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M&Aアドバイザリー活用術で事業承継を円滑に進める方法

M&Aアドバイザリーとは何か?仲介との違いや費用体系、契約時の注意点まで知りたい方へ―税理士が分かりやすく解説します。

目次

  1. M&Aアドバイザリーとは何か
  2. M&Aアドバイザリーと仲介の違い
  3. M&Aアドバイザリーの種類と役割
  4. M&Aアドバイザリーの主な業務内容
  5. M&Aアドバイザリー利用のメリットとデメリット
  6. M&Aアドバイザリーの報酬体系
  7. M&Aアドバイザリー契約時の注意点
  8. M&Aアドバイザリー選びのポイント
  9. M&Aアドバイザリーに関係する資格と求められるスキル
  10. M&Aアドバイザリーを手掛ける主な企業分類
  11. よくある質問と回答(Q&A)
  12. まとめ

M&Aアドバイザリーとは何か

M&Aアドバイザリーは、譲渡企業(売り手)または譲受企業(買い手)のいずれかと専属契約を結び、M&A取引を最後まで円滑に進めるための助言や交渉支援を提供する専門家です。相手先候補の選定から企業価値評価、条件交渉、デューデリジェンスの調整、クロージング後の統合支援まで、幅広い業務を一貫して担当します。専門知識を動員して複雑なプロセスを整理し、クライアントの利益を最大化することが使命です。

売却側買収側を助ける専門家集団

アドバイザリーは一人の担当者ではなく、財務・税務・法務など多分野の専門職がチームで対応します。買い手にとっては真に価値のあるターゲット企業を見極める眼を、売り手にとっては適正価格と譲渡条件を引き出す交渉力を提供するためです。資格が必須ではない一方、案件を成功へ導くには高度なスキルと経験が欠かせません。

アドバイザリー誕生の背景とコンサルの違い

エンロン事件後に米国で監査とコンサルティングの分離が進んだ結果、助言業務は「アドバイザリー」という名称で再構築されました。そのため現在では「アドバイザリー」と「コンサルティング」が実務上重なる場面も多いものの、アドバイザリーは取引の実行フェーズに深く入り、具体的なオペレーションを担う点で位置づけが異なります。

M&Aアドバイザリーと仲介の違い

両者は一見似ていますが、契約形態と立ち位置が本質的に異なります。アドバイザリーは売り手か買い手の「代理人」として片側専属で動き、クライアントの利益最大化を最優先します。仲介は売り手・買い手双方と同時に契約し「橋渡し役」として取引成立自体を目的に行動します。

代理人として利益最大化を図るアドバイザリー

片側専属契約(FA契約)の下では、アドバイザリーは依頼者と同じ方向を向いて戦略を立案し、価格やリスク配分の交渉を主導します。クロスボーダーや上場企業同士の大型案件で採用されることが多く、専門知識と交渉力が評価されます。

両社の橋渡し役として取引成立を重視する仲介

仲介は双方と契約するため情報網の広さとスピードが強みです。一方で、売り手・買い手の利害が対立する局面では利益相反が生じる恐れがあります。特に非上場の中小企業M&Aで活用される場面が多い点も特徴です。


利益相反リスクと調整力を理解する

アドバイザリーは利益相反が原則的に発生しませんが、仲介はあくまで中立的立場ゆえに双方から手数料を受け取ります。どちらを選ぶかは、案件規模やスケジュール、秘密保持の重要度を踏まえて検討する必要があります。

M&Aアドバイザリーの種類と役割

アドバイザリーには大別して財務、法務、その他専門という三つの軸があります。

財務アドバイザリーは取引全体を統括

税務・財務系コンサルファームや証券会社のIB部門などが担い、企業価値評価から交渉、スキーム設計、資金調達調整まで一気通貫で支援します。譲渡側でも譲受側でもプロジェクトマネジメントの中心的存在です。

法務アドバイザリーはリスクを洗い出す守護者

弁護士を中心としたチームが、株主構成や契約書類、労務関係、各種許認可の遵守状況を確認します。譲渡企業側でも株式譲渡契約のチェックを依頼するケースがあり、法的安全網として機能します。

その他専門アドバイザーが多面的に支援

反社チェックを行う信用調査会社や、不動産鑑定士、フェアネス・オピニオンを提供する第三者評価機関などが必要に応じて参画します。業種特有の資産やリスクを的確に評価することで、取引の信頼性を高めます。

