M&A成功報酬の仕組み:完全成功報酬制度のメリットと注意点

M&Aにおける成功報酬の仕組みと完全成功報酬制度について解説します。M&A手数料の種類や相場、仲介会社の役割、適切な仲介会社の選び方まで、M&A取引を成功させるための重要なポイントをご紹介します。

目次

  1. M&Aにおける成功報酬の定義
  2. M&Aの「完全」成功報酬制度について
  3. 完全成功報酬のプラス面とマイナス面
  4. M&A手数料の種類と概要
  5. M&A仲介業者の手数料相場
  6. M&A仲介会社が果たす役割
  7. M&A仲介会社活用のメリットとデメリット
  8. 適切なM&A仲介会社の選択方法
  9. まとめ

M&Aにおける成功報酬の定義

M&Aにおける成功報酬とは、M&A取引の成立時に発生する手数料のことを指します。一般的に、成功報酬は相談者から委託された目的が達成された時点で発生する報酬を意味します。M&Aの場合、具体的には以下のような状況で成功報酬が発生します。

譲渡契約が締結された時

実際に譲渡が実行された時

成功報酬という用語には厳密な定義がないため、その適用範囲は各M&A仲介会社によって異なる場合があります。例えば、以下のような手数料体系を採用している場合も、広義の成功報酬に含まれることがあります。

着手金や月額報酬は発生しない

基本合意段階で中間金(想定される成功報酬の10%程度)が発生する

成約・譲渡実行時に残金を請求する

このような場合、「完全」成功報酬との違いを理解することが重要です。M&A取引を検討する際は、各仲介会社の手数料体系を詳細に確認し、自社にとって最適な選択をすることが大切です。

M&Aの「完全」成功報酬制度について

M&Aの完全成功報酬制度とは、近年M&A業界で一般的になってきた料金体系の一つです。この制度の特徴は以下の通りです。

1. M&A仲介会社に対して着手金や中間金などの事前手数料を支払う必要がない

2. M&Aが成立した時点で初めて報酬が発生する

完全成功報酬制の利点は、M&Aが成約しなかった場合に手数料を支払う必要がないことです。このため、多くの企業や譲渡オーナーにとって魅力的な選択肢となっており、完全成功報酬制を採用するM&A仲介会社が増加しています。

しかし、完全成功報酬制にはデメリットも存在するため、選択する際には慎重な検討が必要です。M&A取引を検討する企業は、以下の点に注目して完全成功報酬制の特徴を理解することが重要です。

完全成功報酬制の基本的な仕組み

そのメリットとデメリット

他の料金体系との違いや相場情報

これらを十分に理解することで、M&A取引において最適な契約条件や支払い方法を選択できるようになります。また、契約条件によってM&A仲介会社のスタンスも変わってくるため、アドバイザー選定の際にも重要な判断材料となります。

完全成功報酬のプラス面とマイナス面

完全成功報酬制度には、いくつかのプラス面とマイナス面があります。M&A取引を検討する際は、これらを十分に理解し、自社の状況に合わせて判断することが重要です。

プラス面

1. リスクの低減:M&Aが成功しなかった場合でも、費用負担が少なくて済みます。着手金や中間金、リテーナーフィ
   ー(月額報酬)などが発生しないため、最終的な成功報酬のみを考慮すれば良いです。

2. 低コストでの検討:譲渡先企業リストの作成や譲渡額の見積もりなど、実際の作業が発生しても費用は発生しませ
   ん。これにより、売り手は負担なくM&Aを検討することができます。

3. 柔軟な判断:譲渡(M&A=第三者への承継)を決定していない段階や、選択肢の一つとして考えている場合に適し
   ています。最後まで譲渡の可否判断を延ばすことができるため、状況に応じて柔軟に対応できます。

4. 担当者のモチベーション向上:M&Aが成功しなければ仲介会社は報酬を受け取れないため、担当者は成約に向けて
   積極的に活動する傾向があります。これにより、より良い条件での成約が期待できます。

