特定目的会社(TMK)の仕組みと活用法:メリットとデメリットを徹底解説

特定目的会社(TMK)の仕組みや設立方法、メリット・デメリットを詳しく解説します。不動産証券化に関心のある方や、財務改善を検討している企業の方々に役立つ情報をお届けします。   

目次 

  1. 特定目的会社(TMK)の概要
  2. 特定目的会社のメリット
  3. 特定目的会社の課題点
  4. 特定目的会社の税務上の利点
  5. 特定目的会社の設立プロセス
  6. まとめ

特定目的会社(TMK)の概要

特定目的会社(TMK)は、資産の証券化に関する法律(資産証券化法)に基づいて設立される法人です。TMKは「Tokutei Mokuteki Kaisha」の略称で、特定の資産を保有し、その資産を証券化することを目的としています。

特定目的会社の主な目的

特定目的会社の主な目的は、資産を保有している会社(オリジネーター)から特定の資産とその関連負債を譲り受け、オリジネーターの貸借対照表を改善することです。具体的には以下のような流れになります。

1. オリジネーターが特定の資産(主に不動産)を特定目的会社に譲渡

2. 特定目的会社がその資産を証券化

3. 投資家が証券を購入

4. 資産が生み出すキャッシュフローを原資として投資家に配当

この仕組みにより、オリジネーターは資産をオフバランス化し、財務状態を改善することができます。

TMKと特別目的会社(SPC)の関係

TMKは特別目的会社(SPC:Special Purpose Company)の一種です。両者の主な違いは以下の通りです。

TMK:「モノありき」の証券化で、主に不動産に限定

SPC:「カネありき」の証券化で、不動産以外のさまざまな資産も対象

つまり、TMKはSPCの中でも特に不動産証券化に特化した形態といえます。

特定目的会社と株式会社の相違点

特定目的会社と株式会社には、いくつかの重要な違いがあります。

1. 設立根拠法: 

  • 特定目的会社:資産証券化法
  • 株式会社:会社法

2. 事業活動の範囲: 

  • 特定目的会社:資産保有に限定
  • 株式会社:制限なし

3. 従業員雇用: 

  • 特定目的会社:原則として不可
  • 株式会社:制限なし

4. 営業活動: 

  • 特定目的会社:行わない
  • 株式会社:制限なし

これらの違いから、特定目的会社は非常に限定的な目的のために設立され、その運営も株式会社と比べてシンプルな形態となっています。

特定目的会社のメリット

特定目的会社(TMK)の設立には、以下のようなメリットがあります。

自己資本比率の維持

自己資本比率は、会社の財務健全性を示す重要な指標です。特定目的会社を利用することで、以下のような効果が得られます。

1. 負債を特定目的会社に移転することで、オリジネーター(原資産保有者)の自己資本比率を維持できます。

2. 自己資本比率が維持されることで、金融機関からの信頼が高まり、資金調達が容易になります。


倒産リスクの軽減

特定目的会社を活用することで、倒産リスクを軽減できます。

1. 資産(主に不動産)を特定目的会社に移転しておくことで、オリジネーターが倒産しても、その資産は保護されま
    す。

2. 資産を証券化することで、資産保有に伴うリスクを分散できます。

3. 債権者にとっても、債権回収の可能性が高まるメリットがあります。

貸借対照表の改善

特定目的会社を設立することで、オリジネーターの貸借対照表(バランスシート)を改善できます。

1. 資産や負債を特定目的会社に移転することで、オフバランス化が可能になります。

2. 貸借対照表がスリム化されることで、自己資本比率や自己資本利益率などの財務指標が向上します。

3. 財務指標の改善により、追加資金や設備資金の調達が容易になります。


特定目的会社の課題点

特定目的会社(TMK)の設立には、いくつかの課題点も存在します。

設立に伴うコスト

特定目的会社の設立には、以下のようなコストが発生します。

1. 資本金:10円以上が必要

2. 登記費用:3万円

3. 専門家報酬:各種手続に伴う弁護士や税理士などへの報酬

4. 維持コスト:債権者への配当分配時の会計士による監査費用など

これらのコストは、特定目的会社を設立する際の大きな負担となる可能性があります。

設立手続の複雑さ

特定目的会社の設立には、複雑な手続が必要です。

1. 業務開始届出の提出

2. 資産流動化計画の作成・届出

3. 資産流動化法に基づく各種書類の提出

これらの手続には多くの時間と労力がかかるため、設立までのスケジュール管理が重要になります。

特定目的会社の税務上の利点

特定目的会社(TMK)には、税制面でいくつかの優遇措置が設けられています。

配当金の損金算入

特定目的会社には、以下のような税務上のメリットがあります。

1. 一定の要件を満たすことで、機関投資家への配当金を損金に算入できます。

2. これは租税特別措置法第67条の14に基づいています。

3. 通常の法人では配当を損金算入できないため、特定目的会社の大きな利点となっています。

不動産関連税の軽減措置

特定目的会社には、不動産取得に関する税金の軽減措置が適用されます。

1. 不動産取得税:通常の税率から5分の3が軽減されます。

2. 登録免許税:通常の2%から1.3%に軽減されます。

3. これらの軽減措置は、令和7年3月31日まで延長されています。

これらの税務上の優遇措置により、特定目的会社を利用した不動産取引のコストを抑えることができます。

特定目的会社の設立プロセス

特定目的会社(TMK)の設立には、特定の手順と要件があります。

特定目的会社の基本構造

特定目的会社の基本的な仕組みは以下の通りです。

1. 株式会社形態の法人として設立されます。

2. 不動産を証券化し、債権者に売却します。

3. 不動産収益を債権者に分配します。

4. 簡素な仕組みのため、株主への財務諸表の提出や役員の設置は不要です。

資産流動化計画は、特定目的会社の基本事項を定める重要な文書です。この計画には以下の項目を記載する必要があります。

計画期間

資産対象証券の優先劣後の程度

特定資産の内容・取得の時期

特定資産の管理及び処分の方法

その他の必要事項

設立手続の流れ

特定目的会社の設立手続は、以下の流れで進められます。

1. 各種機関への申告:公証人、登記法務局、税務署などに設立申告を行います。

2. 必要書類の作成: 

  • 発起人となる特定社員の書類
  • 議決権の引受証明
  • 定款案
  • 原始財産目録(実査)

3. 定款の公証人認証:作成した定款を公証人に認証してもらいます。

4. 特定資本金の払込:金融機関に特定資本金を預け、払込証明書を発行してもらいます。

5. 登記申請:法務局で登記申請を行います(申請日が設立日となります)。

6. 登記完了:申請から約2週間後に登記が完了します。

特定目的会社を設立する際の主な条件は以下の通りです。

  • 資本金:10万円以上
  • 内閣総理大臣への届出が必要
  • 登録免許税:3万円
  • 定款印紙が必要
  • 取締役1人+監査役1人が必要(場合によっては会計監査法人も必要)
  • 資産流動化計画の作成が必要
  • 業務開始届出の提出が必要

これらの条件と手順を正確に満たすことが、特定目的会社の適切な設立につながります。

まとめ

特定目的会社(TMK)は、資産証券化を目的とした特殊な法人形態です。自己資本比率の維持や貸借対照表の改善などのメリットがある一方で、設立コストや手続の複雑さなどの課題もあります。税務上の優遇措置も受けられるため、不動産証券化の有効なツールとして活用されています。設立を検討する際は、専門家のアドバイスを受けながら、慎重に進めることが重要です。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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