M&Aアドバイザリーの主な業務内容

アドバイザリーは長期に及ぶM&Aプロジェクトを段階ごとに伴走します。代表的な業務は以下の通りです。


• 相手候補企業の選定とアプローチ計画の立案

• 条件交渉・各種手続のスケジューリング

• 企業価値評価と取引スキームの助言

• デューデリジェンスの日程調整と専門家手配

• 重要契約書のドラフト確認と内容交渉

• クロージング後の統合計画(PMI)支援


次章では、これらの業務がどのように連携し、M&Aを実現していくのかをより具体的に解説します。

M&Aアドバイザリー利用のメリットとデメリット

M&Aは専門資格がなくても当事者同士で手続を進めることは可能です。しかし実際には、取引価格の妥当性検証や多数の書類作成、相手企業との微妙な心理的駆け引きなど、経験が無ければ見落としやすい論点が山積しています。アドバイザリーを活用すると、財務・税務・法務・不動産など分野横断的な知見をワンストップで得られるため、交渉が停滞した際の打開策を含め、プロのノウハウを最大限に活用できます。

専門知識とノウハウで成約率を高めるメリット

アドバイザリーは、企業価値評価モデルの構築やレーマン方式に基づく価格交渉のシミュレーション、株式譲渡契約における表明保証条項のバランス調整など、専門的判断が求められる局面でクライアントをリードします。その結果、M&A成約までの期間短縮や不測のリスク回避が期待できます。また、税理士法人グループであるみつきコンサルティングのように財務・税務・法務をパッケージで支援できる体制であれば、複数の専門家を別々に雇うよりもコスト効率が高まります。

費用負担と責任の所在が曖昧になるデメリット

一方で、アドバイザリーに支払う報酬は成功報酬だけではありません。着手金や中間金、月額リテイナーフィーが設定されている場合、案件が不成立でも支払いが発生します。さらに多くの契約書には「成約不成立時の責任を問わない」旨の条項が盛り込まれているため、途中で方針転換した場合のコストが無駄になる恐れがあります。契約内容をしっかり精査し、自社のリスク許容度と照らし合わせて判断しましょう。


費用と成果を天秤にかけた見極めが重要

メリットが大きいからといって、すべての案件でアドバイザリーを導入すれば良いわけではありません。取引規模が小さい場合や、譲受候補が身近に限定されるケースでは、仲介や当事者交渉の方が費用対効果に優れることもあります。自社の目的と案件の複雑さを冷静に評価する姿勢が求められます。

M&Aアドバイザリーの報酬体系

報酬構造を理解することは、アドバイザリー選定時の最重要ポイントです。一般的に報酬は「着手金」「月額報酬」「中間金」「成功報酬」「デューデリジェンス費用」の五つに大別され、各社が独自の組み合わせと金額設定を採用しています。

着手金はプロジェクトの本気度を示す指標

着手金は無償〜200万円程度が相場ですが、0円を打ち出す会社も増加しています。着手金が必要な場合は、プロジェクトへのコミットメントを確保する意味合いが強く、「依頼者の本気度」を測るフィルターとして機能します。着手金が高いほどレポートや市場調査など初期投入リソースが厚い傾向にあります。

月額報酬(リテイナーフィー)は人的リソースへの対価

月額報酬は30万円〜200万円が一般的です。専門チームを常時稼働させるための固定費であり、期間が長引くほど総コストは増大します。一方、月額を無料とし、成功報酬に一本化するファームも存在するため、費用配分と業務内容のバランスを必ず確認しましょう。

中間金は基本合意締結のタイミングで発生

中間金は想定成功報酬の10〜20%、または定額200万円前後が多いですが、基本合意の段階で案件が流れるリスクはゼロではありません。返金不可が原則のため、支払い条件と返金ポリシーを事前に把握することが大切です。

成功報酬はレーマン方式で段階的に計算

成功報酬はクロージング後に支払われ、計算には「レーマン方式」が広く用いられます。取引金額5億円以下部分は5%、5億円超10億円まで4%、10億円超50億円まで3%、50億円超100億円まで2%、100億円超は1%という累進料率が典型例です。株式価値基準を採るか企業価値基準を採るかで金額が変動するため、報酬基準額の定義を確実に理解しましょう。


【レーマン方式】 

成功報酬基準金額 

手数料率 

5億円 以下 

5 

5億円超~10億円まで 

4 

10億円超~50億円まで 

3 

50億円超~100億円まで 

2 

100億円超 

1 



デューデリジェンス費用は譲受側の負担が中心

デューデリジェンス費用は規模や範囲によって200万円~数百万円まで幅があります。みつきコンサルティングでは税理士法人グループの強みを生かし、財務・税務・法務を一体的にパッケージ提供することで、費用対効果の高いDDを実現しています。

このように報酬体系は多層的で、表面的な料率だけでは判断できません。総支払額のシミュレーションを行い、費用に見合う価値を得られるか検証することが不可欠です。


ここまでで、アドバイザリーの定義から仲介との違い、種類、業務、報酬体系までを概観しました。後半では、契約時の注意点、アドバイザリー選定の具体的手順、そして事業承継を視野に入れた当社の支援体制について詳しく解説します。引き続きご覧ください。