マイナス面

1. 高額な成功報酬:M&Aが成功した場合、売買価格に対する料率で報酬が設定されるため、規模が大きいほど高額な
   報酬が発生する可能性があります。また、最低報酬額が設定されることが一般的です。

2. 優先順位の問題:完全成功報酬型では成約しなければ報酬が発生しないため、仲介会社側が取り組む案件に優先順
   位をつけることがあります。これにより、自社の案件が後回しにされる可能性があります。

3. 進行のイニシアチブ:完全成功報酬型の場合、受託者側が進行のイニシアチブをとることが一般的です。そのた
   め、依頼者側の希望通りに進まないことがあります。

4. 成功の不確実性:成功報酬型であっても、M&Aの成功は保証されません。成功しなかった場合、コスト面での負担
   は低減できますが、M&Aを成立させるという目的は達成できないため、譲渡オーナーにとっては良い結果とは言え
   ない場合もあります。

M&A取引を検討する際は、これらのプラス面とマイナス面を慎重に検討し、自社の状況や目的に合わせて最適な報酬体系を選択することが重要です。

M&A手数料の種類と概要

M&A取引において発生する手数料には、いくつかの種類があります。各手数料の特徴と概要を理解することで、M&A仲介会社との契約時に適切な判断ができます。以下に主な手数料の種類と概要を説明します。

初期相談料

初期相談料は、M&A仲介会社と正式な業務委託契約を締結する前に発生する費用です。しかし、多くのM&A仲介会社が事前相談を無料で行っているため、相談料がかかることはほとんどありません。

ただし、以下のような専門家に相談を依頼した場合は、相談料が発生する可能性があります。

FA(ファイナンシャルアドバイザー)

経営コンサルタント

税理士・会計士

これらの専門家に相談する場合は事前に費用の確認が必要です。

契約時の着手金

着手金は、M&A仲介会社と業務委託契約を結んだ際に支払われる費用です。近年、多くのM&A仲介会社が着手金を無料としており、着手金が必要なケースは少なくなっています。

着手金が発生する場合の相場目安は、100万円から200万円程度です。ただし、以下の点に注意が必要です。

M&Aが不成立に終わっても、着手金は返金されないことが一般的です。

着手金の有無や金額は、M&A仲介会社によって異なります。

月額顧問料(リテイナーフィー)

リテイナーフィーは、顧問料やアドバイス料といった性質の費用で、M&A仲介会社と業務委託契約を締結した後、成約まで毎月請求される場合があります。しかし、現状ではリテイナーフィーを設定しているM&A仲介会社はほとんどありません。

リテイナーフィーが設定されている場合の相場目安は以下の通りです。

毎月50万円~100万円程度

成功報酬からリテイナーフィー分を減額する会社もあります

基本合意時の中間金

中間報酬は、M&Aの売り手と買い手が交渉の大筋で合意し、基本合意書を交わした時点で請求されることが多い費目です。中間報酬を請求するM&A仲介会社と、無料でサービス提供を行うM&A仲介会社に分かれます。

中間報酬が必要な場合の相場目安は以下の通りです。

50万円から200万円程度

または成功報酬の前払い分として成功報酬の10%から20%相当分

ただし、以下の点に注意が必要です。

M&Aが不成立に終わった場合でも、中間報酬は返金されません。

基本合意書には法的拘束力はなく、この時点ではM&Aの成立が確定していません。

成功報酬の内金になるかどうかの確認が必要です。

企業調査費用(デューデリジェンス)

