段階でも費用が発生する

たとえば基本合意書の締結時点で「成功報酬の10%」を前払いし、残りを成約時に払う方式があります。交渉が頓挫しても前払い分は返金されません。

完全成功報酬制は費用計画を立てやすい

払うのは最後の一度だけなので資金繰りの見通しがシンプルです。決算期や税金の支払時期と重ならないよう調整もしやすくなります。

完全成功報酬制が向いているケース

制度の長所と短所を踏まえ、どのような企業に適しているかを整理します。

譲渡を検討中でまだ決断していないオーナー

「将来の選択肢として一度価値を知りたい」段階で、費用負担を気にせず専門家に相談できます。

資金余力が限られているオーナー

引退後の生活資金を残したい、あるいは事業再編で手元現金が減っている場合でも、着手金が不要なら参加しやすいです。

クロスボーダー案件など不確実性が高い取引

文化や言語の違いで途中解消リスクが高い場合でも、途中費用が掛からなければ挑戦しやすくなります。

完全成功報酬制を選ぶ際のチェックリスト

制度のメリットを最大化しつつ、デメリットを避けるために確認すべき事項を箇条書きでまとめます。

料金体系の透明性を確かめる

公式サイトや提案書に手数料の計算例が掲載されているかを見ましょう。「基準額」「料率」「最低報酬額」が明示されていれば安心です。

過去の実績と担当者の経験を確認する

自社と同じ業種・規模の成約事例があるか、担当者が実務をどこまで理解しているかを面談で質問します。

ネットワークの広さと質を評価する

単に登録件数が多いだけでなく、譲受企業との面談設定やトップ面談後のフォロー体制が整っているかがポイントです。

秘密保持と情報管理の体制を確認する

非公開情報が流出すると企業価値が下がる恐れがあります。NDAの取り扱いやデータの保管方法を具体的に尋ねましょう。

担当者選びで失敗しないコツ

制度と同じくらい大切なのが担当者との相性です。

レスポンスの速さは信頼度のバロメータ

返信が遅い、質問に対する答えがあいまい、専門用語ばかりで説明する――こうした担当者には注意が必要です。

数字だけでなく“想い”を汲み取れるか

承継には従業員や取引先への配慮も欠かせません。価格以外の条件を尊重してくれる担当者を選びましょう。

契約書で必ず確認すべき三大ポイント

1.成功報酬の基準額と料率

基準額が「譲渡価格ベース」か「移動資産ベース」かで支払い額は大きく変わります。必ず具体例で試算してもらいましょう。

2.途中解約時の費用負担

やむを得ずプロジェクトを中止した場合、違約金や作業実費を請求されるかどうかを確認します。

3.独占交渉期間と情報開示範囲

専任契約の場合、他の仲介会社に相談できない期間があります。期間が長すぎると機会損失に繋がるため注意が必要です。

完全成功報酬制を利用した成功事例

製造業A社が着手金ゼロで譲渡企業を探したケース

地方で特殊部品を製造する社員40名のA社は、後継者不在に悩んでいました。完全成功報酬制の仲介会社に依頼した結果、着手金を払わずに譲受候補十数社と面談。経営理念が近い同業B社へ譲渡し、従業員の雇用と取引先を守りつつオーナーは退任後の生活資金を確保できました。

ITサービスC社が時間をかけて最良の相手を選んだケース

急速な環境変化への対応を目的に譲受企業を探していたC社は、完全成功報酬制を使い二年間じっくり交渉。途中で三度方針を見直しましたが、費用はゼロのまま。最終的に資本力のあるD社と合意し、新しい技術開発に十分な資金を得ました。

これらの事例から分かるように、完全成功報酬制は「相談しながら最善策を探りたい」という企業に特に適しています。

ここまでで、M&A成功報酬の基本と完全成功報酬制の長所・短所、選び方のポイントを整理しました。次のパートでは、具体的な手数料の種類や相場、仲介会社の役割、制度別の比較表を示し、さらに理解を深めていきます。なお、ここで挙げた注意点をメモしておくと、面談時の質問リストとしてそのまま活用できます。紙に印刷して担当者に確認しながら進めると、聞き漏れや思い違いを防げるのでおすすめです。判断材料を一つでも増やせば、後悔のない承継につながります。引き続き詳細を見ていきましょう。次章へ進む準備はよろしいでしょうか。ぜひご確認ください。

M&A手数料の種類と概要

M&Aのプロセスでは、依頼者が支払う手数料が段階ごとに変わります。それぞれの性質を理解しておくと、不要なコストを削減しやすくなります。

初期相談料は無料が主流

近年、多くのM&A仲介会社は最初の相談を無料で行っています。これは「まずは気軽に相談してもらう」ための施策であり、費用が発生するケースは減少傾向です。ただしFAや税理士など専門家に個別相談する場合は、1回1万円前後の相談料が必要になることがあります。