なお、本記事で扱う内容はすべて実務で頻出する項目を「原則」として整理したものです。個別案件では業界特性や資本構成、オーナーの意向によって優先順位が変わるため、具体的な検討に入る際にはアドバイザリーと十分に協議し、自社に合う進め方をカスタマイズすることが重要となります。次章のポイントを押さえれば、より失敗しにくいM&A戦略を描けるでしょう。

M&Aアドバイザリー契約時の注意点

M&Aアドバイザリーと正式契約を結ぶ際は、契約形態や秘密保持体制、途中解約条項の有無を綿密に確認することが欠かせません。曖昧なまま進めると、情報流出や費用負担が想定以上に膨らむ恐れがあります。

専任契約か非専任契約かを必ず確認する

専任契約は一社専属のため情報管理が容易ですが、担当アドバイザーを途中で変えられないデメリットがあります。非専任契約は情報網が広がる一方で漏えいリスクが増すため、契約前に自社の優先順位を整理しましょう。

当事者同士の直接交渉は原則禁止

譲渡対価などセンシティブな条件交渉は専門家経由で行うのが一般的です。一定条件を満たせばアドバイザー同席の上で直接対話を許可するケースもあるため、契約書で確認しておくと安心です。

中途解約条項が柔軟性を左右する

M&Aは1年超の長丁場となる場合があります。市場環境の変化やオーナーの心変わりに備え、一定の通知期間で解除できる条項を設けておけば、余計な費用負担を避けられます。

秘密保持契約で情報流出を防ぐ

秘密情報の定義、開示範囲、損害賠償責任を明文化したNDAを必ず締結し、社内管理体制も合わせて整備しましょう。


ケーススタディで見る契約条項の落とし穴

専任契約で途中解約できず月額報酬だけが発生し続けたA社、非専任契約で情報管理が崩れディールが破談したB社――いずれも事前確認不足が原因でした。契約条項の理解が成功可否を左右します。

M&Aアドバイザリー選びのポイント

最適なアドバイザリーを選ぶには、実績・費用・担当者の相性を立体的に比較する姿勢が重要です。

複数社に相談して実績と専門領域を見極める

面談では過去の成約事例、平均成約金額、担当業界を具体的に確認し、自社のニーズと重なるか検証しましょう。

契約形態と報酬体系は必ず文章で残す

専任か非専任か、着手金やリテイナーフィーの有無、レーマン方式の基準額などを契約書に明記してもらい、途中解約時の費用負担まで把握することが必須です。

長期戦を共にできる担当者かを確認する

レスポンスの速さや説明の分かりやすさ、経営者と並走できる姿勢を重視しましょう。

M&Aアドバイザリーに関係する資格と求められるスキル

資格は必須ではありませんが、専門性を裏づける証明として重要です。

民間資格で基礎と実務を補強する

M&Aエキスパートは基礎習得に、M&Aシニアエキスパートは高度な総合力証明に有効です。

国家資格が示す専門領域の深さ

公認会計士は財務DD、税理士は税務ストラクチャリング、弁護士は契約交渉、中小企業診断士はPMIで力を発揮します。

高い専門性を支える4つのコアスキル

  1. 財務・会計知識 
  2. 法務知識 
  3. 交渉力 
  4. プロジェクトマネジメント

――これらが案件成功の土台です。

M&Aアドバイザリーを手掛ける主な企業分類

提供主体ごとの得意領域を把握し、自社戦略と合致するか確認しましょう。

資本市場を活用する証券会社

大型TOBや資金調達と連動した案件に強みがあります。

取引基盤を持つ銀行系アドバイザリー

既存ネットワークを生かした地域密着型のマッチングを得意とします。

クロスボーダー対応の外資系投資銀行

多国籍ディールや海外企業買収で交渉文化を踏まえた支援が可能です。

構想段階から伴走する会計事務所系ファーム

戦略立案からPMIまで一気通貫で支援し、税務ストラクチャリングにも強みがあります。

機動力が光る独立系ファーム

中立性と迅速な意思決定が評価され、ニッチ業界のマッチングで力を発揮します。

よくある質問と回答(Q&A)

どのような企業がアドバイザリーを利用すべきか?

高額案件や複雑スキームが絡む場合、専門家の支援が取引成功の近道です。

アドバイザリーを介さずにM&Aは可能か?

可能ですが、価格交渉やリスク管理の難易度が高く、不利な条件で合意する恐れがあります。

いつ依頼するのがベストタイミングか?

M&Aを検討し始めた戦略段階での依頼が、手戻りを防ぎ成功率を高めます。

まとめ

M&Aアドバイザリーは、相手選定から企業価値評価、交渉、クロージング後の統合支援まで一貫して伴走し、譲渡企業・譲受企業双方の目標達成を後押しする専門家です。報酬体系や契約形態を理解し、実績と相性に基づいてパートナーを選ぶことで、事業承継や成長戦略をより安全かつ効率的に実現できます。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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