デューデリジェンスとは、一般的に買い手が売り手企業に対して行う詳細な調査のことです。デューデリジェンス費用は、通常買い手が負担します。

デューデリジェンス費用は、調査の範囲にもよりますが、相場目安は以下の通りです。

50万円~300万円程度

士業などの専門家に依頼することが一般的です

売り手においても、以下のような場合に費用が発生することがあります。

買い手からの質問事項など自社で対応できない内容を顧問税理士に依頼する場合

なお、デューデリジェンス費用は、M&Aが不成立に終わっても返金されないことに注意が必要です。

最終的な成功報酬

成功報酬は、M&Aの成約時に支払われる費用です。多くのM&A仲介会社では、レーマン方式という方法を使って成功報酬の金額を決定しています。

成功報酬の相場目安は以下の通りです。

譲受費用のおおよそ5%程度

別途、最低報酬額が設定されることが一般的です

レーマン方式の特徴は以下の通りです。

1. 成功報酬を計算する際の基準額を、いくつかの金額帯に分割します。

2. それぞれの金額帯に対して異なる手数料率を設定します。

3. 各金額帯の手数料を合計して総費用を算出します。

ただし、以下の点に注意が必要です。

成功報酬を計算する基準額がM&A仲介会社によって異なることがあります。

手数料率が同じ設定でも基準額が高ければ、成功報酬の相場目安も高くなります。

M&A仲介会社と契約する際には、成功報酬の計算方法(基準額の設定がどうなっているか)を確認することが重要です。

M&A仲介業者の手数料相場

M&Aの手数料は、各仲介会社が独自に設定しており、非公表のこともあるため、相場を把握するのが難しい面があります。しかし、一般的な相場の目安は以下の通りです:

1. 相談料:0円から10万円/回 程度

2. 着手金:0円から300万円程度

3. 中間金:0円から300万円程度、または成功報酬の5%から20%程度

4. 月額報酬:0円から100万円程度

5. デューデリジェンス費用:50万円から800万円程度(通常、買い手が負担)

6. 成功報酬:レーマン方式を採用。最低報酬は300万円から2,500万円程度

これらの相場は、M&A仲介会社の規模や取り扱う案件の大きさによって変動します。また、完全成功報酬制を採用している会社では、成功報酬以外の費用が発生しない場合もあります。

M&A取引を検討する際は、複数の仲介会社に相談し、それぞれの手数料体系を比較検討することが重要です。ただし、手数料の安さだけでなく、仲介会社の実績や専門性、提供されるサービスの質なども総合的に判断する必要があります。

M&A仲介会社が果たす役割

M&A仲介会社は、M&A取引を円滑に進めるために多岐にわたる役割を果たします。主な役割は以下の通りです:

1. M&A全体のスケジュール管理

2. 専門家の紹介

3. M&A先の選定と交渉

4. トップ面談のサポート

5. デューデリジェンスの調整

M&Aは通常、半年から1年程度かかる長期プロジェクトであり、具体的な手続の内容も案件によって異なります。M&A仲介会社は、適切なスケジュール管理を行い、関係者と相談しながらプロジェクトを進めます。

また、M&A先の選定と交渉も重要な役割です。仲介会社は、依頼者が設定した要件に合った相手を選び、交渉を進めていきます。トップ面談では、両当事者の経営者同士が初めて顔を合わせるため、互いの緊張をほぐし、安心して交渉できるよう仲介会社が間を取り持ちます。

さらに、デューデリジェンスなどで必要となる税理士や会計士といった専門家の紹介も、M&A仲介会社の重要な役割の一つです。依頼者自身が専門家を用意できる場合もありますが、適切な専門家を見つけられない場合は、仲介会社のネットワークを活用することができます。

M&A仲介会社の役割は多岐にわたり、M&Aを成功させるためには彼らの知識と経験が重要になります。適切なスケジュール管理、相手の選定、交渉、さらに専門家の紹介など、M&A仲介会社が提供するサービスを活用することで、M&Aを一貫したプロジェクトとして円滑に進めることが可能になります。