契約時に発生する着手金

着手金は業務委託契約締結時に支払う費用です。相場は100万〜200万円が目安ですが、完全成功報酬制を採用する会社では無料とする例が増えています。着手金は返金されないため、発生有無と金額を事前に確認しましょう。

月額顧問料(リテイナーフィー)の現状

リテイナーフィーは毎月支払う顧問料で、相場は月額50万〜100万円程度です。しかし「長期化すると負担が大きい」との声が強く、現在は設定しない仲介会社が大半です。

基本合意書締結時の中間金

交渉の大筋が固まり基本合意書を結ぶと、中間金を請求する仲介会社があります。相場は50万〜200万円、または成功報酬の10〜20%です。中間金も返金されないため、内金扱いかどうか確認が欠かせません。

企業調査費用(デューデリジェンス費用)

譲受企業が専門家を派遣して行う詳細調査の費用で、50万〜300万円が目安です。通常は譲受企業が負担しますが、譲渡企業が顧問税理士へ追加対応を依頼した場合は費用が発生することもあります。

最終的な成功報酬

成約時に支払う成果報酬です。ほぼすべての仲介会社がレーマン方式を採用しており、譲受費用のおおむね5%が目安となります。最低報酬額(300万〜2,500万円)を設定する会社も多いので注意しましょう。

M&A仲介業者の手数料相場

手数料は非公開の場合も多く一見分かりづらいものの、下記が一般的なレンジといえます。

手数料区分 相場目安 備考
相談料 0〜10万円/回 無料が主流
着手金 0〜300万円 無料増加中
中間金 0〜300万円または成功報酬の5〜20% 返金不可
月額報酬 0〜100万円/月 設定例は少数
デューデリジェンス費用 50〜800万円 規模で変動
成功報酬 レーマン方式 最低報酬300万〜2,500万円

複数社に見積を取り、数字だけでなく実績・専門性・対応品質も必ず比較することが重要です。

M&A仲介会社が果たす役割

仲介会社は単なる「紹介業」ではなく、半年〜1年にわたるプロジェクト全体を取りまとめます。

全体スケジュール管理と利害調整

税務・法務・労務など多様な論点を整理し、関係者と調整しながら無理のない工程表を作成します。

専門家の紹介とコーディネート

デューデリジェンスや株価算定で必要な税理士・会計士・弁護士を手配し、報酬交渉や作業範囲の調整も行います。

譲受企業の選定と交渉支援

依頼者の要件に沿った候補をリストアップし、秘密保持契約締結後に企業概要書を提示。条件交渉では価格だけでなく従業員の雇用・ブランド維持など非価格条件も調整します。

トップ面談の準備と立会い

経営者同士が初対面で話しやすい雰囲気づくりを行い、議事録作成やフォローアップを担当します。

デューデリジェンスの段取り

必要書類のリストアップ、質問管理、回答期限の調整を行い、双方が納得できるかたちで調査を完了させます。

M&A仲介会社活用のメリットとデメリット

活用メリット

取引条件の妥当性確保

  • 過去事例と比較し適正価格を提示
  • 複数候補を競合させ好条件を引き出す


工数削減で本業に集中

  • 書類作成や相手方との調整を一括委託
  • プロのノウハウでタイムロスを防止


トラブル回避

  • 直接対立を避け円滑に対話
  • 紛争時には仲裁役として機能

活用デメリット

利益相反リスク

成功報酬を優先し、条件調整が不十分になる可能性


着手金・中間金の返金不可

不成立でも支出が回収できない


手数料総額が高額

譲受価格5%前後+その他費用で大きな負担となる場合

適切なM&A仲介会社の選択方法

契約形態を比較する

仲介タイプ

両当事者と契約し短期決着に強い

アドバイザリータイプ

一方のみと契約し条件最優先

過去実績を三つの角度で評価する

①M&A規模 ②業種 ③地域――の3要素を確認し、自社と近い事例が多い会社を選びます。

得意分野の把握でミスマッチを防ぐ

特化型は専門知識が深い一方、異業種マッチングの選択肢が狭い点に注意しましょう。

完全成功報酬制の有無と内容を比較

「成功報酬のみ」とうたっていても最低報酬額や移動資産ベース計算など負担が増える要素があります。契約書面で詳細を確認しましょう。

チェックリストを活用した事前質問例

  • 手数料計算の基準額と料率は?

  • 途中解約時の違約金や実費請求は?

  • 専任期間や独占交渉期間の長さは?

  • 担当者は最後まで変わらないか?

  • 秘密保持体制はどのように管理しているか?

面談時にこれらを質問し、回答内容をメモして比較すると、判断材料が増え誤解を防げます。

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まとめ

M&A成功報酬、とりわけ完全成功報酬制は、成約まで費用負担を抑えられる一方、成功時の報酬が高額になる点や案件優先順位の影響を受けやすい点に留意が必要です。手数料体系を明確にし、実績・ネットワーク・担当者の相性まで総合判断することが、後悔のない承継への近道となります。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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