事業継承と事業承継の違いとは?定義や進め方を解説

事業継承と事業承継の違いを詳しく解説します。定義や意味の違い、次世代に引き継ぐべき要素、継承の類型、そして具体的な進め方までを網羅的に紹介。円滑な事業引継ぎのポイントがわかります。

目次

  1. 事業継承の定義と概要
  2. 事業継承と事業承継の違い
  3. 事業継承の全体像
  4. まとめ

事業継承の定義と概要

事業継承とは、会社の経営権や資産を後継者に引き継ぐプロセスのことを指します。これは、企業の持続的な発展と存続を確保するための重要な取り組みです。

事業継承は、単なる経営者の交代以上の意味を持ちます。それは、会社の歴史、文化、そして将来のビジョンを次の世代に伝える重要な機会でもあります。

事業継承の重要な側面

特に、以下の点が事業継承の重要な側面となります。

1. 経営権の移転:会社の意思決定権を後継者に委ねること

2. 資産の引き継ぎ:会社の有形・無形の資産を適切に移転すること

3. 経営理念の継承:創業者や現経営者の想いや理念を引き継ぐこと

4. 取引先や従業員との関係維持:ステークホルダーとの信頼関係を継続すること

事業継承は、創業社長にとっても、2代目以降の経営者にとっても、非常に重要な課題です。会社は経営者にとって自身の分身とも言える存在であり、その継承は経営者としての最後の大きな仕事と言えるでしょう。

適切な事業継承を行うことで、企業の価値を維持・向上させ、次世代の経営者のもとで更なる成長を遂げることができます。そのため、早い段階から計画的に準備を進めることが重要です。

事業継承と事業承継の違い

事業「継承」と事業「承継」は、非常に似た言葉であり、しばしば混同されることがあります。しかし、これらの用語が示す内容には微妙な違いがあります。

事業「承継」

意味:先代の精神や事業を引き継ぐこと

特徴:やや抽象的で形のないものを引き継ぐイメージ

範囲:経営権や資産だけでなく、企業理念や事業に対する想い、解決すべき課題なども含む

事業「継承」

意味:先代の権利や財産など、具体的なものを引き継ぐこと

特徴:形のあるものを引き継ぐイメージ

例:資産の継承、伝統や文化の継承、王位継承など

実際のところ、これらの用語に明確な区分はなく、どちらを使用しても誤りではありません。しかし、近年の傾向として、官民で「事業承継」という用語に統一する動きが見られます。

例えば、以下の法律名では「承継」が使用されています。

経営承継円滑化法

労働契約承継法

事業承継税制

このように、現在では「事業承継」という用語が一般的に使用されるようになっています。ただし、本質的な意味は大きく変わらないため、文脈に応じて適切な用語を選択することが重要です。

事業継承の全体像

事業継承は複雑なプロセスであり、多くの要素が絡み合っています。ここでは、事業継承の全体像を理解するために、次世代に引き継ぐべき要素、継承の類型、そして進め方について詳しく見ていきます。

次世代に引き継ぐべき要素とは

中小企業庁の『事業承継ガイドライン』によると、事業承継で次世代に引き継ぐべき要素は主に3つあります。

1. ヒト(経営): 

 o 経営者としての地位

 o 経営ノウハウ

 o リーダーシップ

 o 従業員や取引先との関係性

2. 資産: 

 o 事業用の不動産

 o 設備

 o 資金

 o 自社株式

3. 知的資産(目に見えにくい経営資源・強み): 

 o 企業理念

 o ブランド力

 o 技術やノウハウ

 o 顧客基盤

これらの要素を適切に引き継ぐことで、事業の継続性と発展が期待できます。特にヒトの要素に関しては、現経営者や後継者候補だけでなく、他の取締役、従業員、取引先の視点も考慮することが重要です。

また、事業継承を「人的継承」と「物的継承」の2つに分類する考え方もあります。

人的継承:経営者としての地位、経営理念、信用などの継承

物的継承:主に自社株や事業用資産の承継

これらの要素をバランスよく引き継ぐことが、成功する事業継承の鍵となります。

事業継承の3つの類型

事業継承には、主に以下の3つの方法があります。

1. 親族内承継: 

 o 特徴:家族や親族に事業を引き継ぐ

 o メリット: 

   ・早期から後継者の育成が可能

   ・従業員や取引先の理解を得やすい

 o デメリット: 

   ・適切な後継者がいない可能性

   ・相続問題が複雑化する可能性

2. 役員・従業員への社内承継: 

 o 特徴:会社の役員や従業員に事業を引き継ぐ

 o メリット: 

   ・事業への理解度が高い

   ・従業員のモチベーション向上に繋がる

 o デメリット: 

   ・資金面での課題(株式取得資金など)

   ・経営者としての資質の見極めが必要

3. 第三者への承継(M&A): 

 o 特徴:外部の第三者に事業を売却する

 o メリット: 

   ・広範囲から最適な継承者を選べる

   ・譲渡対価を得られる

 o デメリット: 

   ・従業員の不安や反発の可能性

   ・社風や企業文化の変化

それぞれの方法にメリット・デメリットがあるため、自社の状況や経営者の意向を踏まえて慎重に検討する必要があります。

事業継承を進める5つのステップ


中小企業庁の『事業承継ガイドライン』では、事業継承を進めるための5つのステップを提示しています。

1. 事業継承に向けた準備の必要性の認識: 

 o 経営者が事業継承の重要性を理解する

 o 大まかな承継時期や選択肢を検討する

 o 早めの準備開始が望ましい

2. 経営状況・経営課題等の把握(見える化): 

 o 自社の現状を客観的に分析する

 o 業界動向や市場性も考慮する

 o 会社の将来展望を描く

3. 事業継承に向けた経営改善(磨き上げ): 

 o 分析結果を基に、経営課題を解決する

 o 企業価値を高める取り組みを行う

4. 事業継承計画の策定: 

 o 具体的な継承計画を立てる

 o 後継者の育成計画も含める

5. 事業継承の実行: 

 o 計画に基づいて、実際の継承を進める

 o 親族や従業員への継承の場合: 

   ・後継者候補やその家族の意思確認

   ・時間をかけて承継意思を固める

 o 第三者への継承(M&A)の場合:

   ・適切な引継ぎ先の選定

   ・M&Aの実施

これらのステップは必ずしも直線的に進むわけではなく、状況に応じて前後することもあります。重要なのは、早期に準備を始め、計画的に進めることです。

まとめ

事業継承は、企業の持続的発展のための重要な取り組みです。経営権や資産の移転だけでなく、企業理念や文化の継承も含む複雑なプロセスです。成功する事業継承には、早期の準備と計画的な実行が不可欠です。事業の状況や経営者の意向を踏まえ、適切な継承方法を選択し、次世代への円滑な引継ぎを実現することが重要です。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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