M&A仲介会社活用のメリットとデメリット

M&A仲介会社を活用する際には、そのメリットとデメリットを十分に理解しておく必要があります。以下に主なポイントをまとめます。

活用するメリット

1. 取引金額・条件の妥当性確保: 

 o M&A仲介会社は過去の取引事例を参考に、適切な金額を試算します。

 o 複数の交渉先を提示することで、より有利な条件での交渉が可能になります。

2. 工数削減: 

 o M&Aに関する業務の大部分を委託できるため、経営者は本業に集中できます。

 o 仲介会社のノウハウにより、効率的にプロジェクトを進められます。

3. トラブル回避: 

 o 仲介会社が間に入ることで、直接的なトラブルのリスクを軽減できます。

 o 問題発生時には、仲裁役としての機能も期待できます。

活用するデメリット

1. 利益相反するアドバイス: 

 o 成功報酬制の場合、取引成立に向けた強いインセンティブが働く可能性があり、提供されるアドバイスが利益相反
   を引き起こす可能性があります。

2. 着手金や中間金が返金されない: 

 o M&Aが成立しなかった場合、支払った着手金や中間金は返金されません。

 o 途中でM&Aをストップした場合、支払った費用が無駄になるリスクがあります。

3. 手数料が高額: 

 o M&A仲介会社の手数料は譲受価格の5%程度が一般的で、高額になる可能性があります。

 o 相談料、着手金、中間金、リテイナーフィーなど、追加の費用が発生することもあります。

M&A仲介会社を活用する際は、これらのメリットとデメリットを十分に検討し、自社の状況に合わせて判断することが重要です。また、複数の仲介会社を比較検討し、最適なパートナーを選ぶことも有効な方法です。

適切なM&A仲介会社の選択方法

M&A取引の成功には、適切なM&A仲介会社の選択が重要です。以下の4つのポイントを考慮して、最適な仲介会社を選びましょう。

契約形態の確認

M&A仲介会社との業務委託契約には、主に「仲介タイプ」と「アドバイザリータイプ」の2種類があります。

1. 仲介タイプ: 

 o M&A仲介会社が売り手・買い手双方と契約し、両者の間を取り持ちます。

 o 短期間でM&Aが成立しやすいですが、条件面での妥協が求められることがあります。

2. アドバイザリータイプ: 

 o M&A仲介会社がどちらか一方の当事者とのみ契約し、クライアントの利益を最優先します。

 o 理想的な条件でM&Aが成立する可能性が高まりますが、交渉が長引くこともあります。

自社の状況や目的に応じて、適切な契約タイプを選択することが重要です。

過去の実績評価

M&A仲介会社の実績を確認する際は、以下の3つの観点からチェックしましょう:

・ これまで担当してきたM&Aの規模

・ これまで担当してきたM&Aの業種

・ これまで担当してきたM&Aの地域

また、担当者のM&A業務経験年数も重要な要素です。分業制の会社の場合、担当者が実務の詳細を理解していないケースもあるため、注意が必要です。

得意分野の把握

M&A仲介会社には、特定業種に特化した会社や、いくつかの業種を得意とする会社があります。自社の業種で実績がある会社を選ぶことで、スムーズな取引が期待できます。

ただし、業種特化型の場合、以下の点に注意が必要です:

交渉相手先として異業種の紹介ができない可能性があります。

選択肢の幅が狭まる可能性があります。

完全成功報酬制の有無

仲介手数料に不安がある場合、完全成功報酬制のM&A仲介会社を選ぶことも一つの選択肢です。ただし、以下の点に注意が必要です:

完全成功報酬制だけで選ばないようにしましょう。

成功報酬の計算方法(基準額と手数料率の設定)も確認しましょう。

以上の4つのポイントを総合的に判断し、自社にとって最適なM&A仲介会社を選択することが、M&A取引成功の鍵となります。

まとめ

M&Aにおける成功報酬、特に完全成功報酬制度は、M&A取引を検討する企業にとって重要な選択肢の一つです。この制度は、M&Aが成立しない限り費用が発生しないため、リスクを抑えつつM&Aを検討できるメリットがあります。一方で、成功時の報酬が高額になる可能性や、仲介会社の取り組み姿勢に影響を与える可能性もあります。M&A取引を成功させるためには、各種手数料の内容や相場を理解し、適切なM&A仲介会社を選択することが重要です。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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